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夫婦で描く異世界百合漫画 必殺技編

 竜子様に愛の説教を受けてから三日が経っていた。


 私は大学にも行かず、ずっと休み続けていた。みなもの愛妻料理を食べ続けていたお陰で全回復する事が出来た。


「やっぱり女の子は鉄分を取らねぇとだな。今までの料理はそれが不足していたんだ。結果的に彩果を貧血気味にした。私の反省点だ」

「ママに料理を教えて貰ったんだね」

「勿論、環瑠さんに弟子入りにして、料理の幅を増やす事が出来たからな。もう彩果を不健康にする事はないと思うぞ」


 みなもの料理の腕は、この短期間でみるみる上達していた。美味しすぎて、ついついおかわりしてしまう。私を太らせるつもりだろうか。


「安心しろ、彩果がデブになっても、私のお前への愛は変わらないからな」

「みなもー!」

「よしよし」


 私はいくら食べても太らない体質なので、その心配は無用だけどね。むしろみなもが太らないか心配だ。




「竜刀蛇尾……一太刀目!」


 完全回復した私は『オーバーキル』のバトルシーンを執筆をしていた。やっぱり必殺技を使うシーンは見せ場の一つだけに気合が入る。


「流石彩果だな、画力が私と全然違う」

「えへへ……元々百合を描く前は、アニメや漫画の必殺技とかを真似して描いてたからね。 こういうのは得意なんだ」

「女の子だけじゃなくてそんなのも描けるんだな……」


 小学生時代は少年漫画が好きで、キャラクター達が必殺技を使うシーンばかりを描いていた。


 私が当時読んでいた作品の一つ『ゼロ戦士』

 光の斬撃を飛ばす『斬光(ざんこう)

 ビームを撃つ『ザウス』


 主人公なのに二つしかない必殺技で工夫して戦うのが魅力の作品だった。


 ラストバトルでは、その二つを合わせた技を使ってたな。ビームと斬撃を組み合わせるなんて、当時の私は驚いていた。


 ……ラスボスには、かすり傷一つ付けられず、剣も折られて、そのままバットエンドになるのかと思ったら、過去の敵キャラが助けに来てくれて、共闘する展開は熱かったな。


 最後は素手でラスボスを倒すんだよね、元々武器を持たずに戦った方が強かった主人公の師匠が、その強さを封じる為に剣を持たせたという設定は、少し萎えた。でも面白い作品だった。


 そしてもう一つは『山賊王の帰還』累計十億部売れた、大ヒット作だ。


 その主人公は石の大剣を持ち、摩擦で炎を起こして戦うスタイルで『回転炎龍(かいてんえんりゅう)炎烈火(えんれっか)』という必殺技で戦う。


 やっぱり主人公と言えば炎だよね。あの漫画には、よく私の厨二心を揺さぶられたものだ。


 ……後で知ったんだけど、石の摩擦で炎を起こすのは滅茶苦茶難しいらしい。漫画だと少し擦っただけで炎が出てたけど作者さんが知らなかったのかも……その辺は漫画なのでリアリティを追求しても意味ないのだけど。ちなみに今も連載中で来月には、二百五十巻


