第六幕
黒猫は籠のなかで眠っていた。仮眠、もとい昼寝とやらである。昼寝というにはいささか早過ぎるが。
クロウは黒猫の姿になるのを気に入っている。最近は本来の姿であるときよりも、黒猫になっている時間のほうが長いほどだ。
そんな安眠に、急に大きな妨害が入ることになった。
「違うもぉぉぉおおおん!」
見た目中学生の成人女性が、テンミリ探偵事務所の応接間に入ってきた。薄緑の散切り頭が妖精のように跳ね回る。黒猫は飛び起きた。
マゼンダも乱入してくる。
「ティンク! あんたでしょお! 隠したって分かってるんだから!」
マゼンダは白い皿を一枚もっていた。少し砂糖が付着しているように見える。もとは何か、載せてあったようだ。
「違うもん!」
「おいおいどうしたというんだ」
クロウが黒猫の姿のままそう言った。
「シュークリームを食べたのはティンクだったのよ……って、クロウ! あんた猫のままでも話せたの!?」
「あっ、今の無し――」
「お菓子食べたのわたしじゃないもん!」
と、収集のつかない様子である。
「ふぁあ。なんの用だ~?」
応接間のソファーで眠っていたブロントが、やっと騒ぎに気付いて起きた。早朝にマゼンダの叫び声で起こされているので、睡眠時間が不足しているらしい。
「はやく返してよ! あたしが作ったシュークリーム!」
ブロントを無視して、マゼンダはティンクを問いただす。
「ほんとにっ! 違うんだもぉぉん!」
そう言ってティンクは探偵事務所を出て行った。
「またリンのとこに行ったのか」
ブロントが寝ぼけながらも、ティンクの後姿を目で追ってそう言う。
「あの合法ロリめ……帰ってきたらタダじゃおかないんだから!」