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百合の伝道師 色彩果

 私の名前は色彩果(しきさいか)。プロの絵師だ。

 絵師といっても、私が描くのは『百合』だ。

 百合の定義は人それぞれ違うと思う。私にとっての百合の定義は。


 ()()()()()()()()()()()()


 女の子が一緒に歩いてたら、それはもう、百合なんだよ! 友達だろうと、姉妹だろうと、親子だろうと。

 

 世界は百合で満ちでいる。その光景を絵に描くのが私の仕事だ。


 『ぷらむ』のペンネームで活動していて、

 イラスト集を十九冊出版。

 ライトノベルのイラストを四作品担当している。

 企業案件も、来たことがある。

 SNSのフォロワーは百万人を超えている。

 もちろんフォロワーの皆は、私の絵が目当てだ。

 私がほぼ毎日投稿している百合絵を見ては、その尊さに、悶絶しているようだ。 




「さぁ! 今日も絵を描いたから、皆に見せてあげる!」

「待ってました!」

「ぷらむ先生の絵だけが生きがいです」

「早く我々を尊さで悶絶させてください」

「ふふふ、今日はサービスで四枚まとめて投稿するよ!」


 今日投稿するのは、私の代名詞である『四季百合』だ。四季と百合は、切っても切り離せない。


「まずは春、『桜の花見をする百合カップル』」

「夏は『海で水着になって遊ぶ百合カップル』」

「秋『紅葉の中、焼き芋を食べる百合カップル』」

「冬は『雪の中、マフラーを共有する百合カップル』」


「さあ、みんな。この尊さに悶えちゃえ!」


「さすがぷらむ様! 何て尊い絵を描かれるの」

「癒されるぅ」

「もうキュンキュンしちゃってます」

「宇宙最高の絵師」

「尊い! 尊すぎる!」


 ふふふ、今日も悶えてるね。日本には四季があるからね。『四季百合』も日本ならではだよ。


 だけど今日はもう一枚あるんだ。そう、梅雨を題材にした百合シチュエーション。


「相合傘」


 降りしきる雨のなか、二人の女の子が一本の傘の中で濡れない様に身を寄せ合う。 私が一番最初に書いた百合絵でもある。


「あぁ、なんて尊いんだろう」

「ぷらむ先生が描く絵って、心を惹きつけられるんだよね」

「まるで魔法使い見たいです」


 えへへ、みんな今日も悶えてくれたね。そうこれが私だ。皆、私のことを絶賛してくれる。


「百合絵の神様」

「彩の国が生んだ奇跡」

「魔法使い」

「百年に一度の天才」


 私に寄せられる称賛の声。でもそんなものはいらない、私が欲しいのは、皆が百合の尊さで悶えてる声だけ。百合の尊さに気づけた人達の声だけ。


 だって、この尊さを知らずに生きていくのは、人生損してるよ。そう! 私はそういう人のために、百合絵を描いているのだ。


 自称「百合の伝道師」として、今日も明日も百合絵を描き続ける。それが私「ぷらむ」こと色彩果だ。


 あ、でもでも、絵を描いて神様って呼ばれるのも悪くないかな。モチベーションにもなるからね。




「さて、今日はみんなからリクエストを受け付けるよ。私に描いてほしい絵を言ってね」


 ファンサービスの一環としてSNSのフォロワー達に、描いて欲しい絵を受け付けている。とは言っても、百万人のフォロワーのリクエストをすべて受け入れるわけにはいかないので、多数決を取ることにした。


