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新月の未練

 「あの二人……本当に仲良いよな……」


 部室に一人残ったあたしは、一人絵を描いていた。


 晴海とあたしが世界で一番尊いカップルに決まってるんだから負ける訳ないんだ。再戦を申し訳込んで、今度こそは勝つつもりだ。負けっぱなしではいられないからね。


 ……みなもさんが羨ましいと思う時がある。彩果を独り占めしているんだもの。あたしが好きだった彩果をね。あたしの初恋相手だったのに。あたしがどれだけ彩果の事を思っていたか、彩果は知らないんだろうな……


 とくになしだった毎日に色彩をもたらしてくれた彩果に芽生えた恋心。彼女を自分のものにしたいと、ずっとアピールをし続けた。だけど彩果は振り向いてはくれなかった。あたしの事はあくまで友達としか見ていなかったんだ。


 中学校の卒業生の日。あたしは彩果に気持ちを伝えた。そして振られた。彩果は泣いていた。あたしを傷付けてしまったと思っていたようだ。


 そんな事を気にする必要はないのにね。あたしが勝手に告白して勝手に振られただけなのにさ。本当、何処までお人好しなんだか。


 彩果の前では笑顔を装っていたけれど、家に帰ってからは涙が枯れる程泣いた。失恋の悲しさで号泣した。あたしは彩果には相応しくないんだって、認めるのが悔しかったから。暫く食べ物が喉を通らなかった。


 冬休みの間、ずっとベッドに潜り込んでいた。何もする気が起きなかったから。お母さんは心配してご飯を部屋に持って来てくれた。あの人はやっぱり過保護だ。あたしに怒った事なんて一度もない。あたしを叱りつけても良かったのに……それだと逆効果だと理解していたのかな。


 ……自分の名前が満月だからって、娘に新月と付ける人だけど……いい加減に見えて娘思いなんだろうな。あたしが小説を書く事を否定しなかった。あたしが描いた小説を面白いと評価してくれた。始めて人にそう言って貰えて、自信になったのを今でも覚えてる。だからお母さんには感謝しかない。

 

 冬休み中に雪菜と陽花が励ましに来てくれた。本当に良い友達を持ったと実感するよ。雪菜の励ましのダンスは意味が分からなかったけれど……


 アニメのオープニングで謎ダンスをするのがが流行っていたから、それを真似したらしいんだけど、やっぱり意味が分からなかった。見てるだけでマジックパワーを吸い取るモンスターみたいだった。でも可愛いから許せてしまうのだから美人は得だよな。腹黒いけど。


 あと謎ダンスには相手を洗脳する効果があるらしい。あの籠絡するハグといい恐ろしい女の子だ。ただそれも陽花には通用しないらしい。どうやって無効化しているんだろ……愛の力かな。


 彩果と元の関係に戻るには少し時間がかかってしまっだけど、雪菜と陽花のお陰で関係を修復する事が出来た。やっぱりあたし達は腐れ縁で結ばれた親友だ。一生このままでの関係で居たいと思う程に。


 高校に入学して晴海と出会って、彼女に恋をした事で彩果への未練は消えていったんだ。それからは晴海に夢中だったからね。どうやらあたしは年上好きだったみたいだ。晴海はスタイルも良いからね。彩果のロリボディとは大違いだ。もう彩果なんて興味ないんだよあたしは。今が一番幸せなんだ。


 ……だと言うのに、まだ彩果に未練が残っていたなんてね。彩果に迫られただけで狼狽しちゃって、我ながら情けないよ。こんな所を晴海に見られたら詰められそうだ。他の女にデレデレするなってね。でも晴海は優しいからこんな事くらいで怒ったりはしないか。


 そろそろ帰ろう。今日は晴海に甘えたい。晴海の為に料理を作らないと行けない。あたしは部室をあとにした。




「ただいま……って誰も居ないか」


 晴海とあたしの住む家。あたし達の愛の巣。高校を卒業してからは実家を出てこの借家で暮らしている。


 彩果は教師の生徒のカップルの卒業後の物語と言っていたけど、まさにその通りだと思う。もう関係性は変わった。敬語で話す事もなくなった。本当の意味での恋人関係になったのだと実感する。


