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主従百合と美術サークル

 私、色彩果は、現役の大学生でもある。


 高校を卒業後、進学せずに、仕事に専念していたけれど、親友達から大学へ誘われ、みなもからも、背中を押され、一年遅れで、聡明紅玉(そうめいこうぎょく)大学に入学した。

 

 大学だとみなもと一緒じゃないからイチャイチャできないけど、我慢我慢。


 この大学では、サークル活動が盛んに行われていてる。

 私もサークルに興味があるので、見学して周っていた所だ。




「へー色さんって、アニメに詳しいんだね」

「えへへ、好きな百合作品だけだよ」

 

 私は「漫画アニメ研究所」に入り浸っていた。

 今話しているのは『時が経てば腹が減る。毎日グルメ日和』という百合アニメについてだ。略称は『時グル』

 

 女子大生達がひたすらご飯を食べる、日常系アニメだ。そのアニメのキャラクター達とカップリングについてだ。

 

 「私が一番好きなカップリングは、主人公の『ふがしちゃん』と幼馴染の『おいもちゃん』の『ふがいも』だよ! もう尊くて尊くて』

「分かります! 私も好きですから」

 「私の最推しカップルなんだよね。公式だと、真面目ツッコミキャラの『ラムネちゃん』との『ふがラム』推しみたいだけど、私は断然『ふがいも』かな。

 

 別に好きな作品やカップリングでマウントを取る必要はない。自分が尊いと思選ばれそれでいい。でもそれを分かってない人が多い気がする。


「あっあの……私は『ふがメプ』が好きなんですけど……この二人の絵とかあんまりなくて……」

「天然系ボケ担当の『メープルちゃん』とのカップリングだね。私が描いて上げるよ」 

「すっ凄い……なんて尊いの……」 


 ふふふっ、悶えてる悶えてる


「私は『ふがせん』派ですね。」

「新入りギャルの『おせんべいちゃん』とのカップリングだね、ちょっと待ってて……」


 私は速筆だ。一枚描くのにそこまで時間を要しない。何度も描いてるアニメキャラなら尚更だ。


「はぁ……まじ尊いわ……」

「色さんって絵が上手いんだね」

「一応プロの絵師として活動してるからね」

「凄い! 是非うちのサークルに入ってください! 色さんには色んな作品のキャラクターを描いて欲しいですから」

「『時グル』のカップリング絵をもっとお願いしてもいいですか」

「『ロザリ』の絵もお願いします」


 えへへ、モテモテだな私。どうしようかな……


 「見つけましたよ、彩果」

「ひぃぃぃ! 陽花……何でここが分かったの!」

「廊下まで彩果の声が響いてましたよ。さぁとっとと行きましょう。」


 敬語口調の女性は、部室に入って来るなり、私の腕を強引に引っ張って連れ出そうとしていた。


「色さんの知り合い?」

「知らない知らない! 赤の他人です、助けてー!」

「彩果は我が『美術サークル』の部員ですから。なのに他のサークルに不倫しようとしてたので、連れ戻しに来たんですよ。皆様、うちの彩果がご迷惑をお掛けしました」

「色さん、また今度ね」

「え、助けてくれないの?」

「さぁ行きましょう」

「分かったから、引きずるのやめて!

「彩果が逃げてしまうので」


 いや逃げないし、そもそも迷惑なんて掛けてないし、『美術サークル』も、無理矢理入部させられただけだし……




「連れて来ましたよ、雪菜」

「お疲れー、陽花ちゃん。もう彩果ちゃんったら、不倫したら駄目だよ」

「別に不倫じゃないし……」

 

 美術室で私を待っていたのは、北山雪菜(きたやませつな)。人懐っこくて、明るい性格の女の子だ。

 

「逃げないように縄で縛っておくべきでしたね」


 この敬語口調の彼女は、日野陽花(ひのようか)

 面倒見が良くて、落ち着いた性格の持ち主だ。

 この二人は、小学校からの親友で、私を大学に

誘ったのも彼女達だ。

 入学早々、私をこの美術サークルに強制入部させた元凶で、私は二人から逃げ回っていたのだ。


「もう、手荒すぎるよ」

「彩果が逃げるからですよ、ちゃんと部員として活動してください」

「別にこのサークルに入りたい訳じゃないのに」

「そんな! 彩果ちゃん酷いよ。私達の事嫌い?」

 

