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この話は、とある国の違法カジノでの一幕だ。

私自身もあれから十数年の歳月が流れた今も、忘れることのできない勝負であった。


当時の私は、そのカジノでディーラーとして勤めていた。

違法カジノに勤めているということにはあまり突っ込まないでもらいたい。

まあ、やんちゃをしていた時期があったというだけの話なのだが。


話を戻そう。

その違法カジノでディーラーをしていた私は、いつものようにある程度客に勝たせてから、イカサマをして持ち金を巻き上げるというあくどいことをしていた。


ああ、そんな顔をしないでくれ。大負けすれば自分の命すら危なかったのだ。

客と従業員、その場限りの関係だ。自分の身のほうがかわいい。


また、話が逸れてしまったじゃないか。ちゃんと勝負の話はするから、静かに聴いていてくれ。


そのカジノにとある客が入ってきたんだ。

その客は中肉中背といった体格で、黒い髪に特筆のないアジア系の顔、青いジーンズに黒いジャンバーを羽織った男。

見た感じは良いカモが来てくれたと思ったさ。


その男は、ポケットの中から数束の金を取り出し、受付で全額チップに変えた。

そこそこの額だったよ。円で言うなら七桁くらいの額。


大体こういう客は、ちょっと金を持った素人だったり、ちょこっと成功した企業の社長でやっぱり素人の可能性が高いんだ。

やっぱりこいつはカモだぜ。そう思ったのは私だけではないはずだ。


カモは誰もが相手にしたがる。

ディーラーもそうだし、もちろん客もそうだ。


その男はカジノの中をキョロキョロと見回して、どの席に入ろうかと悩んでいる様子だった。

周りの連中はその男に声をかけるが、応じる様子はなく、いつまでも入り口付近で突っ立っていた。


私がその男の方にふと目をやると、偶然に目が合った。

軽くお辞儀をすると、男のほうもお辞儀を返してきてスタスタと私の受け持つ席の前までやってきた。


「ポーカーか?」


「左様でございます。こちらでよろしいですか?」


男の質問に答え、さりげなく着席を促す。


「いいだろう」


男はそう答え、私の正面に座った。

ほかに客は居ないので私との一騎打ちになる。ここだけの話、私は勝ちすぎるので常連の客は私の席には寄ってこないのだ。

ほかの席の客の視線が突き刺さるが、気にはせずカードを切る。


まずは様子見。どの程度のものか。


お互い参加費として一番大きいチップを一枚場に出し、カードを配る。


親の左の人間から始まるが、一人しか居ないので必然的にその男からのスタートになる。


ちなみにこのカジノではかけ金に上限はない。


「二枚、ビッド」


男も最初は様子見なのか、小さい額でかけてきた。


「では私も、五枚レイズ」


男より多く出す。

素人は相手の掛け金のほうが多いと、安心して迂闊な行動に出ることが多い。

さあ、どう来る?


「ドロー」


男は五枚場に出し、ストックから五枚引く。

こいつは馬鹿なのか?

五枚捨ててしまえば、役のできる確立が大きく下がる。

あまり混ざっていないトランプならワンペアくらいなら狙えるかもしれないが、私が切ったトランプはそんなことはありえない。


やはり、素人。カモか。


私の手札は、ハートのQ、ダイヤのJ、スペードのA、クローバーの3、8。

少々ばらけているが、悪い手じゃない。


「ドロー」


私はスペードのA、クローバーの3、8を捨て、ストックから3枚引く。


来た。


ハートのQ、ハートの4。


これでワンペア。


役はできた。後は相手を良い感じに勝たせて、最後に掠め取れば良い。


「ビッド、二十枚だ」


急にでかい数字を出してきた。

これには私も内心あせる。

それだけ良い手がきているのか?

五枚ドローで?


いや、ありえない。ハッタリだろう。

だが、わざわざ負けに行くのは何故。


「では、オープンです」


なぜだろうか。私らしくない。弱気な手。

ハッタリだとわかっているのに……。


「ノーペアだ」


「Qのワンペアです」


思い違いか。この勝負はもらった。


そう思っていた。




そんな調子でゲームが進んでいき、男のチップが半分を切った。

イカサマをする必要もないか。ここまでの勝負はすべて私の勝ちだ。

数回目の三順目にストックが無くなり、捨て札を切り、場に戻す。

すると、男は不適に笑った。何だ、この男は。


「ビッド、残り全部だ」


!とうとうやけになったのか?


「コールで」


根こそぎ持っていく!


「チェックだ」


「では、オープン」


私の手札は

「フォー・オブ・ア・カインド」


「ははっ」


私の勝ちだろう。

男は、顔を伏せうなだれた様に見える。


「お客様、手札を拝見しても?」


ゲームが進まないので男の手から手札を取った。


「っ!そんな……。馬鹿なっ!」


男の手札は、ロイヤルストレートフラッシュであった。


「俺の勝ちだ」


男はそう言い残し、取り分を持って受付へと歩いていった。


残された私は椅子にもたれた。

私の人生は、終わった。


黒い服の男に囲まれ、裏の事務所につれて行かれる。

大負けしたディーラーは生きて帰ることはできないのだ。




以上だ。

聞いてくれて感謝するよ。


今思えば、最初からすべて罠だったのかもしれない。

あの男は私を油断させるのが、目的だったのかもしれない。

だとすると、滑稽な話だ。

だまそうとした人間にだまされて、人生を終わらせられるところだったのだから。


んん?何で生きているのか、だって?


失礼なことを聞くなぁ、君は。

実はあの後、殺されそうになったところで警官隊が突入してきてね。

あのカジノに居た人間はみんな仲良く豚箱行きさ。

おかげで助かったがね。


裏の仕事からも足を洗えたし、縁も切れた。

あの時は恨んだものだが……。


まあ、時間が経てば、人も変わるというものさ。


おっと、もう時間のようだ。

家族が待っているんでね。

あの男おかげで、家族ともやり直せた。


もう博打なんてしないよ。


ちょっと落ち着いて、周りを見れば、もっと大切なものがごろごろと転がっていることに気づいたんだ。




以上がちょっと怖そうな人にインタビューをした結果です。


しかし、その賭博師のこと気になりますね。


探してみましょうかね。

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