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夫婦で描く異世界百合漫画

 私は買い物の為に、商店街を訪れていた。

 ここは県内最大規模を誇り、いつも地元や観光客で賑わっていた。この時代において、これだけ活気のある商店街は珍しい。


 この商店街にあるスーパーはこの時間になると、半額セールが行われるのだ。みなもの好物である、燻製料理を買う為、この時間にやってきたのだ。

 

「もう、みなもったら、燻製が好きすぎるよ。全部買い占めて来いなんてさ、自分で作ればいいのに」


 以前にそれを言った事があるのだが、買った方が早いという理由で作ろうとしない。料理が好きな癖に、面倒臭がりだ。

 でもみなものそういう所も好き。それに、新作を描くのだから、好きな物を食べて英気を養ってもらわないとね。

 ……作画担当は私なんだけどね。みなもにはアシスタントをやって貰おっと。




「えっとこれでいいかな」


 ソーセージ、ハム、チーズ、卵、鶏肉、野菜……とにかく、燻製されているものを片っ端から買い漁る。

私はあんまり燻製が好きじゃない、焦げてる様にしか見えないからだ。でも好きな人は好きなのだから、否定してはいけない。でも食べ過ぎはよくない気がする。みなもが食べ過ぎちゃわないように、見張っておかないと……。


 そんな事を考えながら、レジに並ぶ。というか、今時セルフレジが無いなんて、遅れてる気がする。店員さんに『やたら燻製を買い込んでる女』と見られるのが、少し恥ずかしい。『燻製女』とあだ名がついたらどうしよう。


「えっと……燻製チーズが一点……あれ、バーコードは何処だ」

 

 ……遅い! 遅すぎる! この店員さん、レジを打つのが遅すぎるよ。これなら自分でやった方が早い。


「あっすいません、打つの遅くて、えへへ、今日からここでバイトする事になって」

「成程、でも私と喋る時間があるなら早くしたほうがいいですよ、後ろにも並んでる人がいるので」

「ひぃ、すいません!」


 見た目は背が高くて、綺麗なお姉さんなのだが、どこか冴えない印象を受ける。残念オーラと言うものが漂っていた。




「ただいま、みなも」

「お帰り彩果、寄り道しなかったか?」

「もう、子供扱いしないでよね、それよりキスしよ!」


 お帰りのキスは私達の決まり事だ。

 お早うのキス。

 いってらっしゃいのキス。

 お休みのキス。

 欠かした事は一度としてない。

 夫婦ならこれくらい当然だよね? むしろ少ないと 

 思っている。


「ん、みなも……」


 私はみなもとお帰りなさいのキスをした。

 昨日みたいなディープキスではなく、ソフトキスだけど。


「みなもの唇ってさ、プルプルしてるよね、潤いがあるって言うか、キスしてて気持ち良い。他の女の子と違う」

「他の女ってなんだよ、まさか不倫してるのか!」


 嫉妬するみなもも可愛い。だけど喧嘩になったら嫌だから釈明しないと。


 「私のママだよ、赤ちゃんの時に何度もして貰ったもんね」

「そんなのノーカンだろ。それだったら、私だってママにしてもらったぜ」

「でも私に取っての初キスだもん」

環瑠(めぐる)さんなら、キスしまくりだったんだろうな、あの子バカな人ならありそうだ」


 私のママ、色環瑠(めぐる)

