みなもを大学へ勧誘しよう!
「あっ、柊さんが望の声の担当になってる!」
ている先生のラノベ作品、『百合夫婦異世界探訪』の主人公の恋人役に、柊さんが選ばれたのだ。新人である彼女からしたら、大抜擢である。
「おい誰だよ、知ってる奴なのか」
「私の中学時代のクラスメイトだよ、この前偶然会ったんだ」
「この前って、お前が夜の街を彷徨ってた時か? まさかそいつと不倫してたんじゃないだろうな!」
「そんな訳ないじゃん、もーみなもは嫉妬深いんだから」
どの口が言ってるんだという目線を向けるみなもは、私に近づいてきて、服をめくって、匂いをかぎ始めた。
「ちょ、ちょっと! 何するの……くすぐったいよ!」
「ふむ……他の女の匂いはしないな……もし抱かれていれば、匂いで分かるからな」
「もう、犬じゃないんだからさ!」
私はみなもにしか抱かれていない。だから心配なくてもいいのに。
「それよりみなも、今から一緒に大学に行かない?」
「はぁ? 何でだよ」
「いいから、ついてきて!」
私はみなもの腕を引いて、車に乗せた。
「私は大学生じゃねーんだぞ、何でそんな所行かなきゃいけないんだ……」
「みなもってさ、高卒でしょ? 大学に行きたいと思った事ないの?」
「……興味はあるな」
「でしょ? どんな所か知りたいでしょ?」
「言っておくけど、入るつもりはないからな」
「今日は来てくれるだけでいいから」
私はみなもを大学へ入学させるつもりでいた。
理由はもちろん、大学でもみなもとイチャイチャする為だ。一緒にいる時間を増やしたいから、他に理由なんかない。その為ならどんな手を使ってでもみなもを勧誘するつもりだ。
「どう? 綺麗な校舎でしょ」
「確かに、奇抜なデザインだな。絶妙にダサい」
「ポストモダンって言うらしいよ。オシャレだよね」
「埼玉でそれをやったとしても、オシャレになる事は何一つないよ、やっぱり染み付いたイメージは永遠に消えないんだな。すげーダサいダサすぎる」
卑屈過ぎる。それでも彩の国に生まれた人間か。もっと誇りを持って欲しいものだ。県民としての誇りか……とくになし。
「どう? 大学に来たくなったでしょ?」
「全然、ただ彩果が居るなら入りたい」
「みなもー!」
「よしよし」
とにかくみなもを大学へ誘うなら、紅玉大学の魅力を伝えるしかない。サークルを巡ったり、学食に案内して、入りたいと思わせる事にしよう。それでも駄目なら学歴コンプレックスを与えて、無理やり入れる事にしよう。みなもと私のラブラブなキャンバスライフの為に!
「ここが講義を受ける場所なんだよ!」
「ふーん、高校の教室とは違うんだな」
「好きな席に座って良いんだよ、みなもは何処に座りたい?」
「彩果の隣」
「みなもー!」
「よしよし」
駄目だ、惚気てしまう。でももし入るなら、私と一緒に居てくれるみたいだし、それが分かっただけでも嬉しい。退屈な講義も楽しいものになる筈だ。
「ちなみに彩果は、何の科目を受けてるんだ?」
「えっ? えーと……文学かな、私も小説を描いてみたいと思ってるんだ」
「確か物語を創る才能が無いって言ってたな」
「いつか自分でも描いてみたいんだよね、そして自分でイラストを担当するんだ」
もちろん描くのは百合だ。高校生を主人公にした学園ものを描いてみたいと思っている。だけど今の私では設定だけ思いついても、最後まで描き終える事は出来ないだろう。昔の様に挫折するだけだ。
「あんなに上手い絵が描けて、まだ何かを求めるんだな。その向上心は立派だよ、流石私の嫁だ」
「えへへ、いつかみなもにも読ませてあげるね」
「気長に待つとするよ」
「絶対に尊いと思わせてあげるね、私は絵だけじゃないんだよって」
小説で尊さを伝える事が出来たら、 百合の伝道師としての幅も広がるからね。
そういえば、最近絵をあんまり描いてない気がする。これは伝道師失格だ。今日は描かないと、私はサークルを巡る事にした。もちろんみなもと一緒に。
「お前等! もったりしてるかー!」
「きゃー! 夢弦様ー!」
「響様、こっち向いて!」
相変わらず凄い人気だ、もったりメロディーズの面々は。バンド百合というものは不動の人気があるジャンルの一つだ。もちろんみなもも好きなようだ。
