八月八日 誕生の日
八月八日――朝から眩しいほどの陽射しが病院の窓を照らしていた。
この日が、僕たちの子が生まれてくる日になるとは思ってもいなかった。
わずか36週と数日。まだ予定日には程遠い。
でも、医師は静かに告げた。
「今日、帝王切開で出しましょう」
妻の手を握ると、その小さな手がわずかに震えていた。
怖さもあっただろう。でもその奥に、母としての強さを感じた。
手術室の前まで付き添い、僕はただ「大丈夫だよ」としか言えなかった。
彼女は小さくうなずき、扉の向こうに消えていった。
あの重い扉が閉まる音が、今でも耳の奥に残っている。
待合室で過ごす時間は、時計の針が止まったように遅かった。
祈るように手を組みながら、ただ「無事に」「どうか元気で」と何度も心の中で唱えた。
やがて、廊下の奥から看護師が駆け寄ってきた。
「お父さん、無事ですよ! 男の子です!」
その瞬間、胸の奥が一気に熱くなった。
小さな体で、たった一人でこの世界にやって来た。
体重は1412グラム。
先生は「小さいけど、しっかり泣いてましたよ」と笑顔で言ってくれた。
NICU(新生児集中治療室)に運ばれていく小さな我が子の姿を、
廊下の窓越しに見つめた。
ガラス越しでもはっきりわかる、力強い泣き声。
「生きよう」とする意志がそこにあった。
この子が小さな体で刻んだ最初の足跡。
それは、僕たち家族の「はじまりの日」でもあった。