 一言で言うなら『娘思い』だろうか。

 私と妹を産んで育ててくれた、立派な人だ。確かに過保護な所もあるけれど、厳しい面も持ち合せている。


 私と妹が非行に走らず一人前になるように、愛情を注いでくれた。私が今こうしていられるのも、ママのおかげだ。


「えへへ、ママ……」

「お前、本気マザコンだよな、環瑠さんの話するとすぐ惚気だす」

「なーに、妬いてるの? 私のママに対する想いはみなもとは違うものだよ」

「分かってるよ、私も環瑠さんのことは、よく知ってるからな。 彩果と私の結婚を認めてくれた恩人だから」


 ちなみに今は、実家にパパと二人暮らしをしている。今、私達が住んでるのが、実家の隣なので会おうと思えば、いつでも会える。




「ん……美味しいやっぱりみなもが淹れたルイボスティーは一味違うな」

「彩果が淹れた方が美味いよ」

「みなもー!」

「よしよし」


 私はルイボスティーを淹れて飲んでいた。仕事中にこれを飲むのは私のルーティンだからね。心が落ち着くし、集中力も上がる気がするんだ。


 ルイボスティーは私の好物の一つだ。ママが淹れてくれたのを飲んで好きになってから、ほぼ毎日飲み続けている。


「ママが淹れてくれたルイボスティーが世界一だけどね!」

「違いねぇ。私も環瑠さんみたいになりたいよ」


 ママは手先が器用で、料理や裁縫が得意で、私とは正反対だ。多分私はパパ似なのだろう。料理が全く出来ないし、不器用だし……

 唯一見た目だけは、ママに似たと思う。

 灰色の髪。

 低い上背だけどスレンダーな体。

 そしてぺったんこなおっぱい……

 血の強さというものをひしひしと感じる。


「みなもはママに弟子入りすれば良いんじゃないかな? 料理とか色々教えてくれると思うよ」

「環瑠さんの迷惑にならないか?」

「大丈夫だよ、ママもずっとお仕事してる訳じゃないからね、みなもが頼めば快く受け入れてくれるよ」


 普段のママは自宅でウェブライターの仕事をしている。その為かパソコンを使いこなしている。多分私より上手いと思う。

 

 そういえば、一度だけママのパソコンを勝手に覗いた事があるのだけれど、何やら小説の様なものを描いているみたいだった。少し見ただけなので、どんな内容なのかは分からなかったけど、ママが描いた小説を是非とも読んでみたいものだ。もし書籍化されるのなら、私がイラストを担当させて貰おう。絶対ヒットするだろうから。


 ……ただその事を聞くと、私が勝手にパソコンを覗き見た事がバレるので聞けずにいる。本当にどんな内容だったのだろう。




「ではでは、『オーバーキル』の執筆を始めますか」「よろしくな、彩果」

「えへへ、親しき仲にも礼儀ありってやつだね、こちらこそよろしくお願いします。りぷとん先生」


 私は仕事モードになると、知人だろうと、ペンネームに先生を付けて呼ぶ。それが礼儀だからだ。


『ぶらっとむーん』こと新月。

『ている』こと紡岐(つむぎ)

 二人とも、私の良く知っている人だ。


 そして『りぷとん』ことみなも。私にとっては、憧れの漫画家だ。その尊敬の念は消えてなんていない。


「じゃあ、ぷらむ先生。よろしくお願いします」

「みなもー!」

「もう呼び方戻ってるじゃねぇか」


 みなもにその呼ばれ方をすると、くすぐったくて仕方ない。


「まずジャンルについてだが、異世界ものにしようと思う、そうすれば、主人公を活躍させやすくなる」

「成程、それなら読者の人にも分かりやすいね」


 異世界百合というと、ている先生を想像する。

 でも彼女が描くのはライトノベルだ。コミカライズされてはいるけれど、原作が漫画というのは、私もそんなにはしらない。


 「『百合園』で異世界ものか、確かに珍しいかも」

 「だろ、他の作品と被る事もない」


『どつおつ』の場合、ヤンキー百合作品が既に連載されていたので、ずっと比較され続けて、みなもの重圧になっていたようだ。だけど異世界百合はまだ連載されていない。描くなら今だ。




「次は登場人物についてだ。 主人公は『トウコ』赤髪で活発な性格。ヒロインが『カヤ』は金髪でおしとやかな性格だ」

「さっそく描いていい? みなもが考えたキャラ

クターを描きたい!」


 私は見た目の特徴を聞きながら、トウコとカヤを描きあげた。


「やっぱすげぇな、彩果の絵は。私が描くよりもずっと上手い。それに目を惹きつけられる魔力がある」

「ありがとう、そういって貰える事が私の励みになるよ」

「何より自分の頭の中で考えたキャラクターをプロの絵師に、しかも彩果に絵として描いて貰える事が、たまらなく嬉しんだよな」


 その言葉は、ている先生も言っていた気がする。

 良く考えれば、他人に描かせるってどうなんだろ。  


 自分の想像していた見た目と違う事ってあるよね絶対。そういう事を防ぐ為に、作家さんと打ち合わせは入念にするけれど。


 皆、私の絵に妥協しているのかと、思い込んでいた。だから、みなもみたいに喜んでくれると嬉しい。


「皆そうなのかな……私は、クリエイターが考えたキャラクターを描かせて貰える事が、幸せの一つだよ。絵師は絵を描いてこそだからね」

「彩果が楽しそうで良かった。もう描けなくて落ち込んでる姿なんて見たくないからな」

「みなもー!」

「よしよし」




「次は世界観だ。トウコとカヤは、現実世界で恋人関係にある。だけど二人の関係を周りは決して認めてくれなかった。石を投げる輩もいた。世界に失望した二人は、『こんな世界クソ喰らえだ。別の世界に行きたい』と思うようになる」


