第7話~1年間の始まり その4~
6/8修正:エミー→ジャン
「申し訳ありません!」
何故か、マルセラが俺に対して謝ってきている。
俺は何食わぬ顔で、
「マルセラは、何も悪くないよ。ほら、頭上げて。」
「本当に申し訳ありません・・・。」
どうにも謝罪をやめないので、俺は笑顔でマルセラを宥めた。それでも謝罪が止まらなかったので、しかたがないので満足するまで謝罪をさせることにした。
俺と達観組の「学校内部の案内はしなくていいのか?」という言葉で、謝罪と上下運動を繰り返すマルセラの頭部の動きが止まり、やっと本題である建物内の見学に移ることになった。
繰り返される謝罪の間にも、アンリがマルセラを茶化すもんだから結構時間をとられてしまった。
「誤解も解けたようだし、早速中入ろうか!」
「「「・・・」」」
俺と達観組は、冷めた目で「おまえのせいだろ!」とアンリを見つめながら、建物内へと歩を進める。
達観組も、俺に対して勘違いをしたことを謝罪してきたが、このアンリという女、ヘラヘラしながら「ドンマイ!」と言うに留まった。それでも、俺は「アハハ」と苦笑いしつつ対応したが、勿論、本心ではない。
その証拠に、
「にーちゃんも災難だったなぁ。」
「・・・」
ガン無視することに決めた。
今日一日は、絶対にコイツと口を利かないことに決めた。大人げないと思う人もいるかもしれないが、俺はこの世界で生きていかなければならず、人間関係はとても重要だ。まして1年間しか滞在しないのだから、第1印象が全てと言っても過言ではない。彼らとは、これからほぼ接する機会はないだろうから、挽回のチャンスなどほぼ無いだろうと考えていた。
ゆえに、自分の人となりを見せる唯一とも言える機会を、あろうことかコイツはぶち壊そうとしたのだ。ぶっちゃけ、生半可な態度で許せるわけがない!あろうことか、コイツは謝罪もしていない。こういう奴に絶対に引いてはなるものかと、心の中で決めていた。
「に、にーちゃんまだ怒ってんのか?そんな軽いジョークで「時間もないですし、ここからは少し急ぎましょう。アンジェさん、ジャン、マルセラ、よろしく頼むよ。」」
この対応である。
俺は、ルイズ=アンリエットを歯牙にもかけない、という意思表示をみんなにして、建物内の見学を開始した。
ここ「国立中央学校」は、地上30階建てとセントラルタワーよりも低いが、敷地面積がセントラルタワー以上ある。全学生を収容する以上、容量はセントラルタワー以上に必要なのは当然だった。
学科に関しても100種近く存在し、その学科ごとにエリアが分かれている。
大きく文系、理系、運動系の3種に分かれており、そこからまた枝分かれしている。ニッポンと同様の学科に専門学校や自衛隊、スポーツ関係を加えたものだと考えてもらえばいい。
建物内には、学科ごとの教室以外にも、食堂や寮などもありそれぞれのエリアが設けられていた。
と、そのような説明を受けながら、エレベーターのようなモノで上の階へと上がっていく。転移でいいんじゃね?と思われるかもしれないが、転移陣の設置は国の許可が必要であり、設置要件も当然厳しい。国の安否に関わる重要な施設であるからだ。おいそれと設置しようものなら、陣に手を加えて、どことなりと飛ばすようにできるかわからない。そういう理由で、転移陣の設置はかなり限定的なものなので、ニッポンの現代科学のようなモノも未だ健在だったりする。
ちなみに、魔科学化は、最上階とその下の2階分を使用しているとのこと。魔科学化に所属する人数は、毎年変動するものの、平均年30人程の最長6年で180人程度といったところらしい。マルセラのように3年で卒業する者もいるので、一概には言えないが。
魔科学は、国の根幹に関わる分野であるので好待遇である。ある程度の広さのある部屋を、研究所的に使っている者も多い。そういう理由で、魔科学化のエリアは、他の学科エリアよりも広く振り分けられていた。
それぞれの階を見て回り、達観組+αの研究について簡単に説明を受けたりしながら、最上階からの景色を楽しみ、そのまま一緒に晩飯を食いに行くことになったのだが・・・。
今、俺は、窮地に立たされていた。
途中、達観組やマルセラの研究の説明については、自分からも疑問に思ったことを聞いたりと、興味深々と言った態度で臨んだが、当然アンリについては、「へ~」「そう」「ふ~ん」等と何の興味もありませんといった態度をとった。意外にも、アンリは転移陣の研究を行っていたので、本心ではとても興味があったが、無駄に心を鬼にして、絶対に興味がある風な態度は取らなかった。ここまでくると、さすがのアンリもちょっと涙目になっており、自業自得とは思いつつも「さすがにやり過ぎでは?」と言った雰囲気が出ていた。
達観組も、俺の態度に苦笑いしており、マルセラも不安そうな顔で俺とアンリの顔をキョロキョロと確認していた。俺は、今日一日は絶対にこの態度を崩さないと心に決めていたので、何くわぬ顔でそれらをスルーした。
いい時間になっていたので、俺が「みんなで一緒に飯でも食いたいね」と言ったところ、達観組+αやマルセラもその予定であったようで、賛成!とばかりに喜びながら晩飯の場所を話していた。
建物内から出たところで、晩飯の場所が決まったようで、俺は、トドメとばかりに言い放った。
「アンジェさん、ジャン、マルセラ、今日は本当にありがとう!忙しい仲、俺のためにわざわざ3人が時間を割いて学校内の案内をしてくれて、とても充実したひとときを過ごすことができたよ。3人には感謝してもしきれないよ。晩飯まで決めてもらって、俺は本当に嬉しいよ。何度もしつこいかもしれないけど、アンジェさん、ジャン、マルセラ、ありがとう!」
俺がそう言い切ったところで、
アンリが泣いた。