奪わない選択
提案から2日後
先生からの提案を受け、僕たちは一つずつ整理しながら夫婦で話し合った。
問題点は、「誤嚥性肺炎」を簡単に起こしてしまうこと。
逆流が強く、口まで戻って来たものが気道に流れ込んでしまう。
これを防ぐ為に、口の奥にある気道に繋がる穴を塞いでしまおうというのだ。
そうすれば、気道には入らない。吐いても外に出るだけ。理に叶っている。医療的には正しいのだろう。
しかし、そのために奪われるのは侑也の「声」と「自由」だ。
「声」は声帯を取ってしまう為出なくなるというし、人工呼吸器に繋がれれば、管の届く範囲でしか移動できなくなる。
それに、気管切開による別の感染症のリスクもある。
僕たちの願いは「侑也には侑也らしく育って欲しい」だ。
果たしてこの提案は、「侑也らしく」を守れるのか?
こんなに動き回っているのに…。
こんなに色んな声を出して思いを伝えようと頑張っているのに…。
僕たちは、今の侑也から何も奪いたくはない。
そんなささやかな願いさえも、奪われるのか…。
そんな思いが、会話の中で飛び交い話し合いは平行線のまま、前には進まなかった。
先生達だって好きで提案してきたのではないのだろう。
「本当はそんな事したくない。だが、食べる事を優先するならそれしかない」
そんな苦渋の決断で、僕たちに提案してきたのかと思うと涙が出る。
僕たちにしか、答えの出せない提案だ。
僕たちは、しばらく考える時間をもらう事にした。
病室で侑也を見る。
だいぶ回復してきたよ!もうこんなに動けるんだ!
そう伝えるように、ベッドに横向きになりゴロゴロと動き回っている。
どうかした?
そんな顔で見つめてくる侑也の目。
守ってやりたい。
そう感じながらも、突きつけられた提案の大きさに、僕たちは押しつぶされそうになっていた…。