 雪菜はとても悲しそうな顔をして、私に訴えかける。 

 うう……雪菜のそんな顔、見たくない


「彩果ちゃん……」

「そんな訳ないじゃん、私は二人の事、大好きだよ」

「彩果ちゃん!」


 雪菜が私に抱きついてきた。


「はがぁ! せ……雪菜、離れて……」

「やっぱり彩果ちゃんは私の一番の親友だよ!」

「わ……分かったから……ああっだめ!」

「あれ、彩果ちゃん、大丈夫?」


 私はハグからなんとか抜け出した。


「はぁはぁ危なかった……危うく雪菜と不貞関係になる所だった」


 相変わらず雪菜のハグは凄い破壊力だ。

 彼女のハグは相手を気持ちよさで籠絡してしまう魔力があるようだ。そうやって雪菜の虜になった女性は数え切れない。

 私がイラストを担当したライトノベル『ハグだけで女の子達を惚れさせて、百合ハーレム建設』の主人公のモデルなのではだろうか。


「そんなに嫌でしたか? このサークルに入るのが」

「別に二人の事嫌いになった訳じゃないよ。私の大切な親友だからね」

「彩果ちゃん! 私達ずっ友だよ!」

「だから……抱きつかないで……雪菜」


 雪菜は人懐っこい、誰にでも抱きついてくる。そうやってハグの魔法で相手を籠絡させてきたのだ。

 天然系に見えて腹黒くて、計算高い女の子だ。


「だってこのサークルって元々二人しかいなかったでしょ? その中に私が混ざるのは私のポリシーに反するからだよ」

「彩果ちゃん?」

「恋人である、雪菜と陽花の邪魔したくなかっただけ」


 この二人は恋人関係にある。それも主従間での恋人。

 

 雪菜は様々な事業を手がける北山財閥の令嬢で、陽花は北山家に使用人として仕えていた。

 二人は幼少期から一緒だった。お嬢様である雪菜の身の回りの世話をしていた陽花は、いつしか雪菜に恋心を抱くようになる。そして雪菜も陽花に恋していた。

 

 けれど、主と従者の恋愛など許される筈もないと二人は思い、ずっと隠し続けていた。

 しかしある日、二人は勇気を出して、財閥総帥である雪菜の父親に交際している事を打ち明けた。

 彼は二人の交際を快く受け入れる。周りの人達も二人を責める事は無かった。二人はの関係は認められた。

 二人は今、誰にも隠す事なく、交際を続けている。


「良い話だよね。私も親友として、二人の事がずっと心配で仕方なくて……」

「雪菜のお父上が、まさかあんなにも心の広いお方だとは思いもしませんでしたよ。 とても気さくでいい人でした。」 

「お父さんは、陽花ちゃんと私の交際を認めてくれてるだけでなく、お家を継がなくてもいいから、好きな事をやれ、お金は出すって言ってくれたんだ」

「私には交際祝いとして無人島をくれましたよ。何に使えというのでしょう」


 本当にいい人だな。北山大河(たいが)さん。財閥の総帥というだけあって、器の大きな人だ。

 ……なぜこの人から腹黒い雪菜が生まれんだろう。




「私からしたら二人は『主従百合』だからね、尊くて仕方ないよ」

「確かに、私達をモデルにずっと絵を描いてましたね」

「陽花ちゃんと私が付き合えているのは、彩果ちゃんのお陰なんだよ」


 それは初めて聞く言葉だ。私二人に何かしてあげた事が過去にあっただろうか。


「中学生の時、彩果ちゃんが女の子の絵ばかり描き初めたじゃん?」

「私がみなもに弟子入りして、百合絵を勉強してた頃だね」

「私達を描きたいと言って、主従としての私達の絵を何十枚も描いてくれましたね」

「だって近くに主従関係にある百合カップルがいるんだよ? 一生の内に出会えるかどうかもわからないくらい珍しいもん」


 二人の許可を貰ってから、そっくりそのままに描いていた。やっぱり二人は美人だし、描いていて楽しい。

 

