ましろ色狂想曲
真白ちゃんは私が汲んだ麦茶を飲み干して一息ついた。
私と違う純白のショートの髪。スレンダーな体つき。そして思わず見惚れてしまう程の美形な顔立ち。私の二つ下の妹の色真白ちゃんはいつ見ても美人だな。私の自慢の妹だ。
……おっぱいは私と同じでぺったんこだ。それと身長も私と同じくらい。やはり私達はママの子供なのだと実感する。
「本当に久しぶりだねお姉ちゃん。会いたかったよ」
「こっちこそ同意見だよ。久しぶりに可愛い妹の顔が見れたからね」
「可愛い! 可愛いって言ってくれた! やっぱりお姉ちゃんは僕の事好きなんだ!」
「好きだけど恋愛的な意味じゃないよ……」
真白ちゃんは少しガッカリした顔だった。やっぱり新月が昔言っていたように私の事を恋愛の対象として見ていたのかな……
「お久しぶりです姉御。お変わりがないようで」
「あぁ……久しぶりだな、真白も変わってないみたいで安心するよ」
真白ちゃんはみなもの事を慕っているらしく、姉御と呼んでいる。人懐っこい彼女だけど、みなもには特に懐いている。話も合うみたいだ。
真白ちゃんは寮生活をしているので、実家には殆ど帰って来ない。だから直接会うのは約二年ぶりだ。正月くらい帰って来ても良いのにな。ママもパパも真白ちゃんに会いたがってるのに。
後みなもと私はエッチの邪魔をされたので、若干不機嫌だ。でも悟られる訳にはいかない。平然を装わないと。
「ていうか真白ちゃん! こがらし先生と交際してるって本当なの?」
「何で知ってるの? ああそうか、穂積さんから直接聞いたのか。確か『鏡合わせの双子』の作画を担当してたね。お姉ちゃんの絵は本当に可愛いよね」
まさか本当にあのギャルもどきのこがらし先生と恋人だなんて……彼女が悪い人で無かったのは分かっているけれど、何だか真白ちゃんが遠くへ行ってしまった気分だ。いつも私に懐いて付いて来ていたからな……
「穂積さんはねー美人で優しくてちょっと抜けてる所もまた良くて、夜の相性も抜群で……僕の一番の理解者なんだ!」
「私だって真白ちゃんの事を理解してるつもりだよ」
「ふーん、それなのに僕の事を選んではくれなかったんだね。僕はお姉ちゃんの事が好きだったのにさ」
「それは……真白ちゃんは実の妹だから、姉妹は結婚出来ないんだよ」
やっぱり真白ちゃんは私の事が好きだったんだ。実の妹にそういう目で見られていた事に動揺を隠せずにいた。
「何で? 女の子同士で……同性で結婚出来て子供も作れるのに血が繋がっていたら駄目なの? この世界は理不尽過ぎるよ」
理由を説明したら長くなる。それに真白ちゃんは私よりも頭良いからその理由は分かっている筈だ。
「地球じゃなくて、近親婚が認められている星に産まれていればお姉ちゃんと結婚出来ていたのにね……」
「私達はママとパパの子供だから、あの二人の間じゃなければそもそも産まれてないよ」
その話をした瞬間、真白ちゃんが冷めた顔つきになった。何だろう……その話はして欲しくないみたいな感じだ。
「だけどもういいや、僕には穂積さんが居るからね。長期休暇の時とか、穂積さんのマンションに泊まって、ラブラブな事してるんだ!」
「それも良いけど、たまには実家に帰ってママとパパに元気な所を見せてあげてね」
また不機嫌そうな顔になった。何なんだろう……私達姉妹は両親にとびきり可愛がられて育った。沢山の愛情を注いで貰った。なのに彼女は両親を嫌いになってしまったのだろうか……
まさか反抗期? ならもう少し様子を見る必要があるな。彼女が両親を嫌う事があるのなら、さすがの私も鬼にならざるをえない。例え真白ちゃんであろうと……いや、真白ちゃんだからこそだ。
「そうだ真白ちゃん、出来るならこの言葉をこがらし先生に伝えておいて欲しいんだ……全部私の勘違いでしたって、妻と仲直り出来ましたって、けじめはつけましたよって……」
「んー? 何の話? まぁ良いや。そのまま伝えておくよ」
あの時は私の勘違いで多くの人達に迷惑をかけてしまった。こがらし先生にも迷惑かけちゃったな。
……私を燻製女呼ばわりした事は逆に謝罪して欲しいけど。
「なぁ真白ってさ、凄い高校に通ってんだよな」
「浦和にあるお嬢様学校、橄欖高校だっけ? 凄いよね真白ちゃん、私なんかと違って頭良いんだから」
「……別に、大した事じゃないよ」