 結果として、百合バンドアニメ『ロックザリア充』という作品のカップリングイラストを描くことになった。


 前期の覇権アニメ、『ロックザリア充』略称『ロザリ』


 陽キャリア充の主人公『りあみつちゃん』と陰キャで人見知りなヒロイン『こどく』ちゃんが、バンドを組んで、プロを目指すというバンド百合アニメだ。


「なるほど、『ロザリ』ということは、『りあこど』の 

カップリングイラストだね」

「そうです。 私このカップリングが宇宙一尊いと思っています」

「私もだよ。夢中になってこの二人のカップリングイラストを、何枚も描いてるときがあるからね」

「神であるぷらむ先生と感性が同じだ! つまり私は神に選ばれた人間……」


 大袈裟だなぁ、でも確かに人気の二人だよね。


 公式カップリングでもあるし、多くのファンアートが描かれている。二人共いいキャラをしていて、見てて面白くて尊くて、私の推しのカップリングだ。


「是非描いてください。 そして悶えさせてください」

「ぷらむ先生がお描きになられる『りあこど』が一番尊いですから」

「ありがとう、じゃあさっそく描くね」


 けれどその日の私は少しおかしかった。ペンを握っても、いつもの様に書けなかったのだ。


「あれ……おかしいな、上手く描けないや 」


 描こうとしても、体が拒否反応を起こしているかの様だった。


「だめだ、どうしたって描けないや、今日は描くのやめよう」


 こんな状態で描いてもフォロワーの皆に失礼にあたるだけだ。プロは百を求められたら二百を出すもの。

 期待を超え続けばならない。でも今の私にはそれが出来ない。だから描くのをやめた。


「ごめんね皆、今日は我慢してね」

「いえいえ、ぷらむ先生のご健康が第一ですから」

「今日だけとば言わず、ゆっくり休んでください」

「ありがとう、皆優しいね」


 そうだ、休めば何とかなる。時間が経てば改善するだろう。そう思う事にした。




 それから一週間経ったけど全く状況は改善していなかった。


 私もこんな長期間、何も描かなかったことは過去には経験が無いので、今自分におこっている状況に、不安で仕方がなかった。


 でも原因は分かっている。どこか体が悪いというわけではない。むしろ元気過ぎるくらいだ。所謂「スランプ」という奴だ。


 私の小さな体に。責任と重圧というものが、のしかかっていた。

 

 結果を出さないといけない。妥協は許されない。私がプロとしていつも心掛けている言葉だ。だけどそれがずっと私の心を痛めつけていた。もう少しだけ、肩の力を抜けばよかったかもしれないと、後悔していた。


 ここまで分かっているのにどうすればいいのか、全く分からないでいる。 皆こう言う時、どうしているんだろう。 気分転換とか、初心に帰るとか、出来ることは全てやったつもりだ。けれど変わらなかった。絵は描けないままで、時間だけが過ぎていった。


