12話 楽器屋にて
昨日は、部活が終わる18時ごろまでプロットを書いた。
僕が書いたのは、『種を越えて』という小説のプロット。
種族の違う2人が恋に落ちて、最終的には全世界がその恋によって救われる、という──たまにどこかで見るような、恋愛もの。
僕は、こういう話が好きなのだ。
下校途中、三上さんはどんな小説のプロットを書いたのか訊いてみた。
『超能力もので、あまり戦わずに、基本的に問題を解決する小説』を書いたらしい。
面白そうなので、完成したら読ませて、と言うと、『そっちのも読ませてくれたら!』と返してくれた。
頑張って、完成させよう。
その翌日の今日、水曜日の放課後。文学部は休み。
僕は三上さんに誘われて、根原君と、軽音楽部が休みだった高波さんも一緒に、4人で街中へ買い物に来ていた。
駅前の小物屋に寄り、今は高波さんの提案で、楽器屋に来ている。
◆
高波さんはドラムのコーナー、根原君はギターのコーナーへ行ってしまったので、僕は1人で、お店の奥の方を見に来た。
三上さんは、高波さんについて行った。
「うわぁ……すごいなぁ」
お店に入ってすぐのところに飾ってあったギターも高かった(3万円くらい)けど、ここのコーナーにあるギターは、数十万円もするものばかり。
中には百万円を超えるギターもあって、それを見つけた時には、思わず悲鳴が出てしまいそうになった。
ギターって、こんなに高いのもあるんだな……。
「……ん?」
数十万円のギターとベースのコーナーから脱出しようとして、お店の入口へと向かおうと振り向くと、そこには──なんだろうこれ、2つのエレキギターがくっついている?
「これ、なに……?」
「それは、ダブルネックギターというものだよ」
「へ?」
誰に発したものでもない独り言に、返事が返ってきた。
返事の主は、大柄の男性。
「おや、その制服──後輩だね」
「せ、先輩ですか」
先輩だと分かり、ギターの値段というプレッシャーに押されていた背筋を、しゃん、と伸ばす。
「と言っても、俺はもう卒業したOBってやつさ。──俺が付けていたのと同じ色の校章、ってことは1年生か」
「はい、そうです。ということは……3つ上なんですね」
「ああ、そうさ。まだ18歳だよ」
大人の貫録がにじみ出ている。とても18歳には見えない。
「君、軽音楽部かい?」
「いえ、軽音楽部の友達についてきただけなので、僕は違います」
「ああ、そうだったのか。うん、うん、確かにそうだな」
「……? どうかしたんですか?」
目の前の先輩、何かに納得している。
「軽音楽部に入っている奴らなら、ダブルネックギターくらい知っているだろう、と思っていたからね」
「これ、ダブルネックギター、って言うんですか」
「ああそうさ。ネック──と言っても分からないか、ここの部分、左手で押さえるところがあるだろう? これがギターのボディーに2つくっついてるから、ダブルネックギターって言うのさ」
「な、なるほど……面白いですね」
すごく勉強になる。
「君は楽器はやらないのかい?」
「お金の都合で……友達にも誘われたんですけど、そういうことで断りました」
自分で稼げるようになったら、買ってみたいものではある。
「そういう理由じゃ仕方ないな。それじゃあ、違う部活に入っていたりするのかい?」
「はい、文学部に」
「──っ! ほう、なるほどねぇ。いや、そういうことだったとは」
しきりに頷いている先輩。どうかしたのだろうか。
「俺はね──いや、まだいいかな。君、友達はいいのかい?」
「あ、すっかり忘れてた……教えてくださって、ありがとうございました」
「どういたしまして。そうだ、また会うことになるだろうから、教えておくよ。俺は五十嵐浩一郎ってんだ、よろしくな」
「……? えっと……僕は連宮奏太です」
自己紹介されたので、僕もしておく。
──また会うことになる、ってどういうこと?
「それでは、失礼します」
「ああ、またね」
「はいっ」
高波さんのところへ、急いで向かう。
◆◆◆
高波さんたち3人は、レジの前の小物コーナーを見ていた。
「お、つれみー、お店の奥の方に行ってたんだね」
「うん。ごめんね、遅くなっちゃったかな」
「ううん、ちょうど会計し終わったとこだから、大丈夫」
そう言って、楽器屋の袋を掲げる高波さん。
「何を買ったの?」
「スティック。折れちゃったのがあったから、その替えを買ったの」
「そうなんだ。あれ、根原君も何か買ったの?」
根原君は、とても小さい袋を手にしていた。
「俺はピックをいくつか買ったよ。だいぶ前に買いだめしてたのが無くなっちゃったからね」
「なるほど……」
「あ、そういえばつれみー、知ってる?」
「なにを?」
思い出したように、高波さんが話す。
「なんか、有名な作詞家が今日来るんだって」
「へぇ、そうなんだ。会ってみたいね」
「だね! よし、それじゃそろそろ出よっか」
高波さんを先頭に、僕らは楽器屋を後にした。
◆◆◆
「五十嵐さん、お待たせ。今日はどんなギターをお求めだい?」
いつも通り、店長さんが出てきてくれた。
「今日はギターじゃなくて、ベースを買おうと思いましてね」
「ベース?」
店長さん、ひどく意外そうな表情。
当たり前か。俺がこの楽器屋に来るときは、決まってギター関係のものを買っていたからな。
「作曲も始めようかと思っていまして。作詞していると、作曲にも手を出したくなってくるんですよ。本職にするかは分かりませんけどね」
「五十嵐さんならできると思うよ。そうだね、お勧めのベースは──」
「あの、店長さん? 何度も言うようですけど、俺は年下なんですし、さん付けじゃなくても……」
年上からのさん付けは、どうにもくすぐったくって好きになれない。
「いくら僕の方が年上だって言っても、有名な作詞家さんを君付けや呼び捨てでは呼べないよ」
「去年までは君付けだったじゃないですか」
「それでも、この職業についている以上、さん付けで呼ばせてもらうよ。ほら、ベースを見るんだろう?」
そう言って、店長はベースのコーナーへと歩いていく。
その後ろをついて行く途中、ダブルネックギターが目に入り、ふと思い出す。
(……連宮奏太君、か)
文学部の新入りと会うことになるとは。
──橋崎は、上手くやっているだろうか。
安喰は、ちゃんと橋崎のハートを射抜けただろうか。
まあ、大丈夫だろう。あいつらのことだし。
自分の作品のことで暴走する橋崎を、安喰が止めている絵が浮かんできて、つい笑ってしまった。
「……くくっ」
「ん、何か面白いことでもあったのかい?」
「ちょっと、ですけどね」
これから、面白いことになりそうだ。




