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Boy meets Girl  作者: しばち&ゆえ
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07. side KAITO ― 酔っ払いの気になる告白 ―

 ……俺なんで酔っ払いに絡まれてるんだろ?


 いや、酔っ払いなんて言ったら泣かれるかもしれないから心の奥にしまっておこう。

 しかしこれは酔っ払い以外のなにものでもない気がする。

 


 居酒屋で合コンなのに、なぜか禁煙席という感じ悪い会で、トイレに行ったついでに外に出て一服。

 ……ていうか、今日のメンバーは僕的には微妙だ。

 基本的に年下はよっぽど好みじゃなければ守備範囲じゃないからな……同い年もひとりいたけど……うーん。

 この調子だと二次会でも禁煙席にさせられそうだし、今日はこれが終わったら帰ろうかなとか考える。

 ていうか、酒の席でタバコが吸えないのは普通にイタイと思うんだけど。

 今日は僕以外には喫煙者はいなかったみたいで、ちょっと肩身が狭い。

 最近どこでも禁煙だしなー……。

「やっぱ禁煙するかな……」

 ふーっと煙を吐き出して、吸殻を携帯灰皿に突っ込んだ。


 戻ってみたら、さっきまで僕が座ってた席は女の子が座っていて、それはまあ、そういう会だから全然構わないんだけど、空いてる席って……倉本の隣……ってあいつ、なんかさっきよりずいぶん赤い顔をしてる気がする。

 気がするんじゃなくて事実だな。

 目も座ってるよ。

「あ、大野さーんっ。ココ空いてますよっ」

 目が合ったと思った瞬間、倉本は僕を呼びながら隣の座布団を手でぱんぱん叩いた。

 ……やっべーよ、あれ。キャラ変わってるよ。

 本当はそんな席に行きたくなかったけど、他にないんだから仕方がない。

 僕は倉本が叩いた座布団にしぶしぶ座った。

 倉本を挟んで向こう側には女の子が座っているけど、そっちはそっちで喋ることに夢中のようだった。

「あー…倉本さん……大丈夫? 酔ってるみたいだけど」

 僕はできる限り平静を装って聞いた。

「なにがですかー? 酔ってなんかいませんよー、だってこれジュースだって言ってましたよー?」

 明らかに人工的なピンク色をした液体が入ったグラスを片手に持って揺らす。

 まあジュースだと思ってるならそう思っていればいいさ。……ぶっ倒れたりしなければな。

 僕は倉本に気がつかれないように小さくため息をついた。

 今日の合コンはきっとこれで終りだな、と思う。

「ていうかー、大野さん、合コンっておもしろいですかー?」

「つまんない?」

 参加したのも不本意らしかったから、あんまり楽しくないのは本当だろうけど。

「そーゆーわけではないですけどー。なんかーあの人馴れ馴れしいですしー」

 と、小さく指を指した先に、大学の同級生がいた。

 ああ、あいつは誰にでもそうなんだけどな。

 そういえばさっき、あいつと喋ってたな……むちゃくちゃつまんなさそうな顔してたよな……。

「悪いやつではないんだけどなあ」

「あ、大野さんから揚げ食べますー? これおいしいですよー」

 人の話全然聞いてないな、これ。

 倉本は積んであった小さい取り皿を一枚取って、から揚げをその上にどんどん積んでいく。

「ちょ…そんなにいらないから」

 僕の言葉には耳を貸すそぶりも見せずに、ニコニコと楽しそうに

「まー遠慮しないでくださいって」

 なんて言ってこっちを向く。

「あー落ちちゃった」

 だから言ったのに……。

 テーブルの上に落ちたひとつは指先でつまんで自分の皿に乗せた。

「はい、どうぞ」

「はあ…どうも」

 仕方ないから新しい割り箸をケースから一膳取り出して口に運んだ。

「ね、おいしいでしょ?」

 みじん切りになったネギの入った甘辛い味のソースが絡んだから揚げは確かに美味い。

「うん、美味いなコレ」

「ですよねー」

 なんて言ってニコニコ笑う倉本を見るのは初めてだ。

 ……まあ、悪くないかな。

 って、年下は守備範囲じゃないはずなんだけどな。

 でもなんとなく、倉本は見た目だけはちょっと好みのタイプだったりするから、たまに思わずトキメいてしまったりする。

 結局守備範囲も何もあったもんじゃない。

「そういえば、彼氏には合コンのことなんて言ったわけ?」

「……言ってません」

「えー?」

 それは、いいのか? どうなのか?

