水族館
九月
恐れていたその日がやって来てしまった。
シルバーウィークである。
本来は数年に一度の割合でしか来ないこの連休を喜ぶべきなんだろうけど、部長さんのせいで喜べない。
恐怖の布告は学校が再開して翌日の部活動中に行われた。
というかなんでそんな直ぐに部活があるんだよ。色々おかしくない?
まあ江藤さんと会えるからいいけど。
僕たちがひたすら平穏にパソコンに向かっているときであった。
いつも通りに一番遅れて来た部長さんが、ドアを思い切り開け、言った。
「世界は明日滅びる!」
だんだん言うのが楽しくなってきているだけのような気がする。実際、このセリフは流しても問題なくなってるし。まぁそれはさておき、いつも通りに僕の役割を果たす。
「んで、今日はシルバーウィークの話ですか。」
「そうだ、よく分かったな。ちょうど真ん中だし、月曜日にでも遊びに行かないか?」
・・・正直に言うならば全力で断りたいです。
だが、僕は部長の無言の圧力に負けてそうとは言えないし、他の人も何も言わない。
そうして僕の恐怖の一日が決まってしまった。
だがまぁ別にこの人が何かやらかすと決まったわけではないのだけれどもね。トラブルメーカーではあると思うけど。
そう思い、できるだけ前向きに考えることにした。
わーい、休日に江藤さんと会えるなー。
何も無くても江藤さんなら図書館に行くだろうから影から見守るから会えることに変わりは無いんだけど。
というか最近は見守っていても図書館員の方から注意されることも無くなってきたし。
これは良い傾向なのだろうか?
そして現在。
今回は水族館ということでこの辺りでは最大のシマヅ水族館にいる。
なぜか今回は現地集合ということだったので、ちょっと早めに来て水族館の前で待っている。いやぁ、前科がある身としてはこれ以上経歴を重ねたくないものでして...
そもそもあれだって僕が悪いわけじゃないのに...
まぁそんなわけで早く来たのは良いのだけれども、周りの視線が痛い。なにしろかれこれ三十分以上待っているのだ。何となくデートに誘ったけれども彼女がやってこないかわいそうな子みたいな雰囲気になってるし。僕の場合まずデートに誘うことすらできないのだけれど。
早く来ないかな・・・
あっ、来た。伊藤君だ。おーい。
手を振ってみたが、無視された。僕としても返してくれるのを期待して振ったわけじゃないから別にいいんだけどさ。ただの周りへのアピールだ。
そう思っていると、小さく手を振ってくれていた。
っな、初めてだ。彼が僕に反応してくれた。
いや、だってこれ誰でも感動するでしょ。今まで僕がどれだけ構っても反応してくれなかったあの伊藤君がついに反応してくれたんだよ。むしろ感動しない方がおかしいよ。そもそもまだ声すら聞いたことないんだけどさぁ。これは大きな前進だよ。
そんなことを思っているうちに伊藤君が目の前に来ていた。
そして、僕に向かって携帯を差し出してきた。どうやら副部長さんからメールが来ているようだ。ちなみにパソコンからだった。
「私と麗は急用が入ってしまっていけなくなりました。すみません。」
だそうだ。麗って誰だろうと一瞬思ったが、内容からして部長さんだろう。しかし、あの二人が同時に予定が入るなんてどうしたのだろうか。まぁ副部長さんがいるなら大抵のことは大丈夫だろう。となると、今日は江藤さんを含めた一年生三人組か。
そう思った時、僕の携帯が鳴った。江藤さんからメールだ。
初のメールだ。何だかんだで遊園地の時はメールのやり取り出来なかったし。
「ごめんなさい。今日は予定が入ってしまいました。なので行けません。」
うわー伊藤君との二人きりだ。嫌な予感しかしない。
まぁいいや。このまま帰るのは嫌だし、水族館に入ろう。
そう思って入り口へ入場券を買いに行った。
途中三人くらいお姉さんが僕らを見て騒いでたけど気にしない。気にしたら敗けだ。
あれ、水族館って入場料こんなにするんだ。
というか地味に入場料を伊藤君の分まで払わされた。入場料高いんだけどなー。
帰りの電車代が心もと無い。
前回の遊園地の時は部長さんが払ってくれたから良かったが、今回はその部長さんがいないのだ。後で請求してやろう。
発案者だし。
中に入ったが、やはり伊藤君は何もしゃべらない。喋れないのではないかと思ったこともあるが、部長さんなどは声を聴いたこともあるらしいので、単に僕に喋ってくれないだけだろう。手は振ってくれたのに...
わーお魚さん、可愛いなー。写真撮っておこう。そして江藤さんに送ろう。
別に深い意味はない。江藤さんが来れたらよかったのになーと思っただけだ。
結局伊藤君の声は聴けなかった。
期待はして無かったけどさぁ。でもやっぱりガッカリはするよね。
未だに伊藤君の声を聞いたことの無いカズ。一年のうちに聞けるといいですね。
次回はちょっとだけシリアスになる...かな




