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デートインザストーリー

デートインザローカルアーケード

作者: フィーカス

 毎回のまえがき。初めての方は「デートインザドリーム」か「デートインザトラベルプラン」から読んでもらえると話が分かりやすいと思います。


 ……それにしても、買い物するだけの話なのになんでこんなに長くなったんだろう(汁

女の子の買い物シーンって、よく分からないのです。

 警察の取調べが終わり、有子はゆっくりと高校の玄関に入る。

 誰もいない下足箱は、いつも以上にひんやりとした空気を感じる。靴を脱ぎ、室内用のスリッパに履きかえると、加藤有子(かとうゆうこ)はゆっくりと自分の教室へ向かう。

 まだ、それぞれの教室では一限目の授業が行われている。まっすぐ教室に向かおうと思ったのだが、どうせもうすぐ終わるだろうと、有子はそのまま屋上へ向かった。

 階段を昇る間、聞こえるのは有子の足音、教室から時々聞こえる、教師の声と黒板に文字を書くチョークの音。廊下は誰も通る気配が無く、有子は誰にも会うことなく屋上にたどり着いた。


 屋上の扉には、立入禁止の文字が書かれてた紙が貼られている。

 田上健二(たのうえけんじ)がここから落下してからは、生徒たちにも立ち入らないことが各教師から告げられており、厳重に鍵がかけられている。唯一、警察のみが時々現場検証のために立ち入るくらいだ。

 有子はその扉の前に寄りかかり、今日の警察の話を振り返る。

 佐藤有子(さとうゆうこ)が殺された事件、あの日のこと。そして、健二のこと。親友と恋人のことをいろいろと聞かれ、それを思い出すだけでなんとなく体がぐったりとだれてくる。

 長時間の取調べに加え、教室よりも冷たい屋上の空気が有子を包み、睡魔が襲う。冬山で遭難したら、こんな感じになるのだろうか。壁に寄りかかったまま、有子はずるずると力なくずり落ちていく。

 危うく眠りそうになったところで、一限目終了のチャイムが鳴った。その音で意識を取り戻し、立ち上がって衣服を整えると、すぐに自分の教室である二年三組に向かった。


 教室前の廊下では、何人かの生徒が教室から出ている姿が見えた。授業を終えた教師達も、一人、また一人と教室から出て行く。

 自分の教室に向かう途中、担任の教師とであった。

「お、加藤、もう話はいいのか?」

「はい、大丈夫です」

「変なことは聞かれなかったか?」

「いえ、特には」

「そうか。何かあったら、先生に言うんだぞ」

「はい」

 担任教師がその場から離れると、有子はその教師に一礼をし、再び三組の教室に向かった。

 その三組の教室の前では、長い茶髪の女生徒と、ツインテールが似合うめがねをかけた女生徒が何か話をしている。長髪の女生徒は有子の友人の栗畑千香(くりはたちか)で、ツインテールのほうは同じく友人の三堂成美(みどうなるみ)である。

「千香、成美」

 有子が声を掛けると、千香と成美もそれに気が付き、有子に向かって手を振る。

「あ、ユウ、どうだった?」

「うん、いろいろ聞かれたけど、特に変なことは」

「やっぱり、佐藤さんのことと、田上君のことを?」

「そうね。あと、事件のことをちょっと」

 有子は「ここじゃなんだから」と、二人を教室の中に入れた。

 二人の後に有子が入ると、案の定、何人かのクラスメイトに何を聞かれたのかの質問ラッシュが起こった。有子に直接話を聞きに行かなかったクラスメイトたちも、興味津々に有子のほうを見ていた。

 聞かれるたびに、「大したことは聞かれて無いから」と返す。が、それでもクラスメイト達の質問ラッシュはなかなか止まらない。

 時々千香が「はいはい、ユウ、困ってるでしょ」となだめるが、なかなか収まらない。

 そうしている間に、二限目が始まるチャイムが鳴った。同時に担当の教師が入り、それをきっかけに先ほどまで騒がしかったクラスメイト達も席に着く。

「じゃあ、この続きは昼休みにでも」

 そういって、有子も席に着いた。



 二限目、三限目の中休みを何とか過ごし、四限目、ようやく昼休みとなった。

 その頃になると、他のクラスメイトの興味は有子から逸れ、各々の食事場所へと移動する。

 自分の教室で食事を摂る生徒もいるが、たいていは他の教室に行ったり、外のベンチや屋上に行ったりと、教室にいないことが多い。

 そんな中、有子と千香、成美は席を囲み、三組の教室で弁当を広げていた。

「ユウ、大変だったね」

「まあ、仕方ない、かな」

 有子は苦笑いで弁当の蓋を開け、おかずのウインナーをつかんで口に運ぶ。

「そういえばさ」

 弁当をむしゃむしゃと食べながら、千香は有子と成美に向かって言った。

「二人とも、旅行の準備ってまだだよね」

「え、ええ」

 成美が千香に向かって言う。有子も、準備はまだだと告げる。

「じゃあさ、今度の土曜日、商店街に買い物行こうよ! 服とか買いたいし」

「あ、いいね。有子ちゃんも行こうよ」

 成美に言われ、有子は少し迷いながらも答える。

「そうね、行きましょう」

「よし、決まりね」

 買い物の約束が決まると、早速集合場所や時間を話し合った。

 運動部は土曜日も部活がある場合が多く、場合によっては夜遅くまでやっているところもある。

 有子が所属する陸上部は、午前中は全員参加で練習、午後からは各自続けたい人が最長午後六時まで続けることができる。千香と成美は両方文化部だったため、土日の部活動は、普段は行われない。

