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みなもの想いⅶ 唯一の友達、大星光夜

 まさか大星の奴に恋人が出来たなんて……しかも結婚予定だなんてな、一応祝福しておいてやるか。私の唯一人の友達だからな。


 私があいつと出会ったのは高校に入学してからだった。私は内気で人見知りだから友達が出来なかった。でも漫画を描いている方が楽しかったから、別に気にはしていなかった。学校ではずっと『つきめば』の展開を考えているか、読書をしていた。あいつはそんな私に声を掛けて来たんだ。




「君いつもここにいるね」


 放課後の図書室の机で本を耽読する私にそう言い放ったのは、一人の女の子だった。


「本、好きなの? 好きでしょ、だっていつもここで読んでるんだもん。好きに決まってるよ。じゃなきゃそんなに読まないもん。てか読めないもん。あたいは読書が好きじゃないからさー」


 こっちは一言も返してないのに、何の反応もしていないのに、次々と質問をしてくる。


「……あのさ、いきなり話しかけてきて、勝手に人の事決めつけて、勝手に自分語り始めてさ、何なんだ?」

「あっごめんごめん、うるさかった? 迷惑だった? ごめんごめん。まずは名乗るのが筋だよね、不躾だったよね、かたじけない、一生の不覚。これからはこの事を糧にするね。また一つ成長! いやー本当にあたいって我ながらさー」


 私が大星に会って一番初めに受けた印象は、うっとおしい奴だ。なんなんだこいつは、凄くマイペースで、自分の事ばかり喋ってて……大体図書室でこんな大声出したら周りの奴にも迷惑だろうが……


 これが俗に言う陽キャというやつか。私とは到底相容れないだろうな……私は陰キャだと自覚している。だけど恥だとは思ってはいない。陰キャは陰キャなりに楽しいからな。好きなように生きれば良いんだ。楽しめれば良いんだ。私は自分にそう言い聞かせている。


「あっそうそう、あたいの名前はねー」

「じゃあな、私そろそろ帰るから。後図書室では大声出すなよ」

「おいおいおいおい、名前くらい聞いておいても良いんじゃないか? あたいと君は生涯の友になるかも知れないだぞ」

「何でお前と友達にならなきゃいけないんだよ。私は一人が好きなんだよ」

「本当にそう思っているのかい? 実はあたいは人の心が読めるんだよ。だから君が本当は凄い寂しがりやな事も分かるんだ」

 

 悔しいけどその通りだ。いつも寂しくて仕方がない。だからあの雪の日に出会ったあいつの事ばかり考えてしまう。あいつと居た時は寂しさが紛れていたから……もう一度会いたいと思い続けている。


 私は凄い寂しがりやなんだ。強がっているだけなんだ。


「だからあたいと友達になろうよ! 君の暗い青春を明るくしてあげるよ!」

「別に良い……」


 私はそう言って、図書室から出て行った。別に友達が欲しい訳ではないのだから……


「おいおいおいおい! そんな寂しい事言うなよ……本当は嬉しかったんだろ? 分かるよ、あたいは思考が読めるかるね」

「なら私が今考えている事も分かる筈だ」

「えーと……私に関わるな……ってかい?」

「分かってるなら良い。じゃあな」

「あたいの名前くらい聞いて欲しいな。大星光夜って言うんだ」

「……良い名前だな」

「そうだろー宇宙っぽい名前だよね」 

「それじゃあな」

「もっと会話を弾ませてくれよ!」

 

 ……なんか本当に面倒な奴に絡まれたな。私の静かな高校生活はどうなるんだ。


 必要のない懸念だった。あいつは……大星は友達が沢山いた。教室ではいつもクラスメイトに囲まれていたからだ。 他のクラスの奴まで居た。どんだけ友達多いんだよ。


 そして私はクラスの隅っこで大人しく本を読んでいる。教室で楽しそうにしている奴らを横目で見ながら……私はそんな奴なんだ。別に恥とは思ってはいない。ただ寂しかった。それだけの事だ。


 


