百合夫婦と結婚指輪
みなもと私は運命の糸で結ばれている。
私達の出会いは、それ程に運命的だったからだ。
私達が出会ったのは、今から十四年前の、雪の降りしきる冬の日の事だった。
私は道の真ん中で迷子になって一人で泣いていた。
不安で、怖くて、寒くて、自分の未熟さに打ちのめされてかもしれない。
ただ六歳だった私には、そんな事を思う知識もなかっただろうけれど。
「ぐすっ、ひっぐ……ここ何処……ママぁ……」
「こんな所でどうしたんだよ、もしかして迷子か?」
一人泣きじゃくって、途方に暮れていた私に、ランドセルを背負った女の子が声を掛けてきた。
金色の長い髪。整った顔立ち。自分よりもずっと高い上背。大きな胸。私は、彼女に一目ぼれしていた。
彼女は、私を慰めるつもりだったのだろう。私に近づいてキスをしてきた。
「私が勇気を分けてやる、これで泣き止んでくれ。」
彼女の唇はとても柔らかいくて、プルプルしてて、私はとろけそうになっていた。
「あの……お姉さんの名前……」
「私? 荒川みなもだ」
「私は……色彩果っていいます……」
これがみなもと私の出会いだった。
その後、彼女は私を母の元まで届けてくれた。
私は彼女に、みなもに救われたのだった。
私達が再会したのは、それから七年後の事だった。
私は、夜更しした時に見た深夜アニメを見て、百合というものに興味を持ち始めた。そして絵を描きたいと思い、毎日、百合絵を描き続けた。
しかしもっと上手に描きたいと思った私は、プロの指導を受けようと思ったのだった。
当時私が読んでいた百合漫画『月映えに芽生える』の原作者『りぷとん先生』 がアシスタントを募集しているのを雑誌で知り、応募した。
対象は、高校生限定だったので、私は中学生であることを隠し、高校生になりすました。
そして彼女の同じ市内に住んでいる事を知り、私は彼女の家へと向かった。
家から出てきたのが、七年前、私を助けてくれた、あの金髪のお姉さん、みなもだった。
私は、りぷとん先生がみなもだということに驚くと同時に、彼女に抱きついた。
「やっと会えた……みなもさん……」
私は、みなもに一目ぼれしたあの日から、ずっと彼女の事が頭から離れなかったのだ。
もう一度会いたい。会えたらこの気持ちを伝えるんだ。好きですって。
みなもは私の気持ちを理解したのか、私にキスをしてくれた。
「私も、お前にまた会えて嬉しいよ」
みなもは、私が高校生になりすましていたことを咎めずに、家に入れてくれた。
そして、私をアシスタントとして雇ってくれることにしたのだ。その報酬として、私に絵の技術を教えてくれる事に。
みなもの教え方はとても優しかった。
私がミスしても、怒ることなく、頭を撫でてくれた。
私はみるみる上達していき、プロになることができた。
私は、更にみなもの事が好きになっていった。
いつ彼女に告白しようか、悩んでいた時、何とみなもから告白してきたのだ。
みなもも、私の事がずっと好きだったのだ。
私はもちろん快諾、みなもと恋人になった。
私が高校を卒業した後、みなもと結婚して、私達は夫婦になった。そして今に至る。
これが、みなもと私の愛の物語の始まりである。
「いやー、本当にロマンチックだよね、私達って」
「美化し過ぎだろ! 所々違ったぞ!」
私が思い出に浸っていると、みなもが内容に注文を付けてきた。
私は、クシでみなもの髪を解いていた。
みなもの髪は、長くてサラサラしてて羨ましい限りだ。なのに寝癖をそのままに放置している。
女の子なんだから、もっと髪の毛を大事にしてほしい。
「なーに? 全部本当にあった事でしょ?」
「まずお前を助けた所だ。 私からキスしたんじゃなくて、お前からキスしてきたんだろうが」
「んな! このガキ……私の初キスを奪いやがった」
「えへへ、お姉さんの唇プルプルー」
「このガキ、迷子じゃなかったのかよ」
「迷子だよ、でもお姉さんと話してたら、不安な気持ちが吹きとんじゃった」
「そうかよ、お前が泣き止んで良かったよ」
