バスタオルブランコ
2月15日
退院して二週間。
侑也はすっかり元気を取り戻し、今日もいつものように管に器用に絡まっては、
「とって〜!」
とでも言いたげに助けを求めてくる。
お座りの練習も、ハイハイの練習もしてはいるのだが、うまくはいかない。
あの“指の研究”の時だけ発揮される驚異的な集中力を、少しでいいからこっちにも回してくれればいいのに──そんなことを思いながら見守っている。
補聴器も、まずは一日三時間ほどから慣らし始めた。
つけているほうがやっぱり楽しいのだろう。
耳をぴんと立てた犬のように、キョロキョロと音の正体を探している。
そんな時、妻が言った。
「今度の難聴児支援施設である“親子で遊ぶ会”、久しぶりに行こうと思うの。
侑ちゃんも元気になったし、先生たちにも退院の報告したいし」
「いいじゃん。行っておいでよ。侑ちゃんも会いたいよな〜」
前回は入院でキャンセルになってしまったし、侑也もしばらく先生たちに会えていない。
たぶん、本人も楽しみにするだろう──指の研究に夢中な侑也を見ながら、そう思った。
2月20日
仕事から帰ると、妻と侑也は“今日あったこと”をにこにこしながら話してくれた。
「NICUで隣のベッドだったあの子、覚えてる?
今日、参加してたんだよ。侑ちゃん、覚えてたのか、近づいて行って足をタッチってしてね、なんか挨拶してたよ」
あの子か。
すぐに小さな姿が脳裏に浮かぶ。
あの頃は本当に、家族みたいに並んで頑張っていた。
侑也が“覚えていた”のかは分からない。
でも、心は覚えていたのだろう。
そんな気がした。
「今日はね、バスタオルブランコをやったんだよ。
よかったら家でもぜひって言われたから……やってみよっか?」
バスタオルブランコ?と思いつつタオルを広げ、侑也を真ん中に乗せる。
両端を僕と妻で持ってゆっくり立ち上がると──
ふわっと、タオルのハンモックができあがった。
ゆらゆら、ゆらゆら。
侑也は最初きょとんとしたが、すぐに、
「きゃぁぁぁぁっ」
と声を上げて笑い出した。
僕たちも楽しくなってしまい、
大きく揺らしたり、名前を呼びながら揺らしたり。
リビングに笑い声がいくつも重なった。
しばらくしてタオルから降ろすと──
「もっとやる」と言いたげに声を出す。
しかしごはんの時間だったので、
「またあとでね」
そう言うと、侑也はぷいっと顔を背けた。
あれ、怒った?
と思って回り込むと──
もう寝ていた。
いつもの“電池切れ”の寝落ちだけど、
この切り替えの速さにはさすがに驚いた。
こうしてまたひとつ、侑也の“大好き”が増えた日の話。