 そのため、午後十二時半集合し、そこから昼食、買い物タイムという流れにすることにした。

 ふと、有子は気になったことを口にした。

「そういえば、参加者って、もう決まったの?」

「えっと、私とユウ、成美でしょ。それと演劇部の小塚(こづか)先輩と新名(にいな)君。六組の三波(みなみ)さんと高野(たかの)君に、あ、それと演劇部に時々来ている、中学生二人も来るそうよ」

 千香が指を折りながら、参加者を列挙していく。

「結構誘ったんだね」

「うん、みんな、最近元気なかったから、声を掛けてみたの。そしたら、みんな行くって」

「そうなんだ」

 本当はまだ声を掛けたかった人もいたそうだが、結構な人数になったためにここでやめたそうだ。

「まあ、面識がない人もいるだろうけど、大人数いたほうが楽しいでしょ」

「うーん、私はあんまり知らない人は……」

 千香の言葉に、成美は少々心配そうな顔をしている。

「大丈夫大丈夫。小塚先輩は優しいし、三波さんも高野君もおもしろい人だよ。新名君は一年生だけど、元気がある子だし」

「そっか。何かあったら、千香ちゃんのところで引きこもるから」

「あんたねえ」

 有子がふと時計を見ると、もうすぐ昼休みが終わる時間だった。

「いっけない、早く食べちゃわないと」

「あらら、おしゃべりに夢中になってて食べるの忘れてたわね」

 有子と千香は急いで残った弁当を食べようとする。

「もう、有子ちゃんも千香ちゃんも、ずっとしゃべってばっかりだから」

 そのそばで、成美は悠々と弁当箱を片付けていた。

「成美、いつのまに……!?」

 むしゃむしゃと弁当をほおばりながら、千香は成美が片付ける姿を見ていた。



 土曜日の昼、有子は陸上部の活動が終わると、すぐさま私服に着替えた。普段は休日の部活の場合、制服で登校することにしているのだが、この日は直接集合場所に向かうため、私服をかばんに詰めていた。

 着替え終わった後、先輩や顧問の教師達に帰りを告げ、足早に高校の最寄り駅に向かう。

「十二時十五分、か。少し急がないと」

 部室から出て、校門から学校を出る。休日の校門前は、平日の授業中のように静かである。しかしながら、お昼前のためか、校門前の通りは買い物客や食事に向かう人でいつもより賑わっているようだ。

 とはいえ、普段買い物や食事をするなら、少し遠くなるが駅からバスに乗って二十分ほどのところにあるアーケード街が便利である。ここを利用する人は、近所の人が大半だろう。

 雲ひとつ無い快晴の空の下、運動後には心地よい冷たい風が、有子のほてった肌を冷やしていく。ただ、あまり冷やしすぎると体調を崩してしまうため、しっかりと汗を拭いて暖かい衣服で身を包んでいる。ここら辺の体調管理は、陸上部では気をつけないといけないところである。

 少し駆け足で集合場所に向かうが、部活の疲れはあまり無い。平日では見られない穏やかな人の波を抜けながら、徐々に駅が見えてきた。

「えっと、千香たちは……」

 集合場所は、駅の改札口。駅が始発のバスはいくつか行き先があるため、乗り場も五つほどに分かれている。アーケード街行きのバス乗り場からは少し遠いが、一番分かりやすい場所である。