 それからも大星の奴は私にかまって来た。


「ねーねー荒川っちー」

「何だよ荒川っちって……ていうか私の名前知ってたんだな」

「当然だよ、友達の名前は覚えるものだろ?」

「いつ友達になったんだよ」

「この前の図書室での邂逅の時にさ」


 あの時は大星が一方的に話しかけてきて、友達になろうとか言い出しただけだ。私は友達とは思ってない。 


「荒川っちが思ってなくても、あたいは思っているよ」

「本当に心が読めるんだな……」

「荒川っちは自分が友達居なくて孤立している事を恥だとは思っていない。だけど寂しいと思っている。誰かに孤独を埋めて欲しいと思っている。ならあたいが埋めてあげようと考えているんだよ」


 全部お見通しという訳か。こいつの前では隠し事は出来ないみたいだ。


「荒川っち、あたいと話さない?」

「……別に話す事なんてないよ」

「世間話でもしよ?」

「どんな話だよ、どうせくだらない事だろ」

「キノコの山派かタケノコの里派かの話さ」

「何だと……滅茶苦茶重要な事じゃねえか!」


 私は断然タケノコの里派だ。サクサクしてて甘くて美味しいからな。異論は認める。


 ……あいつは、彩果はどっち派なんだろうな……また彩果の事を考えてしまう。


「成程……荒川っちはタケノコ派か。あたいはキノコ派だから相容れないね」

「だから心を読むな。せめて私の口から言わせろ」

「キノコ派とタケノコ派は永遠に分かり合える事はないのだろうね」


 それに関しては同意見だ。いずれキノコ派とタケノコ派で内戦が起きてしまうのではないのかと危惧している。対立と分断が進んで行き着く先はいつだって同じだ。そして最後はシビル・ウォーのような世界になってしまうのだ。


 自分と意見が異なるからと言って、拒んではいけない。排除してはいけないんだ。大切なのは歩み寄りだ。キノコ派とタケノコ派がお互いに理解し合えれば世界は平和になるんだ。


「……荒川っちさ、映画の観すぎじゃない? それにキノコタケノコ戦争はもう既に起きているよ。勿論血が流れない平和的な争いだけどね」


 こいつは私の考えを全て読んでいるので、会話する必要がない。これはこれで楽だから良しとするか。


「この前キノコ派かタケノコ派かで国民投票をやってたよね。まさか全く同じ票数だとは思わなかったけどさ」

「案外キノコも悪くないなって思ったよ。それでも私はタケノコ派だけどな」

「あたいもタケノコの良さが分かってきたよ。たまにはタケノコも良いかなって思うくらいには」


 そういえばキノコタケノコに次ぐ第三勢力が全然出て来ないな……二大政党制が根付いている証か。


 もしあるのなら『雑草の庭』というお菓子はどうだろうか? 草の形をしたチョコ菓子を出せば売れるんじゃないだろうか?


「そんなの埼玉県民しか買わないと思うよ。センスないね、荒川っちは」

「じゃあ大星はどんなのなら売れると思うんだよ」

「『落花生の国』かな。落花生の形をしたチョコ菓子だよ。勿論千葉県産のね!」

「貴様ー! 千葉に魂を売るつもりか!」

「光夜ー何やってんの? ていうかその子誰?」

「確か荒川さんだっけ? いつも本ばかり読んでるよね」

 

