第一三幕
ビルの外に出ると、そこに見えるのは役所や刑務所などしかない過疎状態の町である。その町を出て行くと、誰も手をつけない、自然のままの森がある。
ルファという男は、その森を歩いていた。生い茂った草木を手刀で切り倒し、歩きやすいよう道を作る。彼の後ろを、無表情に徹した朝凪が歩いていた。
火に炙られでもしたのか、焦げた木があった。ルファは気付かずにそれを切り倒す。
しばらく歩くと開けた場所があった。ビルの広間のように、森に囲まれた草原。そこには燃え尽きた城の残骸があった。瓦礫に蜘蛛の巣が張られていた。人工物では出せない香りが漂う。
「よお、ルファ」
まるで待っていたように、そこには金髪の男と、赤い髪の女が立っていた。二人とも、焦げ茶色のコートを羽織っていた。赤い髪をしたマゼンダは、自分の髪と同じ色の本を抱えている。
「ははっ……。その年になってペアルックか。昔の戦士服と魔道服のほうが、よっぽどお似合いであったろうに」
ルファが肩を震わせる。連動して白い髪も揺れる。この状況を嘲笑っているように。
「残念だけど、今は戦士じゃなくて探偵なのでね」
「まさか、ここで私の邪魔をしようというわけではないだろうな」
「訊くまでもないこと訊くなよ」
ルファが右手を刀の形にして、自分の左肩のあたりまで一気に空気を切った。超音速の刀が、衝撃波を生み出す。空気のせめぎあい。ふたりは咄嗟に跳び避ける。瓦礫が崩れた。割れたガラスを踏みつけて粉々にするように。
「3ヶ月ほど前から、毎晩同じ夢を見ていた」
変な形に曲がった右手の指を見つめながら、ルファは言う。
「毎晩、自分が死ぬ夢を見ていた」
無理矢理指を捻じ曲げ、堅く拳を作る。そしてルファはその拳で、思い切り地面を殴った。
地面が盛り上がる。マグマが弾けてしまったような、爆音。地響き。
「だが夢は不変ではなかった。二週間前、十月十四日に、夢にやっとこの女が出てきたのだ」
ルファは朝凪に視線を送る。朝凪はどこを見るという風でもなく前を見ていた。
「そして気付いた――この女こそが、魔王だったのだと」
マゼンダが本を開いて呪文を唱えた。マゼンダとブロントに飛んでくる地面の欠片を、空中で燃やして灰にする。
「私は朝凪をここへ連れていこうとした。夢のように魔王をこの城に連れてくれば、きっと何かが起こると信じていた。だが魔王は既に八〇二号室から姿を消していた」
ルファの右手は血まみれになっていた。
「光に包まれたとき、私はこの右手を手にした。あらゆるものに代用できる右手だ。空気砲に、ナイフに、ハンマーにだってできる。これを魔法と呼ばずになんと呼べる? 幻だと思われていた魔王は、本当はいた」
ルファがぴん、と真っ直ぐ右腕を伸ばした。肩のあたりから、気持ち悪いほど真っ直ぐな線ができる。剣の代用だ。
太陽がぎらぎらと光を注いでいた。