「あ、ユウ、こっちこっち」

 ふと振り返ると、バス乗り場の近くにあるコンビニの入口に、千香と成美の姿があった。二人の私服姿が、普段の制服姿とは違った印象を与える。

 黒いコートとブラウンのブーツを纏った千香は、なんとなく大人っぽい印象を受ける。対象的に、白いセーターに長めの白いスカートを成美は、高校生としては少し幼く見える。

「おまたせ、千香、成美。今部活終わったところなの」

「私たちも今来たところ。なんか、あわてて来たみたいだけど、シャワー浴びなくて大丈夫だったの?」

「冬だし、軽く流しただけだから」

 陸上部の部室には簡易なシャワー室があるのだが、有子が出たのが時間ぎりぎりだったので、そこまで時間が無かった。

「えっと、次のバスは十二時三十八分だから……」

 成美がふと時計を見ると、十二時三十七分から、三十八分に変わろうとしている。

「あ、あのバスじゃない? 急がないと」

 成美が言い終わるが早いか、有子と千香は急いで乗り場に向かう。それを見て、あわてて成美も追いかける。

「成美、何をしているの? 早く行くわよ!」

「ま、待ってよ、有子ちゃん、千香ちゃん」

 有子と千香はバスの入口に近づくと、すばやく財布からICカードを取り出す。そして、乗り込むと同時にセンサーにかざす。電車通学で慣れているのだろうか。

 一方電車通学をしていない成美は、持っていた手提げから財布を取り出すのに戸惑う。さらに、普段使わないためか、ICカードがなかなかとりだせない。

 そうこうしていると、バスの扉が閉まりかける。が、

「ま、待ってください、友達がまだ乗ってないんです!」

 千香が大声で運転手に呼びかけると、一旦閉まりかけた扉が開いた。

「えっと、たしかここに……」

「成美、ここ始発なんだから、降りるときに言えば分かるって。それより、早く乗りなさい!」

「は、はひ……」

 息を切らしながらICカードを探していた成美は、手に持った財布を開けたまま、あわててバスに飛び乗った。運転手はそれを確認したのか、成美が乗ってすぐに扉が閉まった。


 土曜日の昼間のバスは、それほど混雑していなかった。

 基本的にアーケード街を経由する隣駅行きのバスは、学生や年配以外はあまり利用者がいない。アーケード街で買い物する人の多くは、車で向かうことが多いからだ。

 出発したバスの揺れに耐えながら、三人は空いている席に横一列に並んで座る。

「まったく、危なかったわね」

「うん、ごめんね。……あ、あった」

 相変わらず財布からICカードを探していた成美は、ようやくレシートの束からカードを見つけ出した。

「いつもの悪い癖ね。捨てればいいのに」

「だってぇ」

 もらったレシートを捨てきれず、どんどん財布に貯めてしまう人がいると思うが、成美はそういうタイプらしい。レシートのほかにも、ポイントカードや会員カードが大量に財布に収まっている。

「そういえば、お昼はどこに行くの?」

 レシートを整理する成美が、ふと声を上げた。

「せっかく三人で行くんだし、パスタとかどうかな」

「いいわね。でもカロリーが……」

 千香の提案に、有子は少し戸惑う。陸上部の顧問から、体型維持や食事についてもいろいろ指導を受けているからだ。

「まあいいじゃない、たまにはさ」

「そうね、一食くらいなら……」

 少し悩みながらも、有子は千香の提案に賛成した。


 駅前のロータリーを抜けた先は緩やかな坂道が続き、一度住宅街に入る。平日は静かな住宅街だが、近くの公園で遊ぶ子供や、ランニングをしている男性が見られる。

 冬の外気とは違う、エアコンの効いた暖かな車内。その中とは打って変わって、外では手袋やマフラーを身にまとい、寒そうにしている人々が歩いている姿が見える。時折強く吹く風が、枯れ木から木の葉を一枚、また一枚と奪い去る。

 住宅街を抜けると、さまざまな店が立ち並ぶ商店街へと出る。その中でも、アーケード街は専門店が軒を連ね、土日は買い物客で賑わう。

「あ、もうすぐだね」

 住宅街を抜け、次のバス停の案内が表示されると、成美はそういって降車合図ボタンを押そうとした。が、その前にピンポン、と音が鳴る。誰かに押されてしまった。

「まあ、よくあることだよね」

「ふみゅう、なんでいつもこうなのかなぁ」

 ボタンを押せなかった成美が膨れた顔をすると、千香がぷにぷにとほっぺをつついた。

 バス停に近づくと、少しずつ座っていた乗客が立ち始めた。アーケード前のバス停に到着すると、バスはゆっくりとブレーキをかけてスピードを緩める。

 バスが止まると、有子たちは他の乗客が降りた後に降車した。有子と千香は、持っていたバスカードをセンサーにタッチする。

 が、成美がカードをタッチしたとき、

「乗車履歴がありません。乗車した停留所をお知らせください」

 センサーが忠告を流した。

「ああ、そういえばそうだったね」

 それを見て、有子と千香は笑い出す。成美は恥ずかしそうに運転手に駅から乗ったことを告げた。


 アーケード入口のバス停に降りると、冷たいそよ風が出迎えてくれた。

 特に大きなイベントが無い土曜日のアーケード街はそれほど人が多くなく、かといって閑散としていることもない。買い物をするには歩きやすくてちょうどいい。

 ゆっくりと三人はアーケードの中を歩く。ドラッグストアのお買い得商品の広告や、喫茶店のランチメニュー、店頭に並べられた目玉商品などが次々と目に入る。パチンコの大当たりの音楽も、客の雑踏の中でひときわ目立っていた。