「……お姉さん、何て名前なの?」
「お前から名乗れ、それが礼儀だ」
「じゃあいいや」
「もっと興味持てよ! 私は荒川……」
「私は色彩果って言うんだ」
「最後まで聞けよ!」
「お姉さん、何でイライラしてるの? もしかしてだけど、生理?」
「お前が原因だろうが!」
「こうだぞ」
「そうだっけ? でもたいして変わらないね」
みなもと私があの日出会った事。私がみなもに一目ぼれしたこと。その事実は変わらないのだから。
「再会した所も違うな、キスしたのは私からじゃない、お前からしてきたんだ。」
「あの時はまた会えたのが嬉しい言ってくれたよね」
「それは本当だ、私もお前に一目ぼれしてたからな」
「えへへ、やっぱりー」
「でもまさか中坊が来るとはおもわなかったぞ」
「どうしても教えて欲しかったの! りぷとん先生がみなもだとは知らなかったけれど」
思えば私が夜更ししなければ深夜アニメを見ることはなく。百合に興味をもつこともなかった。百合絵を描こうとも、上手になろうとも、プロに教わろうとも、思わなかった。これが本当の運命というやつなのだろう。
「高校生限定なんて範囲狭すぎるよ」
「うっせ、同じ高校生と仲良くしたかったんだよ」
「みなも、学校だと友達いなかったみたいだもんね」
「いたよ! 一緒に遊んでた! 家に呼んだことないけど」
みなもの家には、彼女の両親しか見かけた事がないため、寂しい青春時代を過ごしたのだろうと、勝手に同情していた。一応友達はいたようだ。
でも友達なら家に呼ぶよね。普通、ゲームとかお泊り会とか、するよね? 少なくとも私はそうだった。
友達に囲まれて、毎日楽しくて仕方なかった。
その友達は同じ大学に通っている。
「みなもはさ、私をアシスタントとして雇ってくれたよね。その報酬として、私に絵の技術を教えてくれた」
「おまえの描いた絵は、光るものがあったからな。アシスタントとしても優秀だったし、それに、こんな回りくどいことをしてまで上手くなりたい奴を、見捨てる訳にはいかないんだよ、プロとしてな」
もしみなもじゃなければ、私は追い返されていただろう。みなもは、自分の時間を割いてまで、私に指導してくれた。だから絶対その気持ちに応えないといけないと、私は精一杯努力した。
「けどちょっと厳しく言っただけでビクビクしやがって、これだから現代っ子は……」
「みなもと五つしか変わらないでしょ、甘やかされて育ったお嬢様のくせに」
「あんなバレバレの嘘泣きで私を騙せるわけないだろ」
「でもみなもは慰めてくれたじゃん。頭撫で撫でしてさ」
みなもは頭ごなしに私を叱責することは一度もなかった。教え方だけでなく。接し方も上手かった。
「他のアシスタントが皆逃げて、お前しかいなかったんだよ、私の何が駄目だったんだ」
「スキンシップが激し過ぎて、鬱陶しいって、辞めた人達は言ってたよ」
「もっと距離の取り方を考えるべきだったか……女子高生達と仲良くなりたくて、つい冷静さを失ってたぜ」
いくら友達が少ないからって、無理して作ろうとしなくていいのに。本当に気の合う友達がいれば、それでいいのに。
「でも、みなもから告白したのは、本当だよね」
「そうだ、ずっとお前の事が好きだったから、自分の気持ちを伝えたかったんだ。」
「あの時は驚いたなぁ、私がみなもにどうやって好きだという気持ちを伝えるか悩ん出た時に、みなもから好きだと言われたんだもん」
「でもお前は、快く快諾しなかったよな」
「付き合うことが許されないと、思っていたからね」
みなもに告白されたのは、五年前の事だ。
みなもは、ずっと私の事が好きだったという。
私が一目ぼれしていたあの日、みなもも私に惚れていたのだという。
嬉しかった。でも私達は付き合うことは許されないのだと、私は思い込んでいた。
私達の間には三つ壁があった。
「年齢の差」
「師弟関係」
「憧れ」
だから恋人になれないんだ。きっと許されない事なんだ。私はそう思い込んでいた。でもみなもは違った。
