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読んでますけど、何か?
4月の頭。
原因不明の痙攣から一週間、侑也は嘘のように何事もなく過ごしていた。
訪問看護師さんにも状況を共有し、注意深く様子を見ているものの、当の本人は今日も元気いっぱい。コロコロ転がっては管に絡まり、
「助けて〜」
と、いつものように声をあげている。
あの夜の恐怖を思い出すと胸がざわつくが、
——何事もないなら、それがいちばんだ。
そう夫婦と看護師さんで確認し合っていた。
最近の侑也は、両手で物を持つのが上手になってきた。
サークルを覗き込んでみると、赤ちゃん新聞を両手で広げ、顔の前に掲げている。
まるで読んでいるかのように「フムフム」と頷いているのだが——
よく見ると新聞が上下逆だ。
その姿がおかしくて、思わず妻を呼んで写真を撮った。
侑也もこちらに気づいたのか、
「何か用?」
と言いたげに、不思議そうな顔で見上げてくる。
笑いながら覗き込む僕たち夫婦。
こんな何気ない時間が、いつまでも続けばいい。
春の午後に、そんな願いがふっと胸に浮かんだ。