「さてと、まずは……」

「千香ちゃん、私おなかすいた」

 千香の言葉を、成美のおなかの虫がさえぎる。

「もう、成美ったら食べることばっかりね」

「千香、さっき言ってたパスタ屋さんって、あそこ?」

 有子が少し先にある、右側の店の一つを指差した。看板にはパスタのランチメニューがいくつか書かれている。

「そうそう、ここ、結構有名らしいのよ」

「そうなんだ。でもすぐに入れるかな」

 心配する有子の言葉を聞き、千香の目がきらりと光る。

「フフフ、今何時だと思っているの?」

 有子と成美が腕時計を見る。時刻は午後一時。ちょうど食事を終えた客が、少しずつ店から出て行く姿が見られた。どうやら、混雑するピークが過ぎたようだ。

「さすが千香ちゃん、食べ物のこととなると頭が働くね!」

「成美、あんたに言われたく無いわよ」

 千香と成美のやり取りに、苦笑いを示す有子。そっと店内を覗くと、いくつか空席が見受けられた。

「とにかく入ろうよ。席空いているみたいだし」

 有子がゆっくりと店の入口に向かうと、千香と成美も付いていく。途中、誰かのおなかの音が鳴ったような気がしたのは、気のせいだろう。


 ゆっくりと入口の扉を開くと、チリンという鈴の音が鳴った。

 木造の建物に木でできたテーブル。こげ茶色を基調としたインテリアが、凍えた体を暖かく迎えてくれる。

 カウンター席とテーブル四人席、両方とも空いていたが、有子が人数を告げると、テーブル席に通された。

 有子たち三人は席に着くと上着を脱ぎ、それぞれの荷物をテーブルの近くにある荷物置きにおく。それから、インテリアと調和した茶色の表紙で飾られたメニューを開いた。

「どれにしようか」

「今はランチタイム中だから、サラダとバケット、それにドリンクがセットになってるみたいね」

 単品のパスタもあったが、今回は全員ランチセットを頼むことにした。

「せっかくお店に来たんだから、あんまり食べないようなのがいいわね。えっと、お店のオススメは……チョリソのクリームソース? じゃあ私これね」

 千香は「当店のオススメ」と書かれた中から、写真を見て指差す。

「そうね、私は……ベーコンときのこのペペロンチーノかな」

「あら、結局カロリーが気になるの?」

「ま、まあね」

 有子は書かれているカロリー表示を見ながら、一番カロリーが低いものを選んだ。

「成美は?」

 まだ決めかねてるのだろうか、と千香は成美に聞いたが、成美はメニューの一点だけを見ていた。すでに決まっていたらしい。

「私は、ナポリタンで」

「随分普通なのを選んだわね。もっと変わったのを選べばいいのに」

「大盛りで」

「……それは普通じゃないわね」


 全員のオーダーが決まったところで、千香が店員を呼んでオーダーを通す。ドリンクは、全員コーヒーにした。

 オーダーを通してからメニューが来るまではしばらく時間が空く。それまで、各々メニューを見たり、置いてある雑誌を読んだりして時間を過ごしていた。

「あ、これかわいいよね」

「本当だ」

 千香が読んでいた雑誌を開き、最新の冬物ファッションのページを指差すと、有子もそれに目を通す。

「でもスキーにはあわないかな」

「さすがにスカートはねぇ。どちらかというと、こういうのかな」

 白地に、ふわふわした飾りが付いたコートと、毛糸のニット帽を着こなした女性モデルのページを開く。

「そういえば、商店街でも結構こういう格好した人、多かったよね」

「最近の流行なのかな」

 今も昔も、女子高生ともなれば流行のファッションが気になるのは変わらないようだ。

 あれだこれだとファッションの話に夢中になっていると、セットのサラダが運ばれてきた。千香があわてて雑誌を片付ける。

 パスタ料理にはぴったりな、ガラスの器に盛られた小盛りのサラダが各々の前に並ぶと、千香がサラダ用のフォークを有子と成美に渡す。

「そういえばさ」

 千香がフォークにレタスを刺しながら言う。

「ウェアとかどうするの?」

「いや、私そんなにスキー行かないし」

「そろそろ新しいの買おうかな、と思ったんだけどさ」

「え、千香、自分でウェア持ってるの?」

「うん。だって、毎年行っているからさ」

「だからスキーなのね」

 他にも旅行プランがあった中で、有子は何故千香がスキーを選んだのか不思議に思ってた。なるほど、毎年行っているからか。

「そうそう。成美はどうするの?」

「ん、私も別にウェアとか、スキー板とかはいらないかな」

 成美は有子と千香の顔を見ていたが、二人の視線は何故か成美の空になったサラダの皿に行っていた。

「でもまあ、一応スポーツ用品店は見に行ったほうがいいかな。ウェア以外にも買っておいたほうがいいものあるし」

「スキー場に全部あるんじゃないの?」

「あるにはあるけど……」

 少し考える様子を見て、千香はお冷を手にする。

「スキー場で買うと高くつくものってあるじゃん。手袋とか」

「ああ、確かにね」

「そういうものは、あらかじめ買っておいたほうがいいかなって」

 千香が言いかけると、ちょうどメインとなるパスタとバケットが届いた。

 昼時のランチにふさわしい、オシャレなお皿にきれいに盛り付けられた、女子が食べるのにぴったりの量のパスタが来る、と思っていたが、思っていたよりも皿が大きく、量も結構ある。

