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公園百合観察

 聡明紅玉大学美術サークル。

 雪菜が、恋人の陽花とイチャイチャしたいという目的の元、設立された。

 しかし全然絵を描いていないと学長に目をつけられ、廃部危機になっていた所を、私がなんとかして、存続する事が出来た。私はこのサークルの一員として活動する事になったのだった。




 サークルの活躍拠点である美術室には、沢山の絵が

飾られていた。全て風景画のようだ。


『時の鐘』

『クレアモール商店街』

『大正浪漫通り』

『菓子屋横丁』

『喜多院』

『川越城本丸御殿』

『武甲山』

『芝桜の丘』 

『秩父鉄道のSL』

『三峯神社の狼狛犬』

『秩父夜祭』

『古代蓮の里』

『忍城』

『こだま千本桜』

『マリーゴールドの丘公園』

「星渓園」

『熊谷芝桜』

『星川通り』

『鉄道博物館』

『さいたまスーパーアリーナ』

『氷川神社の参道』

『調神社』

『所沢航空記念公園』

『西武ドーム』

『長瀞石畳』

『長瀞ライン下り』

『東武動物公園』

『聖天宮』

『飯能河原』

『森林公園』

『小川和紙』

『深谷駅』

『鴻巣駅前の花時計』


 凄い、全部地元の風景だ。

 ろくな名所が無いというのに、よく見つけ出したものだ。そしてこれが埼玉の限界か。

 川越と秩父に比重を置きすぎ。

 県民でもピンとこない場所もあるな。

「それ全部、北山財閥の所有物なんだよ」

「えっ、凄い」

「お父さんが、埼玉観光ツアーを計画した時に買い占めたんだ」


 随分と酔狂な事をする人だな。

 いくら地元だからって、そこまでするとは。

それをやったとしても、某テーマパークの一日の入場者数には、及ばなそうだ。


「ていうか、雪菜、絵上手すぎでしょ」

「えへへ、沢山練習したからね」

「こんなに上手なら、絵の部分は大丈夫だね、もう私が教えることは何もないよ、絵本の完成を楽しみにしてるよ」


 雪菜、免許皆伝。なにも教えてないけど。


「ちょっとまってよ、彩果ちゃん! 物語の書き方も教えて欲しいんだけど」

「あー、無理無理、他をあたって。私、絵しか描けないから。漫画とか、小説とか、挑戦した事あるけど挫折してるから」


 天は二物を与えない。どうやら神様が、私には絵の才能に全振りして、それ以外はからっきしになるようにしたのだろう。

 だから漫画家さんは凄い。絵も描けて、物語もつくれるのだから。つまりみなもは凄い。これで憧れるなという方が無理な話だ。


 「まぁいいや、役立たずの彩果ちゃんに教わる事なんて、ないもないから」

「そんな毒づかないでよ! ていうか久しぶりに見たよ、『ポイズン雪菜』」


 雪菜は天然系に見えるけど、計算高くて、腹黒いお嬢様だ。たまに相手を毒づく事がある。でも可愛いから許せてしまう。美人は得だよな。


 物語の書き方については新月(しんげつ)ちゃんに教えて貰ってるからね。


 その名前を聞いて、私は思い出した。

 

