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竜子の想い

 竜子様は語り出した。昔の自分の事を――




「おとーさん、顔色悪いよ、休んだら?」

「大丈夫だ、それに今日は大事なプロジェクトの会議があるんだ、休んでなんかいられないよ」

「でも……」

「仕事が一段落したら遊んでやるさ」

「……本当に?」

「だからもうひと頑張りだ!」


 それが、私が聞いた父の最後の言葉だった。


「まさか亡くなるだなんてね……」

「会議中に倒れてそのまま……過労死ってやつらしいわよ」

「竜子ちゃんが可哀想よね、まだ七歳なのに……」

「お母さんも既に亡くなっているみたいだし、あの子独りになっちゃうわ」

「どうするんだ、誰か竜子を引き取って面倒を見ないとだぞ」


 父の葬儀に出席した人達から聞こえた声。

 そんな無理をしていたなんて……私のせいだ。私があの時父を引き止めていれば……私は父を失わずに済んだんだ……


「おとーさん……」




「おい、働きすぎだぞ、少しは休んだらどうだ」

「なんだ立浪、私の仕事ぶりに嫉妬しているのか?」

「いや……そういう訳では」

「将来の編集長候補である、この私に嫉妬するのは無理もないか、ダメドラゴンの立浪竜子」


 大人になった私は、十全社に入社し、百合園の編集者として働いていた。とはいえ、漫画を一つも立ち上げた事のない落ちこぼれだったが。


 彼女は私の同期の編集者だった。私とは違い、何本もの作品を立ち上げ、エース編集者となり出世間違いなしだと言われていた。ただかなり無理をしていたようだ。


「少し休んだらどうだ? 体がもたないぞ」

「大丈夫だよ、人の心配してないで、立浪も漫画を立ち上げてみなよ。さて、仕事仕事! もうひと頑張りだ!」


 その言葉に私は父を思いだし、彼女と重ねていた。


「まさか、我が編集部から過労死者を出すなんて……」

「無理させすぎたんだ……同僚として、何で気付いてやれなかったんだろうな……」

「同期の立浪さんは辛いでしょうね、仲が良かったし、競い合うライバルでもあったみたいだから」


 ……私のせいだ、例え殴ってでも、休ませるべきだったんだ……私は同期の仲間を失った。




「おい、少しは休んだらどうだ」


 落ちこぼれだった私は、努力して何本もの漫画を立ち上げるエース編集者にまで成長していた。私は頑張らなければならない。彼女の分まで……ただ無理はするつもりはなかったが。


「大丈夫っすよ! 今が一番大事っすから!」

「しかし……いくら月刊誌とは言え三本同時連載は現実的ではないのでは……体が持たんぞ」


 私が担当していた漫画家の彼女は、天才という言葉が似合う才能の持ち主だった。連載していた三本の漫画は、いずれも人気があり、百合園の看板漫画家になっていた。しかし無理をしているのは明らかだった。


「だから大丈夫っすよ! 読者が待ってるんすよ、休んでなんかいられないっす! もうひと頑張りっす!」


 やめろ……その言葉は、聞きたくない。


「未完になってしまったな……彼女の三本の漫画」

「私のせいです……私が! 彼女を休ませなかったから……」

「気に病むな、立浪君は悪くない。三本同時連載なんて判断をした私の責任だ」


 当時の編集長は私を慰めてくれた。だけど私の罪が消える事はないだろう……


 私は、担当漫画家を失った。

 父も、同僚も、担当漫画家も、皆無理をして命を落としている。「もうひと頑張り」その言葉を口にして……




 編集長になった私が、一番最初にやった事が、労働改革だ。残業はなるべく減らす。社員一人に押し付けない。無理をしていると分かったら、休ませる。「無理しない、させない」それが私のモットーだ。