「……多いね」

「食べきれるかなぁ」

 有子と千香は、思っていた以上の量の多さに戸惑う。が、よくよく考えると成美はこれの大盛りを頼んでいるのだ。

「ねえ、成美、この量、食べられると思う?」

 と、千香が横を振り向くと、勢い良く成美はナポリタンに食いついていた。大盛りだったはずだが、既に有子たちの普通盛りと同じ位まで減っている。

「あ、えっと、私たちも食べようか」

 危うく唖然となりかけた有子は何とか我に帰り、視線が硬直している千香に呼びかけた。

 その声を聞き、千香もようやくフォークを取った。



 ようやく皿を空にした頃、タイミングよくコーヒーがテーブルに並んだ。

 有子と千香は、もう既に手が止まっており、しばらく動けそうに無い。食べることに必死になり、その途中など覚えていない。

「やっぱり、女子にこの量はきっつわね」

「でも、おいしかったよね」

 有子はなんとか出されたコーヒーを手にとり、口にする。ほろ苦い味が、口の中に広がっていく。

 千香はおなかを手で支え、かなり苦しそうだ。空になった皿を見ながら、ため息をついている。

「たしかに。しかし、私たちのでもあの量なのに、成美の大盛りだったら……」

 ゆっくりと成美のほうを向く千香。が、成美の皿も既に空だった。

 それどころか、苦しそうな有子や千香とは対照的に、ゆっくりとコーヒーを飲んでくつろいでいる。

「あれ、千香ちゃん、有子ちゃん、どうしたの?」

「あんた、あの量なんで平気で食べられるの?」

「え、このくらい、普通でしょ?」

 さも当然のように語る成美。

「えっと、とりあえず、コーヒー飲んだら出ようか」

 そういって、有子も一気にコーヒーを飲もうとするが、なかなか進まない。これほどコーヒーを飲むのに苦労したのは、恐らく初めてだろう。

「あれ、デザートは?」

「まだ喰う気かっ」

 成美の一言に、千香が軽くチョップを食らわせた。


 会計を済ませ、アーケードに戻ると、人の波はさらに落ち着いたように思われた。

 満腹でふらふらさせながら、なんとかまっすぐ歩こうとする有子と千香。その後を、成美がすたすたと付いてくる。

「さて、とりあえずはスポーツ用品店ね。スキーの必須アイテムを買わないと」

「そうだね。えっと、この近くだったかな」

 有子たちは、あたりを見回しながら商店街を奥へと進んでいく。しばらくすると、スキーやスケート用品の特売セールの旗を掲げた、スポーツ用品店を見つけた。

「そことか、どうかな」

「とりあえず入ってみようか」

 そういって、有子たちは店内に入っていった。

 冬のスポーツ用品店、さらに特売セールを掲げているだけあって、入口から既にスキー板やスキーウェアがずらりと並んでいる。

 千香はそれらも見たそうな目をしていたが、どんどんと奥に入っていった。

「とりあえず、手袋かな」

 手袋コーナーにたどり着くと、千香はそこにある手袋を、適当に見て回る。

「やっぱり、少し厚いほうがいいからね」

 そういうと、「これがいいよ」と、撥水(はっすい)製の生地で作られた、厚手の手袋を有子たちに手渡した。

「つけてみなよ」

 そういわれて、有子は試しに渡された手袋をはめてみる。

「あ、あったかい」

「でしょ? やっぱりスキーだと、これくらいじゃないと死ねるからね」

「え、手袋つけてなかったら死ぬの?」

「うん、リアルで、死ぬ可能性がある。手が動かなくなって、スティックが操作できなくなって、ね」

 それは言いすぎだが、厚めの手袋なしでスキーに行くのは自殺行為だ、と千香は説明した。

「あとは」

 千香は小物類を探しているようだが、目当てのものがなかなかないようだ。

 しばらくして、「スキーセールやってるなら」と、スキーのコーナーに向かった。

「あ、あった。これこれ」

 手にしたのは、財布のような、カードケースのような入れ物だった。

「何これ?」

「小銭要れ。ほら、ここにお金を入れて、リフト券をここに入れておけば、便利でしょ?」

「あ、なるほど」

「私も、スキーしてて、一回家の鍵落として大変なことになったからね。これだったら、ここがフックになっているから、ウェアに引っ掛ければ滑っても落ちないし」

「さすが千香、経験者は違うね」

 有子と成美は、渡された小銭入れを見る。他にも、デザインや色がいろいろあるようだ。

「あ、他に必要なものがあるならしばらく見てて。私、ウェア見てくるから」

 そういうと、千香は入口前のスキーウェア売り場に行ってしまった。

「そうは言われても……。成美、何か欲しいものある?」

「うーん、そうねえ、やっぱり食後のデザートかな」

「スポーツ用品店にデザートは無いとおもうけどなぁ」


 結局有子と成美は、千香に進められた手袋と小銭入れを購入し、店を出た。しばらくして、千香も店から出てきた。

「あ、お待たせ」

「あれ、千香は何も買わなかったの?」

 見る限り、千香は手ぶらで何も買っていないようだ。

「うん。ウェアを買おうと思ったんだけど、まだ高かったから」

 有子たちもウェアの値段を見たが、なかなか高校生の小遣いで手が出るようなものは見当たらなかった。

「で、次はどこ行こうか?」

「そうね、服とか、旅行用の洗面用具とかかな」

「じゃあ、そこのデパート行ってみようか。あそこなら、いろいろあるし、移動するのも楽だしね」

 千香が指さした先には、大型デパートの入口が見える。

「うん、じゃあそこで服とか買おうか」

 行き先が決まると、千香が率先してデパートに向かう。有子と成美も、その後をついていった。