真白ちゃんは勉強が得意だ。幼い頃から成績がトップクラスで、いつも満点を取っていた。そして偏差値七十六を誇る名門校に実力で入る事が出来たのだから、ママも誇らしげな様子だった。
「私とは違って真白ちゃんは凄いなー将来は宇宙船建設の仕事をするくらいのエリートになるんじゃない?」
「自分を卑下してるお姉ちゃんは好きじゃないな。それに僕はそんなものには興味ないよ。僕はプロの絵師として食べていくつもりだからね」
そうなのだ。真白ちゃんは私と同じプロの絵師だ。と言っても、私と違って描くのはボーイズラブだけど。
「真白ちゃんも売れっ子になったよねー街を歩けば真白ちゃんが描いた絵を良く見かけるもん」
「お姉ちゃんに比べればまだまだだよ。お姉ちゃんの絵は渋谷の街中で広告とかで見かけるからね。あんな場所に掲載されるなんてさすが百合絵の神様だよ」
それは所謂企業案件というやつだ。私は受けた仕事は断らない主義なのだ。勿論報酬はしっかり頂きますけどね。
企業の新商品の広告イラストを私に依頼されるなんて、最初聞いた時は驚いたけれど……そんな人通りの多い所に私の絵が映ればより多くの人達に百合の尊さを伝える事が出来るからだ。引き受けない理由がない。つまりお金の為だけでは断じてないのだ。
「なぁなぁ真白。女子校ってどんな感じなんだ? 詳しく聞かせてくれよ」
みなもが凄い食い気味で真白ちゃんに聞いてくる。 そういえば失念していたよ、女子校いえば百合の花が咲き乱れる百合の園じゃないか! 『女子校百合』なんて定番中の定番なのに、私は何をやっているんだ!
「真白ちゃん! 私にも詳しく聞かせて欲しい! 女子校ってどんな感じ? やっぱり百合カップルが沢山いるの?」
「勿論だよ、恋人が居ない子の方が珍しいくらいだよ。学校中カップルだらけだよ。別に珍しくもない光景だよ」
「やっぱりそうなんだ、創作の中だけじゃなかったんだな!」
……あぁ、この目で見てみたいよ。女子校の百合カップル達を……そして描いてみたいな……『女子校百合』を。
「ていうか真白、何で帰って来たんだ。寮生活してたんじゃなかったのか?」
「二人に会いたかったんですよ、ちゃんとお土産も持ってきましたから」
真白ちゃんが持っていたビニール袋の中には大量の燻製料理が入っていた。
「姉御、燻製好きでしょ? 姉御の為にスーパーで買い込んでおいたよ」
「おお! これなら暫くは燻製日和が送れそうだな」
燻製女とかいう仇名を付けられてないか心配だ。 というか何だろう、この嫉妬心は……私のみなもが真白ちゃんに取られるんじゃないかと思ってしまう。みなもは燻製一つで落ちる様な女の子じゃないと思うけど。
「他にもあるよ」
「あ! 『でかかわ』のクマしゃんのぬいぐるみじゃん!」
「でもでも! 私がみなもの為に取ってあげたぬいぐるみの方が大きいもん!」
「このぬいぐるみの方が大きいと思うけどね。えーと……この部屋だと……このくらいの大きさで良いかな」
そのぬいぐるみは手のひらに乗るくらい小さいものだった。だけど部屋の隅に置いた瞬間、突如として見上げる程に大きくなった。
「うわ! このぬいぐるみって……あのゲームセンターの特大クレーンゲームの景品じゃん!」
「デカ過ぎんだろ……」
「僕が二人へのお土産にと思って取って来たんだ。凄く簡単なゲームだったよ」
あんなに難しそうなクレーンゲームを成功させるなんて……やはり真白ちゃんはゲームの達人だ。今度ゲームセンターで彼女と対決してみたい。私の血が騒ぐ。
「真白ちゃん、これって魔法の力?」
「その通り。僕が得意とする物の大きさを自在に変える事が出来る魔法。あのままだと大き過ぎて持ち運べないからね。小さくしてたんだ」
真白ちゃんは昔からこの魔法が使えるんだ。お陰で大きい物や重い物を持ち運ぶ時には何度も助けられたよ。
「便利な魔法でしょ? ただしその物の元の大きさ以上には出来ないし、何より人体には効かないからね。もし使えたらこのぺったんこおっぱいを大きく出来たのにな」
やっぱり真白ちゃんもひんぬーなのは気にしてたんだ……
「でも穂積さんはこの胸の方が良いって言ってくれたからね。好きな人がそう言ってくれたから別に気にはしてないよ」
こがらし先生はひんぬー派なのか。この世の中どいつもこいつもデカ乳好きばかりだけど、彼女とは気が合いそうだ。