 このままずっと描けないままだったら私はどうすれば良いんだ。そもそも普段どんな事を考えて絵を描いていたんだろう。


 それさえ分かれば――




「助けてよ、みなも」


 自宅の居間。私は、ある女性の膝の上に頭を乗せて、助言を求めていた。


「まだ悩んでんのかよ、お前って、意外とナイーブだよな」


  そう言って、深刻な事のようには受け止めていないように見えた。


「冷たいなぁ、みなもは、夫婦なんだからもっと心配してくれてもいいのに」


 そうなのだ。彼女と私は、結婚している。


 この世界では同性婚どういうのは、何ら珍しいことではないのだ。異性の結婚と変わらない待遇を受ける事が出来る。


 「お前の悩みなんて、そんな大した事じゃねぇってことだよ。私はお前がどうすればいいか、もう分かってるからな」


 彼女は呆れたような表情で私に言った。


 長く伸びた金色の髪、整った顔立ち、大きな胸、私の一回りほど高い身長、スラリとした体つき。


 私の妻の荒川(あらかわ)みなもは全てが私と正反対だった。


 「んなことねぇよ、お前だって滅茶苦茶美人だぞ。小中高と、モテモテだったらしいじゃねぇか」


 らしいじゃないかという曖昧な言葉になるもの無理はない。 みなもと私は五つ年が離れている。みなもが二十五歳で、私が二十歳。 


 でも年の差なんてなんて愛の前では関係ない。私は荒川みなもという女性が好きなのだ。ていうか、今私の思考を読み取って無かった? 気のせいかな。


「彩果、お前の考えてることなんて全部お見通しだ。今のお前は自信を喪失してて、自虐的になっている、お前らしくないし、そんな姿、見たくもない」

「うう……ごめんね、みなも。情けない所みせて」

「きにすんな、こんなことで愛する嫁の彩果を、嫌いになることはねぇよ」

「みなもー!」


 私はみなもに抱きついた。


「よしよし」


 みなもは私の頭を撫でている。

 こんな精神状態だと言うのに、惚気てしまっている。

 私はみなもの豊満な胸に、顔をうずめながら、みなもに甘え始めた。


「えへへー、みなもー」

「可愛すぎんだろ! 私の嫁!」


 みなももみなもで惚気ているようだ。


「私、みなもの良いところ、いっぱい知ってるよ」

「おっ、どんな所だ? こういうのって自分じゃ気付かない所が沢山あるんだよな」


「みなもはねー、美人で、おっぱい大きくて、背が高くて、料理上手で、優しくて……」

「よせやい」 

「がさつで、すぼらで、やさぐれてて、口が悪くて、片付けできなくて……」

「おいおい、悪い所も言ってるぞ」

「そういう所も含めて好きってことだよ。良い所だけ好きになっても、長続きしないから」

「彩果……さすが私の嫁だな!」


 みなもは私なんかには不釣り合いなくらい、素敵な女性だ。駄目な所も沢山ある。でもそういうみなものことが好きなのだ。 


 それに、みなもの本当に凄い所は、彼女がプロの漫画家だということだ。


 十七歳でプロデビュー、 『こみっく百合園(ゆりえん)』に五年間、連載していた『月映えに芽生える』は累計百五十万部を売り上げる大ヒット作となった。


「『つきめば』何度読み返しても面白いもん! あんなに凄い漫画を描けるみなもは、やっぱり凄いよ!」


「照れるぜ」


「でも、その次のヤンキー百合漫画『どつき合いからのお付き合い』は一年足らずで打ち切りになったけどね」

