第12話~一時の平穏 その1/会議まとめ~
債譲視点です。
「は~疲れた・・・。」
俺は今、マルセラに連れられてセントラルタワー48階にある大食堂にいた。昼飯時ということもあり、食堂内は中々に混雑していた。
「お疲れ様です。この国の歴史について話を聞くのは初めてだったと思いますので、結構大変だったんじゃありませんか?」
「そうだね~。とてつもない情報量だったけど、まあ今の現状がよく分かる説明ではあったと思うし、有意義だったよ。俺よりも他の人が退屈したんじゃないかって、俺は思ったけどね。」
「いえ、私達も改めて自分たちの国について考え直すいい機会だったと思っています。歴史のお話なんて、そう何度も耳にする類の話ではないですからね。特に、黒血死団事件については、あまり人前で話すようなものでもないので・・・。」
黒血死団事件については本当に衝撃的だった。そりゃ、国内に法に関する書物や知識が無いわけだ。
ただ、その点で納得しているわけでもない。話を聞いていても、いくつか疑問点があったことは否めない。
丁度マルセラがいることだし、この時間に色々と聞いてみよう。と、思っていたところに思いがけない人物から声をかけられた。
「やあ、債譲君。どうだったかね、午前中の会議は。」
「お父様!他の議員の方々との打ち合わせは済んだのですか?」
マルセラに対して「問題無い」とでも言うかのように右手で制するのは、アガツマ=ジョーウンその人であった。こんなところに国王が来ても大丈夫なのか?と一瞬思ったが、周りもあまり気にしている様子はなかった。
「中々の情報量に理解が追いつくか不安でしたが、何とか要点は押さえられたと思います。」
「そうかそうか、それはよかった。何か現時点で質問等あるようならと思ってきたが、杞憂だったかな?」
これは僥倖!この国の王に質問できるなんて、これ以上心強いものもあるまい。渡りに船、地獄に仏、別にマルセラが知らないとは思わないが、おそらく生前のことについてはジョーウン自身から聞いた方がいいだろう。てか、あまり気にしていなかったが、ジョーウンって一体何歳なんだ?
「あ、是非お願いします!ちょっと色々と気になったことがあるので、わざわざ国王に質問できる機会が与えられたのならこれを利用しないのは勿体無いですしね。」
「うむ、熱心で結構。ここでは話し難いこともあるだろう、奥の個室を使おう。・・・マルセラも改めてこの世界の闇を見直すいい機会であろう、一緒に来なさい。」
「ありがとうございます。お父様。」
そうして、俺達は座っていた席を後にして、ジョーウンの後に付いて行く。すると、食堂の奥の壁がスライドし、8人がけの円卓が備え付けられている個室が現れた。遠見には全く扉があるようには見えなかったので、まさに「壁が開いた」ように見えた。
「既に、注文した食事はココへ運ぶよう変更しておいたから、好きに座るといい。」
「ありがとうございます。」
と、俺とマルセラが仲良く隣り合わせに座ったのに微笑を浮かべながら、ジョーウンは真向かいの席に座る。それと同時に、卓上から食事が現れる。
「それでは、昼食を取りながら質問タイムじゃな。」
久しぶりの爺さん口調。もうココからは私的な時間なのだろう。
質問する前に、午前の会議の要点をまとめてみよう。
まず、王国と帝国は、歴史的経緯から休戦状態にある。そして、黒血死団事件によって、法に関する情報が消滅してしまった。それによって、両国とも法の編纂作業を行っていたが、王国は帝国に後れを取ってしまった。それをいいことに、帝国は王国を自国の法によって支配下に置こうとしている。よって、王国は俺を召喚して法の編纂作業を帝国の視察までに終わらせようとしている。
と言ったところだろうか。これに加えて、俺の疑問に思った点をジョーウンに聞くことにする。要点とは直接関係ないことを含めて。
「まず、午前中に端折られてしまった内容に関するものなんですが、法に関する情報資料足る人や物が消滅したというのは本当なんですか?あ、例外の一人を除いてですね。」
「その点に関して言えば、午後の会議に関する内容なので詳しくは説明しないが、本当と言ってもいい。」
「午後の内容に関わる」か・・・。確か、午後は魔科学総合研究委員会委員長って人の説明から始まるんだったな・・・。だとすれば、魔科学に関することか・・・。なんかどっかで聞いたことのある名前だった気がするんだよなぁ・・・。まあ、そんなことはどっちでもいいか。とりあえず、午後の会議次第だな。
「なるほど、そうですか・・・。では、次の質問なんですが、なんで帝国が王国を支配下に置こうとしてると、王国側は考えているんですか?」
「・・・そのことか。これは、帝国の帝王と王国の王に関係する話になる。その話をする前に、お主は三大魔科学者についてはどこまで知っておる?」
そうそれ、すごい気になってたんだよな~。ロエスレルという人以外に2人いて、それぞれが王国と帝国にいるって感じの説明だったよな。てことは、この国にもいるってことだもんな。まあ、結構昔の話だから死んでるかもしれんが。
「今日の説明で初めて知ったというレベルですね。」
「そうか。ロエスレル以外の2人については知らんか・・・。実は、帝国と王国の関係については、その2人が密接に関係しておる。その1人は、現帝国の帝王の父親である、セオドア=グナイスト。もう1人は・・・。」
「もう1人は?」
「ワシじゃ。」
「は?」
「ワシじゃワシ。」
「ああ、ワシねワシ。」
「違うワシ「お父様です!」」
「・・・」
もうね、何も思わないよ。もはや驚かないよ。なんかそんな感じしたもん。この爺マジで一体何歳だよ。
「えーと、『アガツマ=ジョーウン』ってことですね?」
「そういうことじゃ。自分で『三大魔科学者の1人』とか名乗りたくないじゃろ・・・。」
「確かに。」
「おい」
「え」
「そこは、『そんなことないですよ、素晴らしいです。謙遜されるようなことではありません!』くらい言うところじゃろ!大体、お主は全然驚いて・・・」
「お父様!」
「すまんすまん、まあ、そういうことでな。その二人の仲があまりよろしくなくてな・・・。そのような2人が国の代表をやっとるもんじゃから、中々お互いに手をとって協力しよう等と言い出すことも出来ず、自国の自慢ばかりしておるもんだからこんな状況になったということじゃ!わっはっはっは!」
おい爺、おめえのせいかよ!
完全に俺がとばっちり受けてるじゃねえかよ!
何たる理不尽!
神は我を見放した!!
「お父様の話を聞いたところによりますと、子供の頃から何かと現帝王に小言を言っていたようなんです・・・。『お主はセオドアのすねかじりで国を動かしているに過ぎない!』だとか、『お主は未だ自分一人で転移も碌に出来んのか!セオドアの爪の垢を煎じて飲ませてやりたいものだ!』だとか・・・。ここだけの話、ロエスレル様登用の策について現帝王であるフランクリン様は、ロエスレル様が捕まった時から考えていたのかもしれませんね・・・。」
なんというクソ爺・・・。こりゃ原因は誰にも教える訳にはいかないわ。帝国が支配することで一致したのも、ジョーウンが何かしらうまく誘導したんだろう・・・。とりあえず、今この時点で言えることが一つある。
異世界召喚は理不尽だ・・・。




