新しい日々の始まり
退院の日。
お世話になった看護師さん達がずらりと並び、笑顔で見送ってくれた。
妻とはすっかり仲良しのようで、あちこちから「癒やし王子!」という声が飛んでくる。どうやら侑也には院内でそんなあだ名がついていたらしい。
「退院はもちろん嬉しいんだけど、癒やし王子に会えなくなるのは寂しいな。また入院以外で会いに来てね」
そう言われて、侑也は嬉しそうに手を振った。
その笑顔を見て、ようやく本当に「帰れるんだ」と実感した。
実家に戻った妻は、さっそく栄養剤の準備を始める。
退院時に先生と決めた“おうちルール”がある。
① ゆっくりと持続的に流して逆流を防ぐこと。1日20時間、ポンプで少しずつ注入。
② 腸を休ませるための4時間の休憩時間を必ず取ること。
③ 栄養剤は常温で6時間が限界。6時間ごとに新しいものへ交換すること。
こうして侑也は、ほとんど一日中チューブと繋がったままの生活になった。
けれど当の本人はというと、目の前にぶら下がる管がすっかりお気に入り。
軽くて握りやすいので、掴んでは引っ張り、振り回して遊び始める。
そのたびに僕たちは慌てて止めに入る。
侑也の鼻から通る管は胃を越え、腸まで届いている。
先生からは「この数字まで見えたらアウト。自分で押し込まず、すぐに病院へ」と念を押されていたのだ。
引っ張って遊ぶ侑也と、「ダメだよ!」と必死に止める親。
その温度差が、どこか笑えて、どこか切ない。
それでも、こうして笑いながら過ごせる時間があることが嬉しかった。