 あたしは晴海の好物を沢山作る事にした。晴海は全く料理が出来ないのであたしが作るしかない。少しは手伝って欲しいものだけど、学校の先生というのは結構忙しいらしく、そんなゆとりはないらしい。だからあたしが栄養のある料理を食べさせて、英気を養わせないと。夜の相手もしてもらわないとだし。


 料理しているとスマホが鳴った。電話だ……相手は真白か。


 彩果の妹の色真白。ボーイズラブの絵を専門に描くプロ絵師。姉妹揃って絵師とは血は争えないな。


「師匠! お久しぶりです! この度は師匠の作品のイラストを描かせて貰う事になって光栄ですよ!」


 ……そうだった、あたしの新作ラノベ『気になる彼女から目を離せない!』のイラストを真白が担当する事になったのだ。姉妹揃ってあたしの作品の担当をするなんて、これも何かの縁かな。


「こっちこそ光栄だよ、真白に描いて貰えるなら売れるだろうからね」

「僕がプロになれたのは師匠のお陰ですよ! その恩返しをする時が来たんだと思います!」


 確かに、絵の基礎を真白に教えたのはあたしだ。だけど少し教えただけに過ぎない。真白はみるみる上達していって、今やトップ絵師になっている。姉妹揃って天才絵師だなんて……嫉妬で狂いそうだよ。あたしに文才があって良かった。


「ただ、師匠の描かれる作品のジャンルがどうやら百合みたいで……僕はボーイズラブしか描いた事ないんで、どうやって描けば良いのかなって……教えを請いたくて電話したんですよ」

「……百合絵の事なら彩果に直接聞けば良いと思うよ。百合絵の神様だからね」

「成程……帰って直接教えて貰いますね!」


 直接って……真白は浦和のお嬢様校に通っていて寮生活の筈だ。帰省して彩果とみなもさんの愛の巣に踏み入るつもりか……想像したら面白そうな展開だ。


「……そうだな、二人のエッチを見せて貰って、描けば良いと思う。二人は拒むだろうけど、押しが肝心だよ。そうすればいつか見れると思うから。そしてその時の話を後で聞かせて欲しい。」


 少しあの二人を困らせたくなった。だから真白を利用する事にしよう。真白の前ではイチャイチャ出来ても夜の営みまでは出来まい。困惑する二人が目に浮かぶ。


「分かりました! では敗北ヒロイン同士、これからも宜しくお願いしますよ師匠!」


 そう言って電話を切った。真白が百合絵を描くとはね……それはそれで見てみたい。


 ……敗北ヒロインか、確かに真白も彩果を想っていたけれど、みなもさんに負けたんだよな。実の姉妹が結ばれる事など、創作で中でしかありはしないのに……


 しかし、あたしと真白を振った彩果は本当に罪な女だと思う。小中高とモテモテで彩果ファンクラブが存在していたからな。だけど彩果は自分がモテモテだった事に気付いていなかった。どこの鈍感キャラだよ……あるいは気付いていたけど、みなもさんがいるから知らないふりをしていたのかな……


  料理を作り終えたあたしは、晴海の帰りを待つことにしたのだった。




「ただいま新月。今日も疲れたわ」

「お帰り晴海。ご飯にする? お風呂にする? それとも……あたし?」


 一度は言ってみたかった新婚三択。晴海はどんな反応をするのかな。


「勿論、新月にする! もうムラムラして仕方ないからね!」


 そうだ……晴海は性欲が異常に強いんだ。あととんでもない性癖の持ち主。毎回相手をするあたしが疲れるよ。


 そもそも自分の生徒と恋愛する女がまともな訳がない。彩果達には聖人に見えているんだろうけど、この事を知ったらどう思うのかな……


「……せめて風呂に入ってからにして欲しい。あたしはこう見えても潔癖症なんだよ」

「じゃあ一緒に入ろ、背中流してあげる」

「分かった。あたしも晴海の背中を流してあげるよ」


 良かった。帰宅早々のエッチは回避出来たみたいだ。食事の前にそんな事したらあたしの体力が持たないだろうから。それくらいに晴海の絶倫ぶりには驚かされる。こんな事を彩果達が知ったら本当にどう思うのだろう……どうも思わないか、あの三人なら。それ以上に晴海に恩義を感じているからね、あたし含めて。