 凄い設定だ。同性の恋人というだけで、差別され、虐げられ、世界に失望したトウコとカヤ。私が同じ立場だったら同じ事を思う。


「そんな二人の前に女神が現れる」

「おおっ! 転生女神だね! 異世界ものの定番!」「生きたまま送るから転送だけどな、この女神が二人を異世界に転送してやろうと言い出すわけだ」

「その女神も描いていい?」

「え、まぁいいけど……」


 話を遮ってまでも描きたかった、みなもの生み出したキャラクターを。


「ちなみにこの女神が黒幕だぞ。二人を異世界に連れてきたのは、自分では勝てない魔王を、二人に倒して貰って異世界を征服する事だからな」

「黒幕女神ってことだね! 面白そう、ていうか既に面白いよ」

「魔族は人間に友好的なんだが、女神が対立を煽る為に、魔族は悪者だというデマを吹聴する。それを信じた人々は、魔族を恐れるようになる。こうして世論っていうのは、作られていくんだよ」


 さすがみなもだ、こんな事を思いつくなんて、私には絶対無理だ。つくづく自分に物語を作る才能がない事を嘆く。




「次はチートスキルについてだな。トウコに無双させるより、制約を持たせた方が良いと思うんだ。その方が活躍した時、褒めちぎる言葉に重みが出ると思うからだ」

「確かに、毎回褒めてばかりだと、ありがたみが薄れるし、嘘っぽく感じるよね」


 みなもがここまで考えていたなんて、私はただ驚驚くしかない。


「チートスキルについてなんだが、武器にしようと思う。」

「剣とか銃とか?」

「日本刀だよ、『竜刀蛇尾(りゅうとうだび)』四字熟語の竜頭蛇尾からとっている」

「舞台は中世ヨーロッパだよね、日本刀を出して違和感ないかな?」

「なんちゃって中世だから問題ない。大きく逸脱してはないよ」


 確かに、ライフル銃とかミサイルとかも登場してる作品もあるし、今更日本刀くらい大丈夫かな。


「この刀の特性は、抜刀してから最初の一太刀が最高火力を叩き出すという点にある、だけど二太刀目は威力が半減する。三太刀目は更にその半分と……振れば振る程弱くなっていく、最後は鈍ら同然になる」


 みなもがこれを思いついたと言う事に、畏怖の念を感じている。本当にみなもは、私なんかとは違う世界に生きてるんだ。何を食べたら思いつくんだろう。


 ……燻製かな?


「正に竜頭蛇尾の言葉の通りの能力というわけだ」

「凄いなぁ……」

「ずっと口を開けて聞きいってたな、餌を待つ鳥みたいに」

「こういう設定てさ、いつ思いついたの?」

「竜刀蛇尾は中学生の時だ、日本刀を題材にした作品があってな、私も自分でオリジナルの刀を考えてたんだ。言葉遊びを交えてな」

「そんな設定を今まで温めておいたんだ」

「『つきめば』や『どつおつ』じゃ使い道が無かったからな。没にするにはもったいないし、ここで使う事にした」


 だとしても、私には思い付けない。私が思いついた事にしたいくらいだ。


「この制約のせいでトウコは一日一回しか、この刀の力を使えないんだ、ただその威力は凄まじい。一振りしただけで、山をおろして、海を割って、魔王すら一撃で倒すことができるんだ」


「確かに、そんなに強い力が使い放題だったら、萎えるよね。苦戦とかしなさそうだし」

「この制約の中でどう戦うのかも見どころの一つだ。画力が求められるから、彩果の腕に頼る事になる」


 責任重大だ、バトルシーンは大事な見せ場になるだろう。私の実力を最大限発揮しなければならない。


「この作品が竜頭蛇尾にならないといいけどな!」

「みなも……」

「悪い、言って見たかったんだ、いくら寒いからってそんな顔するなよ」

「私、みなもの凄さに恐怖さえ覚えているよ、全然才能が枯れてないじゃんって」

「おっ褒めてくれるのか? 私をオーバーキルするつもりか?」


 私ごときが、何を心配していたんだろう。天才漫画家である、みなもに対して、身の程知らず過ぎて恥ずかしなる。

 

