星の海を越えて
私達は夜になってから、大学校舎の屋上にやってきた。勿論あの二人に会う為に。
「まさかまた来てくれるなんてね。友達と和解てきて良かったね。奥さんも美人だねって言って欲しいんだよね? ぷらむ先生」
「流石リンさん、テレパシーで私の考えてる事が筒抜けだよ」
私が今思っていた事をそっくりそのまま言われてしまった。この宇宙人さんの前では、思考が全て読まれてしまう。
「彩果の考えてる事が分かるのか? って思ってるでしょ? 荒川みなもさん」
「こいつ……人の心を読みやがる」
「みなもに言い忘れてたね、リンさんは宇宙人何だよ」
「自称じゃなくてか?」
「本物の宇宙人さんだよ」
「……確かに、今どき珍しくもないな、私の高校にも、宇宙人が居たし。それに地底から来た奴もいたな」
「へぇー私の同族と会ったんだね」
「フウさんは地底人なんだよ」
「なんか凄ぇ時代になったな。異種族と共生してるんだもんな……」
「更に二人は恋人同士何だよ、尊いよね」
みなもは驚く事はなかった。こんな事でいちいち驚いてたら、体がもたないだろうからね。
「お友達と仲直り出来たんだね、良かった良かった。心配してたんだから」
「心配してくれてありがとうございます。でもお二人の助言のお陰で、勇気を出す事が出来ましたから」
「心が読めなくても、心を開いていれば、繋がる事が出来る……まるでみなもが言いそうなクサイセリフだねって思っているね」
「そんな事まで読めるんだね、リンさんは」
「おい待て、そんな事考えてたのか彩果。私でも思いつかないぞ、そんな言葉」
確かにみなもはこういう事は言わないと思う。多分みなもだったら、お互いに胸を開いて、腹を割って話し合え、そうすればお互いの本音が見えてくるだろ。
みたいな事を言うと思う。絶対言うと思う。
それにしてもリンさんは不思議な人だ。彼女の周りはキラキラと光っている。微粒子というやつなのかな、宇宙人さん特有のものなのだろうか。夜だと言うのに、彼女の周りは明るく発光している。ライトも付けていないというのに。
「このキラキラとしているものがなんなのか、気になるのかな?」
「まぁ……地球人にはないものなので」
「それは私にも分からないんだ。ごめんね、生まれつき光ってるんだよね」
「眩しくないのかよ、寝る時とかさ」
「一応、自分で消す事が出来るからね。一日中このままだったら、眩しくて仕方ないさ」
「宇宙人さんって、本当に不思議な存在だなぁ」
「私から見ればあなた達地球人の方が不思議だよ、どうして、浮遊出来ないんだい? どうしてテレパシーを使えないんだい? どうして……そんなに面白い物語を描いたり、絵を描いたり出来るんだい?」
「それは……分かりません」
「じゃあ私と同じだね、自分の事でも分からない事があるんだから、相手の事を知るのはもっと難しいね、パートナーが不倫してるかどうかも分からないんだもの」
そんな事まで読みとっていたのか。この人の前では、隠し事は何一つ出来ないんだろうな。フウさんも大変そうだ。
「私は不倫なんてしてないぞ、全部彩果の勘違いだからな」
「それも知ってるよ、私のテレパシーの前では全部お見通しだもん」
「私の考えてる事も分かるのか?」
「勿論、みなもさんの思考も読んでみるね……」
「どうしたんだ?」
「……これは、いやなんて言うんだろ。うん、すっごく、大きくて……重くて……胸焼けしそう」
リンさんの表情がどんどん曇っていく。みなもの私に対する巨大感情を覗いてしまったようだ。
「こんな感情、宇宙でも見た事がないよ……重すぎる……」
「リン、どうしたの? 顔色悪いよ」
「ブブブブブブブ」
「リンが壊れた! 母星語を呪文の様に唱え初めてしまった……」
「大丈夫か?」
「みなものせいみたいだよ」
「何でだよ、何もしてないだろ」
「リンがこうなると暫く元には戻らないよ、だから放置しておこう」
「ブブブブブブブ」
大丈夫かなリンさん。でもそれだけみなもが私の事を思ってくれているんだよね、嬉しい!