 一階の食料品売り場は、少し早い夕食の買出しの主婦が互いに出入りし、少し込み入っている。その隙間をすり抜け、有子たち三人はデパート内に入った。

「レディースは二階だから、エスカレーターでいいんじゃない?」

 千香はエレベーターに乗ろうとするが、有子が目の前にあるエスカレーター指差して誘導した。

 親子連れも結構多く、傍から見ると小さい子がエスカレーターに乗る瞬間というのはひやひやする。そんな光景を見ながら、有子たちもエスカレーターに乗った。

「そういえば、エスカレーターって、サンダルを挟んでこけたりする事故が起こるんだってね」

「成美、今は冬よ」

 成美の突発的な謎発言に突っ込みを入れる千香。自動階段はそんな時間を容赦なく進め、ほどなく二階へと三人を運んだ。

 二階の婦人服売り場は、当然のことながら女性が多い。時たま、買い物の付き添いなのか、誰かの彼氏か夫かという男性もちらほら見受けられる。

「まずは、着替えのシャツかな。あと、防寒着」

 とはいうものの、有子と成美はまず今流行のファッションに近い、白いコートに目が行っている。白いふわふわした飾りも首周りについている。

「そういうのもいいけど、雪で濡れて台無しになるよ。だから、水を弾くウインドブレイカーみたいなやつがいいかな」

 千香はそういうと、コート売り場の近くにある防寒着売り場から、適当なサイズのものを二つ三つもってきた。

「ほら、こういうのがいいんじゃない?」

「あ、かっこいいね。でも、スキーするときはウェア着るんだから、移動するときはセーターとかでいいんじゃない?」

「それもそっか」

 有子と成美は、それぞれ自分の好きな服を選んでいく。一方で千香も、防寒着や靴下などを見て、気に入ったものをカゴに入れていった。


 各々の買うものが決まり、それぞれレジで精算する。成美は最後までいろいろと悩んでいたが、アンダーウェアと靴下の替えなどを購入した。

「えっと、後は何がいるかな」

「トラベルセットとか、細かい雑貨かな。私、旅行とかあまり行かないから」

「なら、四階の雑貨コーナー行ってみようか」

 有子たちは紙袋をかかえ、上りエスカレーターに向かう。

 三階は主に紳士服、メンズのファッションショップであり、特に興味なく次の階を目指す。

 四階に到着すると、有子たちはすぐ目の前にある雑貨店に向かった。キャラクターものが多数あり、女の子の間では人気なお店である。

「あ、これかわいい」

「有子ちゃん、こっちもかわいいよ」

 有子と成美は、旅行に必要なものの他に、手帳や筆記用具も見ている。高校生でも人気なキャラクター物で、クラスのほとんどが持っているものだ。

「ユウ、それよりも……」

「分かってるよ。えっと、これと、これがいるかな」

 有子はたくさんの商品の中から、トラベルセットの洗面具とタオル、その他必要そうなものをピックアップしていく。

 成美と千香も、それぞれ不足しているものをピックアップするが、何故か成美はお菓子まで入れている。

 成美いわく、「遭難したら大変だから」らしいが、千香は「だったら食料品売り場で買いなさいよ」と元の位置に戻された。

 精算が終わり、四階のフロアを少し歩くと、なにやら楽しそうな音楽が流れているのが聞こえた。

「あ、そういえば、ここってゲームセンターもあったよね」

「よっし、じゃあいっちょ景品取って来るか。私、UFOキャッチャー得意なんだよね」

 そういうと千香は突如ゲームコーナーの方向へ向かって早歩きし始めた。

「え、ちょ、ちょっと待ってよ!」

 あわててついていく有子と成美。

 が、ふと有子が後を振り向くと、なにやら見たことがある顔が見えた。

 あれは、警察官の鹿屋警悟(かのやけいご)ではないか。部下の山下もいる。土曜日に一体何をしているのだろうか。

 などと有子が考えていると、鹿屋もこちらに気が付いたらしくちらりとこちらを見ている。すると、胸ポケットから携帯電話を出し、操作をし始めた。

 まあいいか、と知らない振りをして千香の後を追ったが、追いついた頃に携帯電話が鳴った。

「あれ、ユウ、電話?」

「いや、多分メール」

 開けてみると、案の定鹿屋からのメールだった。


『話したいことがある。少し時間をとれないか?』


 まったく、買い物しているときに何を言い出すのだろう、と有子は思った。しかし、ちょうど千香たちはゲームを開始しようとしているところだ。少しはこの場を離れてもいいだろうと、鹿屋の誘いを受けることにした。


『では、下のトイレの近くのベンチで待ち合わせましょう』


 鹿屋にメールを送信し終わると、突然成美がやってきた。

「有子ちゃん、どうしたの?」

「え、いや、何でもないよ。ちょっと、他の友達からのメール」

 あわてて携帯を閉じ、ポケットにしまう。

「そう? じゃあ、一緒にあっちの音楽ゲームやろうよ」

 成美はこっちこっち、と手招きするが、有子は反対方向を向いて告げた。

「ごめん、その前にちょっとトイレ行ってくる。この荷物、預かっておいて」

 有子は持っていた紙袋を、その場に置いた。

「え、うん、分かった」

 成美があっけにとられているのを見て、「すぐ戻るから」と言いながら、有子は下へ向かう階段へと向かった。



「あ、加藤さん、突然すまないね」

 三階と四階の階段の途中にあるトイレの前に行くと、既に鹿屋と山下がベンチに座っていた。

 多くの客はエスカレーターを使うため、トイレ以外ではあまりこの階段は使われることが無い。多少の人目はあるものの、他のフロアなどで立ち話するよりはよっぽどマシだろう。

