話し合い
「部長さん!部長さん!」
きちんと部長さんと話し合わなければと思った僕はまず部長さんを追いかけることにした。
何を話そうとかそんなことはまだ考えていない。
それは後でいいだろう。
まずは追いかけなければ部長さんを見失ってしまう。
そうすれば今後部長さんに会うのは格段に難しくなると思う。
あの人はその気になれば何でもできてしまう気がするから。
実際この一年で文芸部は大きく変わったらしい。
あくまで副部長さんから聞いた限りなのだが。
そんな部長さんが「逃げ」に徹してしまったら僕はなかなか会えないだろう。
だからこそ今話さなければ。
そう思ってとっさに駆け出したのだがなぜか部長さんは見つからない。
何故だ。部長さんが去ったのはついさっきのはずなのに。
あぁもう。こんな時本気で自分の体力の無さが悔やまれる。
走り出して三分と経っていないのにもう息が切れて来た。
部長さん並みになるのは無理だとしてももう少し体力があれば...
そう思わざるを得なかった。
一時間が経過した。
流石にもう無理かと思った。
もう諦めて明日以降授業が終わると同時に部長さんのクラスに向かおうかと思った。
よく考えると部長さんが何組か知らなかったけど。
それでも誰かに聞けば教えてくれるだろう。
あの人は有名だし、あっさり分かる気がする。
それは結局行われなかった。
なぜなら部長さんは僕の目の前にいた。
学校の裏を出てすぐの所にある階段の下に部長さんはいた。
子どもかよ。
思わず心の中で突っ込んだ。
それはともかく僕は部長さんに声を掛けようとしてためらってしまった。
なぜなら部長さんは泣いていた。
子どものように。小さく縮こまって。
「あの...部長さん。」
部長さんはその時点でようやく僕に気づいたようで驚きの表情を浮かべ、急いで顔を拭った。
「どうしたカズ。家に帰らなくていいのか?」
「それは部長さんも同じでしょう。一時間もこんなところに居て。」
「あぁ、もうそんなに経ったのか。じゃあもう帰らなきゃな。」
そう言って立ち上がる。
そのまま本当に帰ろうとする部長さんの腕をつかむ。
鍛えられていて、たくましく、けれどもどことなく儚くもある腕だった。
「何のために一時間も探したと思ってるんですか。そんなあっさり帰ってもらっても困ります。」
「じゃあ私は何をしたらいいんだ。」
「僕の話を聞いてください。きちんと僕と会話してください。」
「話ならちゃんと聞いてるし、会話もしてるじゃないか。」
「さっきから部長さんは無理矢理帰ろうとしているだけで僕の話なんて碌に聞いていないじゃないですか。さっきだって自己完結して自分だけ言いたい事言ってそのまま立ち去って...少しは僕の話を聞いてください。」
自分が何を言っているのかよく分からない。
意味なんてないのかもしれない。
只の我儘なのかもしれない。
でも。それでも僕の気持ちが少しでも伝わるならば。
ならば僕は伝えよう。
このまま部長さんと別れるのは嫌だ。
「じゃあ私が君の話を聞いていれば君は私と付き合ったのか。私は幸せになれたのか。違うだろう。結果は変わらないだろうが。だったら・・・だったらカズまで傷つく必要はないじゃないか。傷つくのは私一人で十分だ。私のことはほっといてくれ。カズは私のことを忘れて江藤と仲良くやればいい。それが一番誰も傷つかない。みんなが幸せじゃないか。」
「馬鹿なことを言わないでください。自分一人で全部重荷を背負わないでください。少しは僕にも分けてくださいよ。みんなが幸せって、そのみんなの中には部長さんがいないじゃないですか。どうせみんなが幸せになることは無理なんです。だったらみんなで重荷を背負いましょうよ。そしてみんなで幸せを分かち合いましょう。」
本当に僕は何が言いたいのだろう。
もやもやとした感じがあってそれを言いたいのに、上手く言葉にできない。
言してもそれは何か違うものになっている。
そんな感じだ。
「それじゃあカズは私に何をしてくれるんだ?」
「それは...」
「結局何も出来ないではないか。あれだけ偉そうな事言っといて。」
「......」
何も言えない。
僕が部長さんにできることなんて限られている。
というより無いに等しい。
でも、ここで黙るわけにはいかない。
それでは何も変わらない。
「確かに僕一人では何もできません。でも、だからこそ僕には部長さんが必要なんです。」
「江藤の間違えだろう。」
「いいえ。正しくは部長さん達、ですかね。僕は、これまでみたいにみんなで遊ぶのが好きでした。その中には部長さんも含まれているんです。それにみんなをまとめるのは部長さんじゃなきゃ無理です。これからも、一緒に遊びましょうよ。」
「振られた相手と仲良くしろと。そんなの無理に決まってる。」
「部長さんらしくないですよ。やってもいないのに無理だと決めつけるなんて。確かにすぐに以前のような関係には戻ることはできないかもしれません。けれども、少しづつ、また元に戻りましょう。僕からのお願いです。」
部長さんはしばらく俯き、やがて顔を上げ、はにかみながら言った。
「カズからのお願いか...じゃあ仕方ないな。今回だけだぞ。」
部長さんが僕の言葉をどう受け取ったのかは分からない。
もしかしたら意味が無かったのかもしれない。
もしかしたら逆効果だったのからもしれない。
でも。
それでも、多分、僕の思い描く形にはなった。のだろう。
僕なんかがおこがましいのかもしれないけれど、神様。
願わくば、これからも五人で楽しい日々が送れることを。
私としてはあまり上手く纏められた気がしていません。
少なくとも部長さんの心の中ではまだ解決はしていないはずです。
なぜなら私がそうだから。
うまく纏められたら変えるかもしれませんが悪しからず。
取り敢えず次回の卒業式で部長さんのターンは一先ず終了です。
ようやく江藤さんのターン...になるのでしょうか。