「関係あるか、そんな事、気にしてんじゃねぇよ」
みなもは呆れ顔をして、私にそう言い放つ。
「みなもと私は、五つも年が離れてる」
「むしろ五つしかだろ。 そもそも愛に年の差なんて関係あるかよ』
「私達は師弟関係で……」
「だから何だ、師匠と弟子は付き合ったらいけないのかよ、年の差の事といい、お前が勝手に決めつけてるだけだろ」
みなもは私の心配事を一つ一つ、強引だけど最もな理由で解消してくれる。
だけど最後の一つはどうしても捨てる事ができないものだ。
「私、みなもに憧れているから、対等な目線で見れない、恋人になんてなれない……」
「だったら、憧れを捨てろ、私と対等な関係になれ、対等な目線で、私のことを見てくれ」
「みなもへの、憧れを辞める……無理! できないよ」
私は漫画みたいに頭を左右に振っていた。残像で頭
が三つに見えるくらい。
「何でだよ、私の事が好きじゃないのか?」
「みなもは、私からしたら、遥か雲の上の人で、天才漫画家で、世間からの評価も高くて、私なんかに絵を教えてくれて……」
みなもは分かってないんだ。憧れがあるから、人は何かになろうと出来ることを、凄いお手本があるから、自分もそれを元にやってみたいと思える事を。
私にとって、プロの人達は、全員神様の様に見えている。私はその神様の前で、頭を垂れてるだけだ。
「良いよな、憧れてる内は、その人の事を理解しなく
ていいんだからさ。 本当、楽でいいよ」
みなものその言葉に私は揺れ動いた。
「そ……そういう訳じゃ……」
「お前の中で、勝手に別人の私を作り上げて、神格化してるんだろ? それは本当の私じゃないのにさ」
「そんな事ない! 私はみなもの事、誰よりも理解してるつもり!」
「なら憧れるのを辞めろ、憧れを捨てて、私の理解者になってくれ」
その言葉の一つ一つに私は絆されていった。
「言っておくけど、本当の私を知ってがっかりするなよ? 勝手なイメージ像を作り上げて、それと違ったから勝手に失望する奴を、私は軽蔑する」
私はブンブンと、左右に首を振った。
「ならいい、本当の私は、お前が思っている以上に、」
弱くて、駄目な人間なんだからな」
「みなも……」
「今日からお前と私は、互いに競い合って、高めあうライバルでいよう」
「でも……」
「絵師と漫画家は違うとか、言い訳にはならないぜ。私に弟子入りした時点でな」
私は、みなもの事をもっと知りたい。だから――
「わかったよ、憧れるの辞めるよ。みなもはライバルだし、恋人でもある。そういう関係になりたい」
「ありがとな、彩果」
「みなもー!」
「これからもよろしくな」
私たちは、口づけを交わした。
「この後結婚したんだよね」
「その後も色々あったのに、過程を飛ばしすぎだろ……」
でもこの事があって、私達は恋人になれた。
憧れる事を控えた事で、みなもの事、色々分かる様になったから。
「いやーしかしみなも、相変わらずクサイセリフをいうよね」
「うっせーな、茶化すなよ」
「なんだって? 憧れるのを辞めろ?」
みなもの顔が紅くなっていた。
「メジャーリーガーにでもなったのかな? みなもの言葉ではないよね」
「よし、この話題終わり。今日は見せたいものがあるんだ」
「話逸らした、やっぱり気恥ずかしかったんだ!」
「お前が悩んでたから、言っただけだよ。私はお前と恋人になりたくて仕方なかったかからな」
「みなもー!」
私はみなもに抱きついた。
「よしよし」
確かに私はあの言葉のお陰で、みなもと交際してもいいんだと、許されるんだと、思うことができた。
でもみなもが自分の言葉みたいに使ってるのは、ちょっと違和感がある。
だからこれからもいじり倒してやろう。みなもの気恥ずかしそうにしてる顔が見たいから。
「で、私に見せたいものって何」
「ほら、結婚指輪が届いたんだ」
みなもは引き出しの中から、高そうな箱を取り出した。
「遂に完成したんだね! 私達の結婚指輪……って遅すぎ!」
普通こういう物って、結婚前に渡す物じゃないの?