「そうか、この大学に来てるんだ……あいつも」


 満汐新月(みちしおしんげつ)。雪菜、陽花と同じ、小学校からの親友。私を含めたこの四人は、どうやら腐れ縁というやつで結ばれているらしい。


 「新月ちゃんはプロのライトノベル作家さんだから

ね」

「知ってるよ『死にかけ女神と死にたい少女の復讐』だよね、あいつの代表作。私がイラストを描いたからね」

「すっごい面白かった! そこに彩果ちゃんの絵が加わると、尊さも増すよ!」

「ふぅん、新月がね……」

「どうしたの?」

「何でないよ、ちょっと昔を思い出してただけ」


 新月が私に会ったら、何をしてくるのかと、色々想像していた。まだ私に未練もあるだろうし、間違いなく私にセクハラまがいの事をしてくるだろう。

 でも関係ない。私が好きなのはみなもだ。新月は親友。それ以上でもそれ以下でもない。




「ねぇ、彩果ちゃん。プロをやっていく上で、大切にしてる事ってある?」

「どうしたの急に、そんな事聞いて」

「いや、そういうポリシーみたいなものも知っておきたいんだ」


 なるほどね、雪菜は雪菜なりに、プロとはどういうものなのかを知ろうとしてるんだね。


 「そうだね、この前のコンクールに出す絵があったよね」

「陽花ちゃんと私を描いた絵だね。一枚目は納得いかなくて、描き直したんだよね、確か」

「うん、あれは私のポリシーに反する絵だったからね、納得いかなかったんだ」

「何で? 上手く描けてたよ」


 あの絵は確か、陽花が片膝をついて、雪菜の手の甲にキスをするというものだった。それだけだったら、問題なかった。()()()()()()()()()()()


「あの絵はね、私が二人にこういうポーズをしてほしいって頼んでたでしょ?」

「うん、上手くポーズできてたと思うんだけど、駄目だった?」

「そうじゃないよ、私が指示したから、駄目だったんだ」

 

 全く理解できていないような顔をする雪菜。こういう顔も可愛い。腹黒いけど。


「私が描きたい百合絵ってのはね、自然体のカップルなんだよ」

「自然体?」

「ありのままってことかな、誰に言われるでもなく、その状態でいるって事」

「彩果ちゃんが邪魔したってこと? 陽花ちゃんと私の仲を」

「作り上げたって事かな……あのシチュエーションを」


 ただあのポーズを日常でやっているカップルを日本で見る事は難しいだろう。いるなら見てみたい。


「私が描いたイラスト集をみれば、共通点が見つかるよ」

「私、彩果ちゃんの描いたイラスト集は全部持ってるよ。私が一番好きなのは『四季巡る百合の花』かな」


 私のデビュー作だ。春に再会を果たした二人の女の子が、夏に再会の喜びを分かちあうために遊びを満喫、秋に距離を縮めて行き、冬にめでたく結ばれるというものだ。


「何か分かった事ある?」

「……女の子達が、お互いを意識してる」

「さすが雪菜、分かっていてもボケるんじゃないかと思ったよ」

「彩果ちゃんじゃないんだから。いつもクソつまんないボケかましてるのを見て、愛想笑いしてる私の気持ちにもなってよ」


 おお強い強い。今日の雪菜は毒気が強い。


「そう、カップルの意識がお互いにしか向けられてないんだよ。こっち側を見てる絵なんて、一枚もない」

「彩果ちゃんが描く女の子達って、凄く幸せそう。好きな人と一緒にいるからかな。」

「そんな二人に割って入るような不逞な輩がいたら?

