10話 文学部、開始
翌週、月曜日。
「失礼します」
その放課後。
僕と三上さんは、文学部の部室へ来ていた。
「おお、ちゃんと来てくれた!」
「ど、どうかしたんですか?」
安喰先輩、飛び上がって喜んでいる。
本当、どうしたのだろうか。
「入部してくれたのは聞いていたけど、本当に来てくれるか、若干不安だったんだよ! 来てくれて嬉しいよ!」
「あ、ああ、そういうことですか」
そんなに喜ぶってことは、他の1年生は入らなかったのか。
「だから言っただろう、安喰君。連宮君と三上さんは、必ずこの部に入ってくれる、と」
「それでも不安だったんですよぉ。いやぁ、よかった。これで文学部は廃部にならずに済んだ!」
「あはは……」
一応、僕たちのおかげで廃部にならずに済んだ、ってことなのか。
「……最初は、文学部なんてどうでもよかったくせに……」
「……?」
大切なものを見るかのような、とても優しい表情で、部長は安喰先輩にそう言った。
『さて、小説の続きを書くか!』と張り切っている安喰先輩には聞こえていないようだけど──『文学部なんてどうでもよかった』って、どういうこと……?
「……さて、それじゃあ早速だけど、君たちに課題を出そう」
「課題、ですか」
「ええ、宿題じゃないわ。課題だから、今やってもらうのよ。何、簡単な課題よ。いきなり『短編を書け』なんて言ったりしないから、安心してね」
ゆくゆくは、短編を書かされるのだろうか。
物語を妄想するのは嫌いじゃないし、別に構わないけど。
「あ、部長、ずるいっすよ! 俺の時は『1時間ドローイングもとい、1時間ライティングをしなさい』なんて言われたのに!」
「時代は移り変わるのだよ、安喰君」
「たった1年間ですよぉ!?」
そ、そんなことをさせられたのか。
「それって、前の部長に言われたんですか?」
『1時間ライティング』の件が気になったらしく、三上さんが訊く。
「いや、あたしが指示した」
「え? でも、去年の部長は……」
「ああ、権限はあたしが持っていたからね。前の部長は、小説を書くことにしか興味がなかったから。同学年がいなかったから部長をやっていたみたいだけど、嫌でしょうがなかったみたいで、権限を譲渡されたの」
「譲渡、ですか……」
凄い人だな、前の部長。
「話を戻すわね。さっき言った『課題』のことだけど。──君たちには、『自分自身について』書いてもらいたいのよ」
「えっ……」
一番書きたくないことなんだけど……。
「この紙に書いてね。時間は──そうねぇ、10分くらいにしようか」
そう言って、部長が僕と三上さんに、A4の紙を渡す。
「み、短くないですか?」
制限時間の短さに、三上さんが反応した。
僕も三上さんと同じことを思っている。
「長く書いてもらいたいわけじゃないからね。短く、簡潔に書いてもらえれば、それでいい。それじゃ、早速書き始めてね」
「は、はい!」
用意されていた長机に座り、僕と三上さんは、脚色だらけの『自分自身について』を書き始めた。
◆◆◆
翌日、火曜日。
あたしは、連宮君と三上さんが来る前に、昨日書いてもらった『自分自身について』を読んでいた。
「『ずっと友達がいなかった』『小学校ではいじめられていた』ねぇ」
読み終えて──聞き終えてどう感じたか、安喰君を見てみると。
「彼ら、苦労してきたんですね……」
「……本当に、安喰君は単純だね」
「へ?」
自己紹介文の書かれた2枚の紙を、安喰君に渡す。
何度も目を通す安喰君。今の彼じゃ、深くまでは分からないだろうけど、あえて黙っておこう。
その方が、面白そうだし。
「あたしは『自分のことを書きなさい』って言ったんだけどねぇ」
「別に、矛盾はなさそうですよ?」
「矛盾は、ね。でも──」
『脚色はどうだろう』と言いそうになってしまった。危ない危ない。
脚色のほかにも、おかしな点はいくつかあるけどね。
友達がいなかったことと、いじめられていたことの『理由』が書かれていないのだ。
「まあ、何にせよ。──こんなものであたしが騙されると、本気で思っているのかねぇ」
「……え、なんで怒ってるんですか?」
「怒っちゃいないよ、楽しみなのさ。彼らの内側は少し複雑だから、まだ話せないのかもね。ま、追い追い、だね」
「……?」
相変わらず理解できていない様子の安喰君。
そんな安喰君も面白いよ、なんて言うと──『勘違い』しそうだし、言わないでおく。
「失礼します」
「お、連宮君、三上さん」
扉が開き、1年生2人が入ってきたので、安喰君から2枚の紙を受け取り、笑顔で迎える。
「いらっしゃい。それじゃ、今日は──」