もう結婚してから一年以上経つんだけど、すっかり忘れてたのかと思ってたよ。みなもはこういう所が本当にいい加減だ。
「すまねぇ……指輪は結婚前に渡すことを結婚した後で知ったんだけど、予約するのをずっと忘れて……」
「それでこんなに遅くなったの?」
「すまん……新作を生み出す事に集中し過ぎて、指輪の事、忘れてたんだ」
なんだそりゃ、そんな理由だったなんて。でも、みなもの私に対する想いは伝わってきた。
「ありがとーさすが私の奥さんだね」
「もっと褒めてくれ!」
「みなも大好き! みなもー!」
「彩果!」
私達は抱き合った。二人でいる時は、惚気ずにはいられない
「ちなみにお金は私の漫画の印税から出したから、彩果は気にしなくていいぞ!」
「えへへ、ありがとー」
みなもはこういう所で気が利く。私が好きな、みなもの良いところだ。
「結婚指輪か……」
私自身、結婚指輪というものに、憧れあった。
両親が付けているのをずっと見ていたので、いつか自分も付けて見たいと、夢見ていた。
「嬉しいな、こんな日が来るなんて。しかも相手がみなもなんだもん」
「私もだよ、これで彩果と本当の夫婦になったと、実感出来る」
「もう結婚してから一年経つんだけど……」
「やっぱり指輪がないとな、彩果と夫婦だと証明するものが欲しいからな」
別に指輪だけが、夫婦の証明ではないと思うけど。
「苗字だって同じじゃん、私の色姓を使ってるんだから」
「やっぱり目にみえるものが欲しかったからな」
いやいや、指輪の事忘れてたじゃん、本当にみなもはいい加減だ。でもそういう所も好き。
「ほら、私が付けてやるよ。」
そう言うと、私の指輪を取り出して、私の左手を握る。
「彩果、どの指がいい?」
「やっぱり薬指かな、定番だもんね」
みなもは指輪を嵌めようとしているのだが、その手が震えていて、上手くいかないようだ。
「みなも、手が震えてるよ? 緊張してるの?」
「当たり前だろ……始めての事なんだから」
「ちょっと、全然入ってないじゃん、もー不器用なんだから」
むしろみなもは手先が器用な方だ。そのみなもがただ指輪を嵌めるということに、ここまで苦戦しているのは、珍しい光景だ。
みなもには悪いけど、もう少し見ていたいかも。
「よし、指に入ったぞ」
ちなみにここまでに一分かかっている。
「どうだ、指輪を付けた感想は」
「えへへ、嬉しい! 改めてみなもと夫婦になった気分だよ」
指輪には、結婚記念日とみなもと私の、イニシャルが刻まれていた。
「ダイヤモンドとかあったほうが良かったか?」
「ううん、無くても大丈夫、みなもとお揃いってだけで嬉しいもん」
「彩果……」
「じゃ私もみなもに指輪付けて上げるね」
そう言うと私は、箱から指輪を取り出して、みなもの右手の薬指に付けてあげた。
「えっ早! 一発で成功しやがった。少しは苦戦しろよ」
「私は手先が器用だからね」
「嘘つけ、裁縫とかできないくせに」
それに緊張はしたけど、みなもみたいに、手が震えて嵌められないなんて事にはならなかった。私は本番に強いのだ。
「さてと、今日も絵を描こうかな」
「だったら、今の結婚指輪を嵌める夫婦の絵を描いてくれよ」
みなもが私にリクエストをしてきた。
「え、それを描くの? まぁ……いいけど」
確かに百合夫婦というジャンルもあるし、私達はそれに該当するだろう。だけど描いていいのだろうか。
「まぁ、みなもがいうなら……描くけどさ」
正直乗り気ではなかった、だって、水面を利用してる|みたいだから。
そこまでして、百合の尊さを伝えたい訳じゃない。私が乗り気じゃないものは、描かない主義なのだ。
