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新月と商店街デート

 私はいつもの商店街に来ていた。女の子達を観察する為だ。この商店街は若い人が多く訪れる。この夕方の時間帯は、仕事帰りのOLさんや、下校中の学生さん達、仲良く手を繋いでる女の子達の多い事多い事。きっと手を繋いでる子達は、カップルなんだと思う。女の子達が手を繋いでたら、それはもう百合なんだよ!


「それでさーまじでありえないんだけどー」

「えーそれは同感だわ」


 あの女子中学生の二人なんて、腕まで組んじゃってさ……絶対付き合ってるよ……あぁ尊いな。

 あっちのスーツ姿のOLさんカップル。定時退社なのかな。これから家で二人きりで……あぁもう! 妄想が止まらない!


「よぉ、彩果、相変わらず面白い顔してるね」


 百合観察をしている私に、新月が話しかけて来た。 

 彼女とプライベートで会うのは珍しいな。ていうか面白い顔って何だ。可愛い顔じゃないのか。


「新月、今良いところなんだから邪魔しないでよ、ていうか何でこんな所にいるの」

「晴海に頼まれて買い物に来てたんだよ。そしたら彩果が通行人を見てニヤケてたからさ、警察に通報しようか迷ってたんだ。取り敢えず声をかけておく事にしたんだよ」

「そんなに不審だった?」

「まぁね、でも皆、彩果の事を小学生だと思ってるから、子供のする事には目を瞑ってくれるかもね」


 だれが小学生だ。立派な成人女性だと言うのに……でもそれで免罪されるなら、それはそれで良いかも。


「で? みなもさんとは仲良り出来たのかい?」

「うん……出来たよ……全部私の勘違いだった」

「だと思った、彩果の早とちりは昔からだからね」

「ごめんね、新月と晴海先生に心配させて」

「いや、良いんだ。あたしの親友夫婦が仲良しならそれで」

「ありがとう! 新月」

「うぅ……彩果の満面の笑顔は破壊力があるな……不覚にも可愛いと思ってしまったよ」


 どうやら、私を意識してしまったようだ。私は新月の初恋相手だから、まだ未練が残っている事も知っている。またたぶらかしてやろうかな……


「新月、今から一緒にデートしない?」

「なっ、何を言い出すんだい? 彩果とデートだなんて……そんな事……」

「嫌なの? 嫌なの?」

「うう……分かったよ。でもこれは友達としてだぞ……あたしも彩果も、パートナーが居るんだからな」

「勿論だよ」


 そう言って、私は新月と腕を組んだ。周りから見れば恋人同士に見えるかもしれない。


「おい、彩果……これは不味いんじゃないか」

「何が不味いの? 友達なら腕くらい組むでしょ」

「うぅ……」


 反応がいちいち可愛いな、これが見たくてやっているんだけどね。本来の新月はこういう女の子だ。

 私が彼女の予想外の行動をとると、狼狽する。その様子が見たくてたまらなかった。


「何処へ行こうかな? 取り敢えずそこの喫茶店でも入ろうか」

「うん……」

「ほら、いくよ!」


 私は新月の腕をグイッと強く引く。胸が当たるように。


「うぅ……彩果、胸が当たってるよ」

「どうしたの? 私のロリボディなんて、興味ないんじゃ無かったの?」

「あたしは無いとは言ってないだろ……」

「じゃあ私の胸に興奮してるんだ!」

「そういう訳じゃない!」

「どういう訳なの?」

「いじわるしないでくれよ……」

「ごめんごめん、新月の反応を見るのが楽しくて」

「魔性の女め……」


 その言葉に自覚はある。何せママの子供だから。

 パパから聞いた話だけど、ママは学生時代、男女問わず、周りの人達をたぶらかしていたらしい。パパもそのうちの一人だったようだ。そして見事パパを射止める事に成功したらしい。




