入院が救ったもの
入院初日の夜、侑也の呼吸がどこか苦しそうだった。
鼻水がダラダラと垂れ、それが気管に流れ込んでいるのか、軽い咳を繰り返している。
侑也はまだ鼻をかむことができない。
垂れる鼻水を拭き、こよりでコチョコチョと刺激してくしゃみを促してやる。
だが咳やくしゃみの拍子に、チューブの先が胃の中まで戻ってしまっていた。
2日目。
朝9時の検温。看護師さんが体温計を当てた瞬間、少し険しい顔をした。
「侑也くん、なんか熱くないですか?」
体温計が告げた数字は 38℃。
感染症の疑いがあるため、急きょ隣の大部屋に移動することになった。
もともと痙攣観察のための入院だが、同室の子にうつしてしまう可能性を考えての判断だろう。
荷物を移動していたその最中だった。
侑也の顔、手、足がみるみる青ざめていく。
──何が起こった?
看護師さんがすぐに駆け寄り、酸素投与が始まった。
顔色が戻ると、そのままレントゲンと採血へ。
診断は 肺炎。
呼吸器のおかげで少し楽になったようだが、動きは少ない。
「このタイミングで肺炎? 痙攣と関係があるのか…?」
疑問を先生にぶつけても、
「まだはっきりしたことは言えません。可能性はゼロではありませんが、痙攣の時に熱はありませんでしたし…」
曖昧な答えだった。
答えがわからないことに落胆した一方で、
「これが家で起きていたら…」
その想像が背筋を冷たくした。
酸素はない。
青ざめた侑也に、すぐ気づけなかったら。
気づいて救急車を呼んでも、到着までの時間は?
考えれば考えるほど怖くなった。
点滴と酸素チューブにつながれる侑也を見るたび、
不安と安堵が波のように胸を往復する。
入院は始まったばかりだ。
肺炎がある以上、長引く可能性も高い。
「頑張ろうな」
気休めのような言葉だが、それでも妻と侑也にかけるしかなかった。