「何だこいつら……」
「バンドサークルのもったりメロディーだよ、みなも、バンド百合好きでしょ」
「好きだな、女の子達が楽しく演奏してるのを見るのがな。青春してるって感じで」
「自分も混ざって演奏したいとは?」
「思わねぇ、私は見てるのが好きなんだよ、あの中に入るつもりはねぇ」
流石みなもだ、私と感性が似てる。みなももかなりの百合厨だ。百合に挟まるものは誰であろうと許さないらしく、そういった展開を描く作者を軽蔑しているらしい。
「そこのお二人さん! 私達の演奏を見て言ってよ」
「またあのもったりした歌が聴けるんですね……」
「あれ、君はこの前の子だね、そちらの女性は?」
「私の妻のみなもですよ!」
「そういえば結婚してたんだよね」
「へぇ……人妻かぁ……」
リーダーでドラムの鳴音鐘さんが、私に興味を持ったようだ。何だろう……嫌な予感がした。
「彩果、あのドラムの奴には気をつけろ、お前の事をそういう目で見ているぜ」
「うん……本能で分かるよ。あの人、私を性的な目で見てる。あの人に襲われちゃう……」
「大丈夫だ、私が守ってやる。彩果には指一本触れさせねぇ」
「みなもー!」
「私の嫁は可愛いなぁ、全く」
「おーおーこんな所で抱き合うなんて、ラブラブだねお二人さん!」
私を守る為に大学に入ってくれるかもしれない。
ちなみに私の方が喧嘩が強いので、女の子の一人や二人、余裕で打ち負かす事が出来る。だからそこまで深刻な問題ではない。あのドラムの人なんて敵ではないのだ。むしろ私が彼女を怪我させてしまう事が怖かった。人を傷付けた手で、絵を描きたくないから。
私が新月にセクハラされても抵抗しないのは、彼女
を負傷させてしまうと分かっているからだ。そんな事になるくらいならば、好きにさせておけばいい。
私に喧嘩で勝てるのは陽花くらいだろう。
「それでは聴いてください『今日も明日ももったり』」
「いやぁ、もったりできたね」
「いい曲だったな、もったりしてたよ、バンド名にもなってるだけはあるな」
私達はすっかり、もったりさせられていた。これも魔法の力なのかな、でも今回の演奏は魔力を感じなかったけどな。あの人達も、上達しているという事なのかもしれない。
「あの三人をまた描きたくなったよ、やっぱりバンド百合は何度見てもいいよね!」
「でもそれで大学入るかどうかは、別問題だけどな」
「毎日見れるんだよ?」
「あのドラムの奴に目を付けられたんだぜ、もう行かない方が良いと思うけどな」
確かに、絡まれたら色々と面倒そうだし、みなもが入りたくなる理由にはならないだろう。別に私一人でも対処できる問題だって事は、みなもも分かっているからね。
「まぁでも、彩果がどうしてもって言うんなら、入ってもいいぜ」
「本当!」
「だから他の魅力も伝えてくれよ、少しこの大学に興味を持ち始めたんだからさ」
「じゃあ学食に行こ! うちの大学の学食は色んなメニューがあってバラエティに富んでるんだ」
……と言って食堂に来たけれど、私は学食を利用した事はない。みなもが毎日お弁当を作ってくれるからね。ここに来るのは初めてだ。
「この大学の学食は芋尽くしみたいだね」
「みたいだねって、知らないのかよ」
「えへへ、一度も来たことないんだ、みなもがお弁当を作ってくれるからね」
「本当に芋だらけだな、地元の名産を使ってるのか」
大学芋、甘煮、さつまいもスープにさつまいもスティック……見事に芋料理だらけだ。
「ちなみに一番の目玉は『紅玉丼』とかいうイクラ丼らしいよ。ルビーのように輝いて見えるから、そういう名前みたい」
「埼玉関係ねぇじゃん! 海産物だし、こういう所まじ埼玉だな」
ちなみに一杯五百円らしい。学生さんのお財布に優しい価格設定だ。
「私は蕎麦にしようかな、みなもも何か食べる?」
「じゃあ私も蕎麦で、彩果と同じのを食べたいから」
「みなもー!」
「全く、こんな所で抱きついて、皆見てるぜ」
学食でも惚気る私達。他の生徒達が皆見ている。どうやら私達に尊さを感じているようだ。
「みなもってさ、学食利用したことある?」
「ないな……そんな所で食えるのは陽キャだけだ。おとなしかった私は、校舎の裏で一人寂しく弁当だよ」