「言わないでくれ……すげぇ落ち込んだんだから」


 そして今は三作目を描くために試行錯誤している最中のようだ。


「『どつおつ』の何が駄目だったんだ、設定はよかったろ」

「リアリティが無かったからじゃない? みなもってさ、元ヤンみたいな見た目と口調だけど、結構な温室育ちだもんね」

「元ヤンだったらヤンキー物が書けるのかよ、なら書けなくていいや、私は人様に迷惑かける人間にはなりたくない」


 こういうところで真面目さが出る。口は悪いけど本当にお嬢様なんだな、みなも。


『どつおつ』が打ち切りになったのは、既に同じヤンキー百合漫画が連載されていて、そっちの方が面白いからなんだけどね。


「えへへ、みなもー、キスしよ』

「さっきしたばかりだろ」

「何言っての、今日はまだ十八回しかしてないのに」 


「ほんとだ、お前が落ち込んでるから遠慮してたけど、全然したりねぇよ」


 そう言って、みなもは私にキスをした。

 みなもの唇は柔らかいくてとろけるようだった。


「これで十九回目? じゃあ次でキリのいい二十回目だね」


 そう言って私はみなもにキスをした。

 何度しても、みなもの唇は柔らかいくて気持ちいい。みなもは私の唇についてどう思ってるんだろうか。良いと思ってくれてたら嬉しいな。



「これでお前が元気になれば話が早いんだけどな」

「みなものいじわる、せっかく現実逃避してたのに」


 みなもとイチャイチャしてる時は嫌なことも忘れられる。だけどそれで現状が変わるわけではない。


「ていうかみなも、私がスランプから抜け出す方法を知ってるんでしょ、教えてよ」

「知ってるよ、だけど私が言っても効果がないと思っただけだよ」

「えーなにそれー」


 みなもがこんなことを言うのは初めてだ。だけどそれは私を突き放すような言い方ではなかった。


「……自分で気付けって事?」

「違うな、助言を求めろって事だ」


 ??? 言ってることが矛盾してる気がする。


 解決法がわからないから、それを知ってるらしいみなもに相談したのに、本人は教えてくれないと言うんだもん。一体、他の誰に聞けと言うのか。


「ケチ! 私が二度と絵が描けないままだったら、どうするつもりなの? ぷーんだ」


 私はわかりやすく顔を膨らませた。


「彩果の膨らませた顔、可愛すぎんだろ!」

「ねぇみなも、どうしていじわるするの?」


 私はみなもに詰め寄った。


「前にも似たような事があったからだよ、その時は私が助言して、お前はスランプを抜け出した。なのにまた同じような事になってるもんだから、呆れてたんだよ」

「あったっけ? 思いだせないや」

「おめでたい頭してるよな、お前……」


 あったとしても、私にとって、それは当たり前の事ぎて、記憶に無いのかもしれない。私が普段絵を描く時に思っていた事……なんなんだろう。


「彩果、お前の味方は私だけじゃない。見失うなよ、決して」


 みなものこんな真剣な眼。そして表情、久しぶりに見るかも。


「みなも……えへへ、凄いクサイセリフ言うんだね」

「う、うっせーな! 茶化すんじゃねぇ! こっちは本気で心配してるんだよ」

「ごめんね? 心配かけて」

「愛する妻の悩んでる顔なんて見たくねーからな、お前は笑顔が一番似合うよ」

「みなもー!」

 