 

 彩果は貧乳と巨乳の組み合わせが好きだと言ってたな。晴海とあたしはどっちも巨乳なので、そこは相容れないだろうな……巨乳同士の百合も良いのに。


「晴海、学校はどう? 生徒達と上手くやってるの?」

「勿論! 皆良い子達だし、毎日が楽しいわ!」

「あたし達が生徒だった時とどっちが楽しい?」

「勿論新月達の方が楽しかったわ」

「はっきり言うね……生徒さん達が聞いたらガッカリするだろうね」


 学校の教師というものは、今担当しているクラスが最高だと毎回言うものだ。お前達が私の最高の生徒だと毎回言う。例え嘘でもね……だから教師の言葉なんて信じなかった。晴海と出会うまでは……あたしが初めて心を開いた教師が晴海だった。


「良いよなー晴海はおっぱい大きくて」

「ねぇ新月、子供欲しくない?」

「唐突だね……おっぱいの話を振ったのに」 

「いえ……妊娠するとおっぱいが大きくなるっていうじゃない? 新月が妊娠すれば巨乳になれるわ」


 何を言い出すんだか。確かに同性でも子供を成せる世界だ。どっちが身籠るかは分からないけれど、あたしが妊娠すれば授乳の為におっぱいも大きくなるだろう……一次的にだけど。


「それは出産の後の授乳期だけだろ……直ぐに元に戻るよ」

「あれ? そうだっけ?」


 知らないのかよ……性教育の授業は保健室の先生が担当していたから、晴海は門外漢なのかも。あの先生は確か別の女性体育教師と付き合っていたな……教師同士の百合カップルだって、彩果が夢中になっていたな。というかそっちはお咎めなしなのかよ……職場恋愛ってタブーじゃないのか?


「別に今のままでも十分だよ。大き過ぎても良いことないし、彩果よりは大きいからね」

「……新月って彩果さんの話を良くするよね」

「そんな事ないよ、確かに初恋の相手ではあるけど、今は大切な親友だよ」

「そう、なら良かった。友達は大切にね」


 そんなのは当然の事だ。ていうかあたしって、そんなに彩果の事を話題にしているのか? やっぱり未練があるのかも知れない……いや、未練は残っている……それは恋愛対象とは違う意味の未練だけど。




 あたし達は夕飯を食べていた。晴海の為に健康志向の料理ばかり作っている。一秒でも長く生きて一緒に居たいから。それで一緒に看取り合えたら本望かな。 


「さすが新月ね。料理の腕前は埼玉一だわ」

「範囲狭っ、正直市内一でもない気がするよ」

「謙遜しなくて良いのよ。新月の料理は私の中では宇宙一の味なんだから」

「晴海!」


 あたしは食事中だというのに晴海に抱きついた。


「よしよし」


 晴海はあたしの頭を撫でてくれている。まるで彩果とみなもさんみたいだ……あの二人もこんな感じでイチャついていたな……あそこまで大胆じゃないけれど。




 夕飯を食べ終えた晴海とあたしは、ベッドで横になっていた。勿論同じベッドで寝ている。


「ねぇ新月、彩果さんの事好きだったのよね」

「そうだけど……もう未練なんてないよ」

「もし彩果さんと付き合える事になったら……どうする?」


 あたしを試しているのだろうか。その質問に対する答えは一つしかないと言うのに。


「彩果とは付き合わない。あたしは晴海を選ぶよ。何万回聞かれたって、答えは同じだよ」

「そう……良かった。私を選んでくれてありがとう新月」

「何を今更……あの時、あの砂浜で誓ったじゃないか。一生一緒だって」

「そうね……余計な心配しちゃった。どうも彩果さんに嫉妬してたみたい」

「じゃあそんな嫉妬を抱かないような事をしよう」

「ずっと我慢してたんだから……今夜は寝かせないわよ」


 晴海とあたしは裸になって体を重ねた。晴海のスタミナは無限大なので、いつもあたしの体力が尽きるのが先だ。でもこれがあたし達の愛の証明だ。あたしは晴海に身を預ける事にした。この時間があたしにとって一番幸せな瞬間だ。快楽に溺れる事が幸せだなんてあたしは変な女なのかもしれない。彩果に知られたら笑われるかもな……




