水面に浮かぶ新月
昼下がりの美術室。私はみなもに抱きついていた。
「えへへ……みなもー」
「ったく……甘えん坊だな彩果は」
「惚気かよ」
「彩みな……彩みな……」
呆れる陽花に、尊みを感じる雪菜。そして存在感を消している新月。余程みなもの事が怖いのだろう。
「ねぇ、みなも。売店でパン買ってきて」
「みなもさん、お茶汲んで!」
「みなもさん、部室を掃除してくれますか?」
「何で私をパシリに使うんだよ……私は年長者だぞ」
「みなもがいちばん後輩だから、年は関係ないよ」
「芸能界かよ……」
「彩果ちゃんと同じツッコミしてる、やっぱり夫婦なんだね」
「えへへ……みなもと私は一心同体なんだ。夜だけじゃなくて昼もね」
どうせスルーされるので軽く下ネタを言ってみた。
「はわわわ、彩果ちゃんとみなもさんの夜の営み……見てみたいけど、見ちゃ駄目!」
雪菜だけが反応してくれた。みなもと私のカップリングは彼女の最推しらしい。
「彩果、このサークルは普段何してるんだ?」
「特別何かをやっている訳ではないかな」
「絵を描かないのか? 美術サークルなのに」
「雪菜が絵本を描きながら陽花とイチャイチャする為に作ったサークルだからね」
「へぇ、雪菜が絵本をね……」
「みなもさんも読んでみたい?」
「是非」
「発売されるまでだーめ!」
「なんだそりゃ、まぁいいや、雪菜先生の絵本が発売されるのを楽しみにしてるよ」
雪菜の絵本は今度出版社に持ち込むらしい。それでプロになれるかが決まる。もし断られたら、私は何て声をかければいいのだろうか。雪菜が挫折してしまったら、私は……
「彩果ちゃんまた暗い顔してるよ、ほら笑って! むにー」
私の両頬を引っ張る雪菜。どうやらまた曇り顔になってしまっていたらしい。
「ごめんごめん、ちょっと考え事してて……」
「私の事なら大丈夫だよ、絶対プロになって見せるから! それにもし断られても、何度でもチャレンジするから! 折れたりはしないもん」
「雪菜……そうだね、ごめん! 余計な心配して」
「だから呑気な顔して見てろっての! この絶壁貧乳心配性女!」
「良かった……ポイズン雪菜も健在で」
「貶されたのに安心してるよ、これも友情ってやつなのか?」
「そうみたいですね、この二人の友情というのは、私とみなもさんが想像するものとは少し違うものなのかもしれません」
別に特別変わった事はないと思うんだけどな。ただもう少し雪菜にはオブラートに包んでほしいと思う事はあるけどね。
「みなも! ここで漫画描こうよ」
「あぁ、そうだな、タブレットを持ち運べばいいだけだからな」
「そういえば二人で新作を描くと言ってたよね」
「百合園で連載が決まったからね、いよいよ本格的に執筆していくつもりだよ」
「ファンの間では、その話題で持ちきりだよ、りぷとん先生とぷらむ先生がコンビを組んで百合漫画を描くんだからね。私も一人のファンとして楽しみにしてるんだ」
それは知っていた。私のフォロワー達が喜んでくれていたからだ。本当は黙っているつもりだったのだけれど、連載が決まった事を公式が告知したのだろう。
「雪菜ってさ、百合好きだっけ?」
「知らないの? みなも、私の影響を受けて百合作品のファンになったんだよ。それで絵本も百合がテーマに……」
「ちょっと彩果ちゃん! ネタバレ禁止!」
「あっごめんごめん、つい……」
「へぇ、絵本で百合か、面白そうじゃん」
「ちょっとだけ読ませて貰ったけど、面白かったよ! 早く続きが読みたいなぁ」
だから絶対に書籍化されて欲しいんだ。あの続きを読みたいから。導入としては完璧だったから、どうやって終わらせるのかが、気になって仕方がない。
「お二人の新連載はどんな漫画なのですか」
「来月号から連載が始まるからね。それをお楽しみに」
そう、いよいよ来月号の百合園で『オーバーキル』の連載が始まる。どんな反響があるのか楽しみでもあり、不安でもある。でも自信はある。だってみなもと私が描いた作品なんだもん。絶対上手くいく。
「なら、早く続きを描かなくていいのですか? 原稿が間に合わないなんて事になってしまいますよ」