私はみなもに抱きついた。


「よしよし」


 また惚気てしまった。ずっとこうしてたい気分だけど、早いスランプを抜け出さないと。


「言ったろ、お前の味方は他にもいるって」

「えっ? 誰の事?」

「お前……鈍感だな」

「ごめん……本気でわからない」

「お前がいつも描いだ絵を見せてる奴らだよ」

「えっと……フォロワーの人達の事?」

「やっと気付いたか。そうだ、お前のファンの連中だよ」


 みなもに言われるまで、私は気付かなかった。頭の片隅にもなかった。


「皆……」


 私はスマートフォンを取り出し、フォロワーの人達に、質問を初めた。


「さて、私は風呂に入ってくるかな、彩果がファンと向き合うのを邪魔したくねぇから」

「みなも!」 

「なんだ? 我が愛しの妻よ」

「ありがとー」

「どういたしまして」




「フォロワーの皆、どうすればいいのかな」


 私は、今自分に起こっている現状を素直に説明してみた。


「ぷらむ先生でも、そういう事で悩まれる事があるのですね」

「神なのに、とても人間らしいお方です」


 人間なんだけどね。自分の思ってる以上に、私は神格化されているようだ。


「もし、このまま描けないままだったら、引退も考えないとね」


 なんて事はない。たった一人の絵師がいなくなるだけだ。それで世界がどうこうなるわけでもないのだから。


「いやだー! 辞めないでください!」

「ぷらむ先生の絵が見れないのなら、生きる意味なんてない!」

「先生が辞めるのなら人生辞めます」

「待って! 早まらないで!」

「早まってるのはぷらむ先生の方ですよ、ちょっと描けなくなっただけで、引退なんて」

「きっとまた描けるようになりますよ!」


 みんな優しいな。私はファンに恵まれていたんだ。なのに私は忘れていた。プロ失格だ。この事に気付けたのはみなものお陰だよ、本当に私は環境に恵まれているんだ。


 一人じゃ何もできない、他人に甘えてばかりの私。そして今もまた、甘えようとしている。


「気分転換の為に、旅に出られてはどうでしょう」

「温泉巡りもいいですよ」

「四国八十八ヶ所を巡って、煩悩を払いましょう」

「宇宙旅行に言って、土星の輪っかに乗りましょう」


 皆、真剣に考えてくれてる。嬉しいな。


 コメントを一つ一つ見ていた私はあるコメントに、目が止まった。


「もしかして、楽しんで描いてらしてないのかなって」

「楽しんで描く……?」


 私はそのコメントに返信してみた。


「そこの人! それってどういう意味?」

「ひぃ! ぷらむ先生が私なんかに、コメントをくれた! 正気じゃいられないよ!」


 コメントを書くゆとりはあるようだ。


「えっと、私も絵を描くんですけど、先生みたいに上手ではないんですけど、描いてる時って凄い楽しいんですよね。だからあんなにも上手な絵を描かれる先生は、きっと楽しいんだろうなって」


  その言葉を聞いて、私は漸く思い出すことができた。


「楽しく描くか……そうだ、すっかり忘れてたよ」

「ぷらむ先生の絵って尊いのはもちろん、見ていて楽しんですよね。描かれている女の子達も、生き生きしてるっていうか」

「画家は絵に命を宿すっていうけど、先生の絵は本当に生きてるみたい」

「魔法使い見たいですよね、私達はその魔法に好きでかかったんですけどね」

「やっぱり先生は凄いですよ」


 ()()()()()()()。こんな当たり前のことさえ、私は忘れていたんだ。


「やっと気付いたのかよ」


 お風呂から上がったみなもが、呆れながら私に言った。


「みなもが言おうとしてたのは、この事だったんだね」 

「ああそうだよ、当たり前すぎて、口に出すのも気恥ずかしいくらいだ」 

「いつもクサイセリフ言ってるのに?」

「うっせ。つーか前にも似たような理由で5日間、描けなくなった時があっただろ」

「思い出したよ、確かあの時は大きな仕事の後で、結果が全てっていう考え方してて、そればかり考えてて、空回りしてたんだ」


 その時はみなもに怒られちゃったな。それで気づかせてもらえたんだけど。


「お前はプロ意識が高いからな。確かにそれは大事な事だ。だけどそれが重圧になって、調子を崩して、仕事ができなくなったら、それこそプロ失格だろ」


 悔しいけれど、みなもの言う通りだ。この一週間、私は絵を描く事の楽しさを忘れてしまっていた。プロになる前、上手では無かったのに絵を描き続けることができたのは、楽しかったからだ。毎日毎日、絵を描く事が楽しくて楽しくて、仕方がなかった。そして気づいたら、プロになっていたんだっけ。