雪菜はどう思う」

「邪魔しないでって思う」

「雪菜とは気が合うと思う」

「嫌だなぁ、彩果ちゃんと会う気なんて、持ち合わせてないよ。あったら速攻で変えるもん。価値観が同じだと思われたくない人一位だからね」


 このいちいち毒づかないといられないのが本来の雪菜だ。この前は調子が悪かったのだろう。


「二人きりの時間、二人だけの世界、二人がお互いだけを見ていて、意識し合っている。私の絵は、それを守っている」

「それが、彩果ちゃんのポリシーなんだね」

「と言っても、これは私の言葉じゃないんだけどね、ある漫画家さんの言葉なんだ、それを聞いた時に感銘を受けたから、実践してるだけ」

「誰? みなもさん?」

「みなもはこういうの気にしないとおもう」


 みなもはこういう所、本当にいい加減だ。百合カップルに男の子を容赦なくまぜるし、写真を撮らせたり……でもそういうお茶目なみなもも好き。


「誰が言ったかは、重要じゃないよ。何を言ったかだから、この言葉が伝え広まれば、それでいいと思う」


 ごめん雪菜、かっこいい事言ってる風に装ってるけど、発言の主忘れちゃった……

 私は頭の出来がそんなに良くない。テストの成績も下から数えた方が速かった。絵と運動が得意な事が、私の少ないとりえだろう。


「じゃあ、彩果ちゃんが、許せない絵もあるんだね」

「あるよ、人の描いた絵にケチは付けない主義だけど、許せないシチュエーションはある」

「例えば?」


 一つ一つ挙げて居たらキリがないので、私が特に気に入らないものを言おう。


「カメラ目線の百合カップルだね。その時点でお互い以外を意識してるしそのカメラを持ってるの誰? ってなるからね」


 そういう絵が多すぎる。描いてる人はきっと分かってないんだ。


「もしそのカメラを持っているのが、男の子だったら? 撮影が終わった後、二人に挟まるつもりだったら? ああ……私は耐えられない」

「さすが彩果ちゃん! クソ悔しいけど、共感できるよ! 彩果ちゃんと共感なんてしたくないけど」


 雪菜は、私の影響で百合好きになったという。だから、感性が似ているのだろう。腹黒いけど。


「そこで登場するのが『自撮り』という技術! これなら二人が自分達を撮ることができるから、誰も挟まる心配がない!」

「確かに、考えた事もなかったよ。 そんな事考えてるなんて、彩果ちゃんもイカれてるね」

「自撮りを生み出した人はノーベル賞ものだよ」

 「取れたとしても、百合には関係ないと思うよ。彩果ちゃんのオツムじゃ理解出来ないと思うけど。」

 

 今日は雪菜の毒気が強過ぎる。これこそが本当の雪菜だ、懐かしさすらおぼえる。


「楽しそうですね、二人共」

 

 陽花が美術室に入ってきた。今日も敬語のままだ。本来の彼女の方が、私は好きなのに。あとポイズン雪菜を、軽くあしらってくらるので、頼もしい。


「冗談きついなぁ、陽花ちゃんは。彩果ちゃんにあわせて、楽しそうにしてただけだよ」

「そうでしょうか、二人は似た者同士だと思いますよ」


 冗談じゃない。こんな腹黒くないし、他人に毒づいたりはしない。


「嫌だなぁ、こんな絶壁貧乳女と一緒にしないでよ」


 今日の雪菜は体調が万全ようだ。毒気がいつになく強い。


「ねぇ、彩果ちゃんが普段どうやって絵を描いているか見てみたいな」

「そういえば、他人に見せた事なかったね。分かった、見せてあげる」


 そう言って私は車のキーを取り出した。




「彩果ちゃん、凄い車に乗ってるんだね」


 私はハンドルを握り、近所の公園に向かっていた。

 二人は後部座席に乗ってもらっている。どちらかを助手席に乗せてしまうと、私とカップルみたいになってしまうからだ。ここに乗っていいのは、みなもだけだ。


「ママのお下がりなんだよね、ママが乗っていたと想像するだけで……体が火照るよ」 

「彩果ってマザコンですよね。母上の事好きすぎるのでは」


 マザコンで何が悪い。女の子は皆、お母さん大好きなんだ!


「この椅子とか、ママが座ってたんだよね。お尻の感覚がまだ残ってるよ。あとこのハンドルも、ママが握ってたんだよね。車の中にもママの残り香が残ってる感じがするよ」


 運転中なので、いつもみたいに悶える訳にはいかないが、ママへの想いを熱く語る私とは対照的に、二人は冷めていた。


「お母さんにメロメロだね、このマザコン絶壁貧乳女」

「いつか母上とそういう関係になってしまわないか心配ですよ」


 それだけはないと断言できる。ママを恋愛対照には一切みていないから。 


「みなもさんと、お母さんだったら、どっちが好き?」

「みなも。迷う事なくみなもだね。でも私のママに対する好きって感情は、性愛とは違うんだよね」

「分かりますよ、そういうの。ていうか当然でしょう、実母とそんな関係になるはずがありませんから」

「二人が早とちりするからだよ」

 

 でも『親子百合』という百合ジャンルも存在しているし、私も描いた事があるので、そういう展開もありだと思う。私とママがそういう展開になったら、妹とパパが悲しむだろうし、まずあり得ないけど。  