「彩果ちゃんが描いた私達……尊かったなぁ、何より生き生きしてた。堂々としてた。私達もこうなれたらいいなって思わせてくれた」

「彩果の絵で勇気付けられたんですよ、絵の中の私達は、交際している事を隠す事なく、むしろ誇らしそうにしていましたから」

「当たり前だよ、愛の前では立場なんて、関係ないもの。好きになってはいけない理由なんて、ある訳ないもん」


 これはみなもに言われた事をそのまま言っただけなんだけどね。


「それで思ったんだ、もう隠すのは辞めようって、皆に打ち明けようって」

「それで雪菜のお父さんに二人の関係を告白したんだね」

「後は知っての通りですよ、私達は交際を続けている。これも彩果のおかげです」

「彩果ちゃんは、私達のキューピットだよ」 


 知らなかった……嬉しいな。百合の伝道師とか関係なく、親友の為に協力出来た事が。

 

「毎日陽花ちゃんとイチャイチャしてるんだー」

「このサークルも私とイチャイチャするために雪菜が立ち上げたんですよ」


 なら尚更私は邪魔者だ。私は百合の邪魔はしたくない。挟まるつもりもない。ただ眺めて尊さを感じてたい。


「ねぇ陽花ちゃん、そろそろ敬語使わなくてもいいんじゃないかな、もう主従関係じゃなくなったんだしさ」

「私の中では雪菜にお仕えする気持ちは変わっていませんよ」

「もう、陽花ちゃんったらしょうがないな」

「陽花、もしかしてその敬語口調が抜けなくなってる?」

「長年使っていたものですから、染み付いてしまっています」


 本来の陽花は、もっと明るい性格で、誰に対しても優しく接する事ができる、 姉御肌な女性だ。

 財閥令嬢の雪菜に仕える為、今のキャラを演じ続けていたのだという。


「素の陽花って、どんなキャラだったっけ?」

「私が好きになったのは、そっちの陽花ちゃんなのに……早く戻ってほしいよ」

「普段話してる時に、たまに出る時があるんだよね、素の陽花が。えっと……確か……」


 私は、ない頭を使って思い出そうとしていた。


「『わてが陽花じゃ、しばくぞコラ!』とか言ってたような」

「いや、誰だよそれ、全然違うから! うちはそんな事言った事ないから!」

「あっ戻った」

「いつもの陽花ちゃんだ!」


 なんてね、わざと違うキャラを演じれば、陽花が怒り出してツッコむと思ったんだよ。


 「まったく……彩果はそういうところあるよね。ツッコんで貰いたくて、わざとボケたでしょ」

「お見通しか、死にかけの患者には荒治療ってやつ」

「死にかけてないし! 敬語が抜けなかっただけだし!」


 この陽花はとても接し易い。本来の彼女はノリもいいし、話も面白い。私とはとても気が合う。


「もう、二人でイチャイチャしないでよ、陽花ちゃんの恋人は私なんだよ」

「ごめんごめん、うちが好きなのは雪菜だけだよ」

「私の事は好きじゃないの?」

「親友としては好きだよ、気が合うからね。でも恋愛の対象としては見れないかな」

「彩果ちゃん、敗北ヒロインになっちゃったね。よしよし、慰さめてあげるね」


 私の頭を撫でる雪菜。なんだろう、この敗北感。


「戦ってもないのに負けたことになってるんですけど」


 私にはみなもがいる。悔しくなんかない。帰ったらみなもに慰めて貰おう。


「彩果には、みなもさんがいるから、うちがいなくても、寂しい夜を過ごすこともないか」

「彩果ちゃんとみなもさんの夫婦関係。尊すぎるよ」

「そんなに綺麗な指輪しちゃって、ラブラブだね」

「まぁね」


 私は、結婚指輪を、見せつけるように、かざした。


「あぁ……彩みな……彩みな……」


 雪菜が目を輝けて、みなもと私の関係に尊さを感じているようだ。


「雪菜ってこんなキャラだっけ? 百合厨になったのは知ってたけど」

「彩果の影響を受けたみたいだね、毎日百合作品ばかり見ているよ」


 だとしたら、百合の伝道師として、責務を全うした事になる。といっても、誰かに言われるでもなく、好きでやってるだけなんだけど。


「で、そろそろ私をサークルに入れた理由を教えてくれないかな。何か理由があるんでしょ」

「彩果ちゃんの力が必要なんだ!」

「雪菜とうちの居場所が脅かされてるんだよね」

「それは大変だ! 尊き二人の邪魔をする者は、誰であろうと許せないよ」


 どちらかというと今、二人の邪魔をしてるのは私な気がするけど。


「学長さんが、サークルを潰し回ってるみたいなんだ。そして遂に我が美術サークルに目をつけてさ」