 でもずっと落ち込んでいるみなもを見ていると、心配せずには居られなかった。

 だから今のみなもを見てると、ぐっと来るものがある。こんなに楽しそうにアイデアを出す彼女の姿に、私は感極まってしまった。


「おっおい彩果、何泣いてんだよ」

「良かった……ずっと心配してたから、みなもが新作を描けなくて、辛そうにしてる所を近くで見てて私も辛かった……」

「本当に迷惑掛けたな、彩果は私の良き理解者だよ」

「今のみなもは、凄く生き生きしてる、楽しそう。」

「もう大丈夫だぞ、あんな情けない所は、二度と見せないから」


 みなもは私を抱きしめる。そして優しくキスをしてくれた。


「彩果と一緒に描けるんだ、楽しくて仕方がないよ」

「えへへ、私も。みなもと一緒に漫画が描けるんだもん。嬉しいよ」

「絶対ヒットさせような」

「うん、それにはみなもが面白い話を考えないとだけどね、本当に竜頭蛇尾みたいにならないように」

「分かってる、頭フル回転させて、捻り出すよ」


 今の所、導入としては問題ない、だがその後だ。右肩下がりに失速してしまっては、すぐ打ち切り候補に上がってしまうだろう。特に連載漫画は、展開に緩急をいれないとすぐに飽きられてしまう。




「この漫画の見せ場は、トウコが活躍して、カヤがそれを褒めちぎるという所だ」

「どんな褒め方をさせるかだね。バリエーションが少なかったり、インパクトがないと、飽きられちゃうからね」

「任せろ」


 まさか私が空酔いしてる時に、みなもに言った下品な言葉の数々ではないだろうか。そんな筈ないか。


「『トウコ、マジかっこいい! 惚れ惚れするわ、もうお股びしょ濡れだわ……』どうだ?」

「却下」

「なんでだよ、お前が言ってたんじゃねえか」

「下品すぎるよ! 女の子はこんな事言いません!」「お前は言ってたじゃねえか、そのお陰でこの漫画を思いついたんだぞ」


 いくら百合園にエッチな作品もあるからと言って、

これは下品すぎる。クレームが来そう。


「じゃあ彩果なら、どんな事言わせるんだ?」

「えーと、『さすが私のトウコ、教会の娘である私を、こんな淫乱な女にさせるなんて、なんて罪深いの』」

「大して変わんねーじゃんか」

「ごめん、やっぱりエッチな事言わせる方が面白いね」


 ちょっとくらいなら大丈夫だろう。何度も使うと飽きられるけど。


「ずっとトウコが活躍するのもワンパターン過ぎるだろうから、カヤが活躍する展開もあるぞ、カヤが持つのは竜刀蛇尾より強い武器だ。そしてトウコがカヤを褒めるという展開だ」

「それはいいね、トウコ視点も描けるし、展開の幅も広がるよ」


 ちなみに、その武器は燎原之火という言葉から取った

燎弦之火(りょうげんのひ)』という炎属性の弓矢で、炎を纏った矢を飛ばし、辺り一帯を焼き尽くすというもの。しかも制約なし。強すぎて竜刀蛇尾要らなくない?




「うん、描けた! 一話の原稿が完成したよ」

「さすが彩果だな、良く描けてるよ」

 

 私は数時間掛けて、描きあげる事が出来た。みなもにも背景とか手伝ってもらい、予想より早く完成させる事が出来た。


「冒頭の二人が周りの目を気にせず、愛しあうシーン、見てるだけで悶えそうだぜ、やっぱり彩果が描くと違うな」

「百合漫画だからね。バトルも大事だけど、やっぱりこの二人がイチャイチャしているのが、一番の見せ場だと思うよ」


 何故この二人が付き合うことになったかなどは、後々描写する事にしたらしい。

 今はとにかく、この二人がどれだけお互いを想い

合っている事を読者に伝える事が大事だ。

 ……二人の会話が少々下品だけど。普段からこんな事を言い合う仲だと言う事も、伝わると思う。


「後は、持ち込むだけだね」

「しかし、彩果が描くと、どんな内容でも尊くなるよな、下品さも和らぐっていうか」

「女の子を描く時は、尊く描くのがモットーですから!」

「それを思ってできるのは、彩果だけだよ。さすが百合絵の神様だ。」

「そんなに褒めても何もでないよ?」

「謙遜すんなよ、お前は凄い。私も嫁として、鼻高いよ」


 この展開はあれか、私を褒め倒して、みなもがオーバーキルされて、下品な事を言う流れか。


「えへへ、照れちゃいます、何たって私は、天才絵師ぷらむですから」


 みなもが楽しそうなので、私も乗ることにした。


「うぉー! 凄いぜ、そんな凄い彩果と夫婦だなんて、もう私……」

「だっだめー! そんな下品なセリフ、みなもの口から聞きたくありません!」

「まだ何も言ってないだろ、何を想像したんだよ」


 みなもの事だ。絶対エッチな事言うに決まっている。


「もういいや、連載が決まったら、言わせるつもりだからさ。それより腹減ったよ、晩飯にしよう」

「じゃあ私が買ってきた燻製を食べよ。みなもの好物だよね」

「まぁな、今日の晩飯作るのサボった甲斐があったぜ」

「今日は燻製づくしだよ。私はあんまり好きじゃないけどさ」

「この味が分かんねぇとは、彩果はまだまだおこちゃまだな!」

 

 そうなのだろうか、私が食わず嫌いしているだけ?