「二話の原稿はもう完成しているからね。今は三話目のネームを描いている所なんだ。締め切り厳守だよ」
「しかし……彩果は本当に凄いですね。色々な事をこなしているのですから」
「えへへ、確かに」
「自慢かよ」
百合園の表紙を描く事。
『オーバーキル』の作画担当。
ライトノベルのイラスト担当。
『百合夫婦』がテーマのイラスト集。
私が今やっている事。無理せず一つ一つこなしていこう。自分のペースで、これも百合の尊さを伝える為なのだから。
「彩果、辛いなら無理せずに休んでいいぞ、ただでさえ、学業と両立させるのは大変だからな。体が資本だぞ」
「うん、分かってる。竜子様にもそう言って貰えたからね」
「あの人には感謝しなくちゃな、私達の恩人なんだから」
「その恩を返す為にも、絶対大ヒットさせなくちゃね!」
「勿論だ。彩果と私の愛の力なら、出来ない事はないよ」
「みなもー!」
「よしよし」
「惚気かよ……さっきからイチャイチャしやがって……」
惚気ずにはいられない。だって今日からみなもと同じ大学に通えるんだもん! その事が嬉しすぎてたまらない。
「まさか惚気る為に大学に来たの? 呆れた」
「陽花とイチャつく為にサークルを作った雪菜に言われたくないんですけど」
「新月ちゃんも何か言ってあげなよ」
「ビクッ!」
これまでずっと美術室の隅っこで気配を消していた新月に、全員の視線が注がれる。いつもなら真っ先に駆け寄ってキスしてるだろうに、みなも相手だと大人しい。
「新月、まだみなもの事が苦手なの?」
「……」
新月は下を向いて黙り込んでいた。みなもの事を見ようともしない。それを見兼ねたみなもが、新月に近づいて話し掛けた。
「新月……」
「あたしはここに存在していません、なので話し掛けても無意味なのである」
「何言ってんだ、お前。ちゃんと私の方を見ろ!」
「ひぃぃ! 怖いいいい!」
「新月!」
新月が怖がっている。こんな表情をする彼女は初めて見たかも。本当に二人の間に何があったのだろう……
「みなも、もっと優しくしてあげて」
「そうですよ、あたしはみなもさんが怖いんですから、もっと優しくしてくださいよ」
「これでも優しくしてるつもりだ」
「あの時みたいに、あたしを睨みつけてるじゃないですか」
「あの時?」
「あたしが……みなもさんにキスをしようとした時だよ」
何だそりゃ、そんなの聞いた事ないぞ。
「あぁ……あの時か」
「ちょっとどういう事? 新月とキスしたの?」
「する訳ないだろ、逆に説教してやったんだよ」
「あぁ……恐ろしい、純粋無垢だったあたしに、あんな怒る必要なんてないのに」
「何処が純粋無垢なんだよ」
つまりこういう事らしい。新月が他の女の子達にキスするノリで、みなもにもキスしようとしたら、阻止されて説教されられたようだ。その怒り方が怖すぎて、新月のトラウマになっているのだとか。
「女の子が誰にでもキスするんじゃねぇ! そういう事はな、 本当に好きな相手としかしちゃいけないんだよ! 分かったか!」
「ひぃぃ! ごめんなさい!」
こういう流れだったらしい。男の子だったらしていいのかとか、好きじゃない相手にも普通にキスしてるとか、そういう事は置いておく事にしよう。私も新月や雪菜とはキスしてるからね。友達としてだけど。
「みなもさんはあたしにとっての恋敵だからね、彩果が惚れたのはみなもさんだ。つまり、あたしがみなもさんを惚れされば……彩果はあたしのものになるっていう理屈だよ」
意味が分からない、何でそうなるのか。みなもが新月に惚れたとして、私が新月の事を好きになる理由にはならないのに。もしそうなったらどんな手を使ってでも、みなもを連れ戻す。
「私は彩果にしかなびかないよ」
「みなもー!」
「よしよし」
「惚気かよ」
「あたしと真白を敗北ヒロインにした罪は重いよ……みなもさん」
真白ちゃん? 確か新月とは師弟関係を築いているんだっけ。でも敗北ヒロインにしたってどういう意味なんだろ。真白ちゃんはこがらし先生と恋人関係の筈だけど。
「もしかして、まだ私に未練があるの?」
「とくになし」
「じゃあいいじゃん」
