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夢見少年物語  作者: イノタックス
2章 文学部

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12話 楽器屋にて

昨日は、部活が終わる18時ごろまでプロットを書いた。


僕が書いたのは、『(しゅ)を越えて』という小説のプロット。

種族の違う2人が恋に落ちて、最終的には全世界がその恋によって救われる、という──たまにどこかで見るような、恋愛もの。

僕は、こういう話が好きなのだ。


下校途中、三上さんはどんな小説のプロットを書いたのか訊いてみた。

『超能力もので、あまり戦わずに、基本的に問題を解決する小説』を書いたらしい。

面白そうなので、完成したら読ませて、と言うと、『そっちのも読ませてくれたら!』と返してくれた。

頑張って、完成させよう。


その翌日の今日、水曜日の放課後。文学部は休み。

僕は三上さんに誘われて、根原君と、軽音楽部が休みだった高波さんも一緒に、4人で街中へ買い物に来ていた。


駅前の小物屋に寄り、今は高波さんの提案で、楽器屋に来ている。



高波さんはドラムのコーナー、根原君はギターのコーナーへ行ってしまったので、僕は1人で、お店の奥の方を見に来た。

三上さんは、高波さんについて行った。


「うわぁ……すごいなぁ」


お店に入ってすぐのところに飾ってあったギターも高かった(3万円くらい)けど、ここのコーナーにあるギターは、数十万円もするものばかり。

中には百万円を超えるギターもあって、それを見つけた時には、思わず悲鳴が出てしまいそうになった。

ギターって、こんなに高いのもあるんだな……。


「……ん?」


数十万円のギターとベースのコーナーから脱出しようとして、お店の入口へと向かおうと振り向くと、そこには──なんだろうこれ、2つのエレキギターがくっついている?


「これ、なに……?」

「それは、ダブルネックギターというものだよ」

「へ?」


誰に発したものでもない独り言に、返事が返ってきた。

返事の主は、大柄の男性。


「おや、その制服──後輩だね」

「せ、先輩ですか」


先輩だと分かり、ギターの値段というプレッシャーに押されていた背筋を、しゃん、と伸ばす。


「と言っても、俺はもう卒業したOBってやつさ。──俺が付けていたのと同じ色の校章、ってことは1年生か」

「はい、そうです。ということは……3つ上なんですね」

「ああ、そうさ。まだ18歳だよ」


大人の貫録がにじみ出ている。とても18歳には見えない。


「君、軽音楽部かい?」

「いえ、軽音楽部の友達についてきただけなので、僕は違います」

「ああ、そうだったのか。うん、うん、確かにそうだな」

「……? どうかしたんですか?」


目の前の先輩、何かに納得している。


「軽音楽部に入っている奴らなら、ダブルネックギターくらい知っているだろう、と思っていたからね」

「これ、ダブルネックギター、って言うんですか」

「ああそうさ。ネック──と言っても分からないか、ここの部分、左手で押さえるところがあるだろう? これがギターのボディーに2つくっついてるから、ダブルネックギターって言うのさ」

「な、なるほど……面白いですね」


すごく勉強になる。


「君は楽器はやらないのかい?」

「お金の都合で……友達にも誘われたんですけど、そういうことで断りました」


自分で稼げるようになったら、買ってみたいものではある。


「そういう理由じゃ仕方ないな。それじゃあ、違う部活に入っていたりするのかい?」

「はい、文学部に」

「──っ! ほう、なるほどねぇ。いや、そういうことだったとは」


しきりに頷いている先輩。どうかしたのだろうか。


「俺はね──いや、まだいいかな。君、友達はいいのかい?」

「あ、すっかり忘れてた……教えてくださって、ありがとうございました」

「どういたしまして。そうだ、また会うことになるだろうから、教えておくよ。俺は五十嵐浩一郎(いがらしこういちろう)ってんだ、よろしくな」

「……? えっと……僕は連宮奏太です」


自己紹介されたので、僕もしておく。

──また会うことになる、ってどういうこと?


「それでは、失礼します」

「ああ、またね」

「はいっ」


高波さんのところへ、急いで向かう。


◆◆◆


高波さんたち3人は、レジの前の小物コーナーを見ていた。


「お、つれみー、お店の奥の方に行ってたんだね」

「うん。ごめんね、遅くなっちゃったかな」

「ううん、ちょうど会計し終わったとこだから、大丈夫」


そう言って、楽器屋の袋を掲げる高波さん。


「何を買ったの?」

「スティック。折れちゃったのがあったから、その替えを買ったの」

「そうなんだ。あれ、根原君も何か買ったの?」


根原君は、とても小さい袋を手にしていた。


「俺はピックをいくつか買ったよ。だいぶ前に買いだめしてたのが無くなっちゃったからね」

「なるほど……」

「あ、そういえばつれみー、知ってる?」

「なにを?」


思い出したように、高波さんが話す。


「なんか、有名な作詞家が今日来るんだって」

「へぇ、そうなんだ。会ってみたいね」

「だね! よし、それじゃそろそろ出よっか」


高波さんを先頭に、僕らは楽器屋を後にした。


◆◆◆


「五十嵐さん、お待たせ。今日はどんなギターをお求めだい?」


いつも通り、店長さんが出てきてくれた。


「今日はギターじゃなくて、ベースを買おうと思いましてね」

「ベース?」


店長さん、ひどく意外そうな表情。

当たり前か。俺がこの楽器屋に来るときは、決まってギター関係のものを買っていたからな。


「作曲も始めようかと思っていまして。作詞していると、作曲にも手を出したくなってくるんですよ。本職にするかは分かりませんけどね」

「五十嵐さんならできると思うよ。そうだね、お勧めのベースは──」

「あの、店長さん? 何度も言うようですけど、俺は年下なんですし、さん付けじゃなくても……」


年上からのさん付けは、どうにもくすぐったくって好きになれない。


「いくら僕の方が年上だって言っても、有名な作詞家さんを君付けや呼び捨てでは呼べないよ」

「去年までは君付けだったじゃないですか」

「それでも、この職業についている以上、さん付けで呼ばせてもらうよ。ほら、ベースを見るんだろう?」


そう言って、店長はベースのコーナーへと歩いていく。

その後ろをついて行く途中、ダブルネックギターが目に入り、ふと思い出す。


(……連宮奏太君、か)


文学部の新入りと会うことになるとは。

──橋崎は、上手くやっているだろうか。

安喰は、ちゃんと橋崎のハートを射抜けただろうか。


まあ、大丈夫だろう。あいつらのことだし。

自分の作品のことで暴走する橋崎を、安喰が止めている絵が浮かんできて、つい笑ってしまった。


「……くくっ」

「ん、何か面白いことでもあったのかい?」

「ちょっと、ですけどね」


これから、面白いことになりそうだ。

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