「フウさんはさ、地上で生活していて戸惑う事とかないの?」
「日光だね、長く地中にいたものだから、耐性がないんだよ、だから浴びるだけで目を開ける事が出来ず、皮膚が焼けそうになるんだ」
フウさんの横には日傘が置いてあった。常に持ち歩いているのだろう。
「日の光に当たる事が出来ない体か……『つきめば』の主人公みたいだね」
『つきめば』の主人公は呪いをかけられていて、日光を浴びると体が動けなくなってしまうけれど、地底出身の彼女もそれと同じなのだろう。
「ある日、私が日傘を壊してしまって、日光で瀕死の状態になっている時、宇宙船が壊れて迷子になっていたリンと出会ったんだ。言葉が通じず、食糧が尽きて瀕死だったリン。私達は……お互いにキスをしたんだ」
「いや、おかしいだろ。死にかけてんだぞ」
「吊り橋効果というやつなのかな、私達はお互い一目惚れしていたんだ。だから本能に従ったまでだよ」
なんて運命的なんだろう、この二人の出会いは。
でも、みなもと私の方がもっと運命的だけどね!
「そしたら不思議と、体が元気になったんだよね、ついさっきまで死にかけてたのにさ、これが愛の力なのかもね」
「にわかには信じられねーな、そんな事が起こるなんて」
「でも二人は今こうして元気になってる。だからいいじゃん理由なんて何だってさ」
「ちなみに日光の問題は、リンがバリアを張ってくれたお陰で事なきを得たよ」
便利すぎる。日傘なんて要らないんじゃないだろうか。多分ずっと展開していると疲れるとかの制約があるのだと思う。
「だから私は必死に地球の言葉を勉強したんだ」
「あっ、リンさんが元に戻ってる」
「地球の人達や文化は、どの星よりも面白いからね。だからこの星にやって来たんだけどさ」
「……何でこの大学に入ったんだ? もっといい所があるだろ」
「ここの学長さんに入れて貰ったんだよね、宇宙人の能力と地底人の技術を貸す見返りに、学費を免除してやるってさ」
はもん学長の事だ。二人の力を一体何に使うつもり何だろう。みなもは何となく理解しているみたい。
「みなもさん、あなたの漫画は宇宙でも評価されてるよ、とても面白いってね。月が何のことかを理解する為に、宇宙中から地球に聖地巡礼しに来てるみたいだね」
「凄いよ! みなもの『つきめば』は宇宙でも人気があるみたいだよ!」
「いやぁ、照れるぜ」
「今度はぷらむ先生と二人で新作を描くみたいだね、楽しみにしてるよ」
『オーバーキル』の連載が決まった事は宇宙でも知られているらしい。ならば期待を裏切らないようにしなくては。
「そうだ! ロケットを打ち上げよう」
「何でそうなるんだよ、話が唐突すぎるだろ」
「私の母星ではね、ロケットに願い事を描いた紙を乗せて打ち上げるとね、その願いが叶うと言われているんだ」
「ロマンチックですね、私達もやっていいですか?」
「勿論だよ、と言っても大きなロケットなんて簡単に用意できないから、代わりにこのミニロケットを打ち上げるけどね」
「何でロケットなんだ……脈略がなさすぎるだろ」
「いいじゃんみなも、細かい事はどうだって。それよりどんな願い事を書くか決めた?」
みなもの事だ、きっと私の事に決まってる。そうであって欲しい。もし違うなら、『オーバーキル』のヒットを祈願していて欲しい。
「ふふふ、お二人の願い事を当ててみようか」
「えー恥ずかしよー」
「このこのー恥ずかしがりや!」
「何茶番をやってんだよ。早く書けよ」
「ぷらむ先生の願いはみなもさんと一生幸せに暮らす事だね」
当たりだ。さすがリンさん、私の思考が読まれてる。そう、それが私の一番の願いだ。やっぱり一番大切な人との幸せを願うよね。
「みなもさんの願いが、ぷらむ先生……彩果と一生一緒に暮らす事だね。勿論幸せにね」
「みなもー!」
「私が他の事を願うと思うか?」
みなもはやっぱりみなもだった。
私達は、紙にこの願い事を描いて、ミニロケットに乗せた。
「じゃあ打ち上げるよ」
「本当に飛ぶのか? おもちゃにしか見えないんだけど」
「宇宙の技術が詰まっているからね、地球のモデルロケットとは比べものにならない飛距離を出すよ」