「やっぱり必殺技は重要だよね。作者のセンスも問われるし、作品の面白さにも関わってくるから」

「私の竜刀蛇尾はどうだ?」

「センス抜群だよ。言葉遊びで四字熟語と合わせた能力だし、やっぱりみなもは天才だね」

「よせやい」


 まんざらでもなさそうだ。私的には燎弦之火の方が好きだけど、強過ぎて主人公には向かないのかな……


「でも技名がいまいちだよね、竜刀蛇尾、一太刀目とかさ……普通すぎるよ」

「その方が分かり易いだろ、振れば振る程弱くなっていく刀なんだからさ。今が何振り目かを知る事もできるし」


 だとしても、少しは捻って欲しかった。竜がモチーフの刀なんだから、それっぽい名前があった筈だ。


「彩果ならどんな技名にするんだ?」

「竜にかけて『ドラゴン斬り』かな」

「ゲームの技じゃねぇか、四字熟語から取れよ」

「うーん……竜……竜……駄目だ、思いつかない……」


 分かっているけれど、私にはこういうセンスは一切ない。 だからこういう発想が出来る人を、私は心から尊敬する。


「今の技名のままで良くね」

「じゃあせめて、合体技を作ろうよ、カヤとトウコが共闘する展開が描けるからね」

「合体技か……刀と弓矢を合わせた技……今から考えておくよ」

「みなもがどんな技を考えるのか楽しみだよ」

「そう言われるとプレッシャーになるな」

「ゆっくり考えてくれて大丈夫だよ、無理は禁物だからね」


 竜子様の口癖である『無理するな、休んでいいぞ』を私なりの言い方で言ってみる。 


「心配してくれてありがとな。今の言い方は編集長みたいだぜ」

「竜子様を意識して言ったからね。お茶でも飲んでくつろぐ事にしようか」


 私はルイボスティーを淹れて、二人で飲んでいた。   やっぱり一仕事したあとの一杯は格別だね。


「あー! 思いついたぞ! 合体技をな!」

「……早くない? まだ二十分くらいしか経ってないよ」

「お茶を飲んでたら、閃いたんだ。彩果のお陰だよ」

「私の手柄ではないと思うよ。みなもの発想力が凄すぎるだけだよ」

「それでも、思いつく環境を作り出してくれた彩果には感謝するぜ」

「えへへ、素直に喜んでおくよ」



 しかし天才というのは、いきなりアイデアが降ってくるとは聞くけど……どういう理屈なのだろう。凡人である私には到底理解出来ないや。

 

「トウコの竜刀蛇尾とカヤの燎弦之火を組み合わせるんだ。」

「刀を弓矢で飛ばすの?」

「いや……違えよ、それはそれで面白い発想だな」


 万が一、外した場合は大ピンチになるだろう。敵に拾われたりしたらおしまいだ。ハイリスクノーリターン過ぎる。


「弓矢の炎を刀に纏わせて斬りつけるんだよ。その技名は『竜龍真紅(りゅうりゅうしんく)』だ」

「りゅうりゅう……粒粒辛苦と掛けてる?」

「そうだ、コツコツと苦労と努力を積むことだ。この合体技を完成させるのに、並大抵ではない努力をする事になるからな」


 それを今さっき思いついたというのか。我が妻みなも、恐るべし。

 

「でも最後は愛の力で完成させて、強敵を倒すんだよ。王道だろ?」

「凄いよみなも! 早くそのシーンを描きたいよ」

「じゃあ頼むぜ。彩果なら迫力のあるシーンにしてくれると信じてるからな」

 

 みなもにそう言われたら、期待に答えるしかない。  私はルイボスティーを飲んでから、執筆に取り掛かる。




 場面は闇のドラゴンとの決戦。竜刀蛇尾の一太刀目を食らわせるも、急所を外し、倒し切る事が出来ずにいたトウコ。カヤの弓矢の攻撃にも、微動だにしていない。まさに絶対絶命。


 この状況で、トウコとカヤは竜龍真紅を使う事にする。しかし、特訓では一度も成功しなかった大技。それをぶっつけ本番で成功させるしかない。これは賭けだ。


 威力は一太刀目と比べると半減しているとは言え、それでも十分な火力を持つ、竜刀蛇尾、二太刀目に、燎弦之火の炎を纏わせてドラゴンを斬りつける。


『竜龍真紅!』


 ドラゴンは炎に包まれながら、真っ二つに切り裂かれていく。見事技を完成させて、強敵を打ち倒す事が出来たのだった。あの血の滲むような特訓が報われたのだ。


 トウコとカヤは、喜びから抱きしめ合い、今夜はお楽しみと行こうかと、約束するのだった。


 しかし二太刀目でこの威力なのだ。一太刀目で竜龍真紅を使えば、魔王にも勝てるかも知れない。二人は希望を見出していた。その陰で、女神が邪な笑みを浮かべていた事は、知る由もなかった。




「どう? 上手く描けたと思うんだ」

「流石彩果だ! 私の期待以上の出来だよ!」

「えへへ、嬉しい! みなもー!」


 また一つ、『オーバーキル』が面白くなった。このままいけば、大ヒット間違いないのかも! それにしてもみなもの発想力は凄い。


「ねぇみなも、どうしてそんなに次々とアイデアが思い浮かぶの?」

「さっきも言ったけど、いきなり降ってくるんだよな」


 みなもはその後も、私に創作の仕方を噛み砕いて説明してくれたけれど、私にはちんぷんかんぷんだった。やはり天才の考えは理解できない。この領域の話は、天才でなければ踏み入る事は出来ないのだろう。


 それでも、一読者として楽しませて貰おうと思ったのだった。

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