「この喫茶店、学生時代に何度も来たよね」

「そうだね……」

「何で目を合わせてくれないの?」

「……」


 黙り込んでしまった。いつもの新月らしくない。というよりもこれが本来の彼女だ。小学生時代の彼女は、無口で、感情を出さず、人見知りで、いつも一人で居た。友達もいない。「とくになし」が口癖の、冷めた女の子だった。私と出会うまでは、


「新月は何を頼む?」 

「ウインナーコーヒー」

「じゃあ私も同じのを、えへへ……カップルみたいだよね、私達」

「なっ、何を言ってるんだい? 友達なら同じものを頼むのは普通だろ?」

「そうだったね」


 やっぱりいつもの新月じゃない。いくら私と出会った事で変われたからといって、 根っこの部分から変わる訳ではない。これが本来の彼女なんだ。だから否定するつもりもない。ただ可愛いので、ずっと見ていたくなる。


「お待たせしました。ウインナーコーヒーを二つですね」

「新月が先に飲んだら?」

「彩果が先に飲みなよ」

「遠慮しなくていいから」

「遠慮なんてしてないよ」

「こういうやり取りも恋人みたいだね」

「……」

「じゃあ私から飲むね」

 

 私はわざとらしく、ホイップクリームを口元に付ける。新月に取って貰うつもりだ。


「おい、口にクリームが付いてるぞ」

「本当? 気付かなかったよ。新月が取ってくれる?」

「何であたしが、自分で取りなよ……」

「恋人なら取ってくれるでしょ?」

「恋人じゃないだろ……」

「じゃあ恋人になって見る?」

「冗談はよしてくれ……」

「悪かったよ、自分で取るね」


 私は自分の指でクリームを取ると、それを新月の口に運んだ。


「な……何をするんだ……彩果」

「どう? 美味しい?」

「……美味しいよ」

「私の口に付いてたから?」

「んなわけないだろ、クリーム自体が美味しいって意味だよ」

「でも本当は?」

「……彩果、あたしをからかわないでくれ」

「からかってないよ、反応を見て楽しんでるだけだよ」

「それをからかってると言うんだよ」


 新月にいつもの覇気が感じられない。主導権は完全に私が握っている。こんな事はそうそうない事なので、もう暫く楽しむ事にした。


「彩果ってさ、もしみなもさんと出会ってなかったら、あたしと付き合ってくれていたのか?」

「どうだろうね、でも他に好きな子ができなかったら……」

「できなかったら?」 

「今頃新月とは夫婦になってたかもしれないね」

「なっ……夫婦って、気が早いな! そこは恋人同士じゃないのかよ」

「私はいつまでも待っていられない女の子なの。大体、結婚の約束なんて、死亡フラグだよ? そういうのって、大体結婚する前に死んじゃうんだから」


 ――この戦いが終わった結婚するんだ。

 この台詞を言って、死ぬ漫画やアニメキャラクターなんて山程見てきた。だったら先に結婚してしまえば良いんだ。それが私の考え方だ。


「漫画アニメの見過ぎだろ」

「絵師だからね、色んなキャラクターを描くのに、原作を見ておかないと描けないもん」

「彩果は結婚するのが早かったけれど、それもフラグ回避の為なのかい」

「別に……そういう訳ではないよ。ただ少しでも早くみなもと結婚して夫婦になりたかっただけ」

「幸せかい?」

「勿論、今頃そんな事聞くの?」

「聞いただけだよ」

「私と結婚したかった?」

「別に! あたしには晴海が居るもんね」

「晴海先生とは上手くいってるの?」

「勿論だよ、彩果とみなもさんよりもね」


 その言葉に嘘はないだろう。この前お邪魔した時も仲よさげだったし、私が尊さで悶えていた、教師と生徒の百合カップルのその後を伺い知る事ができた。

 この二人が結婚するの時間の問題だろう。もし結婚式をやるのなら、私が友人代表のスピーチを担当してみたい。会場中を尊さで悶えさせる自信があるからだ。二人の出会いから始まり、告白の秘話。退学処分危機を乗り越えて、結ばれる二人……私は全部知ってるんだから!


