13話 文学部の活動
翌日、木曜日。
「そう言えば、うちの学校の部活は『文学部』なんだね」
昼休み。
根原君に、唐突にそんなことを言われた。
「……そうだけど、何か変なところでもあるの?」
「変──というか、不思議だな、と思って」
──不思議?
「ほら、『文芸部』じゃなくて、『文学部』でしょ?」
「……その2つって、違うものなの?」
同じものだと思っていたから、特に疑問は抱いていなかったのだけど。
「小説を書いたり、詩を作ったり、読んだり……そういうことをする部活なら、『文芸部』と名前が付いているはずなんだよ」
「じゃあ、文学部は?」
「俺が知ってる文学部は、大学の学部の『文学部』だね。もちろん、大学によっては、サークルに『文学部』があったりするけど、高校では珍しいんじゃないのかな?」
「そうなんだ……初めて知ったよ」
『理学部』とか『工学部』とかと同じものなのかな。
「気になる……」
「先輩に訊いてみれば?」
「うん、そうするよ」
放課後、部長に訊いてみよう。
◆◆◆
「失礼します」
「失礼しますー」
僕、三上さん、の(いつもの)順で部室に入る。
「来たね、2人とも」
「あれ、安喰先輩だけですか?」
「ああ、部長は遅れて来るよ」
絶対に遅れなさそうな、あの部長が?
「顧問のところに行って、色々手続きをやっているんだよ」
「顧問の先生、いたんですね……」
一度も顔を見たことも、話しに出てきたこともなかったから、いないものだと思っていた。
「一応いるよ。忙しいから、顔を見せに来ることはないけどね。去年1年間で顔を見せに来たのは──えっと、あれ?」
安喰先輩、焦りに似た表情で、回数を数えている。
「──去年、1回も顔を見せに来てないかも」
「えぇ!?」
それってどうなのだろう……いいのかな。
「まあ、教頭だし、忙しいんだろうけど……」
「教頭先生が顧問なんですか!?」
なんか、すごい人が出てきた。
でもなんで、教頭先生が……?
「顧問をできる先生がいないから、教頭がやっているんだよ。うちの部活は顧問がいなくても成り立ってるから、問題はないんだけどね」
「は、はぁ……」
そんなにゆるくていいのか、うちの高校。
「そうだ、訊こうと思ってたことがあるんですけど」
「ん、どうかした?」
「この部活、なんで『文芸部』じゃなくて『文学部』なのかな、と」
根原君曰く、普通は文芸部、らしいし。
「ああ、そのこと」
「理由、知ってるんですか?」
「まあ……大したことじゃないけど」
そう言って、安喰先輩はパソコンのキーボードで何かを打ち込んだ。
何をしているのだろう。
「これ、去年の活動記録なんだけど……ほら、『生命の理由』とか『存在する必要性』とか書いてあるだろ?」
「ホントだ……こういう研究もやっているから、文学部、なんですね」
「うん、そういうこと。小説や詩を書くことだけが、この部の活動じゃないのさ」
『文学部』の所以がようやくわかった。
「なるほど……」
「やっほー、来たわよ!」
「あ、部長」
安喰先輩の話が終わると同時、部長が部室へ入ってきた。
◆◆◆
「今日から、小説を書き始めてもらうわ!」
そう部長が言った後、渡されたのは──原稿用紙が何枚か入った袋。
「教頭に掛け合ったんだけど、さすがにこれ以上はパソコンを増やせないみたいで。半年くらいは、連宮君と三上さんは手書きで書くことになっちゃうけど、それでもいい?」
「はい、もちろんです」
「大丈夫ですよ」
三上さん、僕、の順で了承の返事。
「それじゃあ早速、書き始めて! いい作品を期待してるわよ♪」
部長の合図で、僕らは人生初の小説を書き始める。
◆◆◆
「──く、っ、ぁ、ぐ」
言葉にならない単語を連ねて、俺は痛みに耐え続ける。
数えきれないほど、この過程を繰り返した。
「がぁ、っ、ち、ぅ……」
──痛みが、引いて行く。
落ち着いてくれたようだ。
「──マズイな」
親にはバレないよう、声を押し殺した悲鳴を上げる日々。
親、特に母さんにバレたら、最悪、学校をやめさせられるかもしれない。
「──それだけは、避けないと」
俺は、あの学校で学びたい。
高校自体も楽しいが、何より──俺に初めてできた友達がいるのだ。
「……ふはっ」
つい、吹き出す。
俺に友達ができた、という事実を喜んでいる俺自身を、肯定するように。
そしてそれを、称えるように。
「──早く、治さないと」
俺はこの病気を、意地でも治さなければならない。
俺は明日も、あの学校に行くんだ。
「……寝なければ」
早く寝て、明日もあの学校で、彼らと高校生活を満喫するのだ。
明日も、彼らと──……。