「『美術サークルというなら絵を描きなさい。結果をだしなさい。今度の絵画コンクールで優勝出来なければお取り潰しにします』て言われたんだよね」


 この大学の学長さんか、私のよく知っている人だ。だから悪意がないのは分かる。その行為にも理由があるのだろう。


「なるほどね、それで私が絵を描いて、そのコンクールで優勝しろって事だね」

「さすが彩果ちゃん、物分かりが早くて助かるよ」

「描いてくれる? うちらが我儘をいってるのは分かる、だけどうちらの絵じゃ優勝なんて無理だよ」

「もちろんだよ、二人の居場所を守る為に、何枚でも描かせていただきます!」


 私の力が必要とされてるなら、それを発揮してみせる。これは大切な親友の為だ、描かない理由なんてない。


「ちなみにテーマは『二人』だよ、それさえ守れば何を描いてもいいってさ」

「二人とか、百合を描くのにぴったりじゃん」

「でしょ、そこで私達を描いて欲しいんだ」

「彩果は、どんな女の子でも可愛く描いてくれるからね、描いて貰ってて、嬉しくなるんだよ」

「私にはモットーがあるからね」


 一応、絵を描く時に心掛けていることが幾つもある。何も考えずに描いている訳ではない。


「女の子は、可愛く、格好良く、尊く描く事を心掛けてるからね」

「描いて描いて! 陽花ちゃんと私を、かっこかわいく」

「あっ、描く時はどうしようか……そっくりに描いていい?」

「もちろん、前みたいに描いて、コンクールの観客を尊さで狂わせてよ」

「まっかせなさい! それでは描かせていただきます」

 

 私は筆を持ち、イーゼルに乗せたキャンバスに向き合った。


「あっ、ポーズはどうしようか。やっぱり主従らしくしようかな」

「元主従なんだけどね、私達。細かいことはいいか」

「じゃあ、片膝ついて、手の甲にキスするポーズが描きたいな。主従っぽくていいでしょ」 

「主従時代に一度もやった事ないんだけど」

「漫画やアニメの見過ぎでは?」

「そもそも主従カップルが現実に全然いないんだよ! 仕方ないでしょ」


 二人は場合はかなり珍しいカップルだ。だからこそ描きまくったのだけれど。




「じゃあ雪菜、やるよ」

「なんか照れくさいな……」

「おおっ、このポーズはまさしく主従! 主従百合カップルだ」


 私の創作意欲が刺激されていく。そして無意識の内に、筆を走らせていた。


「描けた! 『忠誠を誓う従者と照れくさそうにする主人の百合カップル』」

「早! 彩果ちゃんって描くの早いよね」

「それでいて凄い上手なんだよね、さすがプロの絵師だね」

「どう? 二人から見て絵の出来具合は」


 もし二人が駄目だというなら、何枚でも描き直すつもりだ。プロに妥協という選択肢はない。


「凄いよ……私達がすごく可愛く描けてる」

 「元がいいからね二人とも。美人だし、陽花はスタイルいいし」

「私だってスタイルいいもん! 彩果ちゃんよりは!」

「あはは、そうだね。ごめんごめん」

「ありがとな彩果。これならコンクールも優勝できそうだよ」


 確かに、私も自信がある。だけどなんだろう。

この違和感は……


「でもでも、この絵だと、美術室の要素なくない?」

「確かに、よし。 雪菜とうちで、美術室らしい絵を描こう」

「じゃあ、陽花ちゃんがポーズとって、私が描くから」


 描いた絵を見れば見る程、違和感を感じてしまう。

 ()()()()()()()()()()って

 まさかまたスランプに陥っているのかな? 違う。あの時とは違って描いていて、楽しいと思えた。だから大丈夫だ。原因は別にある。


「陽花ちゃん! 自由の女神やって!」

「こっ、こうかな」

「うーん、しっくりこないな、次はピサの斜塔」 

「こっこうかな」

「ちょっと、プルプルしないで、描けないよ」


 二人は、私なんかそっちのけで、楽しそうにしている。

 まてよ、そうかそういう事か。やっと気付いた違和感の正体。


 それは私が描きたい絵じゃなかったからだ。

 私が描きたい絵は、()()()()()()()()()()だ。

 さっきのは、私が二人に指示したから、二人は私を意識して、言われた通りにポーズをとっていた。

 だから納得いかなかったんだ。

 でも今の二人は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そこに私は介入していない。存在していない。

