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深夜の婚姻届─僕が料理人を辞めた理由─プロポーズしたのに!—守り抜いたはずの僕は実は略奪されていた  作者: 一斗


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運命の悪戯~(由美視点)境界線のない優しさと、凶器への無関心。見知らぬ老人を泊めた彼の『危うさ』。母が授けた婿入りという名の救済。「来週、うちの両親に会って」

「おじいさんが凶器を持ってたら、どうするつもりだったの!?」


かつて私が彼を叱り飛ばした、信じられないエピソード。

困っている人を見捨てられず、自分を危険にさらしてまで誰かを救おうとする。

そんな彼の「底なしの優しさ」は、いつか彼自身を壊してしまう。


だから、私が守ってあげなきゃいけない。

「うちに住んでもらえばいいじゃない」というお母さんの提案は、迷える彼を永遠に閉じ込める、最高に甘くて残酷な招待状だった。

 来週、やっとゆーくんに会える。

「再来週、予定空いてるから大丈夫だよ」という彼からの返信を見つめながら、私はこの前、彼の部屋で過ごした時間のことを思い返していた。


 片付きすぎて生活感のない部屋に、私は拭い去れない違和感を覚えていた。

 埃一つないのに、どこか「作り物」のような清潔さ。

 ゆーくんは、本当はもっとだらしなくて、掃除なんて後回しにする人。

 あの部屋に漂っていた、私のものではない「別の誰かの規律」を感じて、胸のざわつきが消えなかった。


 ゆーくんはあまりに優しすぎる。

 ゆーくんが調理師学校に通っていた時、駅前の飲食店でのバイトの帰り道に道端で困っていた知らない礼服を着たおじいさんを「一晩だけ」と自宅に泊めた話を聞いた時、私は背筋が凍る思いがした。

「凶器を持ってたらどうするつもりだったの!?」と声を荒らげる私に、彼は事もなげに笑って言った。

「体格差もあるし、何かあっても負ける気はしなかったから大丈夫だよ。こんな寒い中、放っておくことなんてできなくて。財布も落として、本当におじいさん、困ってたんだ」


 彼は、自分の善意が相手を甘やかし、自分を危険にさらすことに無頓着すぎる。

 信用できないから一睡もせずに見張っていたなんて、そんな歪な優しさは、いつか自分自身を、そして私との関係さえも、音を立てて壊してしまう。

 彼は寂しがり屋で、目の前で泣いている人を、たとえそれが知らない誰かであっても見過ごせない人なのだ。だからこそ、私がいない場所で、誰かが彼を求めているのではないかと、胸のざわつきが消えない。


(やっぱりこのままじゃ、いつか彼を失ってしまう……)


 そう思った時、私の心は決まった。母に全てを話そう。

 彼との出会い。彼の過去。そして学生時代の休日、「土日は私がお姉ちゃんの面倒を見なきゃいけないから……」

そう俯く私に、彼は屈託のない笑顔で言ってくれた。

「じゃあ昼間は僕も一緒に見るよ。僕は由美に会えるし、由美は僕に会えるし、なっちゃんは楽しい。これって一石三鳥だね!」

あの時、ゆーくんが本心からそう言ってくれたことに、私はどれほど救われただろう。

私の背負った重荷を、当たり前のように一緒に持とうとしてくれる人。

こんなに心優しい人は、世界中に彼しかいない。

 私が家族を想うあまり、彼のプロポーズを保留にしていることも。

 ゆーくんは母にとっても、「こんなに心優しい人は初めてだ」と深く信頼している相手だった。

「……だからお母さん。私、やっぱり彼と結婚したいの。でも、お母さんやお姉ちゃんのことを考えると、どうしても踏み出せなくて」


 食卓で向き合った母は、私の話を黙って最後まで聞いてくれた。


「由美、なら結婚しなさい」

 母の言葉は、驚くほどきっぱりとしていた。

  「そんなに私たちのことが気になるなら、彼をこの家に呼べばいいじゃない。あの子、親と縁を切ってまでこっちに来てるって言ってたわよね? だったら、うちに住んでもらったらどう?」

「えっ……でも、お父さんが……」

「お父さんは、自分のルーティンさえ崩されなきゃ基本は無関心だし、いくらあの人でも、娘の幸せは願っているはずよ。それにあの子なら、お父さんともうまくやっていけるわ。あんなに良い子、他にいないもの」



 目の前が、真っ白な光に包まれた気がした。

 そうだ。ゆーくんが私たちの家族になってくれたら。

 寂しがり屋の彼も独りじゃなくなるし、私も家族を捨てずに済む。これこそが、私たちが幸せになれる唯一の答えなんだ。もっと早く相談していればよかった!

「ありがとう、お母さん……! 私、彼に伝えてみる」


 嬉しくて、手が震えた。早く彼に、この『救い』を伝えたい。

 もう、どこにも行かなくていいんだよと、安心させてあげたい。

 私は震える指先で、彼への退路を断つような、一筋の光(招待状)を打ち込んだ。

『ゆーくん。来週の水曜日の夜、お父さんとお母さんに会ってほしいの。話したいことがあるんだ。』

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