「ありがとな真白。私はクマしゃんが大好きなんだ。まさかこれが手に入るなんて思わなかったよ」
「良かった! 姉御に喜んで貰えて。本当はもっと大きいんだけどこれ以上大きくすると部屋の壁が壊れちゃうからね」
「クマしゃんはデカければデカい程可愛いからな。私は可愛いものが好きなんだ」
「姉御も女の子みたいなとこあるんですね」
「当たり前だろ。彩果と同棲するまではぬいぐるみを抱き枕にしてたんだからな。今は彩果が抱き枕だけど」
「へぇ、ラブラブですね。良い事聞いちゃいました」
どうしよう……みなもが真白ちゃんに夢中だ。非売品かつ私には持ち帰れないクマしゃんグッズをプレゼントされて真白ちゃんに惚れちゃったのかも……
みなもは真白ちゃんと結ばれて、私は捨てられるんだ……そんなの嫌だ……
「彩果、何暗い顔してんだよ」
「だってみなもは真白ちゃんの事が好きになったんでしょ。私への愛は冷めたんでしょ」
「んな訳あるか、クマしゃんのぬいぐるみは嬉しかったけどそれで惚れる事はないよ。私は彩果一筋だからな」
「みなもー!」
「よしよし」
どうやらまた私の勘違いだったみたい。私は自分の思っている以上に嫉妬深いらしい。でも裏を返せばそれだけみなもへの愛が深いって事だよね!
「いやー本当にラブラブだね。目の保養になるよ。穂積さんと僕も見習わないと」
「真白ちゃんにはみなもは渡さないから!」
「別に、姉御は僕の好みの女性では全くないので、こっちからお断りだよ」
「なんとでも言え、私は彩果にだけ愛されていれば良いんだよ」
「みなもー!」
「よしよし」
真白ちゃんのお陰で、またみなもの私への愛を知る事が出来た。感謝しなきゃね。
「本当にラブラブなんだね、帰って来て良かったよ。じっくり観察させて貰うよ」
「観察って何だよ。ていうか本当に何しに帰って来たんだ」
「真白ちゃんって人間観察が好きだよね。いつも人の様子を見ていたもん」
彼女は幼い頃から他人を観察するのが好きだった。人のクセを見抜くのが得意で、それを真似するのが好きな子だった。
……私もよく百合カップルを観察しているので似た者同士かも知れない。
「僕が一番観察していたのはお姉ちゃんなんだよね」
「え? 私?」
「僕の人間観察は殆どお姉ちゃん観察みたいなものだからね。正直他の人には興味なかったよ」
確かにいつも私にべったり付いてきていた。甘えん坊な妹だなとしか思っていなかったけど、私の事ずっと観察してたんだ。……ちょっと怖い。
「僕はお姉ちゃんの言動は一言一句記憶しているだよ!」
「例えば?」
「『みなもー!』これは姉御に抱きつく時のお姉ちゃん」
「凄いな。声まで彩果そっくりじゃねえか。ジェスチャーまでしてるし」
真白ちゃんは声真似が得意でよく私の声である事ない事話していた。私はそんな事言わないのにと思う事まで。どれだけ風評被害を被った事か。実の妹でなければ訴訟を起こしていたかも。
「『みなもはねー』これは聞いてもないのに姉御の事を語る時のお姉ちゃん」
「似てる似てる! てか聞いてもないって何だよ。私にも良い所はあるんだぞ」
「もう聴き飽きましたよ……お姉ちゃんが何回も聞かせるんだもん……」
正直まだまだ語りたい。好きな人の事だったら、永遠と話していられるもんね。皆そうだと思う。
「『えへへ、みなもー』これは姉御に甘える時のお姉ちゃん」
「本当に良く見てるんだな」
「見飽きるくらいにはね。ずっと見せつけられてましたから」
「なぁなぁ、出来ればもっと昔の彩果の真似をしてくれないか? 私の知らない彩果を見たいんだ。出来れば恥ずかしいのを頼む」
みなも……私にみなもの恥ずかしい過去を知られた事を根に持ってるんだ。確かに真白ちゃんなら知ってるかも。
「『闇の炎に抱かれて消えろ!』これはお姉ちゃんが厨二病に罹患してた時のだよ」
「そんなの掘り返さなくていいから!」
「へぇ……彩果にもそんな時期があったんだ」
あの頃は漫画の必殺技を言うのがマイブームだった。他にも『回転炎龍炎烈火』とか一人で部屋で叫んでたな。まさか真白ちゃんに全部聞かれていたなんて……私の黒歴史だ。でもそんな時期は誰にでもあると思う……筈。
「ん……あっ……はぁ……はぁ……つっ……ん! はぁ……はぁ……」
? 何の時の真似かな……ってこれってまさか!