 クラスメート達が私の方へやって来た。まずい……私に関心を持ち始めた。


「へぇー光夜って荒川さんと仲良いんだね」

「荒川さんも私達と話さない?」


 私は存在を無にした。陰キャは知らない人と話す事が出来ない。とにかく皆が私に興味をなくすまで耐えるんだ。


「荒川っちは独りでいるのが好きみたいだから、皆ちょっかいとか出さないであげてね」

「分かったよ。荒川さん、光夜はちょいとうざい所があるけど、我慢してね」

「おいおいおいおい、あたいの何処がうざいんだ?」

「そういう所だよ!」


 こいつ、私に気を遣ってくれているのか? それに皆思っていたより良い奴ばかりだな。私が一方的に壁を作っていただけなのか……


 それにしてもこれが陽キャのノリなのか、私には一生出来ない。分かり合えない。いずれ陰キャと陽キャの内戦が起こるだろうな……


「だから起きないって、普段からそんな暗い妄想ばかりしてるのかい? 漫画家とか向いてるんじゃないの?」


 否定はしない。この時点で『つきめば』の一話の原稿を完成させていたからだ。後は原稿を持ち込むだけだ……けれどまだ少し自信が沸かないでいた。


「へえ、漫画家を目指してるんだ。ならばあたいが勇気をあげるよ。荒川っちは絶対にプロになって売れる。あたいが保証する。根拠はないけどね」

「ないのかよ、でも正直嬉しいよ。お前にそう言って貰えてさ、期待に答えてみせるよ」

「期待してるよ、友達としてね」

「友達か……私の事を本当にそう思ってくれているんだな……」 

「あれ? もしかしてデレてる?」

「デレてねーよ!」


 そしていつの間にか、私と大星は毎日話す関係性になっていたんだ。


 私は別に嫌では無かった。大星が私の心の孤独を少

しだけ埋めてくれていたから。あいつには少なからず感謝している。


「ふーん、あたいに感謝してくれてるんだ」

「私の心を読むな!」


 私と大星は一応友達と呼べる関係性にはなっていたらしい。と言ってもプライベートで遊ぶ事は殆ど無かったけど……




 私が大星を心から友達だと思うきっかけになったのは学園祭の時だ。


 私は、学園祭というものは悪しき風習だと思っている。陽キャリア充達がウフフキャハハする為だけに行われるからだ。


 そもそも! 学校という場所は勉強する為にあるのであって、そんな俗な事をする必要なんてない! 今すぐ廃止にすべきだとは思う。


 ……正直な事を言うと、一緒に楽しむ友達が居ないだけだ。楽しんでるクラスメート達を見ていて、滅茶苦茶羨ましかったりする。


「あれ荒川っち、もしかして一緒に見てまわる人が居ないのかな?」

「うっせ、そんな奴が居ると思うのか? 私にとって学園祭なんてものは暗い思い出でしかないんだよ!」

「なら、あたいと楽しい思い出を作らない?」


 そう言って、大星は私と手を繋ぐ。


「おっおい、まだ行くなんて言ってないぞ!」

「じゃあ辞める?」

「……行く」

「正直でよろしい」


 それから私と大星は、学園祭の展示物を見てまわった。こんな体験は始めてなので楽しかった。


「あはは、なんだこの展示物は、美術部は本当に変わったものを作るね」

「大星……私なんかと居て楽しいのか?」

「そんなに卑屈になるなよ、楽しいに決まっているだろ。友達なんだからね」


 私は話が面白い訳でもない。性格も暗い。一緒に居て楽しい要素なんて一つもないのにな。


「だからそう卑屈になるなって、荒川っちは面白い所もあるんだからさ。あたいだけが知ってるんだ」

「例えばどんな?」

「……さあて、次の展示物を見に行こう!」 

「逃げたな」


 次の瞬間、展示物の一つである『取引先でジャンピング土下座をするサラリーマン』が突如として動き始めた。これも魔法の力みたいだ。ていうか何だこの展示物は。作った奴誰だよ。


「何だこの展示物動くぞ!」


 動揺した大星がよろめいてしまった。そしてバランスを崩して倒れそうになった。私は咄嗟に反応して、大星の体を支えた。


「大丈夫か大星」

「あぁ……すまない。助けられてしまったよ」

「気にすんな」

「……」

 

 ただ私の体と大星の体がこれ以上なく密着していた。他人の体ってこんなに暖かいんだな……


「荒川っちは、人の温もりを知らないんだね……凄く暖かくて気持ち良いものなんだよ。あたいが教えてあげようか?」

「何を言い出してんだお前は、ほらもう自分で立てるだろ」

「……」


 何だこの雰囲気は、もしかして私と大星がそういう関係になる感じなのか? これが恋の始まりというやつなのか?


