大学サークル巡り後編
「センター!」
私は、ワンバウンドした打球を素手で掴み、二塁に投げ、走者を刺した。
「アウト!」
「すげぇ! レーザービームだ!」
「肩つぇー!」
造作も無い事だ。というか、あのピッチャー打たれすぎ。二連続センター前に飛ばされてるし……私が投げれば、まず打たれる事すら無いと思う。
「センター!」
またセンターフライ……いやこれは、ギリギリスタンドに入るか!
しかし私は諦めずにボールを追いかける。そしてフェンスをよじ登り、ホームラン性のボールをキャッチした。
「うぉー! 」
「凄ぇよ、 あの人……」
「安心して後ろを任せられる」
このままスタンド側に降りて、失点するというボケも面白いと思ったのだけれど、本気で勝ちたいからやめた。
「一番センター色彩果!」
私はセーフティバントを成功させると、二塁三塁と盗塁を成功させ、そのままホームスチールを決めて、先制点を上げた。
「くっそ……こいつ、脚はえぇ!」
「凄いよ……色さん! この一点を守りきろう!」
といっても、打たれては意味がない。そこで志願して、二回以降は、私がピッチャーをする事になった。
スライダー、カーブ、フォーク、チェンジアップ、カットボール、シュート、スプリット。七色の変化球を投げ分けて、一本のヒットも許さなかった。
「くっそ、何なんだあのチビ! あんな奴いなかったろ!」
「助っ人ですから!」
相手チームのキャプテンに睨まれた。この人もハーレムを築いているのだろうか。それだけが気になっていた。
ちなみに五点差付いた時点で、ゴールド勝ちというルールなのでこの回で四点取ればいい。打順は五番から。
五番、六番打者は凡退するも、七番佐々木さん。八番山本さん。九番大谷さんが単打でつないで、満塁の場面で、私に打席がまわってきた。
「これで、終わり!」
私は、初球を打って、逆方向にホームランを放ち、そのまま試合に勝利した。
私は、投げては、一イニング三奪三振、無失点。
打っては、一本塁打、二安打、五打点、三盗塁だった。
でも別に凄いとは、思わない。小中高と、陽花と一緒に、スポーツイベントで大暴れしていたし、勝つ事なんて、慣れている。
プロには、もっと漫画みたいな活躍をする人がいるから、この程度じゃ、誰も驚かないだろう。
何より……ずっと新月の事を考えていて、心から楽しめなかった……早く仲直りしなきゃ……
「凄いよ! 色さんのお陰で勝てたよ!」
「負けるという選択肢はなかったからね、少し本気を出しただけですよ」
「やっぱり皆で何かを成し遂げるのは、楽しいよね!」
「それには心から信頼する仲間がいないとね!」
「心から信頼する仲間……」
新月の事だ。新月と小説を描く時は楽しかった。
『死にかけ女神』は、新月が物語を書いて、私がイラストを描いて、二人で描きあげた作品なんだ。そして大ヒットした。あの時の達成感は、一生忘れない。
「よーし! みんなで色さんを胴上げだ!」
「え? いいです!」
「遠慮しなくていいの!ほら行くよ。せーの!」
「挟まってしまったぁー!」
『女の子だって、野球したい!』
私が胴上げされてる絵なんて……これも没だ。一応とっておくけど……
「いい試合だったぜ、絵だけじゃなくて、野球も上手いんだな、彩果は」
私に、一人の女性が声をかけてきた。
みなもに似ている容姿、口調。彼女はみなものお母さんである、荒川はもん。この紅玉大学の学長でもある。
腕を組んで大きなお胸が強調されている。親子揃って巨乳とは、血の強さを感じる。
「お久しぶりです。お義母さん」
「ここでは学長と呼べ。生徒と馴れ合っていると思われるだろ」
「そうでした、学長。何か用でしょうか」
「どうだ、大学は楽しいか!」
「もちろん、楽しいですよ」
「そうかよ、でも今は全然楽しそうじゃねーな」
見抜かれた。さすがみなものお母さんだ。私の考えなんて、お見通しという訳か。
「友達と喧嘩しちゃって……」
「ならどうする? そういう時、素直に謝るのか、何もしないままなのか、お前のやり方を知りたい」
「勝負に勝って、謝ります!」
「はぁ? 何だそりゃ、予想外の返事だな。さすが娘が選んだ女だけはある」
実際。今の状況を丁寧に説明したとしても、同じ事を言うだろう。この勝負に勝って、新月に言う事を聞いて貰うんだ。そして謝罪する。それしか私にできる事がないのだから。
「まぁいい。深入りはしない。どうせお前の事だ、何とかするだろう」
「えへへ、信頼してくれてるんですね」
「みなもをお前に嫁がせたんだからな、してない訳ないだろ」
はもんさんは、みなもと私の結婚を認めてくれた。
私をこの大学に勧誘したのも、はもんさんだ。