「まっ真白ちゃん! 何で知ってるの! いつ聞いてたの!」
「えへへ、僕はお姉ちゃんの全てを知ってるんだよ!」
今のは私が自慰行為をしている時の真似だ。周りに誰も居ないと警戒していたのに、真白ちゃんに聞かれてたなんて……しかも完璧にジェスチャーしてるって事はがっつり見られてたんだ……
「なぁ真白、今のは……」
「お姉ちゃんのオナ……」
「わー! 何でもない! 何でもないから!」
「何処でしてたんだ? 同棲してるけど一度も見た事ないんだよな。私のは何度も彩果に見られてるのにさ。あと彩果もそういう事するんだな……」
そりゃみなもにバレない様にしてるからね。私だって健康な女の子ですから。エッチとは別に性欲処理くらいしますから。
「みなもに知られてしまった。恥ずかしいよ……」
「これでお互い様だぜ。今度はこそこそしてないで堂々と私に見せてくれよ。私は彩果の恥ずかしい所も受け止めるからさ。妻としてな」
「みなもー!」
「よしよし」
「結局イチャつくんだ……これは本当に願ったり叶ったりだよ」
彼女の意図が読めない。私達がイチャイチャしている時は本当に嬉しそうだ。
「真白ちゃん……本当に何が目的なの?」
「仕事の為だよ。僕の今度担当するラノベのイラストを描く為のね」
真白ちゃんが描くイラスト言ったらボーイズラブの筈だ。それなら街中でBLカップル観察をすれば良い。
「この度師匠の新作百合ラノベ「『気になる彼女から目を離せない!』のイラストを担当する事になったんだ」
「師匠?」
「新月の事だよ。真白ちゃんは一時期絵を教わる為に師事していたからね。あぁ……ぶらっとむーん先生の新作ラノベ……早く読みたい!」
彼女が漸く新作を描く気になったらしい。タイトルからして『死にかけ女神』とは違う路線なのだろうか。どちらにしても楽しみだ。
「良かったじゃん! 新月と一緒に仕事出来て」
「そうなんだよね、師匠に恩返しする機会なんだ!」
でもまさか真白ちゃんが新月のラノベイラストを担当するなんて……でもボーイズラブを描いている彼女が百合絵を描けるのだろうか。
ていうか真白ちゃんって、みなもと新月と相性良いらしんだよね。気が合って話も合うみたい。二人の共通点って何だろう……クリエイター? 分かんない、まぁ良いか。
「実は百合絵を描くのは初めてで……それでお姉ちゃんみたいに百合カップルを観察して描く事にしたんだ」
人間観察が得意な彼女だ。それが最良の方法だろう。
「でも街中の百合カップルでは見れる事に限界がある。そこで姉夫婦に白羽の矢が立ったって訳だよ」
「私達がイチャイチャしているのを見て、それを参考に絵を描こうって魂胆だな。全く……彩果とエッチしようとしてたのに邪魔しやがって」
「みなも、言わなくていいから……恥ずかしいよ」
「へぇ……それは好都合だ。いきなり一番描きたいものが描けそうだよ」
まさかエッチなシーンを描きたいのだろうか。一体どういうラノベなのだろう。
「ネタバレになるから詳しくは言えないんだけどさ……「『気にカノ』には結構エッチなシーンなあるんだ。だから詳細な性描写を描きたいんだ。でもそんなの見せてくれる人なんていない……だからお姉ちゃんと姉御に頼むしかないんだ」
まさか、みなもと私のエッチを見て描くつもりか。それが目的で帰って来たという訳か。
「ねぇ……だからみせてよ、二人でエッチしてるとこをさ」
真白ちゃんはみなもと私の肩に手を置いてそう言った。
満面の笑顔で、悪意なんてまるでなさそうな感じで。
「楽しみだなぁ、二人はどんなエッチしてるのかな。早く見たいよ。激しいのかな? それともまったりスローかな?」
可愛い顔して発想が恐ろしい。だけど合理的だ。
やっぱり真白ちゃんはいつだって波乱を巻き起こすんだ。
突拍子もない事をする。
今に始まった事では無い。
彼女は昔からそうだった。
私はこの現象を『ましろ色狂想曲』と読んでいた。
「さっそくだけど今ここでエッチしてよ! 今すぐに!」