「もうそろそろ帰っていいかな……」

「まだ駄目、デートは始まったばかりだよ。もしかして急いでいるの?」

「いや別に……晴海にはゆっくり買い物してきて良いと言われたからね」

「なら大丈夫だね、商店街を巡ろうよ」

「分かったよ、でも腕を組む必要はないだろ……」

「あるよ、デートだもん」

「気恥ずかしいよ」

「私と腕を組むのがそんなに嫌なの?」

「別に……そういう訳ではないよ。むしろ嬉しいくらいさ」

「なら組んでも良いよね。あっもしかして恋人繋ぎの方が良かったかな?」

「どうせ断ってもしてくるんだろ。好きにすれば」


 自分がまな板の上の鯉だと自覚している様だ。私にされるがままの新月も可愛い。今日は彼女を描く事にしよう。テーマはそうだな……『親友との休日デート』かな。女の子友達と一緒に商店街を歩いていれば、それはもう百合なんだよ。


「新月、何処か行きたい所ある?」

「あたしが決めていいのかい?」

「さっきは私が決めたからね。次は新月が決めて」

「そうだな、ゲームセンターに行ってみたいな」

「学生時代によく行ってたよね、分かった、そこにしよう」

「彩果、せっかくだから対決しない?」

「へぇ……私に勝つつもりなの?」

「勿論だ。負けた方が勝った方の言う事を聞く」

「面白そうだね、受けて立つよ」

「絶対にあたしが勝って、彩果に好き放題してやる」

「じゃあ私が勝ったら、新月に好きな恰好してもらうね」

「何をさせる気なのさ」

「それは後のお楽しみです!」

「絶対負ける訳にはいかない……」


 一時間後……


「私の全勝だね!」

「うぅ……彩果強過ぎるよ……」


 バスケットゲーム。太鼓叩きゲーム。レーシングゲーム。シューティングゲーム。エアホッケー。モグラ叩き。パンチングマシーン。ダーツ。その全てで私は勝利した。 新月は私の足元にも及ばない程にゲームが下手だった。そういえば学生時代も、他校の生徒達と対決する時は観てるだけだった気がする。


「さて! 新月にどんな恰好をさせようかなぁ」

「エッチなコスプレとか辞めてくれよ」

「エッチなコスプレって例えばどんなの?」

「胸元が開いてるやつとかだよ!」

「あぁ……陽花がよく着てる奴だね、コスプレイヤーの仕事の時に」


 陽花はプロのコスプレイヤーとして活動している。     

 彼女は美人でスタイルが良いため、何も着ても様になる。


「新月もスタイル良いから何でも着こなせると思うよ! それに可愛いからね」

「か……可愛い………あたしが?」

「自覚なかったの? 新月は美人だよ」

「……」

「あっ赤くなってる、私に褒められたから?」

「別に、どんなエッチな恰好させられるのか想像したら、恥ずかしくなっただけだよ」

「大丈夫だよ、新月が目立つ事が苦手だって理解してるからね」

「ありがとう、彩果……出来ればコスプレをしないという選択肢があると助かるんだけど」

「とくになし」

「あたしの台詞を取るな……」




「着物姿の新月、可愛いー!」

「うぅ……着るのは始めてだ……恥ずかしいよ」


 私は新月に着物を着させる事にした。我が街は県内有数の観光地でもある。古い街並みが残っていて、多くの観光客が訪れている。着物体験が出来るお店があるので、着てもらう事にした。