 やっぱりこの好きという気持ちは、恋愛感情とは違う好きなんだろうな思う。


「そういえば雪菜って、アルバイトしてるんだっけ?」

「うん、大学近くにある、ラーメン屋さんでね」

「お嬢様なのに、意外だよね。下々の気持ちを理解しようとしてるって事かな?」

「そんな訳ねーだろ、絶壁貧乳女。嫌味も大概にしとけよ!」


 満面の笑顔で私に毒を吐く雪菜。このギャップがたまらない。


「雪菜は独立したいんですよ、北山家に頼らず、自分でお金を稼いで、早く一人前になりたいって言ってましたから」

「言わないで陽花ちゃん、恥ずかしいよ……」

「凄い立派な志じゃん、もっと胸を張りなよ」

「彩果ちゃんよりは張る胸はあるよ」


 いちいち毒づかないといられないのだろうか。でもこの笑顔を見ると許せてしまう。


「私ね、ずっと北山財閥の総帥の娘って回りから見られてたんだ、それが好きじゃなくて、嫌だなと思うことが何度あったんだ」


 確かに、本物のお嬢様となれば、回りの人間も見る目が変わる。事実私が小学生の時、雪菜と初めて会った時は、近寄りがたい雰囲気があるのか、雪菜は孤立していた。陽花以外のクラスメイトと話しているのをみたことがなかった。

 だから私が雪菜に声を掛けたんだ。一緒に遊ぼうって。クラスメイト達にも仲間外れにしちゃ駄目だよって。そうしたら、少しづつ、皆と打ち解けていったんだよね。

 

「北山家の力に頼らずとも、私一人でも出来る事があるんだよって、証明したくて」


「雪菜は立派だなぁ、一生働かなくていい境遇なのに、自分で道を切り開こうとしてるんだもの」

「と言っても、大学の入学費とか授業料は、お父さんに出して貰ってるんだよね。まだまだだよね、私」

「出来ることから始めて行けばいいんだよ、焦っても良い事なんてないからね」


 我ながらクサイセリフを言ってしまった。まるでみなもみたいだ。さぁ雪菜が毒を吐いて来るぞ。


「ありがとう彩果ちゃん! 私、絶対に絵本作家になってみせるね!」


 あれ、吐かなかった。警戒しすぎたか。

 雪菜の純粋な気持ちに心が癒された。

 

「その調子だよ、私も応援してるから」

「うん!」

 

 雪菜は本当に良い子だ。腹黒くて毒舌吐くけど。




 市民の憩いの場所になっている公園。車を降りた私たちは、暫く日向ぼっこをしていた。


 公園の中にはランニングをする人達。

 バスケットやテニスをする人達。

 池でスワンボートを漕ぐ人達。

 プールも存在していて、ウォータースライダーから滑りおちる人達もいる。 

 あのボートを漕いていた女の子達はきっとカップルだろう。


「この公園はね、私達が告白した場所なんだよ!」

「懐かしいですね、私が雪菜を公園に呼び出して、想いを告げたのですが、雪菜も私の事が好きだとは思いもしなかったので、プールに飛び込んで夢かどうか確認したんですよね。夢じゃ無かった、嬉しかった!」


 陽花は時々大胆な事をする。でもそれだけ衝撃だったのだろう。


「びしょ濡れの陽花ちゃんを、私がタオルで拭いてあげたんだよね、懐かしいなぁ」

「あの時、うちが風邪になってしまうと心配してくれたんだよね、夏だったから、水浴び程度の感覚だったのにさ」

「女の子がびしょ濡れなのは、色々と良くないでしょ! 服とか透けちゃうし、陽花ちゃんは乙女の自覚が足りません!」

「いやー、面目ない」


 男の子がびしょ濡れなのは良いのかよ。ていうか。


「本来の陽花に戻ってるね。 お帰り」


 昔話をしていたら、昔を思い出したんだろう。

 主従時代も彩果の前だと、敬語を辞めていたみたいだし。


「いやー、この口調の方が気楽でいられるよ! どうも自分の意識では、こっちの自分には戻れないんだよね。」


 自分で切り替えが出来ないのだろう。プロの演者も、のめり込みすぎて、日常でも演じたキャラの性格や口調になってしまうらしいし。

 陽花が長年演じ続けてきた、敬語口調の使用人キャラ。それも彼女なのだから、否定する訳にもいかないし、本人次第かな。




「さっそく描いてる所、見せて欲しいな」

「じゃあ、あそこのベンチに座ってる女の子達を描く事にするね」

「勝手に描いていいのかな」

「さっき本人達に許可とってきたんだ、いいってさ」

「でもそれって彩果のいう、自然体の百合ではないんじゃないのかな。あの二人は、彩果に描けている事を理解してる訳じゃん」


 実際、それは描くのはプライバシーの侵害にあたるし、良い事ではない。いくらそっくりには描かないと言っても、やはり本人達の許可を取らなければ。


「出来た。『ベンチに座る百合カップル』」

「凄い、 これ私達なんだ! 可愛く描けてる」

「君、絵が上手いんだね」

「えへへ、ありがとうございます、一応プロなので」


 女の子が二人、ベンチに座ってたらそれはもう、百合なんだよ!