 もっとも、今日は有子も鹿屋も私服だったため、周りの人が有子と鹿屋の関係がどうなのかは分からないだろう。親子と思われても仕方が無いほど年も離れている。

「警察は、買い物もゆっくりさせてくれないんですか。休日ぐらい、ゆっくりさせてくださいよ」

 突然呼び止められ、有子は不満を漏らす。

「すまんね。署の買出しをしていたところ、君たちを偶然見つけたものでね。しばらく後を追っていたんだよ」

「とても偶然とは思えないのですが」

 鹿屋の行動を不審に思う有子。この前の取調べが、よっぽど気に入らなかったのだろう。

「偶然かどうかはあなたの想像にお任せしよう。それより、あなたにお話したいことがあってね。月曜日の放課後にと思ったが、ちょうどよかった」

「話したいこと?」

 一体何だろう、と有子は心当たりを探したが、わからない。

「田上君のアリバイのことだ」

 そういえば、この前の取り調べで言っていた。健二は佐藤有子を殺した犯人ではないかという警察の推理に対し、真っ向から反論したのだ。結果、健二の佐藤有子殺害時のアリバイを調査することになった。

「佐藤さんが殺された死亡推定時刻、及びその前後の田上君のアリバイを調べたのだが……」

 そういうと、鹿屋は内ポケットから手帳を取り出し、ぺらぺらとめくり始めた。

「田上君には、完全なアリバイがあったんだ。部活が終わったのが十八時、それまでは部員や顧問が全員、田上君が活動しているところを見ている。部活が終わった後も友人数人と帰っていて、別れたのが十八時半頃。そこから家まで数分で、近所の人が十八時四十五分には目撃している。そこからはずっと家にいたことが家族の証言から取れたし、どう考えても、電車に乗って移動することはできない」

