第三章 真実~佐野飛鳥~
佐野飛鳥は秘密を抱えていた。それは小野春と付き合いだしてから間もなくして突如彼女を襲った。
今佐野飛鳥は市立の病院にいる。定期健診の為に。
「先生、どうですか?」
自分のカルテを睨みつけるように見ている主治医、時津慎に佐野飛鳥は聞いた。しかし中々時津慎は答えず、カルテを見ている顔だけを険しくした。
「そうだな・・・」
その言葉には迷っていることを感じさせた。
「先生」
呼びかける佐野飛鳥の顔を時津慎は見た。
「隠さず、教えてください」
そう言った佐野飛鳥の表情は覚悟の色があった。そんな彼女に負け、時津慎は話し出した。
「酷く、酷く進行している」
今までに無い重い声だった。
「こうまでなるともう手術は無駄。正直打つ手が無い。今まで通り進行を遅らす薬を飲むしかない」
残酷な現実だった。
答えをもらった佐野飛鳥は瞑目し、
「そうですか」
と瞼を上げた。
「あとどのくらい生きられますか?」
「・・・もって」
「もって?」
「三ヶ月」
更に酷い現実を突きつけられた。
「三ヶ月・・・」
思ったより短いなぁと思わず本音がでた。
「三ヶ月ってことはえーと、今は一月だから・・・」
「四月、かな」
「四月かぁ。桜の時期ですね」
「・・・そうだね」
「桜か・・・」
その時は春君と一緒に・・・なんてことは口には出さなかった。
「飛鳥ちゃん」
時津慎は呼んだ。
「君の病気を治すことはもう出来ない。けど死力を尽くしてでも君の命を一日でもながくする。だから、いっしょに頑張ろう」
彼女を元気付けるためでもあったが彼の本心でもあった。
「有難う、先生」
そんな主治医に佐野飛鳥は微笑んだ。
佐野飛鳥の携帯がなった。
「誰だろう」
こんな時間にと思いながら電話に出る。
「もしもし」
―起きてた?
「うん、大丈夫だよ」
心が温まるのを佐野飛鳥は感じ取れた。愛しい人からの電話なのだ。
―・・・何かあった?
「え?別に何も・・・」
どきりと胸が鳴る。
―そっか。ならいいけど
「そっちこそどうしたの?電話なんて珍しい」
―いや、ちょっとな。・・・お前の声が聞きたくて
「ふふ。そっか」
―何だよ?
「いや。春君にもそんなことがあるんだなぁと思いまして」
―・・・悪いかよ
「ううん。寧ろ嬉しい」
―そうか
「うん」
―・・・あのさ、
「ん?」
―・・・いや、なんでもないや。夜遅くにごめんな
「いえいえ」
―じゃ、おやすみ
「おやすみなさい」
ちょっと名残惜しそうにお互い電話を切った。
「・・・何を言いたかったのかな」
佐野飛鳥は考えた。『あのさ、』の続きを。
「何かあったのかな」
考えたが案の定分かるわけがなかった。
「分かったら苦労しないって」
諦めて布団の中に入った。
「明日、会えるかな?」
会えたらいいななんて思いながら眠りについた。