 出版社でそれが難しい事なのは分かっている。だけど、出来る事はやったつもりだ。

 もう私は、誰も失いたくない。無理をさせるつもりなんかない。過ちは二度と犯さない。


 私の口癖は、「無理をするな、休んでいいぞ」だ。




「そんな事が……あったなんて……」


 始めて聞かされた竜子様の過去。自分の周りの人間を三人も過労死で失っていたなんて……そんなの辛すぎるよ。私なら耐えられない……


「すまないな、長々と話してしまって……」

「竜子様が私を怒ったのは、無理をしようとする私が、命を落としてしまうかもと心配なさってくれたんですね」

「そうだ、今の君はあの三人ととても重なる。まだそこまで無理はしていないようだが、このまま無理をし続けたら、君も命を失う事になるかもと恐れたんだ」


 竜子様にとって、無理をさせて誰かを失う事が、深いトラウマになっている様だ。そんな気持ちも知らずに私は、なんて愚かな事を言っていたのだろう……


「本当に、ごめんなさい……」

「いや、いいんだ。ただ無理だけはしないで、約束してくれるか」

「します。竜子様の仰る事は絶対なので」

「ありがとう……彩果」


 始めて下の名前で呼ばれた気がする。漸く心の底から認めて貰えたのかな……


「ただ……何度でもいうが、無理だけはしないでくれ、君まで失いたくない」

「約束します。絶対にしません」


 先程まで無理をしようとしていた私が言っても、説得力があるのだろうか……


「皆、口を揃えて言うんだ。『もうひと頑張りだ』と。もうひと頑張りした先に何かあるのか? 少なくとも私から見たら死しかないぞ! 頑張り過ぎない事も必要なのに……死んだら……頑張る事も出来なくなるのに……」


 竜子様は後悔しているんだ。その言葉を口にした人達を引き止められなかった事を。 


「もうひと頑張りする前に、一服しても良いから休め! そのままウトウトして寝てしまってもいいんだぞ! 安全な場所ならばな! 後で上司に叱られようと、死んでしまうよりずっとマシだ!」


