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一話

この作品を読むに当たり……

・この作品は、「東方project」を元とした二次創作小説です。

・年齢制限をつけるほどの表現はしませんが、同性愛とも取れる表現が出てきます。


これらが苦手と言う方は、この小説を読むことはお控え下さい。気分を害される恐れがあります。


また、

・原作と設定が異なる

・作者のキャラクターの捉え方が、自分(読者様)の捉え方と違う


これらを容認される方のみ、本文をお読み下さい。


今作は、キャラ名、能力がわかる程度の東方知識(特に永遠亭関連)がある方が読まれることを前提に書いております。また、蓬莱の薬に関しては、こと独自設定が強いのですが、悪しからず。


それと、前作である『幸せの場所』を読んで下さった方へ。

今作は前作と同じく永遠亭が深く関わりますが、共通の世界ではありません。全く別の世界となっております。


前置きが長くなりましたが、それらをお見知り置きの上、本文にお進み下さい。

拙い文章、物語ではございますが、お楽しみ頂ければ幸いに存じます。

 苛々する。腹が立つ。癪に障る。あぁ、まるで身体中の血が煮えたぎるようだ。

 それでも、今の今までは何とか耐えてこれた。だが、その溜め込んだ怒りが爆ぜるのももう、時間の問題だろう。


 こんなもの、殺し合いでもなんでもない。ただの戯れ合いだ。いや、戯れ合ってすらいない。私が良いように弄ばれているだけに他ならない。


 あいつはずっと逃げている。いくら私が弾幕を放とうとも、燃え尽くさんとしても。反撃一つすることもせずにひらり、ひらりと躱した挙句、無言を貫きそして、微笑む。

 そうなったのはごく最近のことだ。初めは何かの遊びか、もしくは罠かとも考えた。だが、私が攻撃し続けても、挑発してみても、何をしようともあいつが攻撃してくることはなかった。あいつはひたすらに、ずっと、永遠に。微笑んでいる。

 ……そしてその笑みは、私の怒りをどこまでも膨らます。


 私はあいつを。輝夜を殺したい。肉を引きちぎり、骨を砕いて、この世から葬り去りたい。そう思い、それを実行し続けて、もう何年になるだろうか。

 何年と言っても、私の言う何年とは、人の生が数度回るくらいに、長い。

 だが、私は人間である。細かく言えば、構成している物は人間である、と言うべきか。私は人間であるが、不老不死なのだ。

 そんな身体故に、妖怪と間違われることも多い。過去には竹林に引き籠っていた時もあったのだが、竹林の奥では誰かに会うことも少ない。その中で極稀に出会った人間が私の変わらぬ容姿を見て、妖怪だと言い触らしていたようだった。確かに、容姿だけは変わらないのだが……。



 この世には、蓬莱の薬と呼ばれる薬がある。いわば不老不死になる薬であるが、私はそれを服用した。理由は諸々あったが、軽率だった自分の行動を悔いてしまうのが常である為に、最近ではあまり考えないようにしている。ただ、あくまでも服用したのは私の意思。それだけは疑いようがない事実。



 一般には、蓬莱の薬を飲んだ者を蓬莱人と呼ぶが、私が知る限り、蓬莱人はこの幻想郷に三人しかいない。月から来たという蓬莱山輝夜と、その従者である八意永琳。それと、私。

 薬を作ったのは永琳の所業だそうだが、その経緯であったり、地上、もとい幻想郷にきた理由は知らない。そもそも興味がない、と言った方が正しいだろうか。


 私はこの二人を憎んでいる。蓬莱の薬を作り、そしてそれを私が飲むきっかけを作った、二人。特に輝夜は父の仇に加えて性格からして好むことが出来ず、輪をかけて嫌いだ。

 ただ、薬を飲んだのは私の勝手な行いである。私が蓬莱人となったことへの憎しみや後悔を、彼女らに向けるのはお門違いであると、それは自分でもわかっている。

 それでも。死ぬことすら出来ないこの身体にとって、何かしらの存在意義は必要な訳で。私は安易に、彼女らへの憎悪の念をそれに当てている。



 今まではそれで良かった。

 不死であることを逆手に取り、憎き輝夜と殺し合うことで、己が生きていることを実感した。また輝夜も戯れ事として私の誘いに乗り、時として私を誘うこともあった。勝手な解釈ではあるが、これはこれで二人の付き合い方なのではないか、とも思えるようになった。


