夫婦で描く異世界百合 百合の定義と性描写
私はある問題に直面していた。この作品を描くにあたって、とても重要な問題だ。
「どうしたんだよ、何か困った事でもあるのか」
「ねぇ、みなも、エッチシーンはどうしようか」
「あぁ……その事か、彩果が描いてくれるなら、エロくて尊いものになるだろうな」
「……描いて良いの? エッチシーンなんて」
「何でだ? 別に制限されている訳じゃねーだろ、百合園だぜ。他の作品でも普通にあるシーンだろ。『つきめば』でもあったしさ」
確かに、今更何言ってるんだ思われても仕方ないだろうな……だけど、それは本当に百合なのだろうか。
そもそも、百合作品に性描写は必要なのかどうなのかという議論をよく目にする。
そこまでいったら百合ではない。百合と言うのは肉体関係を伴わないものだと、手を繋いだり、たまにキスするくらいで良いと言う人もいる。お互いを恋人とは思っていなくて、友達同士が仲良くするのが百合だと言う人もいる。恋愛をしないのが百合らしい。
多分正解なんてないのだろう。私の百合の定義は、女の子が一緒に居る事なので、それ以外は気にしない。
「闇のドラゴンを討伐した後に、トウコとカヤのエッチシーンがあるんだよね。どれくらい描けば良いのかな?」
「朝チュンなんてつまんねーからやめろよな。三ページくらい描いて欲しい。て言うか、私が指示した通りに描いてくれ」
「分かった……描くよ」
いまいち乗り気になれない私。それはこの作品を大ヒットさせたいからだ。いずれはアニメ化させたいと思っているからだ。だけどそれには懸念があった。みなもの代表作である『つきめば』で示されていた事だ。
『つきめば』は私の大好きな作品だ。だけど一つだけ不満があるとすれば、アニメ化されていない事だ。
多分……『つきめば』がアニメ化されないのって、性描写が多いからだと思う。毎巻エッチシーンがあるんだもの。数ページに渡って、綿密に描かれているんだもの。アニメにするとなると、これも描かないといけなくなる。それがアニメ化されない理由なのだと、私は考えている。
……こんな事をみなもに言ったら、傷付けてしまうだろうから、言わないでおこう。
私は五ページに渡り、トウコとカヤのエッチシーンを描きあげた。こういうシーンは描き慣れているとはいえ、ここまで過激な内容は初めてかも知れない。
「……凄く濃密なエッチシーンだね……十代の女の子同士とは思えない内容だよ」
「私の体験を元に描いているからな」
「私との体験を元に?」
「他に誰がいる」
「……ちょっと恥ずかしい」
でもこれくらいのシーンは、百合園では珍しくない。もっとエッチな作品もある。
「彩果が描くとエロさが増すよな。なのに下品さを感じない。流石だぜ」
「うん……」
「なんだよ、そんなにエロシーンがある事が気に入らないのか?」
「そんな事ないよ……」
みなもには気付かれているみたいだ。私が納得言っていない事に。不満がある事に。
「お前が望むのならカットして良いんだぜ。無理強いはしないよ。ただ理由を聞かせて欲しい。エロシーンを拒む理由をな」
「……怒らない?」
「何だ? 私が怒るような事なのか?」
「傷付くかも……」
「何を言うつもりだよ」
私は勇気を出して、本音をぶつけてみた。
「……アニメ化させたいから」
「はぁ?」
「だから、エッチなシーンは省いてアニメ化させたいんだよ! この作品を!」
言った、言ってやった。みなもはポカーンとしていたけど、何となく言いたい事は伝わったかも。
「エロシーンがあるとアニメ化されないって言いたいのか?」
「うん……みなもの『つきめば』はさ、私の大好きな作品なんだけど、今もアニメ化されてないじゃん?」
「……確かにな、私も期待していたんだが、何故かされてないままだ」
「その理由はね、エッチシーンが多いからだと思ってるんだよね」
毎巻、主人公とヒロインの女の子同士のエッチシーンがある。口にするのが恥ずかしくなる台詞もある。 あれを声優さんが言うのは、躊躇うかもしれない。何よりテレビで流せるのだろうか。地上波でなくても難しいと思う。
「前に言ってたよね、自分の作品がアニメ化されるのが、夢の一つだって……」
「まぁな……それは漫画やラノベを描いてる奴は誰もが思ってるんじゃないか? 知名度も上がるし、売上も伸びるかも知れないからな。何より……」
「自分の生み出したキャラクターが動くから?」
