震え始めた小さな体
風呂で侑也を抱えたまま、僕はほとんど飛び出すように脱衣所へ向かった。
震えるその体を妻に見せ、すぐに119番へ電話してもらう。
「お風呂に入っていたら、急にけいれんが始まって白目をむいて…呼びかけにも反応がありません」
妻が震える声で状況を伝えている横で、僕は侑也の顔をのぞき込み、必死に呼び続けた。
救急車が来るまではどうにもできない。
動かしてはいけない。
でも、何もできない自分が悔しくてたまらなかった。
知識もない。
技術もない。
ただ、侑也の名を呼び続けるしかない――。
しかし、救急車が到着する少し前。
侑也の黒目が、ゆっくりと戻ってきた。
「……あれ?どうしたの?」
そんな顔で僕を見上げる侑也。
さっきまでの恐怖が嘘のように、いつもの表情に戻っていた。
間もなく救急車が到着し、状況を説明。
そのまま搬送されることになったが、同乗を求められたのは妻だった。
「日中ずっと一緒にいるお母さんのほうが、受け答えしやすいと思います」
そう言われてしまえば、僕には反論の余地がない。
悔しさと不安を押し殺し、妻と侑也を送り出し、車で追いかけた。
向かう途中、さっきの痙攣が脳裏に焼きついて離れない。
「また肺炎か…?それとも別の何かか?」
答えの出ないまま、ただ急ぐ。
意識が戻ったという事実だけを胸に縋るしかなかった。
病院に着くと、先に救急車は到着していた。
受付を済ませて病院の待合室でひとり座っていると、
さっき侑也が震えていた小さな体が、白目をむいたあの顔が、頭から離れない。
自分の無力さが苦しいほど胸を締め付ける。
一分が十分、十分が一時間のように過ぎていく。
やがて、呼ばれた。
診察室に入ると、侑也は元気そうに手を振っていた。
妻は少し疲れた表情ながらも、安堵の笑顔を浮かべていた。
「いくつか検査しましたが、今のところ異常は見られません。体温も正常なので熱性けいれんではないでしょう。
ただ、判断が難しいところです。次に同じようなことがあれば…可能なら動画を撮っていただけると、診断の手助けになるかもしれません」
そんなこと、あの状況でできるのか…?
心のなかで呟きつつも、何事もなかったことに胸を撫で下ろす。
その夜、僕たちは家へ帰った。
原因不明のまま。
けれど、たしかに何かが起きている。
不安は、消えなかった――。