「何より、尊すぎない? この絵の私達」

「周りには、こう見えてるってこと?」

「そうですよ、お二人はとても尊いですので」

「ありがとう、じゃあお礼に、私達と遊ぼう!」


 思いがけない言葉に、私は動揺した。


「あっいえ、結構です。お二人でイチャイチャを続けてください。私はそれを見てるだけで十分ですから」

「遠慮しなくていいの、お礼だから」

「たっぷり可愛がってあげるね」


 そう言うと二人は、私を挟みうちにして、両腕を掴んで、私が逃げられない様にした。


「おー、彩果ちゃん、両脇に美女だね」

「百合ハーレムってやつかな?」

「違うもん! 百合に挟まってしまったぁ!」

「君小学校? 可愛いー」

「二十歳ですけど! 市内の大学に通ってるんですけど!」 

「確かによく見れば、結婚指輪してるね、でもそんなのお構いなし!」


 それからどれだけの時間が経ったのだろう。

 私は公園ベンチ百合カップルに、弄り回された。




「はぁ……はぁ……ありとあらゆる所を触られた。もうお嫁いけない……」

「もういってるだろ、清純ぶってんじゃねーぞ、絶壁貧乳非処女の癖に」

 

 隙あれば毒を吐く雪菜。でも笑顔が可愛いので許せる。


「今のは描かないの? 百合ハーレムとしてさ」 

「描かないよ……私が混ざってしまっては、意味ないもの……」


 もう夕暮れだ、早く帰って、みなもに甘えよう。

 みなもが作ってくれる手料理が食べたい。今日は私の好物を作ってくれると約束したから。今から楽しみだ。


「私、帰るね」

「えっもう帰るの? 一枚しか描けてないけど」

「今日は上手く描けないみたい、そんな日もあるんだよ」


 あれだけ百合に挟まった後だと、描くモチベーションも沸いてこない。描くかどうかは、私のやる気次第だ。


「二人を送るよ、車に乗って」

「彩果ちゃん、あそこに泣いてる女の子がいるよ、どうしたんだろ」


 雪菜が指指す方向には、女の子がいた。しかも泣いているようだ。

「どうしたんだろう、迷子かな?」

「私、ちょっと声をかけてくる」

「大丈夫? 彩果ちゃん」

「大丈夫だよ、」

「いや、そうじゃなくて、事案発生かと思われるかもだよ。小さな女の子に成人女性がいきなり声をかけるなんてさ」

「うう……確かに」


 先に言っておくが、私はロリコンではない。

 ただ『おねロリ』は好きだ。お姉さんと幼女の組み合わせが尊くない訳ない。


「防犯ブザー鳴らされたら、助けてね」

「女の子を?」

「私をだよ!」


 もしかして、私ってロリコンと思われているのだろうか。別にロリが好きな訳じゃないのに。

 

 ロリ同士の百合『ロリ百合』は好きだけど。

 ロリと百合は切っても切り離せない。


「いいから早く声かけてやれよ、絶壁貧乳非処女ロリコン」

「はい……」 




「どうしたの? どこか痛いの?」


 私は声をかけた。決して怪しい者ではありませんよ。ロリコンでもありません。でも『おねロリ』と『ロリ百合』が好きなだけの二十歳ですから。


「ぐすっ、風船が木に引っかかっちゃって」

「あー、たしかに、手を離しちゃったのかな」

「ママに買って貰ったのに……どうしよう」

「私が取ってきてあげる!」


 そう言うと私は、風船がかかっている木によじ登り、風船を掴んで、するすると降りて、女の子に返してあげた。

 木登りは危険だから、良い子は真似しないでね。


「ありがとう、お姉ちゃん」

「どういたしまして」

「彩果ちゃん、本当に運動得意だよね」

「小中高と、うちと組んで体育祭を蹂躙したからね、その時に比べて、衰えてはないみたいだね」


 そんな事もあったな、運動が得意な私と陽花が全競技に出場して、毎年優勝してたっけ。無法すぎるから、『色彩果と日野陽花は五競技まで』という特別ルールが作られたくらいだ。