まさか一芸入試だとは思わなかったけれど。
ちなみに私は、百合絵を描いて面接官の、はもんさんに見せたら一発で合格した。
「やっぱり、うちの大学ってFランなんじゃ……」
「何か言ったか?」
「いえ、何も……」
怒らせて退学にはなりたくない。でもやっぱりFラン大学だと思う。
「彩果、みなもをよろしくな」
「もちろんです、絶対幸せにしてみせます! 今も十分幸せですけど!」
「だったらいい、娘夫婦のに口出しし過ぎたかな、私の事はおせっかいな姑だと思ってくれ」
「心配して頂いてありがとうございます」
翌日……
「あがががが、身体中が筋肉痛だ……動けない」
「お前、昨日何したんだよ」
私は筋肉痛になって、布団から起き上がる事ができなかった。
「野球だよ、張り切りすぎたみたい」
「何で野球なんてやってたんだ」
私はみなもに事情を話した。
ずっと新月の事は黙っていたのだ。
といっても、みなもはみなもで、私の異変には気づいていたようだが。
「成程、喧嘩したから仲直りしたくて、絵の勝負に勝とうとしてるってか、意味分かんねぇな」
「こっちは真剣なんだよ! このまま新月と喧嘩したままなんて嫌だよ……」
「分かってる、お前が必死で何とかしようとしてる事も私には伝わるよ」
「みなもー! あててて、筋肉痛で動けない……」
「仕方ないな、痛みがひくまで私が看病してやるよ」
みなもは優しい。本当によくできた奥さんだ。
はもんさんにも見せてあげたい。
「ほら、りんごを剥いたから、食わせてやるよ」
「ありがとう、みなも」
「ほら、あーんして」
「あーん」
「くぅ……あーんしてる彩果も可愛い……」
みなもが悶えている。いいけど早く食べさせてほしい。
「みなも……」
「分かってるよ、ほらあーん」
「あーん」
パクっ、モグモグ。
「どうだ! 美味いか?」
「美味しいよ、さすがみなもが剥いてくれただけあるね、みなもの愛が伝わってくるよ」
「そうだろ、どんどん食べろ。そうすれば、彩果が悩んでる事も忘れちまうよ」
いや、忘れる訳にはいかないんだけどね。でもみなもは私を励ましてくれてるんだ。その善意に甘えさせて貰おう。今はみなもとイチャイチャしたいもん。
「おいしー!」
「たまらねぇな、彩果がりんごを頬張る姿も咀嚼する姿も……全てが可愛いすぎる……私を悶えさせないでくれ……」
みなもは本当にいい奥さんだと思う。私の一挙手一投足に、尊さを感じてくれているんだから。私達の夫婦愛が冷める日は、一生来ないのかもしれない。
「可愛いすぎんだろ! 私の嫁!」
「みなも、口元に食べカスが付いちゃった。取って」
付いたというより、わざと付けたんだけどね。
みなもが、どうするのかを見たかったから。
「お前これは……『はいあーん』シチュエーションのド定番じゃねーか!」
「えへへ、取るふりをしてキスするんだよね。そのまま舌で取ってあげるのもあり、お返しにキスするのもあり、みなもがどうするかで、私の対応も変わるよ」
筋肉痛で動けないからと言っても、キスする事くらいはできる。みなもがどんな方法で食べカスを取ってくれるのかを待った。
「彩果……」
みなもは、指で食べカスを取って、私の口へと運んでくれた。
「みなも、そういうやり方があったんだね、私知らなかったよ」
「キスの方が良かったか?」
「そんな事ないよ、でもキスして欲しいな」
「分かった、じゃあするぞ」
そういうと、みなもは私にキスをしてくれた。
更に舌で唇を舐めてくれた。
「えへへ、やっぱりこれが定番だよね」
「すまん、別の事やっちまって」
「お陰で新しい『はいあーん』のシチュエーションを知る事ができたからね、ありがとうみなも」
「彩果、これも絵に描くのか?」
「『看病百合』としてね、でも今は無理かな」
百合夫婦の絵も少しずつストックがたまってきた
このペースなら、年内に出版できそうだ。
「えへへーみなもーあいたたた」
「ほら、無理すんなよ、おとなしく寝とけ」
「みなもとイチャイチャできない……」
「今やってる事も、立派なイチャイチャだろ」
「そうだけどさ……」
「痛みがひいたら好きなだけ甘えさせてやるよ」
「みなもー! あいたたた」
「学習しないな、お前」
結局、その日はみなもに介助してもらうしかなかった。痛みがひくまでに、二日かかってしまい、新月との対決まで、残り一日を残すのみとなっていた。
七日目。天文サークル。
「星が綺麗ねー」
「リンの故郷の星はどの辺なの?」
「ここからじゃ見えないよ、でもそんな私達が同じ夜空を見上げてるなんて、ロマンチックだよね!」
夜の大学校舎の屋上で、天文サークルの部員達が、天体観測をしていた。
女の子達が夜空を見上げていたら、それはもう、百合なんだよ!