「あたしには晴海がいるからな、ロリボディの彩果より、余程魅力的な女性がね」
また晴海先生の自慢話か。でも未練がないのならそれで良い。私のせいで新月が傷付くのが嫌なだけだから。
「とくになしって事はよ、全くない訳ではないんだな?」
「な……そういう訳ではないよ」
「そんな事言って、本当は彩果に未練たらたらなんじゃないか?」
「みなも? 急にどうしたの?」
「ククク、彩果の正妻として、勝利ヒロインとして、敗北者をおちょくってやろうと思っただけさ」
悪いみなもが出た。新月が本気で困惑している。こういう所は見たくないので、やめさせる事にした。
「もう、そんなみなもは嫌い!」
「んなぁ……悪かった、だから許してくれ……彩果に嫌われたら、私は生きていけない」
「新月に謝ったら許してあげる」
「からかってすまなかったな、悪気はない訳じゃなくて、滅茶苦茶あったけど、許してくれ新月」
「……別に、あたしは大人だからね、子供のする事にはいちいち目くじらを立てないのさ」
「ぐぅ……彩果に嫌われるくらいなら、これくらい我慢だ」
みなもが言いくるめられるなんて……ここは新月の勝ちという事か。
「それに、彩果はあたしなんかより、みなもさんといる方が幸せそうですから」
「新月……」
「あたしはとくにない女ですから、つまらない女ですので、彩果には相応しくなかった……それだけの話なので」
事あるごとにすぐ自分を卑下しだす、こういう新月が一番嫌いだしつまらない。何でも良いから新月を慰めないと……何かそれっぽい言葉を並べて……駄目だ思いつかない。私はみなもに助け船を出した。
「そんな事ないと思うぜ、とくになしってのは、何もないって訳じゃないんだろ?」
「まぁ、確かに……」
「新月だって、良い所あるよ、それが言いたかっただけだ」
「そんな事を改めて言われると、なんか照れますね」
「悪かったな、彩果を取っちまって、許してくれ」
新月の頭をくしゃくしゃと撫でるみなも。
「別に、あたしには晴海がいますので、みなもさんよりも魅力的な女性がね」
「悪かったな、私に魅力が無くて、彩果にだけ伝われば良いんだよ」
「みなもー!」
「よしよし」
「惚気かよ、全く……雪菜と陽花といい、このサークルにはリア充しかいないな」
「新月はお一人様だからな」
「違いますーあたしには晴海がいますー」
ナイス! さすがみなもだ。新月が元気になってくれた。
「もう私の事、怖くなくなったみたいだな」
「あれ、本当だ。みなもさん恐怖症を克服出来た!」
「私を恐怖症みたいに言いやがって……」
「よし! 今ならみなもさんにキスできる!」
「あほか! しようとするんじゃねぇ!」
「ちなみに私はキスされてるよ。何度もね」
「なんだと……おい新月! そこに座れ! 誰にでもキスするなって言っただろ!」
「ひぃぃ! やっぱり怖い!」
ひとまずこれで一件落着かな。新月も本気で怖がってる様子じゃないから。自然と打ち解けて行くだろう。
「そう言えば、みなもさんって絵が描けますよね」
「当たり前だろ、漫画家だぞ。あの『つきめば』の絵を見た事ないのか?」
「ありますよ、中々上手でしたよね」
「中々って何だよ。別に絵が上手いだけが漫画じゃないぞ、内容の面白さも大事だからな」
「あたしもあの作品を読みました。面白かったですよ」
「だろ? 私の代表作だからな」
……良かった、『つきめば』を呪縛と読んでた頃のみなもじゃない。彼女の誇りになっていた。
「でも『つきめば』ってアニメ化されてませんよね! その点あたしの『死にかけ女神』はアニメも大ヒットしましたから。羨ましいでしょー」
「くそ……そこを突くのは反則だぜ」
何やらアニメ化の有無で張り合い始めたぞ。別にアニメ化されてようとされてまいと、面白い作品は沢山あるのに……
「私にアニメ化マウントを取るんじゃねえ!」
「十一巻も出ててアニメ化される気配すらないなんてね」
「だったら!『つきめば』は累計百五十万部売れたんだが? 新月のはどれくらい売れた?」
「……百万部」
「勝った!」
「売上でマウント取るなんて、小さい人」
「うるせぇ、お前から仕掛けてきたんだろうが」