「大星さんは一緒じゃなかったの?」
「あいつは陽キャグループに属してたからな、一緒に食べた事なんてないよ」
みなもの学生時代を少しだけ知る事ができた。
「ちなみに私は、雪菜達とよく学食を利用してたよ」
「陽キャリア充だな」
別に学食を利用するのに陽キャも陰キャも関係ないと思う。というか陽とか陰とか、そんな事を気にした事なんて一度も無かったな。
「ねぇ、入りたくなったでしょ」
「別に、私が弁当作ればいい話だからな。ここを使う事はないだろ」
「紅玉丼食べたくないの?」
「毎日イクラとか飽きるだろ」
みなもの食指が動かないようだ。仕方ない、またサークルを案内しよう。
「レッツクッキングタイム!」
「今からこの鍋の中に食材を入れて料理を作りたいと思います!」
料理サークルを見学しに来たみなもと私。部長と副部長の二人が、さっそく何かを作ってくれるらしい。
「林檎を入れてー」
「葡萄を入れてー」
「パイナップルを入れてー」
「じっくり混ぜたら……」
「アップルパイの出来上がり!」
「魔法の味が楽しめるよ!」
相変わらず意味不明な料理だ。材料も林檎しか合ってなし、これも魔法の力なのかな。
「こんなの、料理じゃねー! 料理サークルを名乗るの辞めちまえ!」
「ひぃぃぃぃ!」
みなもの逆鱗に触れたようだ。みなもは料理ガチ勢なので許せなかったみたい。
「魔法なんかに頼ってんじゃねぇよ! 私がアップルパイの作り方を一から教えてやるよ!」
「私達……包丁とか使えなくて……」
「コンロとかも使えなくて……」
「それでも料理サークルか! この際だから私が手取り足取り全部教えてやるよ!」
「お……お手柔らかにお願いします……」
一時間後……
「よし、だいぶ基礎がなってきたな。これで魔法を使わなくても料理はできそうだな」
「ぜぇ……ぜぇ……もう無理、動けない……」
「みなもってスパルタだよね」
料理サークルの部長と副部長の二人は、みなもに扱かれて、疲れきっていた。でもお陰で料理の基礎は習得したようだ。
「おいおい、うちの部員達をいじめないでおくれよ」
「うげ、大星!」
「そういえば大星さんって、料理サークルの顧問って言ってましたよね」
「お前の教えがなっちゃいねぇから、私が代わりに教えたんだろうが」
「魔法が使えるから、料理なんて覚える必要はないんだよ」
「魔法で作った料理は上手くないぞ、腹は膨れるけどな。手料理のほうが満足感もあるし愛情も注げるからな」
それはその通りだ。魔法で作った料理は味がない。みなもの手料理の方がずっと美味しい。
「で、なんでみなもっちが大学に居るのかな?」
「大学に入る為です。ね? みなも」
「じゃあ、あたいの事は教授って呼ばないとね。教授と生徒の関係になるんだから」
「何でだよ! それにまだ入るとは決めてないぞ」
「またまたーどうせ彩果君が居るから入るんだろ、みなもっちの考えてる事はお見通しだよ」
「くそっ、こいつの前だと調子狂うな。行くぞ彩果」
「大星さん……教授! 後でみなもの学生時代の事を聞かせて下さいね!」
「勿論だよ、あたいはみなもっちの昔を知ってるからね」
「えへへ、聞きたい事が山程あるんですよね」
「変な約束してんじゃねぇよ、ほら行くぞ!」
大星教授とは長い付き合いになりそうだ。みなもの過去を知るキーパーソンだからね。
「みなも、そろそろ入りたくなった?」
「入りたい要素が一つもねぇな、大星の奴がいるし」
「みなもの唯一の友達なんだから、大切にしなきゃ駄目だよ」
「彩果は友達が沢山いて良いよな」
「何もしなくても自然とできちゃうんだよね、でも親友と呼べるのは、雪菜、陽花、新月の三人だけかな」
確かに友達は沢山できた。でもそういう人達は卒業してからは、連絡を取っていなかった。あの三人とは、高校を卒業後も、連絡を取り合っていた。そして今は同じ大学生になっている。これが腐れ縁という奴なのだろう。
他にもサークルを見て回る事にした。
「演劇サークルだよ! 今やってるのは『百合の尊さを知る人よ』のワンシーンなんだ」
「私目立つの苦手何だよな……次」
「野鳥観察サークルだよ! バードウォッチングに興味ある?」
「ねぇよ、鳥見て何が楽しいんだよ、彩果を見てる方が楽しいよ」