ちなみに私は、実在する女の子を絵に描く時は、本人の許可がない限り、全く別人に描く。下手したらアウティングになる場合があるからだ。特に百合カップルの場合は。
私が描きたいのは、あくまでシチュエーションなのだから。
私は線引きは出来る女だと思っている。
嫌がる相手に、無理強いはしない。踏み入ったりはしない。
静かに暮らしたい人だっているだろう。
私が、それを邪魔していい理由なんてない。
「できた『結婚指輪を付ける百合夫婦』」
「さすが彩果だな、他に描きたいものはないのか? 協力するぜ」
珍しくみなもが協力的だ。
「んーそうだな……百合エッチとかかな」
つまり性行為のことだ。 他人のそれをみるわけには行かないので、描きたければ、みなもとするしかないわけだ。
「よし、じゃあやるぞ、こっちは二週間もお預け中なんだからな」
そう言って、私に迫ってきた。
「きゃー! みなもにおそわれちゃう!」
芝居がかったリアクションをしてみるも、みなもは意に介さない。
「お前の演技なんかで騙されるかよ。顔が笑ってるぞ、この大根役者め」
「みなも、私にエッチなことするつもりでしょ」
「その通りだ」
「けだもの!」
「そうだ今の私はけだものだ」
「性欲の化身!」
「それがどうした」
「エッチ!」
「その通りだ」
みなもに何を言っても、通用しない。
さすがに私も、ゆとりがなくなってきた。
「みなも……」
「布団に行くぞ」
みなもが私をお姫様抱っこして布団まで運んでくれた。
ちなみにみなもがベッドが苦手なので、我が家は布団派だ。庶民派温室育ちな、みなもも好きだ。
「とうした? 急に大人しくなったじゃねえか、さっきまで騒がしかったのに」
「そうかな……そうかも」
私はもうすっかり、そういう気分になっていた。
みなもは、私を布団の上に寝かせた。みなもは、部屋の照明を暗くして、私に覆いかぶさる。
自分の息遣いと心音が普段より大きくきこえる。
「ねぇみなも、指輪……外さなくていいの、汚れちゃうよ? 特にみなもは……』
「どうせ付けてりゃ汚れるんだ、気にしないよ」
みなもは私の服を脱がし始めた。
「初めてじゃないのに緊張してる……」
「私もだよ、何度目でも、慣れるもんじゃねぇな」
私達にはマンネリという現象は一生来ないかもしれない。新婚夫婦のようにうぶだった。
「みなも、優しくしてね」
「いつもしてるだろ」
「みなも、痛くしないでね」
「そのつもりだ」
「みなも、ちょっと不安」
「私に身を委ねろ」
「みなも」
「なんだ」
「好きだよ」
「私もだ」
私達は唇を重ねた。
これが朝チュンという奴なのかな。
いつの間にか寝てしまったようだ。何時間くらい経ったんだろう。
「やっと起きたのか、おはよう彩果」
「おはよう、みなも。何時間くらいしてたのかな」
「三時間くらいかな、女同士だとこうなるな」
ああ……なんか頭が冴えて来て、昨夜の事を、少しずつ想い出してきた。
それと同時に一気に恥ずかしくなってきてしまった。
「確かにこれは人には見せられないな……恥ずかしすぎるもん」
「お前って、天性のネコだよな。ずっと受けてばっかで、私にされるがままだっもんな」
みなもがからかうように笑いながら言う。
「べ、別にいいでしょ! もう、口に出されると余計に恥ずかしいよ」
今更何を言ってるのかと思われるだろうけど、私はこれでもピュアなのである。
「そうだ、絵に描かなきゃだね、ええっと……タブレットタブレット」
私は床に置いてあったペンタブを引っ張ってきた。
それを後ろから見ていたみなもは。
「おっおい、今のお前、すげぇあられもない姿になってるぞ……全裸四つん這いって……」