こういうマウントの取り合いはやめて欲しい。どちらも私の大好きな作品なのに……
「『死にかけ女神』はコミカライズも大ヒットしましたから!」
「『つきめば』はノベライズも大ヒットしたぞ!」
「ねぇ、もうやめてよ。そんな事で争わないで! どっちも凄い作品なんだよ!」
「彩果……ごめん、見苦しい所見せた」
「彩果のそんな悲しそうな顔、見たくない」
良かった、仲直りしてくれそうだ。
「だが決着は付けなければいけねぇな、新月」
「勿論ですよ、このままひきさがれないので」
駄目だ、まだ張り合うつもりだ。好戦的過ぎるよ……この二人。
「絵で決着をつけましょう! いいね対決でね」
「何だそりゃ?」
「百合絵を描いてそれをSNSに投稿して、いいねの数が多い方が勝ちってルール。前に私と新月がやったやつだよ」
「何だ、なら私の勝ちだな。私は百合漫画を描き続けてきたんだぜ? 負ける気がしないよ」
「あたしだって、プロの絵師としても活躍してるんですよ? 負けるつもりはありません」
どうやら絵を描いて決着をつけるらしい。それならマウント合戦よりはマシだろう。
「テーマはどうするんだ?」
「好きな絵を描いていいですよ。あたしはそうするつもりなんで」
「じゃあ私もだ。一番尊いと思った絵を描く事にする」
またサークルを巡るのかと思ったよ。でもどんな絵を描くのか気にはなるな。私は楽しみに待つことにした。
……ていうか、『死にかけ女神』ってコミカライズされてたんだ。私とした事が知らなかった、帰りに買いに行こう。
一時間後……
「出来た! 私の絵は『絵師と漫画家の百合』だ。ちなみにモデルは彩果と私だ」
「みなもー!」
「よしよし」
「惚気かよ」
まさかみなもと私をモデルに描くなんて、さすがみなもだ。
「あたしの絵は『教師と生徒の百合』だよ」
「それって、新月と晴海先生がモデル?」
「そう! 晴海とあたしは一番尊いカップリングだからね」
「みなもと私の方が尊いもん!」
「じゃあ決着つけようか」
「ちなみに私はSNSをやってないぞ、だから彩果のを使わせて貰う」
ちなみにみなもがやっていない理由は、面倒くさいからとの事。みなもらしい。
「え……彩果ってフォロワー百万人なんだけど、それに対してあたしのフォロワーはその半分以下。あたしのフォロワー少なすぎ……」
「何だ? 戦う前から怖気付いてんのか?」
「そんな訳ないでしょう! 尊さの前には数字なんて無意味ですよ」
新月にしては良い事を言う。だとしても勝つのは私達だろうけど。
「さぁフォロワーの皆! 百合絵を描いたから見せてあげる! と言っても描いたのは私じゃなくてパートナーである、りぷとん先生だけど」
「りぷとん先生の百合絵、見てみたいです!」
「『つきめば』のあの尊いキャラデザインを描いたりぷとん先生の絵……楽しみ!」
「ぷらむよ、我々の心を弄るのがそんなに楽しいのか? 尊いに決まってるじゃないか」
「さぁ、今日も百合の尊さに悶えちゃえ!」
みなもの絵が八十万いいね。
新月の絵が四十万いいね。
ダブルスコアでみなもの勝ち。
「よっしゃあ! 私の勝ちだ!」
「みなもー!」
「彩果と私の尊さが証明されたな」
「何故だ、また負けた……」
うなだれる新月に、なんて声を掛けようかと悩んでいた。彼女を傷付け無いように慎重に言葉を選ばないと。
「新月と晴海先生も尊いよ。だから元気出して」
「慰めの言葉など不要、こんな対決に何の意味もないのだからね!」
「自分で言い出したんじゃねぇかよ……」
「あたしが勝たないと意味なんてない! それに負けを認め無い限り負けてない! だからあたしは負けてない!」
そうだ、新月はこういう奴だった。心配して損したよ。でも落ち込んで無くてほっとしている自分が居る。
「こうなったら雪菜、陽花、二人が決めてくれ。晴海とあたしの方が尊いよな? て居ないし!」
「二人ならとっくに帰ったよ」
「いつの間に……確かに会話に入って来ないなと思ってはいたけど」
雪菜は興味の無い事には関わらないので、みなもと新月のマウント合戦の辺りで帰ったんだと思う。それに雪菜は彩みな厨なので、新月に勝ち目はないだろう。