「先程の会話を聞く限り、あの透き通るような白髪の女の子は宇宙人なのかな……て思ってるんでしょ! 色彩果さん」
「! 何で私の名前を……ていうか私の考えてる事が分かるんですか!」
「宇宙人だからね、テレパシーで読み取れるんだ」
この世界において、宇宙人の存在は、珍しいものではない。普通に地球にやってきて、生活している。星間結婚も当たり前の時代なのだ。
「私はリン! 遥か遠い星からやってきた宇宙人! 私から見れば地球人も宇宙人なんだけどね」
「あっちなみに私はフウ。地球人でリンの恋人だよ」
という事はつまり、地球人と宇宙人の百合カップルと言う事になる。そんなの尊いに決まっている!
宇宙人が登場する作品は数多あるけれど、百合カップルが出てくる作品は限られている。
だけど、現実にいるんだから、もっとあってもいいと思う! フェルミのパラドックスの答えは、もう出ているのだから。宇宙人は存在する!
「今の色さん、何だか悲しそう。あなたの心に触れた時、大事なお友達の顔が浮かんだの」
そんな事までお見通しなのか、この宇宙人さんの前では、隠し事は不可能のようだ。
「実は、親友と喧嘩してしまって……」
「そう、でも大丈夫、きっと仲直りできる。だってあなたの心の中のそのお友達は、とても優しい女の子なんだから。あなたを本気で嫌ってなんかない」
新月の事だ。やっぱり私の事を許してくれているのかな……だったら嬉しい。
「でも色さんは。まだその親友に心を開いてないみたい」
「え……そんな事ない……のかな……」
「大丈夫、お互いの心が読めなくても、心を開いていれば、繋がる事ができる。テレパシーが使えなくてもね」
「そんなものなのですかね」
「そんなものだよ」
私が心を開いてなかったから、新月は許してくれないのかな……あんな事を言ってしまった私に、まだ心を開いてくれてるんだ。新月……
「私のテレパシーはね、触れた者の心を読み取るだけでなくて、私の気持ちも伝える事ができるんだ」
そう言って、リンさんは、私のおでこに手を当てた。
「ほら……伝わるでしょ? 私の考えてる事が」
「何だろう……この感覚、頭の中に何か浮かんでくる。これは……フウさん?」
「そう、私のフウへの思い、フウの事をどれだけ思っているか。どれだけフウの事を好きでいるかだよ」
惚気かよ。でもリンさんの恋人を思う気持ちが、伝わって来る。その尊さで、悶えてしまいそうだ。
「いやぁ、リンは私の事好きすぎるからね、私はその何億光年もリンの事好きだけど」
惚気かよ。光年は大きさじゃなくて、距離だし。
でも尊い。この二人を描きたくなった。
「私はね、地球の文化に興味を持って、この星にやってきたんだ。だけど宇宙船が壊れちゃって、帰る事も出来なくなって、途方に暮れていた所を、フウに助けられたんだ」
「お互い様だよ、その時の私は、太陽の光で弱っていたからね、遭難してたリンに助けて貰ったんだ」
「つまり、お互いに助けあっていると言う事ですね」
なんてロマンチックなんだろう。もちろん、みなもと私の出会いの方が、ロマンチックだけどね。
しかし太陽の光で弱っていたとは、どういう事なのだろう。熱中症とかかな。
「ちなみに私は地底人だよ、 光も差さない暗い世界に何年もいたから、太陽の光が苦手で、浴びると体が弱ってしまうんだ」
フウさんは地底人なのだという。といっても、それも珍しい事ではない。地底人の地上進出は、今は普通の事、地底の技術が地上の仕事現場で活躍する事も多いので、お世話になる事が多い。