 「佳奈(かな)! どこ行ってたのもう…」

 「ごめんなさい、ママ達から貰った風船を離して、木にかかってたの」

「それでずっとここにいたのね、そんな事で起こったりしないわよ」

「でも、このお姉さんが風船を取ってくれたんだ」

「えっそうなの、ありがとうございます」

「あっいえいえ、お安い御用ですよ」


 女の子の母親だろうか、綺麗な人だ。もちろん、みなもの方が美人だけどね、 えっへん!


「全く、佳奈はおっちょこちょいだな」

「えへへ、ごめんね、ママ」


 もう一人の女性もママと呼ばれていた。

 この人も母親なのだろうか。て言う事は……

 『百合夫婦とその子供』! なんて尊いんだろう……


「お姉さん、この風船あげる!」

「えっ、いいの? 貰ってしまっても」

「うん! 私はもう大丈夫だから! お姉さんが持ってる方が、風船も喜ぶと思うの」

「ありがとう、じゃあ遠慮なく」

「佳奈、良かったの? 風船」

「うん、私にはママ達がいるもん、それに風船を持ったままだと、ママ達と手を繋げないからね」

 

 そう言うと、女の子が二人の母親と両手ブランコをしながら、帰り始めた。

「このまま家まで帰るぞー!」

「それはさすがに疲れるかな」


 私は視界に入らなくなるまで、三人を見守っていた。


「はぁ……なんて尊いんだろう」

「彩果ちゃん、子供欲しいの? だったら私が名付け親になる!」


 まだ何も言ってないのに、勝手に話を進める雪菜。


「まだ作るとは言ってないよ、でも落ち着いたら、考えてもいいかな」

「彩果ちゃんとみなもさんの子供だから、二人から一文字ずつとって、『水彩(すいさい)』は名前はどう?」

「どうっていわれても……いい名前なんじゃない?」

「じゃあ決まり! 色水彩(しきすいさい)! 男の子にも女の子にも付けられる名前だね」

「素敵な名前だね、雪菜は、ネーミングセンスがあるね、うちじゃ思いつかないから」

 

 なんか、勝手に名前まで決められた。どんだけ名付け親になりたいんだ。でも悪い気はしない。雪菜が考えてくれたんだ。覚えておこう。


「で、雪菜、どう? 絵本の方は」

「新月ちゃんに色々教わってるからね、役立たずの彩果ちゃんの出番はないよ」

「そう、それなら良かった」


 新月……私を許して。




「みなもー!」

「よしよし」


 私は帰宅早々、みなもと惚気ていた。


「今日は彩果の好物を沢山作ったからな。焼きそばに茶わん蒸し、彩果の健康を考えて、塩分を減らしてるぞ、それでも美味い筈だ」


 愛妻の手料理に舌鼓をうつ私。やっぱりみなもは料理が上手だ。私の体を気づかって、栄養バランスも考えでくれてる。

 私は全く料理が出来ないので、インスタンス食品に頼ってしまいがちだ。

 私も料理を勉強しようかな……


「ねぇみなも、私に料理を教えて」

「あ? 別にいいけど、どうしたんだ」

「私も料理したいの、みなもにばかり、負担をかけたくないもん」

「お前そんな事考えてたのかよ、さすが私の嫁だな」

「教えてくれる?」 

「もちろんだ、夫婦で作った方が、効率も良くなるし、何より楽しいからな」

「ありがとー、みなもー!」

「よしよし」


 またいつもの様に、みなもと惚気ていた。この時間がたまらなく幸せだ。だから今はみなもと二人で暮らしたい。もう少ししたら、その先の事も考えてもいいかな。

 みなもと私の未来を、少し想像してみた。

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