「言わないとやっぱりよくないでしょうか……」

 30秒前と打って変わってヘコんだ顔。

 この顔はわりと見慣れてる。

「いや、人によるけど……彼女が合コン行ったって聞いたらあんまり気分いいもんじゃないと思うけど……」

「大野さんだったら、どうなんですか?」

「俺は…うーん、あんまり、いい気分じゃないかも……」

 やっぱり、合コンって彼氏彼女候補を作るための飲み会だし、彼氏彼女がいるなら、そんな必要ないんだし。

「そんなの、ココロが狭いですよっ」

 ああそうですか。スミマセンね。

「なんだっけ、高木クンはどうなんだよ? ココロ広いわけ?」

「……わかりません」

 なんだそれ。

「でもでもっ、毎日電話してくれるし、メールもくれるしっ」

「へー……倉本さんからはしないわけ?」

 ふと気がついて言ってみただけなんだけど、……すごい愕然とした顔してる。

 まずいこと言っちゃったかな……。

「……やっぱり、変ですか? 変なんでしょうか、私……でもそんなに毎日メールしたりするような話もないんですよねー……」

 うーん、と腕組みをして困った顔をするのがなんだかおかしくて笑えるけど、ちょっと我慢しておく。

「変ってわけじゃないけど……。好きでつきあってる彼女だったら、やっぱりメールとかうれしいもんだと思うよ。男って単純だから」

「そういうものなんでしょうかー? だからといって今急に『合コンしてるの』なんてメールしたらビックリされますよね」

 そりゃそうだ。

「……とりあえず今日のことは黙ってる方がいいかもなあ……倉本さんにはそういう気は全然ないにしても、合コン自体がなんつーか、そういう飲み会なんだし」

 僕の話を聞いて、ちょっと考えるような仕草をしてから、大きくため息をついた。

「はあ……なんか男の子とつきあうってちょっと面倒ですねえ……」

 おいおい。

「好きだったら面倒とか思わないと思うけど」

 僕だって好きな子相手なら、そんなに面倒とか思わないぞ。

「……じゃあ、私、高木君のこと…そうでもないのかなあ……」

「自分のことだろー?」

「そうなんですけど……うーん……まあいっかー」

 と、グラスの中身を一気に飲み干した。

「あれーそういえば大野さん、飲んでます? 何か注文しますかー?」

 ……これだから酔っ払いは……。

 倉本は10秒前と全然違う顔して、ケラケラと笑っていた。

「じゃあビール……倉本さんは烏龍茶にしときなよ」

 と、店員を呼び出すボタンを押した。



 一次会がお開きになる頃には、倉本はまだぼんやりとしているものの、僕の機転のおかげで少し落ち着いた顔をしていた。

 僕って気が利く男だな。

 二次会どうする?という話をしているところに、声をかける。

「俺、明日早番でバイトあるから帰るわ」

 都合よく朝からバイトが入ってるんだよなーラッキー。

 あと、アレも連れて帰ったほうがよさそうだと思って、

「そこのふらふらしてるのも連れて帰るから。近所だし」

 と、倉本を指差した。

 村中が何か言いたそうな顔をしたけど、男側は村中が幹事だから、こっちに気を取られている場合じゃない。

 僕ってなかなか策士かもしれない。

「はあ……じゃあ、帰ります。おつかれさまでした」

 やっぱりまだ酔ってるな。

 ぺこり、と頭を下げて戻った瞬間、またぐらりと体が揺れた。

「俺、チャリだから。乗って」

「確か、自転車でも飲酒運転になるんですよね……」

 ……どう見てもお前よりは酔ってないよ。

「……別に無理して後ろ乗らなくてもいいんだけどね」

「言ってみただけです。お手数ですが、よろしくお願いします」

 またぺこりと頭を下げて、そしてまたぐらりと揺れた。

 その様子がおかしくて、笑ってしまった。