 二人だけの世界。二人がお互いだけを意識し合っている。


 それが()()()()()()()であって、()()()()()()()()()でもある。

 

 今の二人には、私の事は見えていないだろう、意識すらしてないのだろう。それでいい。私は筆を走らせた。




「出来た!『アトリエに咲く百合の花』」


 陽花がモデルになって、雪菜がそれを描くという絵だ。


「あれ、彩果ちゃん、いつの間に描いてたの」

「ポーズをとるのに夢中で気付かなかった。人生の中でこんなに長期間、斜めになったのは初めだ……」


 どうやら二人共、私の事は頭に無かったらしい。だからこの絵には満足している。


「わぁ、凄い。これさっきの私達だよね」

「まさかこんな所を描くとはね」

「どうかな? これをコンクールにだすのは」

「大賛成だよ! きっと優勝できるかも」

「やっぱり彩果の描く絵は凄いなぁ」

「えへへ、ありがとう! 」




 コンクール当日。私は会場中を百合の尊さで悶えさせながら優勝した。

 

「なんて尊いんだ」

「尊い尊い尊い!」

「令和のゴッホ」


 また悶えさせてしまった。さすが私だ。

 会場に入った時のアウェー感は凄かったけれど結果的に皆、悶えてくれている。百合の伝道師としてまた一つ、仕事をしてしまった。




「ありがとうございます。お陰でサークルは存続が決まりました。もう用済みなので来なくていいですよ」

「ちょっと冷たいって! もっと労ってよ。ていうか陽花、敬語に戻ってるじゃん」

「あの後戻っちゃったんだ」

「これはまた別に方法を考えないとね」

 

 とはいえ強要はしない。陽花が自分らしくいる事ができれば、それでいいから。


「彩果ちゃん、ありがとう。」

「どういたしまして。でもまた困ったら、呼んでね。親友の為に駆けつけるから」


 何はともあれ、サークルの存続が決まって良かった。これで二人が好きなだけイチャイチャできる。


「ふふ、美術室か……あの作品の主人公みたいだな、私」

「何か言った? 彩果ちゃん」

「『こもれびキャンバス』って知ってる? 主人公が美術高校に入って同級生や先輩と出会って色んな事を経験していく成長物語」

「知ってますよ、たしかまだ原作が続いてるんでしたっけ」


 その主人公と自分を重ねていた。二人の邪魔にならないなら、美術サークルに入ってもいいかな。


「私が中学生の頃、夜更かしして初めてみた深夜アニメが『こもキャン』だったんだ。それが、私が百合に初めて触れるきっかけ」

「あれって百合だっけ?」

「百合要素はあるね、当時の私にとって衝撃だったんだ。 何で男の子がいないんだろうって。男の子が活躍しないんだろうって」


 私がそれまで見てきたアニメが、男の子主人公の作品ばかりだったから、不思議に思っていた。女の子達が仲良くする作品もあるんだなって。


「これからもよろしくね、雪菜、陽花」

「何を今更、でも謙虚な彩果も好きですよ」

「彩果ちゃん、サークルに残ってくれる?」

「もちろん!」


 私は満面の笑顔でそう言った。


「ありがとう! 彩果ちゃん!」

「ちょっと雪菜! ハグはやめて……気持ち良すぎて、みなもにしか見せない顔をしちゃう……」

「皆情けないないですね、雪菜のハグで悶絶して、私は何ともないですよ」


 さすが正妻。雪菜のハグが通用しないとは……それが原因で惚れた訳ではないと言う事でもある。


「ねぇ彩果ちゃん。私、絵本作家になりたい! 慣れるかな?」


 どうやら、まだ私にはやる事が残っているようだ。

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