 気付いたら朝になっていた。やはりあたしが先に疲れ果てて寝てしまったようだ。本当に凄い体力だな。


「……晴海はさ、何でそんなにスタミナがあるの?」

「体育教師だからね、普段から鍛えてるのよ」


 体育の授業で二人組を組む時にいつも孤立していたあたしと組んでくれたのが晴海だった。晴海は真剣だったのだろうけど、当のあたしは晴海の体と密着する事に興奮していた。喜びを感じていた。最低だなあたし……

 

「今日は大学休みだし、もう一眠りするよ」

「新作小説は描かなくていいの?」

「もう殆ど描き終えてるからね。真白の絵を待ってる状態だよ」

「じゃあ、少し休んだら続きをしましょ」

「まだする事なのかよ……本当に絶倫だな晴海は」

「私と付き合うって事はこういう事なのよ」

「全く……」




 あたしは晴海の事が好きだ。大好きだ。性欲が強くて変な性癖があるけど……そういう所も好きだ。晴海に夢中になっている。

 

 晴海は体調を崩していたあたしを介抱してくれた。彼女の優しさに触れたあの時に彼女に惚れ込んだんだ。あの時から晴海しか恋愛対象に見れなくなった。


 晴海とあたしは王道の恋愛漫画の主人公達みたいな恋物語を経て恋人になった。あたし達の場合は同性だったけどそんなの関係ない、この世界では当たり前の事だ。こんなあたしだけど甘酸っぱい青春を送っていたんだ。彩果にはずっと尊いと思われていた。雪菜と陽花も応援してくれていた。

 

 でも教師と生徒の恋愛は許されてはいない。あたし達の関係が学校にバレて、あたしは停学処分。晴海は懲戒免職が下された。それが許されない関係を持ったあたし達への罰だった。


 その時に彩果達が理不尽だと怒って、校長先生に直訴したらしいだよね。あたし達の処分を取り消して欲しいって。愛に壁なんてないんだって。全く、何処まで良い友達なんだよあいつら。


 雪菜が例の謎ダンスを披露して、校長を洗脳しようとしたけど効果なし。陽花は当時流行っていたアニメのキャラのコスプレを披露してみたけど効果なし。校長は二次文化には全く興味なし。それ以前に生徒の言葉に聞く耳なんて持ってないんだ。


 でも彩果が教師と生徒の百合絵を描いて見せたらあっさり尊さに悶えて、処分を取り消してくれたんだよね。また彩果に助けられてしまった。


 あたしの停学期間の短縮。晴海の懲戒免職は取り消されて停学処分に変更された。だから一応の罰は受けた。


 停学中も彩果達が家まで来てくれた。


 雪菜は謎ダンスであたしを励ましてくれた。でもやっぱり意味不明だし、マジックパワーを吸い取られそうだった。


 陽花はコスプレを披露してくれた。今思うとトッププロコスプレイヤー『ひなた』があたしの為だけにコスプレしてくれたんだよな……贅沢な話だよ。今じゃ陽花がコスプレするだけで人だかりが出来るくらい人気者だからね。


 彩果はあたしの為に絵を沢山描いてくれた。ぷらむ先生があたしの為だけに絵を描いてくれるなんて、こんな嬉しい事はないよ。その絵は今も大切に保管している。もっと彩果に絵を描いて欲しい……だからもっとラノベを描いて、絵師ガチャで彩果を引き当てて描いて貰うんだ。


 まさか彩果の妹の真白を引き当てるとは思わなかった……我が弟子の真白の絵も楽しみだけど。


 もう彩果への未練はない。とくになし。今がとても幸せだから。ただ一つだけ未練があるとするならば、あたしが彩果を好きになってしまった事だ。それで彩果を傷付けて泣かせてしまった事だ。


 「ごめんね新月……私を許して」


 全く彩果はお人好しだ。好きでもない相手を振っただけなのにあんなに泣いて傷付いて……


 だからあたしは償わなければならない。彩果を楽しませなければならない。ずっと笑って欲しい。喜んで欲しい。その為ならあたしは幾らでも道化になれる。


 親友として彩果を幸せにする。それがあたしの彩果に対する贖罪なのだから。

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