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百合作品のフルコース

 私はお持ち帰り百合の絵を描いていた。あの後教授に当時の状況を詳しく聞いていたのだ。酔い潰れた折川店長をおんぶして自宅まで連れていき、酔った状態とは言えお互い合意の元でエッチしたんだ。


「よし描けた! こんなレアな百合シチュエーションを詳細に描けるなんて、あの二人には感謝しなきゃね!」


 そしてこれをSNSに投稿した。フォロワーの皆はいつも通り尊さに悶えていた。この反応が見たくて絵を描いているんだ。


「さすがぷらむ先生! どんな百合シチュでも描けるんですね!」

「ぷらむ先生は百合絵の神様ですよ!」

「えへへ、ありがとう」

「そんなぷらむ先生がどんな作品が好きなのか気になります」  

「私が好きな作品?」


 ありすぎる。一つ一つ挙げてたら一日が終わってしまうだろう。


「今好きな作品でフルコースを作るのが流行ってるんです!」

「フルコースって……料理の?」

「勿論。前菜から始まり、スープ、魚、肉と続き一番好きな作品は主菜……メインディッシュにするんです。そうやって八つの作品を選出して自分だけのフルコースを完全させるんです」


 少年グルメ漫画でも読んだのだろうか。でも面白い発想だと思う。


「百合絵の神様であるぷらむ先生の百合フルコース……興味しかない……」

「神様が選んだ八つの作品……神エイト……私の好きな作品があるかな……神と同じ感性の持ち主でありたい」

「皆、他人と比べちゃ駄目だよ。自分が好きな作品を好きでいれば良いんだから」

「さすがぷらむ先生! マウントなんてとるなって事ですね! 実は私もそう思ってました」

「調子いいんだから……」

 

 私が好きな作品か……勿論ある。フルコースなら直ぐに作れるだろう。勿論メインディッシュは決まっている。みなもの前で発表してみよう。




「みなもはさ、数ある百合作品の中で特に好きな作品を八つ挙げるとしたら何を選ぶ?」


 私はみなもの髪をときながら、百合談義をしていた。みなもの髪の毛は本当に綺麗だ。なのに寝癖ですぐにボサボサにしちゃうんだもん。女の子なんだからもっと意識して欲しい。でも愛する人の髪をとくこの時間が幸せだ。


「急になんだよ、何で八つなんだ?」

「フルコースだよ、百合のフルコース。好きな作品をそれぞれの品目に当てて至高のフルコースを作るんだ」

「……何に感化されたんだよ」

「フォロワーの間で好きな百合作品のフルコースを作るのがブームになってるんだ。私はもうフルコースを完成させてるよ、知りたい?」

「興味はあるな、天才百合絵師がどんな作品が好きなのか」


 私のフルコースの中に『つきめば』が入っいるのか気になるのだろう。勿論入っているし、メインディッシュだ。


 「じゃあ発表するね、私のフルコースを」


 前菜 『死にかけ女神と死にたい少女の復讐』


 スープ 『ハグだけで女の子達を惚れさせて、百合ハーレム建設』


 魚料理 『論理派少女と理論派少女の恋愛論』


 肉料理 『雨に惹かれる深海魚』


 主菜 『月映えに芽生える』


 サラダ 『時が経てば腹が減る。毎日グルメ日和』


 デザート 『ロックザリア充』


 ドリンク 『こもれびキャンバス』


 「これで全部かな……どうみなも?」


 「へぇ……ていうか『つきめば』入れてくれてんじゃん!」

「勿論! 私が一番好きな作品だからね」

「彩果ー!」

「えへへ、可愛いなぁ、みなもは」


 いつも私がみなもに抱きついてるので、たまにはこういうのも良い。


『つきめば』はみなもと私が再会するきっかけとなった作で、愛のキューピッドと言っても過言ではない。それに内容も面白いからね。私にとって最高傑作だよ。


「他の作品についても聞きたい?」

「一応聞いておく。お前がイラストを担当した作品もあるからな。どんな自画自賛が聞けるのか楽しみだぜ」


 別に私がイラストを描いたから選んだ訳ではない。内容が面白いから選んだまでだ。


「前菜は私がイラストを描いた『死にかけ女神』新月……ぶらっとむーん先生のデビュー作なんだ……って今更言わなくても知ってるか」

「あの作品を新月が描いてるとはな、あいつの才能には驚かされるよ」

「ライトノベルの新人賞に応募して、三度目の正直で書籍化に辿り付いたらしいんだよね、読者が求める内容に何度修整してたみたい」


 自分の描きたいものと読者が求めるものは違う。新月はそれを分かっていたんだ。


『死にかけ女神』の原案は今とはかなり違うものだったらしい。女神なんていなかったし、チートスキルも無かった。でも流行りの異世界要素を取り入れて、いじめの復讐をするという内容にして、大ヒットしたんだ。女神と少女の百合要素も取り入れて、百合ファンも獲得した。これがプロの作家の力なのかと感心したよ。


「スープはている先生の『ハグハーレム』だよ、これも私がイラストを担当したんだ」

「赤崎さんのデビュー作か、編集も出来て小説も描けるとか完璧超人だよなあの人」


 それは否定しない。でもどちらかと言うと、作家の方が向いていると思う。あのまま編集を続けていても、口出しし過すぎていずれ作家と対立して問題を起こしていただろう。どれだけ優秀でも、編集者はそれではいけないんだ。みなもと私の恩人であるけどね。


「主人公の(よう)ちゃんが、女神様から貰ったハグするだけで、どんな相手も惚れさせてしまうというスキルで百合ハーレムを築く物語。バトルあり、エッチシーンありで尊くてたまらないよ」