 疲れていたら、まず休む。こんな常識を守る事が出来ない人がいる。許されない人がいる。私は前者だ。


「頼むから……もう誰も、私の前から居なくならないでくれ……無理しないでくれ……死なないでくれ……」


 竜子様は泣き崩れていた。大切な人達を失い続けた彼女の気持ちが痛いほど伝わってくる。


「大丈夫だよ、竜子は独りじゃない、私と睡蓮がいるんだよ?」

「つむつむ……」

「ていうか、竜子一人で背負いすぎだよ、竜子が倒れちゃうよ」

「すまない……ただ皆に無理をさせないようにしていたんだ……」

「それで竜子が倒れちゃったらどうするの? 私と睡蓮を悲しませるつもり?」

「そんなつもりはない、私の大切な家族に私のような思いをさせたくはない」

「なら、竜子も無理をせずに休まないとね!」

「そうだな……」


 紡岐が居てくれて良かった。私は竜子様になんて声をかければいいか分からなかったから、狼狽える事しか出来ずにいた。でも紡岐のお陰で竜子様が元気を取り戻したみたい。


「見苦しい所を見せたな彩果。私はもう大丈夫だ、泣いたらスッキリしたからな」

「いえ……一人は寂しいですから……私も、みなもがいてくれるから、寂しい思いをしなくて済んでいます」

「はっはっはっ、そうだったな! 君はりぷとん先生と夫婦だったな。ならば早く帰って甘えたいだろう」


 みなもが今の私を見たらなんて言うかな……何やってるんだと怒るのか、心配してくれるのか……


「私がりぷとん先生に連絡しておいたから、待っていれば来てくれると思うわ」

「さすがつむつむだな、気が利く」

「だから暫くここで休んでいていいのよ彩果」

「はい……そうさせてもらいます」


 いつの間にしていたんだろう……ていうか来てくれるのかな……そこだけが気になっていた。




「彩果! 大丈夫か!」


 みなもが血相を変えて、息を切らしながら、医務室に入ってきた。


「みなも……来てくれたんだ」

「当たり前だろ! お前に何かあったら、私は……」


 そう言って、私に抱きついてきた。こんなにも心配をかけてしまうなんて、私は妻失格だな。


「みなも……ごめんなさい、私は大丈夫だよ」

「分かってる、赤崎さんから全部聞いたからな」

「私が、りぷとん先生がパニックにならないように、かなり遠回しに説明したからね。それでも自分の目で確かめない限りは安心出来ないみたいだったけど」


 その時のみなもの動揺する様子が頭に浮かぶ。本当に何しているんだろ私。こんな状況なのに、私はみなもとイチャイチャしたくてたまらない。


「みなも……」

「なんだ? 彩果」 

「愛してる」

「私もだよ」


 そう言って私達はキスをした。竜子様と紡岐が目を輝かせて私達を見ていたが、全く気にならなかった。むしろ見せつけてやろうと思っていたからだ。


「えへへ……みなもー」


 みなものおっぱいに顔をうずめる。いつもやっている愛情表現だ。ただあんまり人前でやる事は無い。けれど今はそんな事は関係無かった。とにかく甘えたくて仕方なかった。


「可愛すぎんだろ! 私の嫁!」


 私の頭を撫でてくれるみなも。この時間が何よりも幸せだ。


「ふっ……まさかここでイチャつき始めるとはな」

「ずっと見ていられるね」


 二人共、尊みを感じているみたいだ。百合の伝道師としてまた仕事をしてしまった。私はそんなつもりはなくて、ただみなもとイチャイチャしていたいだけなんだけど。


「りぷとん先生、すまないな、君の妻に説教をしてしまった」

「いえ……むしろ感謝していますよ、編集長が厳しく言って頂け無かったら、彩果は無理をし続けていたでしょうから」

「みなも……本当にごめんね」

「私にとって彩果が全てなんだ……もし彩果を失ったら私は……」

「彩果に一途なのね……りぷとん先生」

「もちろんですよ」


 そう言って私へのビッグラブを語り始めた。


「もし……彩果が皆から嫌われたら、私も嫌われる。絶対に一人ぼっちにはしないよ、例え世界中から嫌われても彩果には私がいる」


 そうだ、全てが敵になっても私にはみなもが居る。居てくれる


「彩果が悪い事をしたら、私も同じ事をする。間違いを正すんじゃなくて、共犯者になるよ。一緒に罪を背負って生きて行くんだ」


 これも私を一人ぼっちにはさせない為なのだろう。

 みなもの想いが伝わってくる。


「もし……彩果が死んだら……私も後を追う。天国だろうと地獄だろうと、彩果を一人ぼっちにはさせない為にな。何の躊躇いも無く死ねるさ」


 これは前にも聞いた事がある。でも私の為に死んでくれるんだ……嬉しいなぁ……


「もし……彩果が誰かに命を奪われる様な事があれば、世界を滅ぼしてやる。そしてその後に後を追う」 


 みなももの重い思いが伝わってくる。私は感極まりそうになっていた。


「もちろん、私が今話した、彩果と同じ状況になった場合、彩果には同じ事をしてもらうつもりだ。私が嫌われたら彩果も嫌われてもらう。私が罪を犯したら、彩果にも罪人になってもらう。私が死んだら、すぐに後を追ってもらう。地獄で一緒に幸せに暮らすんだ。そうだよな? 彩果」


