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法律初心者の異世界奮闘記  作者: T.N
第1章 魔科学世界と法
1/21

~プロローグ~

「法」とは何か。

この問に対する答えは、簡単ではない。

単に「ルール」と言ってしまえば、その通りであるし、「道徳などと区別される社会規範の一種」とも言えるし、「人間の基本的権利と自由の保障と政府の基本目的に焦点を当てて構成された社会規範」もまた正解であろう。

定義の問題である。つまるところ、答えは無数にあることになる。


話は変わるが、現存する世界最古の法はウル・ナンム法典(およびエシュヌンナ法典、リピト・イシュタル法典)と言われている。他にも、初めて「法の支配」の考え方を取り入れた法はマグナ・カルタであり、初めて「社会保障」を規定したのはヴァイマル憲法と言われている。

「初めて」と言われる法でさえこれだけ例を挙げられるというのに、このような「法」が世界各地に存在する。


こんな、解釈次第で無数にあり、世界数多に存在する「法」。

そんな「法」を勉強する一人の男がいた。


債譲さいじょう けん、23歳。「ニッポン」という国の、私立早慶大学法科大学院に通って法律を勉強している。早慶大学法学部出身。法律家になるため、と法科大学院に通うことに決め、3年コース、いわゆる未修者コースを選択し、現在2年目を迎えようとしているのだが・・・。


「やる気がでない。」


今、彼は、苦手な刑法の勉強をしていた。彼の性格は、愚直な努力家であり、それなりに集中力もある。しかし、興味の有無、実用性、影響力等、諸々を総合的に考えた挙句、「やる気」に反映されてしまう。その結果、やる気のでない物事に関して集中力が続かないことが多々あった。

それでも、暗記は得意な方であったし、勉強もそれなりに出来る方であった。むしろ、暗記で乗り切ってきたと言っても過言ではない。逆に、小論文等の自分の考えを答えにすることは苦手であった。

そんな彼だが、成績に関して言えば、院の1年目は上から数えた方が早かったし、俗に基本5科目(憲法、民法、刑法、民事訴訟法、刑事訴訟法)と言われる科目に関して言えば、1科目を除いて全て一番いい成績を修めていた。彼に言わせると、授業復習して判例覚えればなんとかなる、だそうだ。

では、その1科目とは何か。


「刑法」であった。


彼の言葉を借りるなら「憲法は法の根幹となるもので重要だし、民法は世の中で誰もが関わるもので重要だし、手続法はその名の通り適正手続を保障する上で重要だ。確かに、世の中の犯罪の予防に重要ではあるのだが、そもそも犯罪に関わりたくないし、普通に暮らしてれば関わることもないし、更には内容が処罰であることから好きではないし、血生臭さがするから嫌い!」だそうだ。

大学受験の際は、大学合格のために必要最小限の教科に力を入れた彼らしい言葉である。当然、国立なぞ行けるはずがない。性格上も私立に向いてるのは言うまでもなかった。


話を戻すが、2年目に向けて予習の最中であった。

「刑法は団塚先生か~。かなり評価高いし、何より刑法の権威だし、頑張らないといけないんだがな~。初回は・・・殺人罪か・・・。」


「殺人罪」

彼の国の法律によれば、「人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の懲役に処する。」と規定されていた。


「ま、頑張りますか・・・。」




そして、刑法授業初日。


団塚「それじゃあ、今日から一年間よろしくね~。」


意外と軽いな刑法の権威、と思ったのはつかの間早速授業開始。


団塚「早速だけど、授業予定にもあげた通り、今日はとっかかりやすい殺人罪をやるね~。じゃあそこの君、わかってて当然だけど、この『人』ってなんだろう?」


ぎょっとする債譲、いきなり当てられたのだから当然とも言えるが、まさか自分が初っ端とは・・・。理不尽だ、と心の中で叫んだ。


債譲は「理不尽」が嫌いだった。彼の人生にはなかなかに「理不尽」が多かったように思える。特にここぞという場面で。

小学校のマラソン大会では、先生が準備していなかったせいで順路を間違え最下位。

中学校の水泳大会では、自分が何故か大会準備中に喧嘩にあい悪役扱いされ失格。

高校受験では、第一希望の受験日に大雪が降り、凍える体で到着したものの体を壊し途中退場。

大学受験では、第一希望の受験日に弟が骨折して、両親が旅行中であったがために自分が病院に行かざるを得なくなり、受験できず。

と、代表例を挙げればこんな感じである。


話を戻そう。

団塚の枕詞として有名な「わかってて当然だけど」に焦りつつも、なんとか口が開く。


債譲「殺人罪における『人』とは一部露出説、つまり胎児が母体から一部露出した時点から殺人罪の客体になります。」


なんとかなった!と思ったのもつかの間。


団塚「半分正解」

債譲「えっ!」


思わず口から出てしまった。どういうことだと、考えていると、


団塚「じゃあ、人の死はどうなるのさ」


しまった!と思った。団塚は、「人の始期」について聞いたのではなく、「人」について聞いたのだ。「人の終期」に思いを巡らせるもそれが債譲の口から出ることはなかった。


団塚「時間切れ。通説は『三兆候説』、つまり、呼吸の不可逆的停止、心臓の不可逆的停止、瞳孔拡散をもって人の死とする説だね、心臓死説ともよばれてるね。しかし、現代医学の発展で脳の不可逆的停止があっても、心肺は動いているという状態が生じるようになって、『脳死説』、つまり、全脳死をもって死とする説もでてきたね。」


後悔先に立たず。人はいつか死ぬんだから~とか思ってるからこうなるんだ!、と心のなかで戒めた。


前述の「法」の話に戻るが、法が社会生活における行為規範だとすれば、社会の変化とともに法も変化するはずである。

その代表例が、「人の死」である。

それ以外にも有名なのが、最近話題の「非嫡出子の相続」の問題も挙げられる。これも、人の社会生活の変化とともに、法が変化したものである。


話を戻そう。


団塚「定義は重要だからね~。ま、授業の引き締めには良いスパイスだったかな!それじゃあ続けるよ~。」


そのままの勢いが続くかと思ったが、この後誰もあてられることはなかった。


理不尽だ。


しかし、「理不尽」とは、思いもよらないところから舞い降りるものである・・・。

このやりとりが、後に起こる「理不尽」の解決策になるとは、今の債譲に知るすべはなかった。




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