小さな帽子と退院の気配
入院して一週間が過ぎた頃。
ベッドの上の侑也は、もうすっかりご機嫌に動き回っていた。
何度戻してもベッドを横に使うのは相変わらずで、
処置もついに横向きのまま行われるようになった。
毎回、栄養剤の交換前に胃の中身をシリンジで確認するのだが──
最近どうも量が多い。色も悪い。
チューブは腸まで入っているはずなのに、逆流しているのだろうか。
自力での排便もなく、浣腸しないと出ない。
看護師さんに相談すると、先生にもすぐ報告が入った。
「まだ腸が腫れているのでしょう。無理はしないように」
その指示で、栄養剤は減らされ、点滴が増えることに。
侑也本人はニコニコしているが、無理は禁物だ。
焦らないことが、結局いちばんの近道──そう自分に言い聞かせた。
■そして10日目
侑也がお風呂に入れてもらっていた時、
点滴の針から漏れが出ているのが見つかった。
刺し直しが必要になったが、侑也の血管はとても細い。
慣れた看護師さんが何度も挑戦してくれたが……
1時間経っても、入らない。
侑也はよく耐えた。
途中でついに泣き出してしまう。
「いい加減にして〜!まだなの〜!」とでも言いたげに
まるで訴えかけるようなその声が痛々しく、
それでもじっと耐えている姿に胸が締め付けられた。
最終的には刺し直しに成功したものの、
1時間も経たないうちにまた漏れが出てしまい、
結局点滴は断念されることに。
痛いだけだった侑也からすれば、
「なんだったんだ、もう!」
と言いたかったに違いない。
ただ、この出来事がきっかけで
「点滴はもう必要ないだろう」という判断が下された。
その頃、祖母が見舞いに来てくれた。
手編みの小さな帽子を持って。
侑也にそっと被せてくれたその帽子は、
鮮やかで、温かくて、どこか侑也に似ていた。
病室では使えないけれど、
退院したら一緒にお出かけするときにかぶっていこうな──
そう侑也と約束した。
侑也もニコニコしながら、
「ありがとう」を全身で伝えていた。
お気に入りの帽子ができた。
点滴も取れた。
あとは、病院を出るだけだ。
退院の日は、もうすぐそこだ。