 私は基本男の子だろうと、女の子だろうと、百合に挟まる人は苦手だ。だけどハーレムは別だ。一人の女の子が沢山の女の子達を侍らせるのは見てて尊い。私の大好物だ。


「魚料理は『論理少女』この作者様は現在百合園で『恋メロ』を連載中なんだ。私が大好きな漫画家さんだね」

「凄ぇよな……私なんかと違って、二作目の壁に当たらずに、ヒット作を連発してるんだからさ」


 この作者様は本当に聖人なのだろう。作風から伝わる優しさ、温かさ、甘さ、尊さ……この人の作品に出会えて良かったと思えるよ。こんな気持ちになるのは、そうそうない。


「論理派少女と理論派少女の駆け引き、負けた方が勝った方の言う事を聞く。これが見てて面白いんだよね。パシリにしたり、キスを迫ったり、次第にお互いを好きになっていくんだ」

「私も読んだよ、私なんかには到底描けないくらい面白い出来だからな」

「そう卑下しないでよ、メインディッシュはみなもの『つきめば』なんだから」


 天才漫画家りぷとん先生のデビュー作であり代表作。

 

『この百合漫画が凄い!』で五年連続で一位を獲得して殿堂入りを果たした百合漫画の王。


 これのお陰でりぷとん先生も『百合界で最も影響力のある百人』に毎年選出される様になった。 本当にみなもの凄さを思い知らされるよ。


「実はな……お前との出会いがきっかけで思いついたんだよな」

「え……何それ、知らないんだけど」

「特定の状況下での運命的な出会いだって言ってたよな。」

「……? 言ってたっけそんな事。それいつの事?」

「お前……本当に記憶力ないよな……私はずっと覚えてたぞ。私達が始めて会った日の事だよ」


 私が六歳の時の事か。あの時はみなもの事しか頭になくて、自分が何を言っていたかまでは覚えていない。ただみなもの優しさに心惹かれていただけだから。


「お前の言葉で『つきめば』が生まれたんだぜ、運命的な出会いをする二人を描いたら、面白くなりそうだなって……お前のお陰だよ」

「みなもー!」

「よしよし」


 全然知らなかった。『つきめば』がそんな経緯で誕生したなんて……私がそんな事言っていたなんて、覚えて無かった。我ながらクサイセリフだ。でも嬉しい。


「もう……ずっと隠してたなんてずるいよ」

「悪い悪い。お前を驚かせたくていつか言おうと思ってたんだけどな。タイミングが中々無かったんだ」

「夫婦間で隠し事は無しだよ!」

「ならお前の隠し事も全部話してくれないか? もしあるのならな」


 私がみなもにしてる隠し事か……『四季巡る百合の花』の主人公二人はみなもと私に似せて描いたんだよね。髪の色も同じにしたり、身長差があったり、おっぱいの大きさも私達にあわせて……


 私達が高校生活を送れたならこんな事がしてみたいなって思いながら描いたんだ……紡岐が考えた物語だけど、若干内容をアレンジしてみたりしてさ。


 再会から始まる恋物語。それはまさに私達の事だから。


 でもみなもは鈍感だから全く気付いてないみたい。いつか気付くまで内緒にしておこう。


「内緒ー!」

「なんだよそれ……気になるな」

「さて次はサラダだよ『時グル』デザートは『ロザリ』私の推しカップルが出てくるからね」

「私も好きだよ、やっぱり共通した好きなものがあると話が弾むよな」

「みなもと百合談義してる時が一番楽しいよ」

「彩果ー!」

「よしよし」


「締めのドリンクは私が始めて触れた百合作品『こもキャン』だよ。『はーとふる』とどっちにしようか悩んだんだけど、『こもキャン』は私にとっての始まりだからね。こっちを優先したんだ」

 

 勿論、ここに入っていない作品も大好きだ。その中でも特別好きな八つを選んだだけに過ぎないのだから。


「私もフルコースを作ってみようかな……」

「みなもがどんな作品を挙げるのか興味あるよ。勿論『つきめば』は入れるんだよね?」

「自分の作品を入れるのは何か気恥ずかしいな」

「そんな事ないよ、もっと胸を張ってよ。みなもは天才漫画家なんだからさ」

「よせやい」

「えへへ、みなもー」

「可愛いすぎんだろ! 私の嫁!」


 みなもと私はじゃれ合い始めた。いつもやっている事だ。むしろ夫婦や恋人なら当然の事だろう。


「彩果、今夜は相手して貰うぞ」

「きゃー! またみなもに襲われちゃう! ケダモノ! 性欲の化身!」

「なんとでも言え」 


 ピンポーン。ピンポーン。


 みなもと私がイチャイチャしてる時に鳴り響くインターホンの音。こんな時に邪魔をしないで欲しい。


「もう……誰なの……」

「お姉ちゃん! 姉御! ただいま!」


 声を聞いてすぐに分かった。みなもと私のイチャイチャを妨げる者。それは私の実の妹である色真白だった。私は玄関のドアを開けて、彼女を家に招き入れた。


「真白ちゃん! 急に帰ってくるなんてびっくりしたよ」

「久しぶりだね、二人共。もしかしてイチャついてたのかな? それなら好都合だよ」


 何か嫌な予感がする。彼女はいつだって波乱を巻き起こすのだから……


 


 ちなみに私のフルコースをSNSで発表したら、共感の嵐だ。『つきめば』がメインなのは皆納得しているらしい。みなもって本当に凄いんだな……

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