開会前日
長い長い長い間が空いてしまいました。
待ち人はいなくとも上げてしまいたいと思います。
お願いします。
空は青く澄み渡り、光は陸に降り注ぐ。獣たちはその平和を楽しんでいる。
海もまた青く澄んで、水面の下で泳ぐ者たちはそれぞれの営みに従事している。
たった今から、自分がこの平和を少しの間壊してしまうことに幾ばくかの申し訳なさを持ちながらも、光太郎は崖の縁に立った。
光太郎は、生来より動物に好かれる性質であった。だから、この時も海鳥に囲まれていた。一瞬にして現れた来訪者を、海鳥たちは歓迎した。まるで、どうやって来たんだ、あなたは何者だと問いかけるかのように。
彼らに人間ほどの知識はないにせよ、彼らの情報網は凄まじいものがあった。故に、彼らの数匹は、光太郎が突如やって来た先ほどの現象を理解していた。
その現象は、海を挟んで東側、奈須羅国は言うに及ばず、他の国では決して見られないものであった。
九恩帝国内ではこれを、“聖術”と正式には言っているが、国際的に“魔術”と呼ばれているため、帝国民の多くはこの“魔”の方で呼んでいる。
だが、光太郎は何故だか聖術と読んでいた。
大した違いはなさそうであるが、彼は幼い頃からこう呼んでいたかったらしい。
光太郎の準備は終わったようだ。
先ほどまで鳥たちに笑いかけていた彼の顔からは笑みが消え、引き締まった顔つきになった。足を肩幅ほどに開き、腕を組んでいた彼は、おもむろに右手を上げて、人差し指を立てた。
ズッ……というような重たい空気が彼を包み、鳥たちは何を察したのか光太郎の上から少し遠くまで離れた。
目を閉じて、彼はこう呟く。
「第一捕縛」
刹那、彼の周りを包んだ空気がほどけ、彼を中心に半径2キロほどの円形のオーラが張られた。
この魔法で、空気中に存在する聖素から、魔素を抽出し、その魔力を己が魔力とする。
実践ではこの行程は省略されがちだが、万全を期すために彼は行なったのだろう。
続いて、第二、第三、最終と四回にわたって捕縛をした彼の周りには、膨大な量の魔力が漂っていた。
ごく普通の使い手ならば、これほどの量の魔力があると寧ろ苦しくなってしまうのだが、さすがと言うべきか、彼は平気な顔をしている。これもSランカーの力であろう。
この時、彼は垂れていた左手も上げて、両の手を、腕を開いた。
黒色の霧のような、靄のような物が彼を包んだその次の瞬間、
「沈黙盲時!」
発動は極めて自然に行われた。
まるで今までそこになかったように、太陽の光が消えた。
同時に現れたのは、ただ闇であった。
青かった海は光を失ったことで
何が大丈夫なのか、そんな事は分かり切っているが、そう言って彼はすぐに魔法を切った。あまり長くすると生物に危害を与える可能性があったからである。
「さて、戻るか」
誰に言っているわけではない。
ただ彼は、少し独り言が多い人であった。
「動速来雷」
そう言って、彼は消えた。
次回、開催前夜