 ……それにしても本当に良く似合っている。着物美人という言葉は、新月の為にあるのだと実感させられる。私が着てもこうはならないだろうから、嫉妬してしまうな。


「こっち向いて! ほら笑顔笑顔!」

「からかうなって……」

「写真撮っていい?」

「却下」

「じゃあ絵に描いていい?」

「……可愛く描いてくれよ」


 それはいいのか、新月の基準が分からない。


「じゃあこのまま街を練り歩こう!」

「勘弁してくれよ、目立って仕方ないだろ……」

「他にも着物姿の人は居るし大丈夫だよ。あっでも、新月は美人さんだから、皆から注目を集めるかもね」

「今すぐ脱ぐという選択肢は?」

「とくになし」

「あたしの台詞だってのに……」




「見て見て、凄い数の鯉のぼりだよ!」

「言わなくても分かってるよ、ここは毎年そうだろ」 

「新月と二人きりで歩くのは、始めてだね」

「そうだったかも……」

「楽しいでしょ」

「着物姿でなければね」

「着物姿だからいいんじゃん」

「目立つし恥ずかしいよ」

「こんなに着物が似合うのに?」

「彩果の方が似合うんじゃないかな」

「じゃあ私も着ようかな。新月とお揃いだね!」


 しまったという顔をする新月。余計に目立つ事になるだけだと気付いたみたいだ。


「やっぱり着なくていいんじゃんかな」

「何で! 私には似合わないから?」

「そういう訳では無いけど……」

「じゃあ私も着てくるね」


 そう言って私は、着物をレンタルして着てみる事にした。私自信も、着物をレンタルするのは初めてだったので、少し緊張していたけれど実際着てみたら、案外いい感じだ。まだまだ私も捨てたもんじゃないね。


「どう、似合う?」

「似合うよ、あたしなんかよりは」

「そうやっていちいち自分を卑下しなくてもいいから、私は新月が着てるのを見て、着てみたいと思ったんだ。自分もこんな風に着こなしてみたいってね」

「……可愛いよ、彩果の着物姿」

「本当? ありがとう!」


 私はみなもにしか見せない、とびきりの笑顔をしてみせた。


「うぅ……普段はそんな笑顔を見せない癖に、こんな時だけ見せるなんてずるいよ」

「本当に嬉しかったからだよ、正直不安だったんだから、着物なんて普段着る事ないからさ、変に見えないかって」

「見える訳ないじゃん、素材である彩果が美人なんだから」

「えへへ、ありがとう。お世話が得意だね」

「お世話なんかじゃないさ、自覚ないのか? 彩果は滅茶苦茶美人なんだぞ? それでいて、スレンダーな体型でモデルみたいだし、雪空のように綺麗な灰色の髪の毛、誰とでも気を合わせられて、話をしていて楽しいし……いい所だらけだぞ!」


 こんなにも私をベタ褒めしてくれるなんて、気恥ずかしいな。嬉しいのには変わりないのだけれど。

 

「えへへ、そんなに私の事を見てくれているんだね」

「あたしの初恋相手だぞ、ずっと彩果の事を意識していたんだ。彩果の事なら誰よりも知っているつもりだ!」

「やっぱり私への未練があるんだね」

「……とくになし!」

「本当はあるんでしょ」

「未練なんてサラサラないよ」

「もし、私と付き合えるなら?」

「あー! もう、あたしをからかうなよ」

「付き合うつもりは?」

「からかうなって」

「そこはとくになしじゃないんだ」

「……」

「ごめんごめん、新月をからかうのが楽しくてさ」

「別に、嫌じゃないよ、彩果とこうしている事は……不快ではないから」

「そう……良かった!」

「うぅ……その笑顔はあたしに効く」

「ならもっとしてあげる」

「みなもさんだけに見せなよ」

「新月にも見せてあげる」

「……魔性の女」


 今日の新月は本当にらしくない。いや、これが本来の彼女なのだから、ある意味新月らしいのかもしれない。出来れば毎日こうあってくれればありがたいのだけれど。




 それから私達は、お互い着物姿で、街ブラを楽しんだ。新月は照れ臭そうにしていたけど、どこか楽しそうでもあった。


「新月、うなぎ食べない?」

「いや、遠慮しとくよ……そんなにお腹空いてない」

「じゃあ、軽めのものにしようか。かき氷とかはどうかな」

「頭がキーンとなるし……」


 注文が多いな、とはいえ新月が嫌なら無理強いはできない。私は新月と楽しみたいだけだから。


「じゃあそこのタルト屋さんでいいかな、小さいのを買えばいいんだし、ここにしよ」

「今日は彩果の言いなりだから、意見はしないよ」


 さっき普通にしていた気がするけどね。こんなに大人しい新月、本当にいつ以来だろう。大学に来てからだと今日までなかったし、高校以来かな。多分、新月が晴海先生に告白した時まで遡るかもしれない。


