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深夜の婚姻届─僕が料理人を辞めた理由─プロポーズしたのに!—守り抜いたはずの僕は実は略奪されていた  作者: 一斗


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運命の悪戯〜【亜耶視点】「私がもっと重い鎖で繋いであげる」。親が貯めた学費、退路を断つ通帳。由美の執念を上書きする、美しくも残酷な「自己犠牲」の支配。壊れた未来と、消えない傷跡。

「ねぇ、優流。私がもっと重い鎖で、あなたを繋いであげるからね」


隣で眠る彼の指輪を見つめ、私は静かに決意した。

あの女が「学費」という鎖で彼を縛るなら、私は「自分の人生」を差し出して、彼を永遠の檻に閉じ込める。


手元にあるのは、親が必死に貯めてくれた次年度の学費が入った通帳。

これを手放せば、私の未来は終わる。親との縁も切れるだろう。

けれど、その「絶望」こそが、彼を一生私に縛り付ける最強の武器になる。

愛がお金で買えないなら、私の不幸であなたを買う。

暗闇の中で独り、私は甘く、冷たく、微笑んだ――。

 深夜、隣で穏やかな寝息を立てる優流の横顔を、私はまばたきもせず見つめていた。

 カーテンの隙間から差し込む月光が、彼の左手の薬指に輝く銀色の輪を照らしている。それは私たちが選んだ、永遠の誓いの証。

 それなのに——彼の心の一部は今も、あの女が握りしめている「学費」という名の錆びついた鎖に繋がれたままだ。


 再来週の水曜日、彼はあの女に会いに行く。

 一度会えば、必ず次がある。その次も、またその次も。

 会うたびに、優流はあの女に「申し訳ない」という顔をするんだろう。卑屈に笑い、自分を責めるんだろう。そしてあの女は、それを見て「まだ私たちは繋がっている」と確信して、暗闇でほくそ笑むのだ。


 想像しただけで、喉の奥が焼け付くように熱くなる。そんなの、耐えられない。死んだほうがマシ。

 この数日間、そればかりを考えてきたけれど、答えはいつだって冷酷に同じ場所へ辿り着く。

 ——やっぱり、私には一秒だって耐えられない。


 私は、引き出しの奥に隠した一冊の通帳を握りしめた。

 そこには、私の親が私のために、汗を流して必死に貯めてくれた次年度の学費が入っている。

 もし、これを手放せば、私はもう大学にはいられなくなる。それどころか、親が一番軽蔑する「男に金を貢ぐ」という形で使い果たしたと知られれば、間違いなく縁を切られるだろう。

 私の未来も、夢も、これまでの平穏も、すべてがめちゃくちゃになる。


 ……でも、それが何だっていうの?


 優流をあの女から永遠に引き剥がせるなら、私の人生なんて、いくらでも差し出す。

 むしろ、私の人生をめちゃくちゃに壊すことで、私は優流の心に「一生消えない傷跡」を刻み込める。


 彼は、私の未来を奪ったという凄まじい罪悪感を背負って生きていくことになる。一生、私に責任を感じ、私を一人にはできないという呪縛の中で、私のそばに居続けるはずだ。

 お金で彼を買うんじゃない。私の「不幸」を使って、彼を支配するの。


 あぁ。そうか。

 これこそが、私が彼を完全に「私のもの」にするための、最後の鍵なんだ。


 私は優流の頬に、熱い指先でそっと触れた。

 ねぇ、優流。もうすぐよ。

 もうすぐ、あの女の鎖を全部ちぎって、私がもっと重い鎖であなたを繋いであげるからね。

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