「そうだ、しかもプロの声優さんに声を当てて貰えるんだぜ? こんなに嬉しい事はないよ。原作者からしたら、自分の子供の成長を見届けてる気分なんじゃないか? 私にはまだ分からないけどな」
作家さんから見たら、自分の作品のキャラクターというのは、お腹を痛めて産んだも同然なのだろう。それを描かせて貰える事は、絵師として嬉しくて仕方がない。責任重大だけど。
「『つきめば』がアニメ化されないのは、性描写が多いから……それを排除出来れば、アニメとして作られるってか……」
「私の憶測だけどね、別に性描写があってもアニメ化されてる作品もあるし……だけど本気で狙うなら、そういうのは排除した方がいいのかなって……」
みなもは目を瞑って、腕を組んで考え事をしていた。私は彼女に思いを伝える。
「私はね、みなもと描くこの『オーバーキル』をアニメ化させたいんだ。『つきめば』で叶わなかった夢を実現させたいんだ」
「そういう事か……ならばエロシーンはカットしない。このままで行くぞ」
「みなも……」
「お前の気持ちは伝わったし、受け取ったつもりだ」
伝わったというのなら、カットする流れではないのか、本当はアニメ化になんて興味ないのかな。
「だからこそ、エロシーンがあるままでアニメ化させるんだよ」
「……出来るの? そんな事が」
「お前と一緒なら何だって出来るさ。不可能な事なんて一つもないんだよ」
「みなもー!」
「よしよし」
なんて根拠のない言葉なのだろう。根本的な問題は何一つ解決していない。でもその言葉が聞きたかった。とても彼女らしくて頼もしい言葉だ。
「それにエロで釣るなんて常識だろ?」
「確かに、私も中学生時代はエッチなシーンがある作品ばかりを買ってたからね」
「参考書か何かに挟んでだろ?」
「何で分かったの?」
「私がそうだったからな」
「私達って似た者同士だね」
でも今の子はネットとかで買えるから、書店で買う事は少ないのだろうな……書店の数も減ってきているからね。こういう体験も貴重なのにな。私は感慨に浸っていた。
……私が子供の頃もネットショッピングは充実していたけどね。でも私や書店で現物を見る派だ。そこで知らない作品を見つけるあの楽しさは、書店でなければ味わえない。ネットショッピングも悪くないんだけど。
限られたお小遣いで、漫画や小説を買っていたあの頃が懐かしいな……今じゃそんなの気にしなくて良いからね。これも大切な思いでの一つだね。
「という訳でだ、もっとリアルなエロシーンを描く為に協力してくれ彩果」
「私が感慨に浸っているのにさ、エッチしようなんてよく言えるよね」
「さっきの会話の流れでそんな状態になってたのかよ。お前の考えてる事はよく分かんねーな」
多分、みなもはお嬢様なので欲しいものはお義母さんに全部買って貰っていたのだろう。ちょっと羨ましい。
「さぁ……やるぞ、こっちはお前が回復するまでずっとお預け食らってたんだからな。もう我慢の限界だぜ」
そう言って、みなもは私に覆いかぶさる。
「きゃー! みなもに襲われちゃう! ケダモノ! 性欲の化身!」
「あぁそうだ、私はケダモノだ。今夜は寝かせないからな」
このやり取りも懐かしい。久しぶりだから少し感動してる。
「みなも……優しくしてね」
「いつもしてるだろ……これ毎回言わなきゃ駄目か?」
「確認だよ、一応ね」
「彩果……愛してるぞ」
「私も……みなもを愛してるよ」
そして私達は唇を重ねた。
「みなもって本当、体力ないよね」
「くそ……また途中で体力が尽きちまった」
「今夜は寝かせないんじゃなかったの?」
「……」
みなものスタミナ不足問題。やはり運動させて体力を付けて貰うしかなさそうだ。
「彩果のスタミナは凄えな。全然疲れてないじゃん」
「えへへ、これでもスポーツ少女だったからね。これくらいじゃ疲れないよ」
みなもと私では、基礎体力が違い過ぎる。一度でいいから私を疲れ果てさせて欲しいものだ。
「で……どうだ描けそうか?」
「勿論だよ、色々なエッチのシチュエーションを試したからね……って言ってて恥ずかしいよ!」
「何を今更、散々あんな事を……」
「だああ! 言わないで!」
恥ずかし過ぎて口に出されたくない。やっぱりエッチシーンを実体験で描くのはやめようかなと、心から思ったのだった。
取り敢えず今は『オーバーキル』のアニメ化。その目標を叶える為に、みなもと私はこれからも描き続ける。




