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法律初心者の異世界奮闘記  作者: T.N
第1章 魔科学世界と法
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第15話~第1回法典編纂会議 その4~

「さて、以上が魔科学の歴史である。皆も馴染みがあるゆえ、理解に苦しむこともなかろう。次に、黒血死団事件と今の魔科学についての説明を行う。」


 グスタフは、ちらっと債譲の方を見ながら言ったように見えた。が、当の本人は、自分の出番に緊張していることに加え、魔科学の説明に集中していたため気付いていなかった。


「かの有名な事件によって多くの者が殺害されたことは、アウグスト君の説明の通りである。殺害方法について、解析が済まされているということも同様であるが、この点について吾輩が説明する。まず、殺害方法は、魔科学によるものである。先の説明からも明らかであるように、魔科学とは、科学と魔法の融合したものである。そして、当時黒血死団を率いていたのはロエスレル殿であり、ロエスレル殿の研究分野は『超過』であった。その彼の集大成とされた術式が『限界突破トランセンド 』であり、犯行には右術式が使用されたのである。」


 グスタフの説明に反応する者がチラホラと見える。ジョーウンもその一人である。勿論、債譲は聞き漏らさないようにグスタフの話に集中しているので、反応している余裕が無い。


「『限界突破』とは、脳を媒介として生じる魔法と感情・思考・生命維持その他神経活動の中心的、指導的な役割を担う器官という科学的見地とを合わせた、科学と魔法の融合を達成したとも言い得るモノであった。魔力は、生物であればどのようなモノであっても保有している。そこに目をつけたロエスレル殿は、魔力を介して、生物の有する能力をも超えて行動しうるのではないかと考えたのである。結果、それは成功した。

 しかし、『限界突破』の真髄はそれだけではなかった。『限界突破』によって自己の脳の限界を突破させ、『限界突破』によって他人の脳に働きかけることが可能になったのである。」


 とんでもない話である。債譲がジョーウンと出会った当初に、ジョーウンが「できないこともない」と言っていたのを覚えているだろうか(第3話参照)?それは、限界突破によるものであったのだろう。しかし、文言上からも読み取れるように、どうやら依頼達成が困難となる以外に使用できない事情があるらしいことが窺われる。


「黒血死団事件において『限界突破』が使用され、国内に入り込んだ魔法使いによって、『法』を条件として次々と国民が殺害され、資料が抹消されていった。一種の呪いのように、脳内で法に関する一定程度の知識を備えた者は、酸素欠乏症にでもなったように昏睡状態に陥り呼吸停止に至る。その際に、静脈が破裂して黒い血が流れる症状が出るようだが、この辺の話は医療の分野になるので割愛する。

 ともかく、『限界突破』によって、国内外の法に関する資料が例外を除いて消滅したわけである。

 そして、このような状況を打破するために、対策の初期には法に関する知識を抹消するとの突飛な方法も考えられたが、限界突破の構造が解明されるにつれ、脳にプロテクトを掛けることで限界突破による魔力操作から逃れることができるようになった。ちなみに、プロテクトの構築は、帝国の前帝王であるセオドア殿によるものである。

 最後に、現在では、『限界突破』による反動によって脳に障害が残る可能性があること、他人を思うがままに操ることが可能になること等の危険性により、『限界突破』の使用が禁止されているのである。」


 世の中では、得てして新技術が悪いことに使われると、その使用が制限される状況になることが多い。例えば、ドローン(小型無人飛行機)がいい例であろう。火山の噴火口を撮影することが可能になるといったこともあれば、落下により人の生命身体に対する危険が生じる可能性もある。しかし、悪い使用例に世の中の焦点が当ってしまい、ドローン規制法案が提出される事態となってしまうわけである。


「『限界突破』の使用によって、世の中は、魔法使用に対する防御に重点が置かれるようになった。国内の重要機関において魔法の制限がかかったエリアができたり、制限の軽重が異なるよう調整できるようになったのもいい例であろう。これは、帝国との技術提供によるものであるが、帝国との技術提供が活発になったのが黒血死団事件のおかげであるのは皮肉であるな。帝王の『保存』と国王の『変化』の研究がついに交わる日が来たのである。これによって、更に魔科学重視の傾向が強くなったのである。

 現在まで、帝国と王国とはお互い魔科学の発展によって争われてきた。しかし、黒血死団事件を契機に、お互いの国を護るために魔科学の共有の流れができている。ロエスレル殿がこのような結果を予期していたかは定かではないが、一応の終結にはなったのである。まあ、代わりに法による争いが繰り広げられようとしているのだが・・・。

 以上が、魔科学に関する実情の説明である。質問等あるようなら挙手願いたい。」


 グスタフの声が響いた後、会議室は静寂を取り戻す。誰からも挙手は無いようで、会議室は静寂なままだ。


「誰からも質問はないようであるな。」


 次は俺か、と債譲が考えていると、


「サイジョー殿からも何も質問はないかね?」


 と、名指しで質問を促された。


「・・・わ、私ですか?私からは特に質問はありません。」


「そうであるか。確か、サイジョー殿の国には魔科学は存在しなかったのだったな、そうかそうか、質問できるわけがない、というわけであるな!」


 なんという辱め。このおっさん性格悪いな、などといつもの債譲ならば考えるのであろうが、緊張しているからか、「は、はあ」というなんとも気のない返事しかできなかった。


「・・・他に質問もないようなので、グスタフ君の説明は終了となる。説明ありがとう、グスタフ君。次は、今後の法典編纂に関する概要の説明をサイジョー=ケン殿に頼むわけであるが、ここで一旦休憩を挟むことにしよう。会議の再開は、15分後とする。異議のある者は?」


 ジョーウンの声に反応するものが1人。グスタフが挙手していた。


「・・・グスタフ君。」


「休憩と言わず、このまま進めてはどうかね?緊張疲れでもしてそうな者は1人を除いて他にいないようだが?」


「・・・では、ここまでで休憩が必要な者はいるかね?・・・いないようだな。では、このまま会議を進める。それでは、異世界から我がジャポネーゼ王国の法典編纂のために召喚され、現在国家特別顧問官の地位にあるサイジョー=ケン殿に今後の法典編纂に関する概要の説明をお願いする。」


「はい!」


 グスタフからの嫌がらせ?のようなものに考えを至らせる余裕もなく、ついに債譲権の出番が回ってきた。

やっと本番に入れます。ここまで長かった・・・。

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