「みなもー!」
「よしよし」
「読書サークルだよ」
「ここで本を読む必要なんてあるのか? 次」
「カメラサークルだよ」
「私が撮りたいのは彩果だけだ」
「みなもー!」
「よしよし」
「漫画アニメ研究会だよ! 百合談義できるよ」
「私が人見知りなの知ってるのか?」
「キャンプサークルだよ!」
「私がインドア派な事は知ってるだろ?」
「野球サークルだよ!」
「私がスポーツ苦手な事は知ってるだろ?」
……駄目だ、みなもが全然興味を持ってくれない。
注文が多すぎる。いや知ってるよ? みなもの事はよく知ってる。だけど苦手を克服するのも大事だと思うんだけどな。他にみなもが得意な事で入りたいと思うサークルは……
「そうだ、美術サークルに入ろうよ! 雪菜達もいるし、絶対楽しいよ!」
「彩果が所属するサークルか……それなら考えてもいいかもな……お前と一緒に活動できるからな」
「みなもー!」
「こうやって、イチャイチャできる時間が増えると思うと、楽しみだぜ」
ただ一つ、懸念があるとすれば、新月がみなもを異常な程に恐れている所だろう。昔二人の間に何かあったらしく、新月がみなもを避けているらしい。この問題を解決しないと、みなもが入部出来ないかもしれない。でもそれは後でいいかな。
「みなも、我が聡明紅玉大学に入るつもりか?」
「ママ!」
はもん学長が話しかけてきた。みなもの実のお母さんで、紅玉大学の学長でもある。それにしても親子だけあって、よく似ている。とくに胸が、親子揃って大きい。
「ここでは学長と呼べ、言っておくけど自分の娘だからと、コネは使わせないぞ」
「分かってる、ちゃんと試験は受けるよ」
「ちなみに我が校の入学試験は一芸を披露して貰う。筆記試験は無しだ」
「……ママ、それってさ……Fラン……」
「それじゃあ、試験会場に向かうぞ、彩果はここで待っててくれ」
「分かりました。みなも、頑張ってね!」
「愛する妻の声援を受けたから、やる気十分だぜ」
「みなもー!」
「よしよし」
私達は抱き合った。はもん学長は呆れている様子だけど、そんな事は関係無かった。
「イチャつくのは自由だが、試験には影響しないぞ」
「分かってるよママ、これで加点されたら、それこそFランじゃないか……」
「Fランじゃねぇ! 次言ったら問答無用で不合格だ!」
「ひぃぃ! ごめんママ!」
「ママじゃなく学長と呼べ!」
はもん学長も中々スパルタだな。きっと躾も厳しかったんだろうな。
「彩果、普段のママは私に滅茶苦茶優しくて、甘やかしてくれるぞ、多分人前だから厳しくしてるだけだと思う」
「何か言ったか」
「どんな試験でも簡単にクリアしてやるって言ったかな」
「そうか、なら良い。ちなみに面接試験もないぞ」
やっぱりFランじゃねぇか、というみなもの心の声が聞こえた気がする。ちなみに私の時も無かった。やっぱりFランなんだろうな。
試験は夕方まで続いたようだ。みなもが自信満々の顔をして戻ってきた。
「みなも、どうだった?」
「合格したよ、得意の料理を作って、ママの舌を唸らせたからな」
「やったね! これで大学でも一緒にいられるよ」
「だな、大学でもよろしくな、彩果」
「みなもー!」
「可愛いなぁ、私の嫁は」
荒川みなも、二十五歳にして大学生デビュー
「じゃあ、私の事は先輩って呼んでね」
「何でだよ。私の方が年上だぞ」
「私の方が先に入学したからね。言っとくけど私、こう見えて体育会系だから、上下関係には厳しいよ? ふふふ、こき使ってあげるね」
「納得いかねぇ……」
「ほら、色先輩って呼んでみて?」
「……色先輩、よろしくお願いします」
「みなもー!」
「何なんだ……本当に可愛い嫁だな」
可愛い後輩も出来た事だし、ますます大学生活が楽しくなるぞ。みなもとイチャイチャするのが一番の楽しみなんだけどね。
「そろそろ日が暮れる時間だね、みなも、屋上行こう?」
「何でだよ、タイマンでもするのか」
「違うよ……どうな発想なの。天文サークルを見学しに行く為だよ」
「天文サークル? そんなのもあるのか」
あの二人に新月と仲直り出来た事を報告する事。そしてみなもを紹介する為に、どうしても会いたかったのだ。