「どれくらい飛ぶんですか?」
「燃料が尽きるまでだよ。星の海を越えて、どこまでもどこまでも、飛んで行くんだ」
この願いを描かれた紙は、宇宙の誰かに見られるかもしれない。そうなると少し恥ずかしいな。
「ちなみにロケットは最後は燃え尽きるから、誰かに見られる事はないので安心して欲しいな」
「燃え尽きた時、願いが成就されるってか?」
「そうかもね、あくまでおまじないみたいなものだからね、叶わない事もある」
それは嫌だ。是非とも叶って欲しいものだ。でも別にこれにお願いしなくても、みなもと私は既に幸せに暮らせてるんだけどね。
「それじゃ発射!」
「おお、凄い! 音もなく飛んで行った!」
ミニロケットは、無音で空高く飛んで行き、あっと言う間に、見えなくなってしまった。
「騒音対策もバッチリだな……夜の校舎の屋上から、こんなもの打ち上げたら、苦情殺到だろうよ」
「ちなみに私は願い事に宇宙征服を書いたよ! 全宇宙は私のものだ!」
「お前……極悪宇宙人だな」
「私は地底制圧を書いた。地底に復讐してやるんだ……ふふふ」
この二人、支配欲が凄い。特にフウさんは過去に何があったのだろう……復讐したいと思う様な目に会ったのだろうか。深入りはしないでおこう。
「みなも! この大学の魅力、伝わったかな?」
「あぁ……十分伝わったよ、入りたいと思う程にね」
「どんな所が魅力的だった?」
「お前と一緒に居られる所」
「みなもー!」
「よしよし」
「惚気かよ、地球人はすぐに惚気るね、でもそこが良いんだけど」
「ちなみに私は、紅玉丼……地底にはイクラなんてないから、毎日食べても飽きない」
これから始める、みなもと私の大学生活。今から楽しみだ。勿論イチャイチャするんだけどね。部室で『オーバーキル』の執筆をするつもりでいる。雪菜達が呆れる程に、私達のラブラブを見せてあげるんだ。
「こら! お前達、校舎の屋上で何を打ち上げてんだ!」
「いっけね、学長さんだ、逃げるぞ」
「どうしよう! 退学になっちゃうよ!」
「えっ、まさか無許可で打ち上げたんですか?」
「許可取りに行くの面倒なんだもん、バレなきゃ大丈夫だと思ったんだ」
「ママは耳がいいからな、屋上で私達が騒いでた事も気付いてたんだろうな」
「どうしよう、捕まったら終わりだ!」
「とにかく逃げなきゃ! と言ってもここは屋上だし、どうすれば……」
「よーし! 私が皆をテレポートさせてあげる!」
そんな事も出来るのか、さすが宇宙人さん。
「行くよ! 転送!」
「おお、凄い! さっきまで屋上にいたのに、校庭に移動している!」
「さすがリンさん! 優秀な宇宙人さんだね!」
「えへへ、宇宙征服も不可能じゃないね」
「私まで移動させなければ完璧だったな。リン」
「な……何で学長さんがここに」
何故かはもん学長も校庭にいた。どうやら一緒に転送してしまったようだ。
「ひぃぃ、テレポートさせる対象は選べないんだった! 皆逃げろ!」
「ママは学生時代陸上部で、全国大会に出場する程のスプリンターだったんだ。その後なんだかんだあって大学長になった。逃げ切るのは無理だと思う」
「リンさん! もう一回テレポートできないの?」
「……一日一回しか使えないんだ!」
「このへっぽこ宇宙人!」
「ブブブブブブブ」
「ああ、リンがまたおかしくなってしまった!」
この後、はもん学長に捕まり私達四人は小一時間、正座させられて説教された。退学にはならなかったのは、学長の温情だろうか。
「という訳で、新入部員のみなもだよ! 皆優しくしてあげてね」
「……よろしく」
「みなもさん、久しぶり!」
「お久しぶりですね、みなもさん」
「久しぶりだな、雪菜、陽花」
翌日、美術室で入部挨拶をするみなも。雪菜と陽花は笑顔で歓迎してくれているようだ。ただ一人、この世の終わりのような顔をしていた新月を除けば……
「あわわ……なんてみなもさんがうちのサークルに……」
「私とイチャイチャする為だよ、新月も仲良くしてあげてね!」
新月の顔が引きつっていた。どうやら二人の因縁を解決する事が先の様だ。