 ……あの時の新月は、とても真剣だったから、好きな相手に想いを伝える彼女を見て、私は感情移入してしまっていた。晴海先生が新月の告白を受け入れてくれた時は、私が一番喜んでたな。二人の所へ駆け寄ってしまって、隠れて見ていたのがバレちゃったんだよね……私が百合の邪魔をしてしまうなんて……反省反省。


「このタルト、芋でできてるみたい。さすが埼玉だね! オシャレな食べ物も芋仕様だよ」

「確かに……芋尽くしだね、でもダサくは見えないんだよね」


 我が故郷は芋菓子が名物なので、芋臭いだの馬鹿にされそうだけど、実際にされた事は一度もない。逆に若者の映えスポットになっている様子だ。これも開発者の知恵なのかな。


「そんなに大きくないし、これならひと口で食べられるね」

「ていうか彩果、食べた事なかったの?」

「私、あんまりこっちの方に来ないんだよね。いつでも来れるから、別に今行かなくてもいいかなってなるからさ」

「地元の人程そういう傾向にあるよね」

「ていうか、埼玉で観光なんてイメージが沸かないからね!」

「正直、観光地化されるとは思わなかったから、皆何を観に来てるんだと思ってたよ。こう思っているのはあたしだけではない筈だ」


 これも地元の人間だから、気付かないだけなのかな。しかし観光資源が少ない土地だな。住みやすさと引き換えに捨てたと言う事なのだろう。


「美味しい!」

「食レポ下手だね、彩果は。テレビ番組でそんな感想言ったら、降板になるよ」

「じゃあ、新月ならなんていう?」 

「えっと……甘くて美味しい」

「そこはとくになしじゃないんだ。ていうか私とそんなに変わらないね」

「とくになしなんて言ったら、クビになるよ」

「まぁいいや、美味しかったし、他にも何か買おう」


 私はお土産としていちごホールタルトを買った。後でみなもと食べるつもりだ。新月は紅芋モンブランホールタルトを買った様だ。それは果たして埼玉の土産なのだろうか……




「他のお店にも寄って行こうか。にしてもお店が多いよね、この通りは。さすが観光地だよ」

「知らない間に新しいお店が出来てたりするか、定期的に来ないと把握できないよね、まぁあたしは何度も来てるから、詳しいんだけどね」

「じゃあオススメのお店とかある?」

「えっと……その……」

「あれれー詳しいんじゃなかったの」

「ごめん……彩果の前だから、格好つけただけだよ」

「じゃあ新月が責任持って、お店を見つけてよね」

「分かったよ、ちょっと待ってて」


 私は新月がお店を探している間、街ゆく通行人を観察していた。勿論百合カップルをだ。


 あの女子高生二人組! 恋人繋ぎなんてしちゃってさ、絶対付き合ってるよ。きっとデート中なんだろうな。あぁ……描きたい描きたい! 


 あっちのギャル二人組、腕なんて組んで凄く楽しそう。多分「あーしが面白い所に案内してあげるよ」とか言ってるんだろうな。


 そもそも今日は百合観察をしに来たんだった。最近ほとんど絵を描いてなかったから、今日は久しぶりに沢山描くつもりだ。ここには地元や観光客の女性達が大勢やってくる。お一人様もいるけれど、カップルで来る人達が圧倒的に多い。三人以上で来るのは、多分百合ハーレムを築いているのだろう。


「あはは、何このガチャガチャ。芋のストラップが出てきたんだけど!」

「中身全部芋じゃん! 芋だけでこんなに種類があるんだね」

 

 ガチャガチャか……最近やってないな。

 私は、あの百合カップルが回していたガチャガチャをやってみる事にした。ちなみに一回百円だ。たまに五百円のとかあるから、良心的といえるだろう。


「なんだこりゃ、本当に芋のストラップが出てきた」


 カプセルの中に入っていた説明書によると、安寧芋らしい。他には、紅はるか。紅あずま。シルクスイートなどがあるらしい。芋にも沢山の種類があるようだ。そんな事をしている内に新月が戻って来た。


