初めての握手
産まれてから初めて迎える休日。
この日、ようやく僕は息子と直接会うことができる。
妻はすでに退院していたが、毎日欠かさず母乳を届けに病院へ通っていたため、すっかり慣れた様子だった。
けれど僕は違った。
「今日、初めて目の前で会える」「触ることができる」──その思いが胸の奥で何度も跳ねて、夜明け前には目が覚めてしまった。
面会時間に合わせて車を走らせる。
ところが、病院の駐車場はどこも満車。いつものように、入庫待ちの車列がずらりと並んでいた。
「遠くの駐車場なら空いてるんだけどな……」
でも、手術を終えたばかりの妻を歩かせるわけにはいかない。
焦る気持ちを押さえながら、ただ祈るようにハンドルを握りしめた。
ようやく車を止めて、妻と並んで病院の玄関をくぐる。
走って行きたい気持ちを抑え、足早にNICUの前へ向かった。
インターホンを押して名前を告げると、スピーカー越しに優しい声が返ってきた。
「どうぞ、中へお入りください」
扉を開けた瞬間、胸が高鳴る。
一刻も早く我が子のもとへ行きたいのに、まずは入念な手洗いと消毒。
何度もこすり洗いを繰り返す手が、じれったいほど震えていた。
ようやく保育器の前に立つ。
透明なアクリル越しに見える小さな命。
「……ちっさいな」
思わずこぼれたその言葉は、驚きでも不安でもなく、ただ純粋な感嘆だった。
1412グラムの小さな体で、一生懸命呼吸をしている。
胸が上下するたびに、命が確かにそこにあると教えてくれる。
看護師さんに促され、保育器の小さな窓を開ける。
恐る恐る手を入れると、息子の指がそっと僕の指に触れた。
その瞬間、小さな手がぎゅっと握り返してきた。
なんて力強いんだろう。
目を覚ましていないのに、確かに「生きている」と伝わってくる。
「頑張ってるな……」
声にならない声が、胸の奥からこぼれた。
保育器の中の世界は静かだった。
でも、あの握手が教えてくれた。
この小さな手が、これからの僕たち家族を繋いでいく。