 …………それなのに。


 輝夜は私の攻撃を躱す一方で、私に対して一切の攻撃をしなくなった。

 それどころか、常に微笑みを浮かべていて、戦っていても気持ちが悪い。戦う内に段々と、興も冷めてしまう。最近では、消化不良のまま帰途につくことばかり続いている。





「……ねぇ、妹紅」


 久しぶりに輝夜の声を聞いた。その一言一句が神経を逆撫でて、腕やら背中やら一杯に鳥肌が立つのを感じたが、それ以上に“懐かしさ”を感じている自分自身にふと、驚く。


「……どうしたんだ、輝夜」


 驚いていたこともあってか、思いの外優しい声色となってしまった。日頃ならもっとどすをきかせるはずなのに。意識せずとも、そうなるはずなのに。

 あいつの所為だ。あいつが…………いつもと違うから。あいつの声が、あまりにも優しかったから。



 静寂。うるさいまでに鳴いていたはずの蟲も黙り込み、凪では竹もそよぐことはなく。ただただ大きい満月が、輝夜の背後から私を見下している。

 眩しすぎる月の光で、輝夜の姿は黒く染まり。その中では、動く素振りがないことはわかるも、口の動きまでは見ることが出来ず。


 …………この須臾の間は、永遠だ。あいつがそれを操るから。この静寂である須臾が続くことはすなわち、静寂は永遠であることを意味する。

 その須臾の一つ一つに刻まれている全ては、いつ聞けるやもわからぬ輝夜の言葉を、待ち焦がれているのだろう。勿論、私も含めて。





「…………仲直り、しましょう?」


 やっと、声が聞こえた。

 無限に続いていた等しい須臾は、新しい情報が加わって別の世界を刻み、無限の須臾を失った永遠は脆くも崩れ去った。

 だが、私はどうやら、その崩れた永遠に取り残されてしまったようだ。先程から何も変わらぬままに輝夜を見据えたまま、動くことを忘れてしまっている。

 …………もしかしたら、私の永遠も崩れているのかもしれない。“仲直り”という言葉を聞いたことに、どこまでも後悔している自分がいるのだから。




「馬鹿なお願いだって、わかってる」


 輝夜はおもむろに、私へと近付いてくる。一歩、また一歩。表情すらもわからぬその影に、何故か愛しさを感じて。


 ……違う。あれは輝夜だ。惑わされるな。罠に決まっている。流されたら、殺されるのは、私だ。


「妹紅が私を恨んでいることも、私が親の仇だということも、知ってる」


 またしても、時が止まる。ただし、輝夜だけは例外だった。全てが動けぬその中で、彼女の声はあまりに大きく。……どこまでも優しくて、そして、悲しみに溢れていて。


「今まで、何度も殺し合ってきた。私も、妹紅も、何度も血にまみれた」


 誰かが頭の中で、必死に警鐘を鳴らしている。輝夜の言葉は聞いてはならないと。先程のように後悔するだけだと。


「でもその分だけ、言葉も交わしてきた。皮肉がほとんどだったけど、それでも。永い永いこの時の中に、楽しい言葉も、あったはず」


 弾を撃て。引き裂け。燃やせ。何でも良い。輝夜の言葉を聞いては駄目だ。これはあいつの戯れ事。付き合うだけ無駄。痛い目に遭うのは、私。


「全てのことを水に流せなんて言わない。すぐに仲良くなれるなんて、思ってもない」


 口をもごもごと動かして、何とか反論を試みるものの。出て行くのは空気ばかりで、声なんて出る素振りすら見せない。

 ……もう、声は出なくても良い。足が動けば、逃げられる。手が動けば、耳を潰せる。しかし動くのは思考ばかりで、それだけでは冷や汗を額に浮かべることが精一杯だった。



「でも、せめて。殺し合いを止めて、普通にお話を」


「何を! ……今更!」



 手を伸ばせば触れられる位置にまで輝夜が近付いてようやく、声を出すことが出来た。故意ではない。無意識の内に、まるで叫ぶように、単語が口を突いていた。


「今更なのはわかってる。だから、私が謝るから」


「謝る? 今更何を謝るんだ!」


「お願い! 落ち着いて話を」


「煩い! 黙れ!」




 ……自分が弾を撃ったことに気付くまでに、時間がかかった。弾の数は一発。何も考えずに放ったその一発は、吸い込まれるように輝夜の胸を貫いた。

 彼女の胸からは一瞬だけ、大きすぎる満月の光が私に届いて。刹那その光は、溢れ出した体液によって遮られた。




「……輝夜?」


 おかしい。

 私の弾は彼女の胸を貫いただけだ。引きちぎれる程撃ち込んだ訳でも、焼失させた訳でもない。あれくらいの傷ならすぐに治る。どうってことはない。

 はずなのに。蓬莱人の癖に。死なないのに。再生するはずなのに。それらを裏切って、輝夜は倒れた。

 呼吸にかかる音がおかしい。噎せ込んでいる。血が止まらない。着物の紅い染みが、どこまでも広がっていく。



「輝夜! どうしたんだ!」


「……あ……ら。何を焦っているのかしら。やっと……殺せたんでしょう? ほら、もっと、笑って」


「殺せた……って。お前も蓬莱人だろうが!」


「あなたに殺されるのなら……。……本望なのかも、しれない」


 月明かりに照らされた輝夜の頬はどこまでも白くて。それこそ、おかしいくらいに、白くて。

 薄くしか開いていない瞼。僅かに見えるその眼には、私は映っていないだろう。見上げるようなその眼は、闇夜を丸く切り取ったかのような満月に向けられていた。


「月が……綺麗ね」


 その一言を最後に、輝夜は静かに目を閉じる。その表情はほんの少しだけ、微笑んでいるように見えた。


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