「何ガチャガチャを回してるのさ」

「さっきの百合カップルが回してたからさ、私もやってみたくなっただけ。ほら、安寧芋のストラップだよ、新月にあげる」

「いや、別に要らないんだけど……でも彩果がくれるなら貰うよ」

「それを私だと思って大切にしてね」

「彩果は芋だったのか。芋女だね」

「芋臭いって事?」

「田舎もんだからね」


 確かに都会っ子では無いけど、田舎ものでは無いと思う。……やっぱり田舎かも。うん田舎だ。


「で、どこかいいお店見つかった?」

「とくになし」

「見つからなかったんだね。まぁいいや、適当に歩いて見つけよう」

「彩果、そろそろ着物を脱ぎたいんだけど……」

「似合ってるのに勿体ないよ、そうだ! 着物姿の私達を描く事にしよう」


 タイトルはそうだな『着物姿の百合カップル』

 ……そのまんまだな。私ってネーミングセンス皆無。     


 と言うか、今日は私と新月を百合カップルに見立てて絵を描いた方がいいんじゃないだろうか。今の私達って百合カップルみたいなものだし。同じ着物を来て、一緒に街を歩いて、お店に寄って名物を食べて、周りから見れば恋人同士に見えてもおかしくない。


「おいおい、そっくりに描くつもりじゃないだろうな……」

「駄目? 新月が嫌って言うなら、描かないよ」

「……好きにすれば、今日は彩果の言いなりだからね。それに彩果が百合園の表紙を描く為に、修行中だからね。一枚でも多く描いて上達しないとだから」

「いいの? 無理してない?」

「してない、せっかく描くんだから可愛く尊く描いてくれよな」

「まっかせなさい! 私を誰だと思っているの、天才百合絵師ぷらむだよ」


 自分で自分の事を天才というのは、自惚れているわけではない。己を鼓舞する為だ。私より凄い人が多すぎて、こうでも思っていないと心が折れてしまうからだ。やってられなくなるからだ。私なんて所詮、末席を汚さぬように、しているだけなのだから。