 倉本は自分ではゆらゆらしてる意識はないらしくて、僕が笑ったのをきょとんとした顔で見返していた。



 背中に寄りかかってる倉本が温かいな、と思いながら自転車を漕ぐ。

 繁華街を抜けて住宅街に入ると、大きい道では車はやっぱり多いものの、人通りは少なくて、僕らだけがいるように感じる。

 荷台に座ってる倉本はたぶんそろそろ尻が痛くなってきてるだろうなと考えて、できるだけスピードを上げた。


「わざわざありがとうございました」

 倉本の家の玄関先で、また倉本はぺこりと頭を下げる。

 今はもうぐらりと揺れることもなく、だいたい真っ直ぐに立っていられるようだった。

「いや、いいよ。あんなにふらついてたら事故られても後味悪いしな」

 僕の言葉の意味を理解してないらしく、首を傾げる。

「そういえば、大野さんは誰か女の人と仲良くなれたりしたんですか?」

 こーいーつー……。

 ついさっきのことを覚えてないのか。

「まあ、出会いのきっかけくらいの物だし、合コンなんて。必ずしも誰かと仲良くなれる物じゃないだろう。しかも後半は倉本さんに捕まって新たな出会いなんてある訳ないじゃん」

 これほど行って損した気分になる合コンも珍しいぞ。

 じろっと倉本を見ると、倉本の顔からさーっと血の気が引いていくのが分かる。

 ホントおもしろいな、こいつ。

「ス、スミマセン……」

 僕は思わず笑い出してしまう。

「いや、別にいいよ。俺はどっちかというと合コンは人数合わせで参加してる口だから。知り合いと時間つぶすくらいのが実は楽なんだ」

 時と場合によるけど、今日はそれは本当だ。

 でも、「特に今日みたいな感じだとな」という言葉を付け足すのはやめておいた。

「ホントですか?」

「こんな事嘘ついても得しないし」

「そうですか、よかった」

 と、ほっと安心した顔に変わる。

 じゃあ、と言いかけたとき、倉本の後ろの扉が開いた。

「あら、外で話し声がすると思ったら帰ってきたのね」

 倉本の母親らしき人が玄関から出てくる。

 うーん、倉本と似てるな。母親似か。

「あの、バイト先の先輩の大野さん。今日ここまで送ってくれたの」

「大野です、倉本さんにはお世話になってます」

 世話してるのは僕だけどな。

 一応、ご挨拶のときはこうやって言うものだという常識は持ち合わせているつもりだ。

「こちらこそ、月海がお世話になってます。この子ちょっと抜けてるとこがあるから心配なのよねぇ、ご迷惑かけてなければいいんだけど」

 さすがお母さん。よくわかっていらっしゃる。

 しかし、

「そんな事ないです、丁寧に仕事してくれるのでとても助かってます」

 と、にこやかに返事をする。僕って大人だ。

「そうだといいんですけどねぇ。……ところで、あの、もしかして月海の彼氏とか?」

 そこで一瞬僕の思考回路がストップした。

「「違いますっ」」

 腹の底から声を出して否定する。

 そして同じように強く否定した倉本はバタバタと母親の側に寄って、

「もうー、お母さんってば何言ってるのっ。大野さんに迷惑でしょ」

 と、ものすごく困った顔で詰め寄る。

 ……そこまで否定しなくても。まあいいけど。

「あら、違うの? 残念ねぇ」

 なんていう母親の口調が、普段の倉本と似ていると思った。

「大野さん、ごめんなさい、母が馬鹿な事言ってっ」

 その慌てっぷりがおかしくて笑ってしまう。

「いや、まあ、気にしないよ。じゃあ俺そろそろ帰ります」

 と、自転車に跨った。

「あ、はい。おやすみなさい、ありがとうございましたっ」

 ペダルを踏み込んでから、右手を上げて軽く手を振った。



 酔っ払いの話は半分だけ聞いておけばいいと思いつつ、倉本の彼氏の話がどこか引っかかってた。

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