……陽花はどうなんだろう。そんなに百合に興味なさそうだし。ただ雪菜が言う事は絶対なので多分みなもと私を選ぶと思う。どの道、新月に勝機はない。
「ふん! あたしに勝った所で『つきめば』がアニメ化される訳ではありませんから!」
「……」
「黙っちゃたよ……そんなに気にしてるんですか?」
「正直アニメ化は期待してた。自分の生みだしたキャラ達が動くのを見てみたいからな」
「あたしはその時の感動を今でも覚えてるよ。可愛い我が子の成長を見ている様だったよ……」
「畜生、何が理由でアニメ化されないんだよ」
「やっぱり、性描写が多いからじゃないかな?」
「確かに『つきめば』って結構エッチでしたもんね、中高生が読んだら、悶々するんじゃないですか?」
『オーバーキル』でもそれを懸念していたんだ。それらの描写を減らしていれば、『つきめば』もアニメ化されていたかも知れないと。だけどみなもはそんなのは気にしていなかった。だからエッチなシーンがあるままでアニメ化を目指す事にした。
「でも、その性描写も魅力の一つだからな、朝チュンで済まされるくらいなら、されない方が良い」
「あたしの『死にかけ女神』も一部の台詞やシーンがカットされてたからね。仕方ないっちゃ仕方ないんだけど」
「スパナでいじめっ子も歯を抜き取るシーンが無かったよね……痛みで絶叫するその子を釘バットで殴打して黙らせる場面は、見てて痛快だし、原作の見せ場の一つなのにね……」
あのシーンを映像化すると残酷過ぎて、見れたものではないと判断されたのだろう。他にも過去に自分をレイプしたいじめっ子を性的に犯してやり返すシーンもカットされていた。これも配慮なのだろう。
「まぁいいさ、彩果との愛の結晶である『オーバーキル』を大ヒットさせて、必ずアニメ化させてやるからさ」
「みなもー!」
「よしよし」
「惚気かよ」
ならば絶対に打ち切りする訳にはいかない。無理せずに休みながら、でも手は抜かずに描き上げるんだ……みなもとの共作を。
「えへへ、子育てみたいだね」
「彩果と私の子供みたいなものだろ、酔った勢いで生まれたんだからさ」
「え……二人ってもう子供いるの……」
「『オーバーキル』の話だよ。酔ってる私とのやり取りで発案したみたい」
「アルコールの無い酒だったけどな」
「どの道あたしが関わる事は無さそうだね。二人の漫画を一読者として楽しみにしてるよ。どうせイチャイチャしながら描くんでしょうけど」
その通りだ。よく分かったね新月。
「なぁ……やっぱり彩果に未練があるんじゃねえか」
「ないですよ、全く」
「そこはとくになしじゃないんだ」
「それだと少しはある事になりますからね」
「じゃあ、とくになしは今日で卒業だな」
「それとこれとは別ですよ、この言葉はあたしの決め台詞でもあり、戒めでもありますからね。使い続けるつもりです」
何だかんだ言って、この台詞を気に入っている様だ。やっぱり新月といえば、とくになしだよね。
「新月、これからもよろしくな」
「勿論ですよ。みなもさんとは気が合いそうですから」
実際、二人の相性は良いと思う。元々内気な性格だし、話も合うだろう。だから二人が仲良くしているのを見ると、嫉妬してしまうかもしれない。
「あれ、もしかして彩果、嫉妬してる? あたしとみなもさんが仲良くやれそうな事に」
「そんな事……少しはある」
「安心しろよ、私は彩果しか見えてないからな」
「みなもー!」
「よしよし」
「惚気かよ……ていうか、このやり取り何回見せられるんだよ」
そうだ、みなもが浮気する事なんてありえないのだから、心配する事なんて何一つないんだ。それに、みなもにも大星教授以外の友達がいた方が良いからね。
「みなも、そろそろ帰ろ。そして下校デートしよ!」
「いいぜ、楽しみだな」
「こういう何気ない事も、思い出になっていくんだよね! みなもを誘って良かったよ」
「またイチャイチャしてるよ。もう見飽きたから、あたしは帰るよ」
「ねぇ新月、みなもへの恐怖心はもうないの?」
私はもう一度あの台詞が聞きたかったので聞いてみた。勿論、期待通りの返事が返ってきた。
「とくになし」