「今描くのかい? ていうかタブレットをどこから取り出したんだ……」

「バックの中に入れて持ち歩いているんだ」

「そんな小さなバックには入らないだろ」

「魔法で小さくしてるんだ。紡岐……担当編集さんから教えて貰ったの」

「彩果って魔法が使えたんだ」

「これくらいならね、でも絵を描く時には使ってないよ。そもそも使えないんだけどね。」


 魔法で絵を上手く描く人も居る。でも私はそんなものには頼るつもりは無い。使えなくたって、人を惹きつける絵を描けるからね。


 ちなみに物を小さくする魔法も、紡岐にかけて貰っただけで、私が使った訳じゃない。私には魔法の才能はないみたいだ。


「出来た! 『着物姿の百合カップル』」

「本当に描くのが早いよね、彩果って」

「速筆なんだよね、私。特徴さえ掴めば、描くのは簡単だから」

「あたしにはそんな事できないよ。彩果は天才だよ」

「えへへ、新月にそう言って貰えると嬉しい」

「だからその笑顔はやめろ…あたしの心を打ち抜くんだよ」 

「もっとしてあげてもいいんだよ」

「みなもさんだけに見せてあげな」 

「えー新月にも見せてあげたかったのに……」

「どういう意味だよ」

「私って新月の初恋相手なんでしょ?」

「だから何だよ。もう未練はないよ」

「初恋を思い出させてあげるって事」

「余計なお世話だよ。彩果こそ、あたしに惚れても知らないよ」

「それだけはないね! 私はみなもしか眼中にないもん。新月には恋愛対象として惚れる要素はないよ」

「少しはあれよ……と言いたいけど、あたしも不倫相手にはなりたくないからね、それでいいさ」

「不倫相手になってあげてもいいんだよ?」

「何を言い出すんだ、いい訳ないだろ!」


 新月が慌てふためく姿も可愛い。勿論不倫するつもりなどない。ただ新月は可愛い。それだけは事実だ。

みなもと出会わければ新月と恋人になっていたのかもしれない。そんな世界線もきっとあったのかもね。


「なーんて、冗談だよ!」

「魔性の女め……」

「さぁ、街ブラを続けようか。私との不倫旅行も楽しいよね!」

「……もうツッコむのも面倒くさい」

「じゃあ不倫でいいんだね?」

「そうだな! 彩果との不倫も悪くない。後でみなもさんに自慢してあげるよ」


 NTRというやつか。でもみなもはそれを聞いたとしても信じないだろう。普通に友達と遊んでいただけだと見抜くだろう。それに私が不倫なんてする訳がないと信じてくれているからね。正妻の余裕というやつだ。

 

「私も晴海先生に自慢するつもりだよ、新月との不倫は楽しかったですってね」

「辞めてくれ……晴海は冗談が通じないんだ」

「じゃあ、今日の事は二人だけの秘密だよ?」

「分かったよ、秘密を共有する関係になったって事だからね」

「何だ、新月も乗り気じゃん」

「彩果と恋人気分だからね」

「やっぱり私に未練があるんだね」

「とくになし」

「もう、私の台詞取らないでよ」

「あたしの台詞だっての!」



 

 新月の表情はとても楽しそうだった。 

 この後私達は、少し離れたお菓子屋さんが軒を連ねる商店街を訪れて、買い食いを満喫した。学生時代は何度も来て、同じ事をしたものだ。その頃に比べると観光客が増えた気がする。その分、百合カップルも多いからいいけど。


「新月、はいあーん」

「なんか恥ずかしいな、彩果に食べさせて貰うのは」

「じゃあ自分で食べる?」

「……彩果に食べさせて貰う」

「正直でよろしい」


 私は、新月の口にお菓子を運んだ。口を開けて待つ新月も可愛い。みなもには負けるけどね。

 

「どう? 美味しい?」

「美味しいよ。彩果に食べさせて貰ったからね」

「そう、それは良かった」

「少しは照れ臭くしろよ、あたしが褒めてやったんだからさ」

「ありがとう新月……私、嬉しいよ、美味しいと言って貰えてさ。こんなに嬉しい事はないよ」

「うぅ……あたしの方が照れ臭いよ」


 残念だけど私の方が何枚も上手なのだ。でも新月の反応がいちいち可愛いので、見てるこっちが照れ臭くなる。晴海先生はこれを毎日見てるんだよね。少し羨ましいな。


「くそっお返しだ。ほら彩果、あーん」

「あーん」

「ぐぅ……彩果の目を閉じて口を開けてあーんしてる顔が可愛すぎる……」

「美味しい! ありがとう新月」

「くそっ……彩果には敵わないな」


 何を張り合っているのやら。


「取り敢えず、お土産に芋菓子とふ菓子とサイダーも買っておいた、ここに来たなら買わないという選択肢はないからね。後でみなもと食べる予定だよ」

「いいよな、みなもさんとイチャイチャしながら食べるんだろ」

「なーに、妬いてるの?」

「妬いてなんかない。微笑ましいと思っただけ」


 それを言ったら新月と晴海先生だって家でイチャつきながら食事をしている筈だ。その光景を見て見たい、二人の日常を描いてみたいものだ。ただそれをするのには、その場に私が居合わせてしまう為、描く事ができないのだけれど。




「さっきから全然景色見てないよね。通行人しか見てないもの」

「だって地元の景色なんて見飽きてるもん。百合カップルを見てる方が楽しいもん」

「……彩果ってさ、聖地巡礼とかしないタイプ?」

「良く分かったね、一度もした事ないよ。女の子達しにか興味ないからね」」


 現実の場所を舞台にしてる作品は多いけれど、別に景色が見たい訳ではないのだ。観光地を推されても逆に白ける。確かにそこでキャラクター達が何をしたかなどで聖地になるパターンもあるけれど。私からしたらどうでもいい。観光アニメが見たいんじゃないんだから。


