第20話~一時の平穏 その3/デート 前編~
帝国視察まであと355日
第1回法典編纂会議を終えて、次の日は各々がもう一度法について見直すために時間を設けることになった。つまり、休日となったのである。本格的な法の編纂については明日から始まることになった。具体的には、憲法、民法、刑法、民事訴訟法、刑事訴訟法、商法(会社法)についての会議が主な内容となる。
債譲としては、第1回から編纂作業に入ることも想定していたため、出鼻をくじかれた感があったようではあるが、本格的な編纂作業前に一拍置いてもらえるなら、それはそれでホッとした様子であった。
それに、債譲としては、法律の考え方を知っておいてもらえた方が編纂作業もスムーズに行える、そんな期待もあった。なにせ、帝国の視察までもう1年もないのだから。下手をしたら、各法律の解説だけで1年を経過しかねない、そんな懸念もあった。それだけに、この休みは編纂事業に関わる者にとってはとても重要な日になるだろう、そう債譲は考えていた。
それでは、債譲自身はどうしているのかというと、各法律の見直しをした後は、もう一度、この国の様子を見て回ろうと考えていた。以前から何度も述べているが、法というのは社会の変化とともに変わるものである。ゆえに、その社会に適合した法というものが求められる。だとしたら、世の中を知らない者が法律など作ることが出来るだろうか?それは無理があるというものだ。
債譲は、この世界に似た世界から来たとはいえ、この世界の常識を知らない人間である。転移した当日に、一通りこの都市の様子を確認したとはいえ、常識とは社会生活を通して得られる価値観、知識、判断力の総体であることを考えれば、まだまだ、債譲に常識が身についているとは言えないだろう。ゆえに、債譲としては、今日はマルセラと共にもう一度この都市内を見て回ろうと考えていた。
「そろそろ昼時だし、マルセラと一緒にお昼でも食べに行こうかな・・・。」
丁度、債譲が各法律の見直しを終わらせたのはお昼時だった。会議の後に、債譲は、マルセラに今日の予定については話を通していた。マルセラとしても、法律の話を債譲から聞けるということもあって、お互いWin-Winの関係にあった。なので、マルセラからは快く承諾してもらい、昼飯から同行してもらうことになっていた。
ブー
部屋のブザーが鳴る。まだ何ら連絡もしていないがもう来たのだろうか、と疑問を抱きつつも、外を確認しないまま、債譲は扉を開けたのだが・・・。
「や!」
「・・・え?」
扉の前にいたのは、ルイズ=アンリエットだった。
「・・・なんでお前がここにいるんだ?」
「なんでって・・・約束したやん!」
債譲は、コイツ何言ってんだ?としか考えていなかったのが顔にありありと出ていた。
「にーさん忘れてるようやけど、デートするって言うたやん!」
「・・・あー。」
思い出した、めんどくさい!という表情がありありと伺える債譲に対して、ルイズ=アンリエットは有無を言わさず続ける。
「さ、今日にーさんが休みなのは知ってるし、さっさとマルセラ呼んで昼食と行こうやないか。」
「・・・はあ。」
一瞬にして悟った債譲。マルセラ経由でアンリに今日のことが伝わったのだろうが、マルセラがうまいことアンリに丸め込まれたという状況が、この時点ですぐさま察し得た。
というよりむしろ、今日のことを聞き出し、この時間にこの場所にいるアンリの察知能力の高さを褒めるべきか。そもそも、魔科学科に席をおいてる時点で頭がいいことはわかっていたが、まさかここまでとは思ってもみなかった。債譲は、頭の中で、もしアンリと付き合ったら尻に敷かれるだろう未来がありありと見える気がしていた。
「・・・わかったよ。マルセラを呼んで昼飯を食いに行こう。」
「昼食の場所は任せとき!」
すごく・・・眩しいです・・・その笑顔・・・。そんなどうでもいいことを考えながら、コードを通じてマルセラに携帯電話越しに連絡をとり、セントラルタワーのロビーで待ち合わせすることにした。
* * *
「すいませんすいませんすいません」
そしてまたこの光景を見ることになる債譲であった。