 私は勇気を出して、スモークチーズを食べてみた。


「美味しい……チーズがこんなにもクリーミーになるなんて。香りも独特」


 ……私って食レポ下手だな。味の感想をそのまま言うだけじゃん。


「だろ? 漸くこの良さが分かって来たようだな、他のも食べてみろよ」


 スモークチキンも食べてみる。


「美味しい……」


 私には、語彙力がない。美味しいしか言わない食レポなんて、駄目にも程がある。

 でもその言葉が一番大事なのだろうけど。


「こんな美味いものを今まで避けてたなんて、人生損してるぜって言い合っかったんだ」

「それ、普段私が言ってる事じゃん……百合の尊さを知らないのは云々って」 

「だから私は燻製の伝道師だな」

「どうぞ布教活動に勤しんでください」


 とはいえ苦手を一つ克服できた。苦手だと思っていたものは、私の好きなものだったようだ。


「ねぇ、みなも。もし連載が決まったとしてだよ、打ち切りになっちゃたら、どうしよう」


「んー?」

 

 みなもはハムを食べながら私の話を聞いていた。ゆっくり噛んでから飲み込んだ後、私の問いに答えた。 


 あとどうでもいいけどみなもは食べ方がお上品だ。がっついたりはしない。しそうなのに。

 本当にお嬢様なんだなと実感させられる。


「どうもこうもねぇよ、その時はその時だ、また新しいのを書けばいい。」

「落ち込まない? 悔しくない? 私、ショックで立ち直れないかもしれない……」

「私との漫画が失敗したからか?」

「うん、せっかく二人で生み出したのに……」


 まだ連載すら決まっていないのに、勝手に落ち込む私。自分でも面倒臭いなと思う。


「それで命取られる訳でもないんだ、次へ繋げるための経験と思えばいい」

「失敗を糧にって事?」

「そうだ、実は次の作品を考えてあるんだよ」

「えっ本当?」

「まだ設定とか固まってないし、描く段階にはないけど、万策尽きる訳じゃない。だからこれが打ち切りになっても、大丈夫だ」

 

 さすがみなもだ、もう次の作品を考えているなんて。


「お前のお陰で自信を取り戻せたからな、所謂インス()レーションがわいてくるんだ。」

「インス()レーションだよ……でもそれなら良かった」

「お前とコンビを続けたいからな」

「みなもー!」

「これからもよろしくな」


 みなもはやっぱり凄かった!




「えへへー、みなもー」

「可愛いすぎだろ、私の嫁!」


 じゃれ合う私達、このまま情事に移行したい所だけど。今日は疲れたからこのまま寝る事にしよう。 

 好きな人と寝られるのも、恋人持ちの特権だよね。

 お休みのキスを済ませて、私達は布団に入り込んだ。


「私を抱きまくらにしないと寝られないんだね。どっちがおこちゃまなのかな?」

「うるせぇ、お前は抱き心地がいいんだよ」

「えへへー、みなもを駄目にする枕だね。私は」

「あぁ、最高だよ。お前の体温が直に伝わってくるからな。気持ちが落ち着くんだ」


 みなもが、私の抱き枕としての品評をし始めた。

 

「不眠症も治ったり、便秘も解消したり、肌艶もよくなって、良い事づくめだぜ」

「なんだそりゃ、抱き枕としての私、万能過ぎるでしょ」

「そういう訳だから、今日もお前を抱くぜ」

「まぁいいか、私もこうしてると良く眠れるからお互い様だね」


 そう言って私は瞼を閉じた。今日は疲れから、早く寝たかったのもあるし、みなもに抱かれると心が安らいで、眠くなる。


「みなも、起きてる? みなも?」

「すーっすーっ」

「寝るの早……寝つきが良いな、みなもは」

「ムニャムニャ、彩果……」


 私の夢を見てるようだ。


「私を慰める為に、変形してくれたんだな……その大砲とか、強いぞかっこいいぞ……ムニャムニャ」


 夢の中の私はどんな事になってるんだ。もはや人間じゃなくなってないか。私にそんなものは備わってはいない。


「でも、みなもが元気になってくれて、本当に良かったよ。みなも……」

 

 私は再び瞼を閉じて、眠りにつくのだった。

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