「地底って、本当に退屈なんだもん、光が差さないしさ、娯楽が少なしさ、地面の中っていう限られた空間なんだから、しょうがないんだけどね」
「地底人と言っても、見た目は地上人と何ら変わらない人間である。フウさんは目を奪われる程、美人だった」
「色さん、私も美人だよね、ね!」
「え、はいもちろん」
「ふむ、心の中でも、そう思ってるみたい。よしよし」
お調子者の宇宙人だ。思考が全て読まれているので、嘘は付けない。上司にはしたくないタイプだ。
「空が見たくて、太陽が見たくて、地上に出たら日光で死にかけたよ、通りすがりの同族に日傘を貰ったから、事なき得たけれど」
これも地底人あるあるらしい。
「でも空の青さには感動したよ、そしてこの空の向こうには宇宙が広がっているんだって、狭い地底に居たままだったら、知る事はできなかった。どんなに怖くても、知ろうとする事は大事なんだよ」
「怖くても知る事は大事……」
「知らない方が良い事もあるけどね、地底には漫画やアニメみたいな娯楽が一切ないとかね」
それは嫌だ。私には耐えられない。地上に生まれて良かった。
「あの……お二人を描いてもいいですか」
「くすっ、いいよ。どうやらそれが色さんとお友達が仲直りするのに、必要な事のようだからね」
そんな事すらもお見通しという訳か。宇宙人は凄い。
「宇宙人と地底人の百合、描かせて頂きます!」
「じゃあ、宇宙人らしい所描いて欲しいから、今から、浮遊します」
「おお! 宇宙人らしい!」
「ぷらむ先生に描いて貰えるんだからね、凄い所を見せなくちゃ」
そんな事まで分かるのか……テレパシーって凄い。
「私の事を知ってくれているんですね。光栄です」
「ぷらむ先生の絵は、宇宙でも有名だよ。凄く可愛い絵を描く絵師さんだってね」
「私の絵が、宇宙にまで知られているなんて……嬉しいな。」
「言葉は通じなくても、絵なら伝わる事ができるからね、あなたの絵は魔法みたいだって好評だよ」
嬉しい、私の描いた絵が、星をこえて百合の尊さを伝えてるんだから。伝道師として、本懐を遂げる事ができたよ。
「よーし、皆で手を繋ごう! ほら、色さんも!」
「えっ? はい……」
私達三人は円になって、手を繋ぎ合う。まさかこのまま飛ぶ気じゃないよね。私が二人の間に混ざる事になってしまう。
「せーの! ジャンプ!」
「ひいぃー浮いてる!」
「相変わらずリンの力は無茶苦茶だな! 手を繋いだだけで、その人も浮かせる事ができるなんてさ」
二十年生きてきて、人と手を繋いで空を飛んだのは初めてだ。私は、恐怖と興奮で正気を保てなかった。
「ひぃぃぃ! 離してください!」
「今手を離したら、落ちちゃうよ? 離しても落ちないけどね! 私の能力で浮かしてるんだから」
「浮遊しながら挟まってしまったぁ!」
「あはは! 地球人って面白いね!」
スカイダイビングで落下する時のような光景になっている。これで私が居なければ、フウさんとリンさん
が手を繋いで浮遊しているという尊い光景になるのに……
『星をこえた愛』
何とか一週間で五枚の絵を描く事ができた。
本当は、演劇サークルと野鳥観察サークルも見たかったのだけれど、筋肉痛で動けない日があったから仕方ない。
この五枚の絵から一番尊いと思うのは、私が挟まる前に描いたバンドサークルの絵だ。
これなら勝てる……いや、どの絵でも勝てるだろう。私が負ける事は、きっと無い。新月を見下している訳では無いのだけれど、これだけは分かるんだ。
もし私が新月を打ち負かした時、彼女はどんな反応を見せるだろう。それが明日、分かる事になる。




