小さな手のぬくもり
出産の翌日から、妻は毎日のようにNICUへ通った。
まだお腹の傷が痛むはずなのに、面会の時間になると小さな足取りで病室を出ていく。
一方、僕はというと、仕事を終えて駆けつけても、すでに面会時間は終わっていた。
ガラス越しに見える保育器の中で、息子が小さく手を動かしている。
あそこにいるのが、うちの子だ。
そう思うだけで胸が温かくなった。
妻から聞く息子の様子は、毎日少しずつ違っていた。
生まれた時の体重は1412グラム。
医師の説明では「未熟児」だという。
尿道下裂――おしっこの出口が本来の位置まで繋がっていないこと。
停留精巣――精巣がまだ体内に留まっていること。
どちらも成長とともに改善する場合があるらしい。
「今日は綿棒で母乳をあげたよ」
妻がそう言って嬉しそうに笑った。
自分でおっぱいを吸う力はまだないけれど、口に含ませると小さく動いたという。
抱っこはまだできないけれど、指を近づけるとぎゅっと握り返してくれたそうだ。
僕は、その話を聞いて胸が熱くなった。
その小さな手を、自分の指で感じたい。
早く、僕も息子と握手がしたい。
次の休みが、待ち遠しくて仕方がなかった。
尿道下裂も、停留精巣も――「未熟児なら、そういうこともあるよな」と思うようにした。
焦っても仕方がない。
のんびり構えていよう。
息子の生命力を信じていた。
そして、保育器の向こうで眠る小さな命を見つめながら、
僕はただ一つ、心の中で願っていた。
――どうか、この子が少しずつ強くなっていきますように。




