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宿場町


乗り合い馬車は、夕暮れ時の町の入口で、軋む音を立てて止まった。


「着きました。降りてください」


御者の声に促され、ライアンは馬車を降り立った。


外は湿った土の匂いがした。


足元の石畳はひび割れている。


豊かで華やかな領都とは違う。


(ここに今日は泊まるのか……)


町の中に一歩踏み出したとたん、言いしれぬ違和感を感じた。


(……なんだ?)


ざわざわと、胸の中を掻き回されるような感覚がする。


周囲を見回した。


特に変わった様子はない。


なのに妙な胸騒ぎがする。


(見られてる……?)


ふと、そんな考えが浮かぶ。


だが、誰に?


どこから?


視線らしきものは見当たらない。


初めて来た町だ。


知り合いなどいない。


それでも、何かが引っかかる。


(気のせいか?)


そう結論づけようとした、その時。


胸の奥に、別の感覚が混じった。


『いいカモだぜ』


そんな言葉が、なぜか浮かんだ。


「……は?」


思わず声が漏れた。


今のは、自分の考えか?


いや、違う気がする。


自分の中に、自分ではないものが混ざったような違和感を覚えた。


それを振り払おうとする。


だが、消えない。


むしろ、増えていく。


自分に向けられている好奇心のようなものを感じた。


そして渦巻く欲望。


(なんだよ、これ……)


理解ができない。


(……まさか、狙われてる?)


そう思った瞬間、不思議と腑に落ちた。


根拠はない。


だが、確信に近い感覚がある。


なぜ分かる?


どうしてそう思う?


だが、その答えは出てこない。


「そこの若いの」


声をかけられた。


振り向くと安っぽい笑みを浮かべている男がいた。


「泊まる宿は決まっているのか?」


 ライアンは無視した。


「いい宿を紹介しよう。案内もする」


(嘘だ)


反射的にそう思った。


いや、“思った”のではない。


そう、“分かった”のだ。


「……なんでだ?」


小さく呟く。


(どうして、こいつが嘘をついてるって分かる?)


相手のことを知っていたわけじゃない。


証拠があるわけでもない。


なのに。


言葉の裏にあるものが透けて見える。


さらに男の考えが分かる。


不意に背後に2人の別の気配を感じた。


(囲む気か)


これも見たのではない。


なのに“そういう意図”が頭に流れ込んで来たのだ。

 

(ここにいてはいけない)


考えるより先に、身体が動き、ライアンは走って逃げ出そうとした。


その瞬間、男に腕を掴まれた。


「待てよ」


強い力で引き戻された。


「いいから来いって」


引き寄せられる。


(まずい。逃げないと。どうする……!?)


焦りが走った。


だが同時に、頭の中にある“イメージ”が浮かぶ。


男が吹き飛ばされるようなイメージだ。


(……は? なんだこれは)


だが、自分がそれをできると、なぜかそう思った。


「飛べ」


そう呟いたその瞬間、腕を掴んでいた男が、まるで焼けた鉄に触れたようにライアンの腕を離すと、のけぞるようにして後ろに吹っ飛んだ。


ライアンは一歩、後ろに下がった。


(……今のを僕が?)


「おい、こいつ何かやっているぞ」


「身なりがいいから貴族か何かだろう」


「ならば体術か」


「魔法も使えるかもしれないぞ」


「備えろ!」


 男たちが詠唱のような何かを唱えた。


「残念だったな。坊主。俺達はただのチンピラとは違う。何をやったか知らんが、その若さからみるに所詮は初級魔法だろう。もう俺達には効かない」


「へへへ、魔法を無効化する魔法があるって聞いたことあるか」


 そして、男たちが、一斉に剣を抜く。


「いくら体術が得意でも剣には勝てない。そして魔法が使えても、より魔力の高い者がかけた魔法防御魔法の前には意味がない」


「相手方悪かったな。有り金を全部出せ」


男たちの考えが分かった。


こいつらは旅人を襲う盗賊だ。領都を出たあたりからライアンの服と物腰から良家の出身と目をつけられ、護衛も従者もいないことからこの領都から離れた宿場町で襲うつもりでいたのだ。貴族の師弟なら魔力持ちで、訓練もしているはずなので、一定の武術は使え、魔法も使えることは折込済みだが、百戦錬磨の傭兵くずれの盗賊たちからみれば、実戦を経験したことのない貴族の少年など赤子のようなものだと舐めきっていた。そして所持金を全部巻き上げたら、ライアンを奴隷商に売り渡すつもりだ。


(なんで、奴らの考えが手に取るように分かるのだ)


 だが、そんなことを言っている場合ではなかった。


(どうする。相手は3人で剣を構えていて、魔法まで使える)


 それに対して、ライアンは魔力はゼロで、スキルは何もない。それに丸腰だった。


 またイメージが湧いてきた。


 石が飛んで男の顔面に当たる場面だ。


(さっきは、イメージしたとおりになった。今度もできるのか?)


半信半疑で、割れた石畳を見て、その割れた石が男の顔面に飛んでいくことを思った。


「いけ―!」


すると、足元の石が、正面で剣を構えている男の顔に飛んでゆく。


「うああああああああ」


 男の目の上のあたりに当たり鮮血が吹き出す。


「なんだ?」


 次に、後ろで構えている2人の男たちの手から剣がスッポ抜けていくイメージが湧いてきた。


「剣よ抜けろ」


すると、2人の男たちの手から剣が抜け飛んだ。


「馬鹿、何やっている」


顔面を血だらけにした男が怒鳴る。


剣を落とした男たちは困惑した顔をしている。


その隙にライアンは駆け出した。


石畳を蹴り、路地へ飛び込んだ。


「ま、待て」


止まらずに駆けた。


(追ってきてる)


それも、なぜか“分かる”。


振り向かなくても。


自分との距離。速さ。相手の苛立ち。


全部が流れ込んでくる。


(なんなんだよ、これ……!)


ライアンは未知の恐怖と混乱にあった。


だが同時に奇妙な“有利さ”を感じていた。


相手の動きと考えが読める。


いや、“読めてしまう”。


日頃不摂生な生活をしている盗賊たちは、このまま長く走ると息が切れてしまうこともなぜか知っている。


(もう少しだ。あと10分も走り続ければ、追ってこられなくなる)


そんなことまで分かった。


背後で怒号がするがもう恐怖も焦りも感じない。


それから10分後、ライアンは追手を振り切った。


いつの間にか町の外に出ていて、日は沈みかけていた。


(これからどうしたらいいのか)


町に戻れば、奴らが待ち構えている。


しかし、町の外は夜は魔物が出てきて危険だ。


ライアンは立ち止まると考えた。




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