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夢見少年物語  作者: イノタックス
2章 文学部

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11話 部長の作品

僕と三上さんが部室に入ったのを確認し、安喰先輩は立ち上がり、話し始めた。


「今日は、小説のプロットを書いてもらうよ」

「プロット、ですか」


プロットって、小説の案みたいなものだっけ。


「うん。いきなり『小説を書いて』なんて言ったって、書けないと思うから。俺も最初は、プロットの書き方を勉強したからね」

「なるほど」


そう言えば、なんで部長ではなく、安喰先輩が進めるのだろう。

気になったので、訊いてみると。


「部長の作品は……最初はあまり、参考にならないからね」

「それって、どういう……?」


参考にならないって、どういう意味?


「ちょっと安喰君、そんなことはないんじゃないかなぁ? あたしの小説だって参考になるに決まっているじゃない。ほら1年生、あたしの作品を読むがいいわ!」


大きな身振り手振りで異議を申し立て、僕らにパソコンの画面を見せる部長。

書かれていたタイトルは──『早春の候に生きる』。

面白そうだ。内容は──。


◆◆


『早春の候に生きる』


壮大な夢より追い出されし気分の候。

純然たる知己を尽くした私は、とぼりとぼり、歩きを連ねていた。


「けぇき、けぇき!」


如何様にも比喩し難い気の持ちようと別の次元に在るような、たどたどしくも明朗とした声。

声の主は、私の数歩先からやってくる、母親らしき人物に連れられた幼い女子(おなご)


「おかーさん、けぇき、はやくたべたい!」

「ふふ。もう少しでおうちに着くから、それまで我慢できたらあげるわね。我慢できる?」

「うん、がまん、できる!」


幼き女子は、母親に連れられ、私の横を通り過ぎる。

──暗に縛られた、私に気付かないかのように。


(──ああ、そうか)


数歩歩き、数秒前に抱えた不思議の一つが消え去った。


──あの子の目線には、私の顔は映っていなかったのだ。


幼き女子では、穿いたジーンズの、薄くなりつつある部分を見るのがやっとであろう。

そんな事にも気付かなかったのか、己をそう卑下すると、再び『彼』が頭を侵食する。

その瞬間にも、不思議は一つ、消え去った。


「──そっ、か」


彼の目線には、抑々(そもそも)、私の顔は映らないようになっていたのだ。

悠々自適に合縁奇縁を楽しみ、ノウノウと暮らしてきた私では、抑々。


「……それ、でも」


そうは言っても、諦めきれないのが私である。

知己が過ぎた故の稚気(ちき)

それでも、と私は歩を進める。


「──ふふっ」


私の顔に、笑みが浮かんだのを、私はまだ知らない。


『彼』に私を見つけてもらうために。


早春の候、私は生きる。


◆◆


「……えっと」

「その……なんか、凄いですね」


読み終えたのだけど、僕も三上さんの言ったように、『なんかすごい』という意見しか出てこない。


「そうだろう、そうだろう。やっぱりあたしの作品は、誰にでも受け入れられる、簡単ながらも奥の深いものなのだよ! 見たか、安喰君!」

「部長、こう言ってはなんですけど……彼ら、困惑してますよ」

「そんなぁ!? 連宮君と三上さんも、その反応なの!?」


──ええ、っと。


「安喰先輩の言う通りです……難しすぎて、僕にはちょっと」

「自分も、こういう独特な文章は読んだことがないので……」

「む、難しかっただろうか」


とても難しかったです、はい。


「あの、自分から質問、いいですか?」

「なんだね三上さん!」

「ここの『ノウノウ』って、どういう意味ですか?」

「よくぞ訊いてくれた、三上さん!」


三上さんの質問で、右肩下がりだった部長のテンションは一気に右上端まで到達した。


「ここの部分は、『のうのうと』という言葉と、英語の『ノー』をかけたんだよ! この小説には前後の作品があってね、主人公である女子生徒の昔の話とかが書いてあるんだけど、そこでその主人公は、いくつもの事柄を批判的に見つめている、っていう描写があってね。子供の頃に体験した事柄からそういう性格になってしまったのよ。そのままの性格で高校に入って、主人公は同学年の男子生徒に一目惚れして、この1つ前の話で告白するの! でも主人公はフラれてしまって、意気消沈して街はずれの歩道を歩いている、っていうのがこの話なんだけど、この話のもっと後の方の話では、2度目の告白をして、OKがもらえるのよ! なんでそうなるのか、不思議に思うでしょ? 実は主人公は、2度目の告白までにある秘密を知るのよ。それはね」

「部長」


放っておいたら一生喋り続けるんじゃないのか、という勢いの部長を、安喰先輩が冷静に止める。


「──はっ! もしかしてあたし、また話してた!?」

「ええ。ずっと話してそうだったんで、止めましたよ。また困惑しちゃってますけど、彼ら」

「ごめんねぇ……自分の作品のことになると、夢中で話しちゃう癖があるのよね」

「そ、そうなんですか」


自分の作品に、強いこだわりがあるらしい。


「自分の作品のことだけは、ナルシシズムを強く表に出す癖、直した方がいいっすよ」

「失礼なっ! 作品以外にも、あたしのこと全般にナルシシズムを感じているわよ!」

「そこに怒るんですか!?」


不思議なところに怒った。


「尊敬する人はナルキッソスよ!」

「まさかの神話の登場人物!? ……確かナルキッソスって、性格結構酷かったですよね」

「そうなの?」

「尊敬しているのに知らないんですか!?」


は、入っていけない。


「──っと、そんなことを話している場合じゃなかった。話を最初に戻すけど、小説のプロットを書いてもらうよ」

「無理矢理戻したわね」

「誰のせいだと……まあいいです。俺の小説のプロットは、こんな感じだよ」


安喰先輩が使っているパソコンの画面を、見せてもらう。

タイトルと登場人物、展開が箇条書きで書かれていた。


「俺の場合は、プロットには大まかなことだけ書くようにしてるよ。プロットっていうのはそういうものだからね。部長の場合は、もっと細かいところも書いてるけどね」

「考えながら書くのは苦手だからねぇ。あたしは文章案とかも書いてるよ」


文章案──そんなものがあるのか。

小説を書いたことがないから、分からない。


「『こうしなきゃダメ』って決まりはないから、自己流で構わないよ。要は、小説の大筋をまとめられていればいいんだから」

「どんな小説のプロットを書けばいいんですか?」


僕も気になっていたことを、三上さんが訊いてくれた。


「どんな小説でも大丈夫だよ。プロットを書く練習だけど、『頭の中を言葉にする』練習でもあるからね」


なるほど、そういうことなのか。


「実際に書き始める時までにはパソコンを用意しておくから、今日はこの紙に書いてくれ」


安喰先輩から、A4の白紙を受け取る。


「書き方の指定はない。書きたいように書いてくれ。それじゃ、始め!」


安喰先輩の掛け声で、僕と三上さんはプロットを書き始めた。

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