 言い終えると、鹿屋はぱたりと手帳を閉じた。こころなしか、元気がないように見える。

「だから言ったじゃないですか。健二君はそんなことできる人じゃないって」

 ここぞとばかりに毒づく有子。不満そうな顔が一層濃くなる。

「これで捜査は振り出しだ。やはり物盗りという線も考えないといけなくなったな」

 手帳を胸ポケットにしまいながら、鹿屋は頭をかいて困ったような顔をする。それを見た山下が笑っているように見えたが、気のせいだろう。

「警察は、やはり学校の生徒の誰かがユッコを殺したと思ってるんですか?」

「まあ、当然だろう。生徒手帳の件があるからね。物盗りの犯行だったら、この生徒手帳が何故田上君のポケットに入っていたのが、説明がつかないのだよ」

 健二のポケットからは、佐藤有子の生徒手帳が見つかっている。誰がいつ、健二のポケットに入れたのか。それが、捜査を行き詰らせている原因だという。

「とにかく、健二君はユッコを殺した犯人じゃない、ということはわかってもらえたと思います」

「そうだな」

 鹿屋は少し納得いかない様子で有子を見ている。

「話は、それだけですか」

 階段から子供連れの親子がやってきて、こちらを見ている。有子はそろそろ戻らないとまずいと思い、話を切ろうとした。

「ああ、そうだな。また何か分かったら教えることにしよう」

 鹿屋の言葉を聞き、有子は立ち去ろうとする。

「そういえば」

 が、その直前に鹿屋は有子を呼び止めた。

「まだ何か」

「今日は、どのような用事でここへ来たのかと思って」

 行きかけた足を止め、有子は鹿屋のほうへ振り向く。

「それは事件と関係があることですか?」

「いやいや、個人的に気になっただけだ。別に無理に答えなくてもいいが」

 少し考えた後、有子は口を開いた。

「来週、スキー旅行に行くんです。そのために、必要なものを友人と一緒に買いに来たんですよ」

「スキー旅行?」

「はい。何でも千香、同じクラスの友人が、あの事件以来元気が無い人を集めて、元気付けようって。それで、企画してくれたんです」

「千香……というと、栗畑千香さんですか。一度話を聞いたことがあるが、元気そうな子だったな」

 鹿屋が千香の印象を語っているそばで、山下が突如自分の手帳を開き始めた。そして、手が止まったかと思うと、今度は鹿屋に耳打ちをし始めた。

「ん、何だ? ……ほう、なるほど」

 一体何を話しているのだろうか。有子は不思議そうな顔で鹿屋と山下を見つめる。

 しばらくすると、今度は鹿屋が山下の手帳を見ながら、山下に耳打ちをし始めた。人前でひそひそ話とは、あまり気分がよくない。

「なるほど、それは考えられるな」

 鹿屋は何かを納得したように、山下を見た。

「どうしたんですか?」

 話の内容があまりに気になったので、有子は鹿屋に聞いた。

「いやいや、何でもないよ。こちらの話だ。それより、さっきのスキー旅行の件だが……」

 と、鹿屋は一旦話を切り、咳払いをする。

「我々も、そのスキー旅行に同行したいのだが」

「え?」

 あまりの唐突な提案に、驚きを隠せない有子。

「ああ、同行、というのは語弊があるな。要するに、我々もそのスキー旅行に行こうと思っているのだ」

 一体何のために、と有子は考えたが、別に止める理由もない。

「別にいいんじゃないでしょうか。私が止める理由も無いですし」

「よかった。では日時と場所を教えてもらえないかな?」

「えっと、それなら……」

 有子は持っていたかばんから、旅行の日程が書かれた紙を取り出した。

「これ、差し上げますから」

「え、いいのですか?」

「また、コピーしてもらいますからいいですよ」

 有子は紙を鹿屋に渡すと、「友達が待ってますので」と言って一礼し、鹿屋の元を去った。



 有子がゲームコーナーに戻ると、千香と成美がビデオゲームで対戦しているところだった。

 ちょうどゲームが終わったのか、千香が「あぁ、負けたぁ」と天を仰ぐように体をそらした。

「あ、ユウ、遅かったね。体調悪くなったの?」

「え、あ、ああ、さっきちょっと食べ過ぎちゃったかな」

 とても警察に会っていたとは言えず、有子は苦笑いをしてごまかす。

「私たち、今対戦が終わったところなんだけど、ユウは何かやらなくていいの?」

「え、ああ、私、ゲームとかあんまり得意じゃないし、ちょっと疲れちゃったかな」

 買い物途中に突然警察に呼び止められたのだから、疲れているのは間違いではない。

「そっか。もう買うものは無かったよね。そろそろ帰ろうか」

 そういうと千香は席を立ち、荷物を持って反対側へ回る。

「ほら成美、そろそろ帰るよ」

 ビデオゲームの画面を見ると、ちょうど成美もゲームオーバーになったところだった。

「え、うん」

 成美も、有子の荷物を有子に渡すと、自分の荷物を持って席を立った。

「あとはおやつだよね。えっと、五千円分までだっけ?」

「それは帰ってからでいいでしょ。大体、五千円分も何に使うのよ」

 どうやら、成美はあれだけ食べておいておなかがすいているらしい。



 買い物の時間というものはあっという間に過ぎていくようで、デパートを出ると既に照明がついていた。

 有子が腕時計を見ると、時刻は十七時。

「それにしても、もう来週かぁ。楽しみだね」

「でも本当良かった。ユウたちが元気だしてくれて」

「そうだね。ありがとう、千香」

「はは、改めて言われると照れるな。でもそれは、ちゃんと旅行が終わった後でね」

 アーケードは、夕方の買い物客でかなり増えていた。人の波に流されないように、有子たちはバス停へ向かう。

 行きはそれほどでも無かったが、帰り道は少し長く感じられた。買い物の疲れもあるのだろう。

 ようやくアーケードの出口が見えると、外は既に暗くなり始めていた。夕方という時間帯だというのに、今は夜と呼ぶのがふさわしい。

 しばらく室内にいて暖かい空気に慣れていたせいか、少し強く吹いた風がとても冷たく感じる。そのまま、肌を切り裂かれてしまうのではと思うくらいだ。

 アーケードから駅に向かうバスのバス停には、既に多くの人が並んでいた。買い物帰りの客だろう。

「座れるかな」

「難しいだろうね。まあ、駅までそんなにかからないし」

 そんなことを話しながら、有子たちはバス停にの列に並ぶ。しばらくかかると思われたが、駅行きのバスはすぐにやってきた。

 しかしながら、バス内はかなり混雑している。仕方なく、有子たちはつり革に捕まり、立つことにした。

「来週か……楽しみだな」

 バスの中で、有子は誰に聞かれることも無くぼそりと呟いた。

 ちなみに、成美がバスカードをタッチし忘れたことは、言うまでも無い。

あとがきキャラクターメモ。登場人物の性格がばらけている気がしたので。


加藤有子:高校二年三組、陸上部所属。

「デートインザドリーム」~「デートインザヘヴン」のヒロインであり、「デートインザトラベルプラン」からの主人公。

もともと明るくて活発、誰にでも声を掛けるような性格だったが、あの事件から少しおとなしくなってしまう。

比較的まじめな性格で友好的であり、友達も多い。しかし、知らない人や気に入らない人の前ではどうも毒づいてしまうらしい。

物事に動じることが少なく、冷静沈着な行動を取ることができるが、突然の感情の変化により、衝動的に物事を起こすこともある。

ちなみに「できるだけかぶりそうな名前」にするために「加藤」と「有子」という名前の組み合わせにしたが、某人物から「有子じゃ昭和っぽいから優子とかにしたらどうか」といわれている。



栗畑千香:高校二年三組。描写はされていないが文化部の何か(んぁ

女子としては身長が高く、茶色の長髪が美しい、お姉さんタイプな性格。

男子女子はもちろん、学年を問わずいろんな人に話しかける活発な性格。いろんなイベントを企画することが好きで、たびたびクラスの行事ごとを仕切るリーダーシップを持ち合わせる。

とても世話好きであり、成美はそれに甘えているようにも思える。

名前は適当に考えたつもりだったが、どうも大学院のときの後輩の名前にそっくりになってしまった。


三堂成美:高校二年三組、文芸部

千香とは対照的におとなしく内向的で、あまり積極的に話しかけるタイプではない。友達は自分に話しかけてきてくれた人や、友達の友達から友達になるケースが多い。小柄で童顔なため、中学生に見られやすい。

本当は活発すぎる千香を抑えるポジションに置きたかったのに、何故か大食いだったり、こまったら「はひ……」とか「ふみゅう」とか言い出すキャラになってしまった。本当は千香がボケで成美がツッコミという構想だったのだが、逆になってしまったのは何故だろう。

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― 新着の感想 ―
[一言] お久しぶりです!やっと読めました!鹿屋さんの妙な乱入でスキー旅行が余計楽しみになりました!笑、次回も読ませてもらいます。
2012/07/22 16:38 退会済み
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