「ならないよ。あたいと荒川っちはあくまで友達だからね。ほら、他も見てまわろうか」

「……そうだな」


 私は大星の事を友達と認識している。それ以上の関係性になる事はない……私はあいつに、彩果に恋をしていたからな。


「ふーん、荒川っちって好きな人がいたんだ」

「だから心を読むな」


 その後は一日中大星と学園祭を見てまわった。今まで良い思い出のなかった学園祭だけど、この事は私の楽しい思い出になっている。これも大星のお陰だ。


 大星は私の大切な友達だ。でなければこんなに楽しいと思う事はないだろうから。




 三年生になり、私は彩果と七年ぶりの再会を果たしていた。それからは彩果に夢中になっていて、私の孤独は解消されていった。大星の奴はそれを知って嬉しそうにしていたが、何処か寂しそうだった。


 ……もしかして私の事好きだったのか?


「あいにく、荒川っちの事は恋愛対象にはなってないよ」

「だから心を読むな」




 そして卒業式の日。私と大星は制服の第二ボタンを交換し合った。大星が他の誰でもなく、私を選んでくれた事が嬉しかった。


 と思ったら、あいつ第二ボタンを大量に持っていて、他の卒業生達に配っていやがった。


「魔法で増やしたんだ。でも安心してくれ、荒川っちにあげたのが元々のボタンだよ」


 だとしたら嬉しい。私の事を本当に友達と思ってくれていたんだ……


「まだ信じてくれてなかったのかい?」

「だから心を読むな」


 こんなやり取りも今日で最後か。寂しくなるな。


「じゃあね荒川っち、あたいに会いたくなったらいつでも連絡して良いんだよ」

「私には恋人が居るからお前の出番は無さそうだけどな」

「この前言ってたお弟子さんの事かい? いやー荒川っちも隅には置けないね」


 ……やっぱり大星は私の事が好きだったのだろうか。


「荒川っちの事は好きだけど、恋愛対象としては見てはないよ」

「そうか……なら良い。余計なお世話だったな」

「荒川っちはあたいの事好きじゃなかったみたいだね」

「友達としては好きだよ。だけど私には彩果が居るからな」 


 もし私が彩果と出会っていなければ大星と付き合う世界線もあったのか……? いや、ある訳ないか。そもそもプライベートで全然会わないからな。


「あたいは大学に進学するんだ。聡明紅玉大学って所。そこでモラトリアム期間を過ごして何をしたいか見つけるんだ。荒川っちはニート生活かな?」


「何でだよ、私はプロの漫画家だぞ。しかもまだ連載中だぜ」

「そうだったね。読んだ事ないけど続きを楽しみにしてるよ」

「読んだ事ないのに何を楽しみにするんだ……最後くらい嘘でも良いから私を立てろ」

「じゃあ……」


 そう言って大星は私のおでこにキスをした。


「お前……何してんだ?」

「じゃあね! 我が友よ、また会う日まで!」


 そう言って大星は手を振りながら、走り去っていった。


「……大星、最後まで良く分からん奴だったな。さよなら、私の唯一人の友達」




 それから何年か経って、私は大星と市内の商店街で再会した。まさか大学教授になっていたとは驚いた。


「荒川っち! せっかくだからあたいと朝まで飲まない? 割り勘で!」

「お前が奢るんじゃないのかよ。もう既に酒臭いじゃねぇか」

「こういうのは遺恨を残さない為にも割り勘が良いんだよ。ほら飲もう!」


 その時の様子を彩果に見られていたらしい。私が大星と不倫していると勘違いするとか、あいつもピュアで嫉妬深いな。そんな訳ないのに……


 ていうか大星が顧問を務めているあの料理サークルは何なんだ。部員が料理出来ずに魔法に頼っているなんて、あんなの料理サークルじゃねえ!私が鍛え直してやらないとな。友達として。


 そう言えば大星の奴。私の心を読まなくなったな……いや、読めなくなったと言った方が正確か。魔法は成長する事もあれば衰える事もある。もう他人の心を読めなくなる程に力が弱くなってしまったのだろう……


 でも大丈夫だ大星。もう私はお前に隠し事なんてしない。友達ならそんな事しないもんな。これも彩果の教えだけど。大星、私と友達になってくれてありがとう。これからもよろしくな。


 色々あったけど結婚おめでとう光夜。ビデオメッセージくらいは送ってやるか。友達としてな。


 後で聞いたんだけど彩果はタケノコの里派らしい。やっぱり私達は相性ぴったりだな。

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