「んー? 別にいいでしょ、みなもにしか見られてないんだし」
「愛する女のこんな姿……してほしい様な欲しくないような……」
「描いていい?」
私はみなもに構わずに、執筆を初めた。
「せめてパンツくらいは履いてくれ」
「もう、わかったよ」
私はみなもに脱がされたパンツを履いた。
「お前の下着って、色気皆無だな。女子大生が白パンツとか履かねぇだろ」
「何付けたっていいでしょ」
「熊さんパンツじゃないだけまだマシか」
全く、失礼なみなもだ。熊さんパンツなんて、高校卒業と同時に履かなくなったというのに。
ていうかみなももいつまで裸なんだろう、自分だって、色気の下着付けてるじゃん。 何故かいつもノーブラだし、パンツも色気があるとは言えないし。
「描けた『百合夫婦の営み』」
「この喘いでるのが彩果だな」
「そうそう……って、言わないでよ! 恥ずかしい……」
「描くのは恥ずかしくないのかよ」
「見た目は別人に描くからね、私達って誰もわかんないよ」
「こんな詳細に描くと、実体験なのかと、思われても仕方ないんじゃね」
私は描いた絵を保存した。でも投稿はしなかった。
というか、したくなかった。
「どうした、投稿しないのか」
「うん……なんかその気じゃなくて」
やっぱり後ろめたさがあった。みなもを利用していると言う罪悪感に苛まれていた。
「お前もしかして、私に気を使ってるのか」
「何でわかるの」
「お前の考えそうな事何て、全部お見通しだよ。すぐ顔に出るからな」
思考を読まれたのかと思ったけど、みなもにそんな力はなかった。私は、自分が思ってる以上に分かりやすい女のようだ。
「だって、みなもは私の最愛の人なのに、私の目的の為に、巻き込みたくない」
「お前、その言葉を今まで描いてきた百合カップルに言えよ」
「こんな言い方、あれだけど、所詮赤の他人なんだよね、何度も言ってるけどそっくりに描くわけじゃないないし」
だけどみなもは違う。だから……
「いいぞ、そんな事気にしなくて。お前がやりたい事の為なら、いくらでも利用されてやる」
「みなも……?」
「描きたいんだろ、百合園の表紙を。 ならもっと上手くならねぇとな」
そうだ。『こみっく百合園』の表紙絵を描く事が私の夢の一つでもある。
あの雑誌の表紙を描いてきたのは、レジェンドと呼ばれる絵師や漫画家だけ。みなもも描いた事がある。
でも私には声が掛からない。きっと実力不足なんだろう。だからもっと上手くなるために、努力続けている。
「お前、既にトップクラスの実力なのに、更に上達してるよな、これで発展途上だってんだから、末恐ろしいぜ、我が嫁ながらな」
「みなもとの日常を描いてると、日に日に絵が上手くなっていくのを実感するよ、愛の力なのかな」
「こりゃ、表紙を描く日も近いかもな」
でもその為にみなもを利用するのは忍びなかった。
たけどみなもが許してくれるなら……
「ありがとうみなも、私描くね。みなもとのラブラブの夫婦生活を」
「おうよ、そんでファンの奴らを尊さで悶えさせてやれ」
「別に投稿するとは言ってないからね、こんな詳細なエッチシーン、見せるの恥ずかいよ」
「ははっリアルすぎて、彩果の実体験だってバレるからか」
フォロワーの皆はそんな事、勘ぐらないとは思うけと、私が恥ずかしいから見せない。神様だってプライベートはあるんだから。
「彩果、愛してるぞ」
みなもは、手を後ろからまわして、わたしを抱きしめる。
「私もだよ、みなも」
ずっとこうしていたい気分だ。今日は大学の講義があるけど、サボってしまおう。ずっとみなもとイチャイチャしていよう。私達は暫くこのままでいたのだった。