「つまり景色が見たいんじゃない、女の子達が見たいんだよ!」

「彩果らしいな」

「舞台なんて何処だっていいんだ。現実世界だろうと異世界だろうと、女の子達が百合百合していればそれでね」

「ちなみにこの街は『時グル』の聖地になってるよ」

「そうだった、聖地巡礼しないと!」

「興味ないんじゃなかったの……」

「好きなアニメと地元は別だよ!」


 第七話で我が地元を訪れる事になったふがしちゃん一行は、名産品を食べ尽くす事になる。


 「ふがしちゃんがね、名物の長いふ菓子を食べたんだけど、それを見ていたおいもちゃんが、『共食いやないか!』とツッコむんだよね。でね、おいもちゃんが芋菓子を食べるとふがしちゃんが、『共食いやないか!』とツッコみ返すんだよね」

「何が面白いんだそれ……」


 分かっていない、このやり取りの尊さを。まだまだ『時グル』ビギナーだね。別に好きな作品でマウントを取るつもりなんてないのだけれど、つい知ったかをしたくなる。


「ラムネちゃんがサイダーを飲んでいると、ふがいもが、『共食いやないか!』とツッコむんだけど……ラムネちゃんは何て言い返したと思う?」

「何だったけ……見たけど覚えてない」

「『残念、これはビー玉で栓をしてないから、サイダーだよ。瓶も違うでしょ? だから共食いではないんだ』でした」


 新月は興味なさそうな表情を浮かべていた。あんまり『時グル』には興味ないんだろうな。ならば強要する必要もあるまい。


「彩果、そろそろ帰りたいんだけど……」

「あれ、もうそんな時間なの?」


 気付くと、夕方の五時を回っていた。時間を気にせずに遊びすぎていたようだ。いけないいけない、みなもを心配させてしまう。それに新月を束縛し過ぎると晴海先生にも迷惑がかかる。


「じゃあ、そろそろ解散しようか、今日はありがとう新月、楽しかったよ」

「あたしの方こそ、彩果と不倫デートが出来たからね、いい思い出になったよ」 

「私との不倫デートは楽しかった?」

「もちろん! また不倫しようね」


 あんまり不倫とか言っていると、周りの人達から勘違いされてしまいかねない。不倫ごっこでしかないのだから。


「新月、本当に私に未練がないの?」

「何度も言ってるだろ、とくになし」

「微塵も?」

「ない、あたしには晴海しか眼中にないよ」

「そっかぁ……寂しいなぁ」

「うぅ……そんな目をするなよ」


 私に未練がないのは正直ほっとしている。だって私のせいで新月が心に傷を負ってしまったのだから、ずっと負い目を感じていた。だけどその心配が必要のないものだと分かったから。また新月と親友に戻れる。

こんなに嬉しい事はないよ。


「じゃあね、彩果。また大学で」

「新月……待って」

「何だよ、もしかしてあたしに未練があるのかい」

「そうじゃなくて、着物のままだよ」


 新月は忘れていたようだ。何だかんだ言って、着物が気に入っていた様子だ。


「な……しまった、このまま帰る所だった」

「新月、本当に似合ってるよ! その着物姿」

「うぅ……彩果に褒めて貰えるなら別にいいか」

「やっぱりまんざらでもなかったんだね」

「あたしだって女の子だぞ、可愛い恰好の一つや二つ、してみたいんだよ」


 そう言って、着物レンタル屋さんの所へ向かって行った。私も返しに行かないと。


「さて、私も帰るかな」

「何で付いてくるんだよ」

「着物を返しに行かないとだから」

「そうだった……」

「帰るまでが不倫デートって言うからね!」

「聞いた事ないよ、そんな言葉。それを言うなら遠足だろ」

「そうとも言う」

「そうとしか言わないだろ」


 やっぱり新月と居ると楽しい。私は大切な親友と二人、 夕暮れの街を会話しながら歩くのだった。

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