「ありがとうみなも、気付かせてくれて」

「私じゃねぇ、お前のファンのお陰だろ」

「そうだった! 皆にお礼しなきゃ!」


 みなもは、どこか安心したような顔つきになっていた。 


「むしろ私が心配してた事は、お前が自分のファンを蔑ろにしてるんじゃないかって事だよ。そんな奴は、いずれ誰からも相手されなくなる」


 そんな事は無い、とは言い切れなかった。事実私は、みなもに言われるまで、フォロワーの皆の事が頭に無かったからだ。相談するという発想が無かったからだ。


「ファンサービスを忘れるなよ、プロはファンの存在があってなんだからな!」

「ありがとう……みなも」


「わかったなら早く絵を描け、そして思っきり悶えさせてやれ! お前のファン達は、それを望んでる」


 私はコメントに目を通した。


「早くぷらむ先生の絵が見たいです!」

「ぷらむ様の描く百合絵は、宇宙一尊いですから」


 私に対する称賛の声なんて要らない。私が欲しいのは、描いた絵を尊いと言ってくれる人だけ。ずっとそう思っていたし、今でも変わらない。でも……


「ぷらむ先生の絵は私の生きがいです!」

「ぷらむ先生の絵を見てると、元気付けられます!」

「辛いことがあった時も、ぷらむ先生の絵を見ると、励まれるんですよね。そしてもう一度頑張ろうって気持ちになるんですよね」

「勇気を貰いました」

「心が癒やされます」

「ぷらむ先生の絵のおかげで、救われました」


 私なんかの絵でも、誰かの役に立つ事ができてるなら……すごく嬉しい。


「ぷらむ先生は、百合絵の神様ですから!」

「またぷらむ先生の百合絵が見たいなぁ」

「彩果の宝石の様なぷらむ。もう何処にも行くな」

「ぐすっ……皆ありがとう」


 泣いてる場合じゃ無い。皆が私の絵を見たがってるんだ。よし!


 私は涙を拭って、ペンを持って、タブレットに絵を描き初めた。


「ぷらむ、完全復活! 皆、もう大丈夫だよ。皆のお陰でスランプを抜け出せたから」

「良かった。先生が元気になってくださって」

「また先生の絵が見れるんですよね」


 「もちろん! 快気祝いに一週間前にリクエストされた『ロックザリア充』のカップリングイラストを描いたからね」


 主人公の『りあみつちゃん』と、ヒロインの『こどくちゃん』がギターデュエットをする絵。


 この二人が演奏後にキスする絵。


 ライブの成功を喜んで、大胆に『りあみつちゃん』に迫る『こどくちゃん』の絵。


「さぁ皆、この尊さに悶えちゃえ!」

「ああ! 尊い! 尊過ぎる!」

「ベストカップルのキス、ちょっとエッチな内容もぷらむ先生が描くと尊さしか感じない!」

「もう尊くて昇天しちゃいそうです!」

「やっぱりぷらむ先生が描くこの二人が一番尊いです」

「やっぱりぷらむ先生は神様ですよ、百合絵で皆に尊さを教えてくれる。百合絵の神様です」


 ああ、楽しい、描いてる時は楽しくて三枚も描いちゃった。そして描いた絵を皆から、尊いと言って貰える。 私はこの為に生まれたきたんだ。


「良かったな彩果」

「みなもー!」


 私はみなもに抱きついた。


「よしよし」


 今は無性にみなもに甘えたかったのだ。


 一時間程じゃれ合った後、キスをした。


「彩果、私の願いは、お前と一生一緒に暮らす事だ、その為に酒もタバコもやめて、健康には人一倍、気を使っている」

「うん、知ってるよ、私もお菓子とかインスタンス食品の食べる量を減らしてる。長生きして一秒でも長く、みなもといたいからね」


 永遠に生きられ無い事は分かっている。だから、今を楽しむ、みなもと過ごせるこの時間を。


「年をとって、よぼよぼでシワだらけの老婆になって、腰が曲がって、ついには歩けなくなって、寝たきりになって、最後はお互いに看取り合う。私はそういうのに憧れてんだ」

「うん、私もそれがいいな、ずっと一緒だよ、みなも」


 私達は唇をとって重ねた。


「彩果、このまま夜の相手をしてくれないか。二週間もお預けは、さすがに辛いぜ」


 確かにここ最近、みなもの相手をしてあげらずにいた気がする。そんなゆとりは無かったから、仕方ないのだけれど。


 「うーん、でもごめんね。今日はまだ絵を描いていたいんだ。なにせ一週間も描いて無かったからね」

「また お預けかよ! こっちは二週間だってのに……」


 みなもはすごく寂しそうな顔をする。


「でも分かったよ、愛する妻のやりたい事を、尊重するよ」

「みなもー!」

「よしよし」 


 みなもは少し寂しそうな目をしながらタブレットに向かっていた。新作の考案をしているのだろう。

 私は、絵を描き続けていた。やっぱり楽しい。

 さっき投稿したイラストは百万いいねが付いて、皆も満足したみたいだ。


 でもまだ終わりじゃ無い。私は絵を描き続ける。

 百合絵を描いて、その尊さを皆に伝え広めるんだ!


 『百合の伝道師』として――

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