 私は迷わず答えた。


「勿論だよ、みなもー! 大好き!」

「彩果と私は、体も心も繋がっているからな。お互いに一人ぼっちなんかにはさせない……これが私達の愛だ」


 改めてみなもの私への愛を知る事が出来た


「ククク……荒川……色みなも、おもしれー女」

「なんて大きくて重い愛なの……素敵!」


 竜子様と紡岐は尊みを感じているようだ。もしこれを新月に見せたら多分ドン引きすると思う。


「さぁ帰るぞ。家でしっかり休まないとな」


 そう言って、私をお姫様抱っこしてくれた。普段だったらこのままベットインする所だけど、二人が居るからね。それに今の私は無理は出来ない。エッチは暫くお預けだろう。


「ではこれで失礼します。彩果が色々とお世話になりました」

「気にするな、君も疲れたと思ったら休んで良いんだぞ、打ち切りになればそんな心配をしなくても済むかもな」

「二連続で打ち切りはさすがにこたえますよ……」

「はっはっはっ、あの新作は私の目から見ても面白い。もっと自信を持て。それに少しの休載くらいで打ち切りにはせんよ」

「ありがとうございます。編集長にそう言って貰えると助かります」


 竜子様も『オーバーキル』を読んだんだ、そして面白いと言ってくれている。嬉しいな。そして気が引き締まる思いだ。


「もう一つに彩果に言っておく事がある」

「何ですか竜子様」

「彩果は可愛いな、もし私が紡岐と出会っていなければ君と恋仲になっていたかもしれん」

「え……」

「ちょっと竜子ちゃん! 何言い出してるの!」

「はっはっはっ、軽い冗談だ。可愛いのは本当だがな」

「竜子様……」

「編集長、お言葉ですが彩果は私の女ですので、誰にも渡すつもりはありませんよ。例えあなたが相手でもね……」

「ふふふ、嫁は渡さんという事か、いい目をしているな、そうでなくては張り合いがないというものだ」


 おお……みなもが竜子様を睨みつけて、対抗心を剥き出しにしている。私を絶対に渡さないつもりだ。私は一度言ってみたかった、あの台詞を言うタイミングが来たのだと思った。


「やめて、私の為に争わないで!」


 そう言えと一気に静まりかえる。


「あれ? 予想してた反応と違うんだけと……」

「いや……彩果……そういうのいいから」

「何だか一気に冷めたな……彩果はりぷとん先生のものだ」

「最初から私の嫁なので……それでは失礼します」

「あの、みなも……私なんか変な事言った?」

「言った、そういうのは求めてはないからな」

「ありゃりゃ……ごめん」


 二人の私争奪戦をもう少し見ていたかったのだけれど、私が水を差してしまったらしい。


「それでは新連載を楽しみにしているよ」

「えぇ……絶対にヒットさせますから」

「みなも、ヒットじゃないよ、大ヒットだよ」

「そうだったな、大ヒットさせて看板漫画にしてみせますよ」

「ククク、ならば楽しみにしておくよ、いきなり打ち切りになったりしないように、頑張ってくれたまえ」

「……正直不安ですけどね」

 

 さっきまであんなに威勢が良かったのに急に不安になるみなも、やっぱり『どつおつ』のトラウマがあるのだろう。


「でもダメで元々ですから、打ち切りになったら、また新作で再挑戦しますよ!」

「ふ……その意気だ」


 良かった、引きずってはいないようだ。


「彩果、今日はありがとね、相談にのってくれて。あと忙しいのに呼び出してごめんね」

「大丈夫だよ、それに紡岐にとっては大事な事だもんね」

「近いうちに答えを出すつもりだから、その時はまた連絡するね。後で睡蓮にも合わせてあげるから」


 それは楽しみだ、私も睡蓮ちゃんと話がしてみたい。百合について熱く語り合いたいものだ。あの年で百合の魅力に気付くだなんて、将来が楽しみだもの。




 帰りの電車の中、みなもは私をお姫様抱っこしたままだ。周りの視線が気になって仕方がない。


「ねぇ……みなも、もう大丈夫だよ、自分で歩けるくらい回復したから……」

「駄目だ、お前が完全回復するまでこうしてるつもりだ。無理してぶり返したりしたら心配だからな」

「そこまで私の事を……」

「お前は私の全てなんだよ。『つきめば』よりも、『オーバーキル』よりも、お前が一番大切なんだよ」

「みなも……」

 

 みなもの重い思いが伝わってくる。胸焼けしそうだ。自分の漫画よりも私を優先してくれてるんだ。それが嬉しく、どこか悲しくて……でもやっぱり嬉しい。みなもと結婚して良かったと、心の底から思えるよ。


