夏祭り 後編
江藤さんが来てから10分くらい経っただろうか。
ようやく宮野先輩がやってきた。その頃にはもうメンバー全員が集まっていた。
それまでの間僕らの間に一切の会話はなかった。まぁいつも通りと言えばいつも通り何だけど。それでも何というかオーラというか雰囲気というか、こう空気みたいなものが違ったように思えた。
「ん、全員いるな。じゃあ出発進行〜!」
丁寧に右手を握りしめて上に突き上げてる。
正直恥ずかしいからやめて欲しい。
宮野先輩は一瞬僕と江藤さんの方を横目で見てきた。勘のいい彼女は察したのだろう。あるいは元から知っていたとしても可笑しくはないか。先輩なら大抵の事は信じられるからな。二次元に行ける機械を作ったくらいまでならあっさり信じそうだ。
お祭りはそこそこ大きいスケールで屋台もいっぱい出ていた。
お祭りの屋台と言って多くの人が想像するものはあると言っても過言ではないだろう。僕は普段お祭りとかは行かないから何が普通か良く分からないけど。アニメとか本くらいでしか知らない。
僕が最初に入ったのは金魚掬いだった。これまた定番中の定番だが恐らく僕と同様お祭り初体験の宮野先輩は一種の憧れがあったのだろう。見つけるなりそそくさと入っていった。入るという表現は微妙だけど。あんまり入るって感じはしないよね。
僕らの完璧超人宮野先輩は1度目は無理矢理1匹捕まえるだけで終わったが、2度目には優に10匹を超えていた。どちらも返していたけど。金魚って飼うの大変らしいしね、意外と。大原が昔飼ってた。そういやあれもお祭りでゲットしたって言ってたっけ。ここのお祭りだったのかな。どうでもいいけど。
他には上条君と遠藤君が競い合うようにやってた。相変わらず仲良いなぁ。あと端でちゃっかり伊藤君もやってた。
上条君と遠藤君の戦いが3勝2敗で遠藤君の勝ちとなったところで僕らは屋台を出た。上条君かが勝ち逃げだとか騒いでたけど周りの迷惑になる程では無かったから放置で良いよね。
次はリンゴ飴を買って食べた。リンゴ飴を食べてる江藤さんの様子が可愛いったらなんの。いつもより表情筋が緩んでいて目も普段に比べて僅かに三日月を描いていた。つまりは僅かに微笑んでいた。
そんな風に眺めていたらふと目が合った。つい気まずく感じてどうしようか迷っていたら目を逸らされた。完全に脈なしだなと呟く大原の声が聞こえた気がしたからうっさいと言い返しとく。もちろん心の中で。
ただ上条君と遠藤君よ。ここでも競い合ってどっちが先に食べ終わるか勝負するのは良いが嚙み砕くなもったいない。
それから幾つもの屋台を周った。たこ焼きに射的、ヨーヨー釣りに型抜き。もはや全ての屋台を周ったのではないだろうか。知らないけど。
途中でも何度か目が合っては逸らされた。表情もいつも以上に硬く、緊張している様だった。別に行動心理学とか微表情学とかは本で読んだ程度で日常で使える程ではないけど江藤さんのことなら大抵は分かるから間違えない。はず。
「そろそろ夜も遅いし解散でいいか?」
宮野先輩が確認してきた。だが誰も反対はせず、そのまま解散となった。家が近いという訳では無いが方向は同じだから自然と江藤さんと2人になる。
普段は嬉しい限りだがこういう時は気まずさしか無い。多分別のルートもあるのだろうが僕が町の普段使わない道を把握してるはずが無い。この道だって事前に散々調べてようやく覚えたってのに。
そしてようやく分かれ道に差し掛かった。
江藤さんと別れるという寂しさの他にようやく気まずさから開放されるという感情を感じてしまう自分が恨めしい。
「それじゃあ、また「待って!」
江藤さんが珍しく声を張り上げて、という程では無いにしても大きめの声で呼び止めてきた。
「お話があります。」
金魚掬いを間違って金魚救いと変換しました。何だ、金魚救いって…きっと店主に捕まった金魚を救うために掬っているのでしょう。
最近は天気が荒れて大変ですね。しかも暑い…
皆さんも体には気をつけて下さい。