「……ねぇねぇあの二人……恋人同士かな?」

「よく見ると指輪してるし、夫婦じゃない?」

「あんな美人夫婦、始めてみたよ……ついつい見惚れちゃう……」

「何でお姫様抱っこしてるんだ?」 

「きっとあの小さい方の灰髪の子が怪我してるか疲れてるんだろ。そっとしといてやれよ」

「奥さん思いだな、あの金髪姉ちゃん」


 電車の中の人達が、私達の噂をしている。やっぱり目立ちまくりだ。でも悪く言う人は居ないみたいだ。

 電車の中でイチャイチャしてる迷惑カップルに思われてないか心配だった……


 あと小さいってのは、背の事かな? それともおっぱいの事かな? それだけが気になる。私が元気だったら問い詰めてる所だった。


「なぁ……やっぱり夜の営みは減らした方が良いのか? 彩果はスタミナがあるとは言え、やっぱり疲れるし負担になってるよな」


 耳元で囁く様に、エッチの回数を減らすかどうか聞いてくる愛妻みなも。

 ていうかそんな事を電車の中で話さないでほしいんだけど……他の人に聞かれたら恥ずかしいよ……


「それは大丈夫だよ、だけどお互いの体調が万全の時にした方が良いかもね。その方が燃えるでしょ?」

「じゃあ、我慢しなくて良いのか?」

「私だってしたいんだから、無理して減らす必要はないよ」

「良かった、安心したよ……これで気兼ねなく彩果を抱けるぜ」

 

 こんな事、電車の中で話す事じゃないと思う……他の人達に聞こえてないよね? ていうかみなもの性欲が強過ぎるよ、スタミナがないくせにさ。


「彩果、キスしたい」

「唐突だね、でも私もしたくなっちゃった」


 私達は人目も憚らずにキスをした。お姫様抱っこをしながらキスをするのも、百合シチュエーションの定番だよね。


「あの二人……ラブラブじゃねぇか」

「あぁ……尊くて目の保養になるよ」

「疲れが吹き飛んだぜ」

 

 良かった、皆が尊みを感じてくれているみたいだ。百合の伝道師として鼻が高いよ。


「見ろよ、周りの乗客共が、私達の尊さに悶えてるぜ」

「ちょっと恥ずかしいけどね……」

「恥ずかしがる必要なんてねぇよ、むしろもっと見せつけてやろうぜ」

「まさか……ここでエッチするつもり?」

「そんな訳ないだろ……どういう発想だよ。流石の私もこんな大勢の奴らには見られたくないよ」

「みなもが見せつけろとか言うから」


 ていうか、ここでエッチしたら普通に捕まると思う。そんな捕まり方したらママに顔向け出来ない。ついでにパパにも。

 

「もっとキスしようぜって意味だよ」

「ならいいや、しよしよ!」

「周りの奴らがドン引きするくらいしようぜ」

「いいね、ベロチューもしようよ」


 私達は、人の多い電車の中だというのに、何度もキスをした。まるで私達二人しかいないみたいに。

 横目でチラチラ見てくる人もいる。私達に釘付けになっている人達もいる。でも写真を撮ろうとする人は一人もいない。

 いや……正確にはいたけど、友人と思わしき人に制止させられていた。盗撮まがいの事をするなって、怒っていた。皆優しいな。その優しさに甘えて、キスを続ける事にした。


 駅に付いて降りる頃には、乗客達は、尊さでフリーズしていた様だ。降り忘れてないといいけど。

 私達はタクシーに乗り、家まで帰って来た。


「彩果……私と結婚して幸せか?」

「今更過ぎるよ、幸せに決まってるじゃん」

「もし幸せに出来てなかったら、どうしようかと思ってるんだよ」

「みなもと一緒にいるだけで、私は幸せだよ」

「彩果!」

「よしよし」


 いつも私の頭を撫でてくれてるみたいに、みなもの頭を撫でてみた。これは私が大好きな立場逆転というやつだな。


「彩果……」

「みなも……」


 私達はもう一度キスをした。もう数えきれない程にキスをしているけれど、同じキスは一度たりともない。する度にみなもへの愛が強まっていくのを感じる。私達は暫くこのままでいる事にした。

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